No.79 天才VS天才➁
(´・ω・`)スピード感のある戦闘描写を変える人は本当に尊敬できます。某ハシビロコウ頭の双剣使いが主人公の作品の作者とか。
ヌコォは自分のステータスを考慮し、ワンステップで回避しつつ次弾を装填。鎌鼬は敢えて回避せず、即座に2射目を放つ。
ヌコォはワンステップ踏んだことにより一手遅れ、鎌鼬は被弾を受け入れることで先手を取った。
避けなかったことにより当然鎌鼬の足に矢は被弾する。しかしHPを一気に削られダウンを取られることは無かった。
ヌコォの方は回避中を狙った2射目、恐らくスキルで強化し一射目より加速した鎌鼬の2射目をボウガン自体を振り回し”パリィ”して見せる。
どこを射ってくるかは勘だった。
ただ、ステップを踏んで姿勢が崩れた以上、次に狙うは腰回りと考えられ、その読みは見事に当たる。しかし『3射目』が即座にヌコォの膝に突き刺さった。
「(自分の射撃能力に頼り、ボウガンは完全に速射特化?それともスキル?それとも…………)」
「(アレを“パリィ”するの?とんでもない子ね…………)」
2射目にヌコォが反射的に対応する事を読んだ上での完璧な3射目。
しかしヌコォに動揺はない。相手の能力を測るために敢えて誘ったのだ。
それは鎌鼬も同じ。一射目を回避せず受けることでヌコォの能力を測った。
ステータスでは確実に劣るだろう鎌鼬が回避を捨ててくることは読み筋。
一方ヌコォは避けて一つアクションを挟むことでより正確に鎌鼬の能力値を測った。
ここまでは二人の間で言葉を交わさずとも成立した変則的な定石である。
鎌鼬はヌコォが行った『ボウガンで矢を“パリィ”する』技術、それを成し遂げるだけの反射神経に強い警戒心を抱き、ヌコォは鎌鼬のPKの慣れ具合と明らかに普通の装備ではない鎌鼬の銀色のボウガンを警戒する。
鎌鼬はヌコォに関してはノートから聞かされていたのだ。FPSに関しては無類の強さを誇り、銃を持たせたら手が付けられないと。
しかしどこかで思っていた。AIM力ならば圧倒的に自分が有利だと。
勿論、VRFPSのプレイヤーとしての総合的な能力を求められるヌコォと、射撃能力のみを追求される鎌鼬では、シンプルな射撃能力では鎌鼬に軍配が上がる。
しかし”反射神経”と”動体視力”はヌコォに軍配が上がると鎌鼬は悟った。
鎌鼬自身、VRFPSは少しプレイしたことがある。畑は違えどそれでも生来の才能で勝利をもぎ取ってきた。
だがヌコォはただのFPSプレイヤーとは違うと実感。鎌鼬は頭の中で組み立てていた戦略を白紙に戻す。
一方でヌコォは微かに驚愕していた、自分の想像より遥かに鎌鼬のパラメータが高いことに。
ランク5、いやそれでは低すぎる。装備で速射性を強化していても、そもそも第一射が自分とほぼ同じスピードだった。
鎌鼬のランクが一体どれくらいなのか、ヌコォは些か混乱する。
また、『VRクレー射撃』は結局のところ個人戦。自分との戦いだ。対人戦ではない。故にFPSプレイヤーとして対人戦特化の自分の方が有利に進められると考えていた。
しかし蓋を開ければその予想は完全に裏切られた。
鎌鼬がただの射撃能力特化の人物ではなかった。ヌコォの予想より遥かに対人戦慣れしていて、ゲーム慣れしていたのだ。
ヌコォが使用している『ボウガン』は、耐久性と精密性のみに重点を置いた武骨なボウガンだ。特殊能力も無いし、スキルも使っていない。
対する鎌鼬は二射目からスキルを使用。『ボウガン』自体も見た目からして普通ではない。
