No.76 Encounter
(´・ω・`)Chapter3開始。更新はちょっとゆっくりめ
「よし、みんないるな。早速だが移動するぞ。話したいことは馬車の移動中に済ませることにしよう」
イレギュラーイベント終了から翌々日。ノートはログインしてミニホームのリビングに行くと、皆が揃っていることを確認するやいなや出発の号令をかける。
イレギュラーイベントの終盤、ノートが聖女とレスバをしているころ、ユリン達はノートの号令に従い全員が『ファストシティの墓地』に集合。墓石を破壊したことで再び開通した 特殊エリア『地獄第八圏五濠之獄吏バルバリッチャの牢獄』に避難した。
そこはバルちゃんが封印されていた場所であり、本来ノートとユリンが長いこと拠点とするはずだった場所だ。その場所はバルバリッチャが去った後も依然として入ることができた。
実はこのエリアへは教会の援助がない場合『バルバリッチャが直接招き入れる』か『性質が極悪以上』でないとそもそも侵入できない仕様となっている。なのでノートが『ファストシティの墓地』を潰し“開通”させてもプレイヤー達は入れない。
もう一つ入れる可能性があるとすれば、『教会』が意図的に特殊エリアへの道を開通させたときのみ。それによりこのエリアは一つのシェルターとして利便性を持っていた。
この場所を知るのはノートとユリンとバルバリッチャのみ。避難場所が『ファストシティの墓地』に指定された時点で正しくノートの意図を理解したユリンは、皆をすぐに特殊エリアへ誘導し次の指示を待った。
その後、自発的に動いたバルバリッチャがタナトスを連れて合流。手持無沙汰だったヌコォがスレでも見ていようと思えば、多数のライブ配信が行われていることを確認。皆でリアルタイムでノートの動向を見る。
次いで急にバルバリッチャが居なくなり、アグちゃんも魔法で居なくなる。
それから間もなくアグちゃんがバルバリッチャとノートを転移魔法で直接特殊エリアまで連れてきた。
流石に立て続けに色々なことが起こり、皆疲れていた。しかし、合流したノートは特殊エリアにミニホームを設置してログアウトすることはしなかった。
当然だ。ナンバーズシティには近づかない、ここから撤退するといった手前、その目と鼻の先でログアウトするのはリスキーだ。
ではまたあの結界まで戻ってもらって…………と思ったが、そうは問屋が卸さない。バルバリッチャは「もうすでに十分すぎるほどに手を貸した。あとは自分たちで解決せよ」とノート達に言い放ったのだ。
つまり、バルバリッチャやアグちゃんの力で一気に移動させたりはもうしない、とバルバリッチャは宣言したわけだ。
しかしバルバリッチャの言うことは何ら間違っていない。
バルバリッチャは基本的にノート達を甘やかさない。むしろ今回のイベントでは甘すぎたといえるだろう。
ひとえに教会敵視故の