相手が『VRクレー射撃』の世界最高峰の選手と聞いて、ヌコォは無意識に射撃能力だけで対抗しようとしていた。無意識にスキルなどは度外視した戦略を練っていた。
鎌鼬を卑怯とは言うまい。鎌鼬自身から射撃系のスキルの解禁、武器には制限をつけない提案がなされていたのだ。
その時点でヌコォは気づくべきだった。鎌鼬は今持ちうる全てを使って勝ちにきていることに。
単純な射撃能力だけで戦う気など毛頭ない。最初から“一人のALLFOプレイヤー”としてヌコォに勝負を挑んでいるのだ。
ヌコォは4射目が既に放たれていることを確認し、大きくその場で転がって四角柱の背後に隠れる。これで仕切り直し。漸く勝負は始まった。
「(使えるのは射撃に限ったスキルのみ。恐らく彼女はボウガン専門。射撃武器に限っては私に大きく劣ることはないどころか、上回ってる可能性が高い)」
「(おそらくALLFOでの彼女は射撃専門ではないはず。使えるのは射撃系のスキルと魔法のみ。彼女の強みである初期限定特典はほぼ封じたはず。ならば、ステータスに差があれど私にも勝機はあるはずよ)」
双方で四角柱の背後に潜伏し、頭をフル回転させて戦略を練る。
彼女たちは射撃の天才だ。しかしそれ以上にゲーマーとして負けず嫌いなのだ。
なにより勝てない勝負はしない主義だ。つまり、お互いに勝てると踏んでの勝負である。敗北を喫することなど最初から考えていない。
先手を取ったのはヌコォだ。
闘技場に屹立する四角柱の位置を頭に叩き込み、射線を考えつつ素早く移動を開始する。
その音に気づきすぐさま鎌鼬も顔を覗かせ射撃態勢に移る。だが、その矢は放たれない。
それを見越したような一矢が鎌鼬の足元に突き刺さったからだ。
「(動きを完全に読まれた!?)」
そのうえ矢が地面に突き刺さった瞬間に白い煙が舞い上がり視界を阻害する。
その矢はアテナとヌコォが共同開発した『圧縮した空気と“白い粉”を詰め込んだ筒』を取り付けた特別な矢だ。
脆い筒は地面にあたって砕け、圧縮された空気は小さな爆発を起こして錬金術で作られた特殊な粉を煙幕の様にばら撒く。
「(本気、というわけね)」
最初とは打って変わって完全な搦手。鎌鼬もヌコォがゲーマーとして勝ちにきたことを悟る。
なによりその攻撃は鎌鼬にとっては挑発に近しい。こんな搦手を平気で行うような男など、鎌鼬は一人しか知らないからだ。
真面目そうな顔してこんな狡い手を使ってきたこと自体は問題ではない。こんな手を誰が彼女に仕込んだか、が問題だ。
「(やってくれるわね)」
相手がそう来るならば、鎌鼬も出し惜しみはしない。
◆
ヌコォは鎌鼬の視界を阻害し、素早く移動を続ける。煙の流れを注意深く見て鎌鼬がどう動くかつぶさに観察する。
どんな小細工をしたのか、ランク11である自分とのランク差はほぼ感じられない。
このPvPは射撃特化である以上、ヌコォと鎌鼬の戦闘能力に大きな開きはない。寧ろ鎌鼬がかなり上回っている可能性すらある。
ヌコォの頭からは既に手加減などという手ぬるい言葉は抹消されていた。もうなにが起きても驚かないようにヌコォは心がける。
だから、この煙幕の中で自分が見えているかのように矢が正確に飛んできことに驚きはなかった。
恐らくは射撃系のスキルに関連した視覚強化が手品の種。これは予測の範疇。
重要なのは自分がなんの矢を装填したか鎌鼬には確認できないこと。一度煙幕矢を使った以上、鎌鼬は同じ手に何度も引っ掛かることは無い。
この勝負は早めに決めに行くと決心する。
だが、その矢は放たれない。先程の巻きなおしのように、1射目を回避したと思ったら2射目が煙幕の中から即座に飛来したのだ。
「(ッ!?装填時間が短すぎる………!)」
ボウガンは『弓』より精密性が高いが、若干装填時間が長い。煙幕の中で武器を『弓』にチェンジして撃てば、ヌコォの想定よりは確かに間隔は縮まる。
だがそれにしてもあまりに2射目までの間隔が短すぎた。
まるでほぼ同時に撃ったレベルの短さだったのだ。
「(同時?まさか…………?)」
不意打ちの2射目は回避しない。1射目を回避してくることを見越したその一矢はヌコォの腕に見事に刺さりサポートに妨害を入れる。
だが素早く最適解を導き出したヌコォは2射目を受ける前提で構えて矢を放った。
あまりに非効率で度外視した戦術。しかしこれがヌコォの予測通りならば。ヌコォは2射目の角度から鎌鼬の移動方向を割り出しそちらへ向けて矢を放つ。
「きゃっ!?」
ビンゴ。アテナの糸を仕込んだ『蜘蛛の巣矢』は射出と同時に拡散し、鎌鼬の体のどこかを捉えた。
これに攻撃力はないのでシステム上はヒット判定はない。しかし広範囲をカバー可能で、強い粘着性を持つので行動を阻害できる。
おそらく、蜘蛛の巣が拡散したのが見えたら鎌鼬も全力で回避しただろう。しかしそれはヌコォの煙幕で隠された。
ヌコォは知っていたのだ。視覚強化系のスキルを使って相手の位置を割り出せても、煙幕の物理的視覚阻害を完全に無効化できるわけではないことを。
1射目を煙幕にした時点でヌコォは必ず2射目をこれと決めていた。故に予想外の一撃をくらっても攻撃を続行できたのだ。
矢に付属できる程度故、煙幕の効果はここで終わり。ヌコォは煙幕の先に立つ鎌鼬の姿を確認する。
そこには銀のボウガンと、黒い大きめのボウガンの2丁を構えた鎌鼬が立っていた。
「(やっぱり2丁スタイル)」
銃や剣と違い、ボウガンは一発ずつ装填が必要だ。2丁スタイルは明らかに非合理的だ。それとも自分が知らないだけで自動装填式のボウガンがあるのか、ユニークスキルでもあるのか、ただのプレイヤーだったらここまで警戒はしない。
ヌコォは鎌鼬を割と自分と近しい人種だと感じていた。
つまり“非合理的な行動はしないだろう”と、初対面ながら不思議な信頼感があった。
だというのに2丁持ちという不合理な行動。これは警戒に値する。
それに、ヌコォはまだ警戒をしている。鎌鼬が持つ手札の中で唯一既にオープンされている強力なカードがまだ切られてないことを忘れていない。
「(来るっ!!)」
ヌコォが装填するは青白い光を纏う白銀の矢。ここで使うべきかは迷った。
しかし舐めプでこれを使わずに敗北を喫する方が彼女には許せない。
ヌコォに構えられた鎌鼬の銀のボウガンが発光すると放たれた矢は散弾の様に分裂した。
それはヌコォが警戒していた攻撃。ノートの至近距離の〈ダークショットガン〉を凌いだ一手だ。
避けることは不可能。5射先取とはヒットした矢の数がその勝敗のポイントだ。ばらけた矢でも一つ一つがヒット判定になる。
これが当たればヌコォは敗北決定だ。
だが、読んでいた。蜘蛛糸で足を封印され行動ができなくなったなら、鎌鼬は確実にここで仕掛けてくるとヌコォは分かっていた。
故に、この“矢”を今使う。
壁の様に迫る鎌鼬の矢の雨。ヌコォは逃げもせず、鎌鼬目掛けて矢を放つ。その矢は放たれたと同時に、封印されていた“暴風”を解き放つ。
魔法に関しては全プレイヤー中最高クラスのネオンが付与魔法で風系統の魔法を籠めた特殊な矢だ。もとの魔法が強力なので付与の成功率は非常に低く、故にこの矢は貴重だ。
その効果は絶大。解き放った暴風自体が矢を加速させ、さらにまき散らした風自体が鎌鼬の矢の雨を強引に押し返す。
相手の渾身の一手を阻害し強力な一撃を与えるカウンター。だましうちに近い一手だが、これがヒットすれば確実に鎌鼬のダウンは取れる。
ヌコォが追撃に移ろうとした瞬間、まき散らされた矢の雨の中から黒い槍が飛び出し、ヌコォはギリギリで反応したが脇腹を抉られた。
「(麻痺………)」
オマケにその槍の様な矢は麻痺属性付き。槍というよりは、何かの角か牙にも見えなくはない。ランク11にしては紙装甲でも、ランク11というのはそれだけで色々と基礎能力値が高い。
なのに麻痺判定になったという事は、この矢は相当のレアリティの矢ということに他ならない。
少なくとも、現段階のプレイヤーには得られないはずのアイテムである。
散弾は攪乱、本命は恐らく黒いボウガンによるこの2射目。
いや、保険だったのだろう。万が一、散弾を完全に回避された時の為の。
ヌコォの放った高速の矢は避ける間もなく鎌鼬の胸のど真ん中を穿ち、一撃でHPの半分以上を削ったことで鎌鼬からダウン判定を勝ち取る。
麻痺とダウン判定。どっちが先に硬直から解放されるのか。お互いに息を殺して待つ。
そして先手を取ったのは、鎌鼬。
銀のボウガンを放棄し、大きめの黒のボウガンで即座に追撃する。
そのボウガンから放たれた一矢はヌコォの頭を完璧に射抜いた。
弱点部位へのクリティカル。麻痺に続いてダウン判定。ヌコォの動きを完全に封じる。
そしてトドメの一撃を放とうとした瞬間、鎌鼬はガツンと殴られたような衝撃を側頭部に受けて視界が揺れる。
弱点部位へのクリティカルヒット。鎌鼬は再びダウンする。しかも続けて2回のダウンによりその時間は長くなる。
ふと見れば、ヌコォの姿がぼやけてその斜め前にボウガンを構えたヌコォが出現した。
そして復帰などさせぬと言わんばかりに無慈悲に追撃。ヌコォが1本目の勝利を奪取する。
「移動系スキルを封じなかったのは失策だった。こちらには“幻影を置いて移動するスキル”がある。おそらく貴方には移動系のスキルで切り札があったのかもしれない。
けれど、私は曲芸師を副職業にしている。移動系のスキルは多い」
最後の一撃を喰らわせる前にベラベラ喋って返り討ちにされる間抜けな事はせず、ヌコォはキッチリとどめを刺してから種明かしをした。
「してやられたわね。完璧に勝ったと思ってしまったわ。貴方、私より先に麻痺の硬直から抜け出していたのね」
「自分が搦手を使う以上貴方も使ってくるはず。事前に麻痺や気絶への耐性を柱の裏で高めた。先に復帰できたのはそれによる物。
あと、あの時先手を取ろうとしたら、嫌な予感がした。だから最後に先手を譲って隙を見せたところで仕留めようと思った」
相手をリスペクトするが故の、慎重すぎる一手。しかしその手は間違っていなかった。ヌコォの勘は間違っていなかったのだ。
「所持アイテムの差、では無いわね。最後は完全に其方の手に載せられたわ。そして移動系のスキル。スキルが発動した以上はそのスキルはルール違反ではないということよね。1本目は私の負けね」
「次、やる?」
「ええ、そうしましょう。“ルールはこのままで”」
鎌鼬も分かっていた。恐らくヌコォの方が矢のバラエティは圧倒的に多いと。しかしそれでも、挑みたかった。今までが生温すぎて風邪を引きそうな気分だったのだ。
これぐらいハードな方が楽しい。鎌鼬はそう思い心から笑う。
「次は、勝たせてもらうわ」
「隠し玉はこちらの方が多い」
再び闘技場の端で向かい合うヌコォと鎌鼬。1戦目が終了して休む間もなく、2戦目がスタートした。
(´・ω・`)設定が多くて申し訳ない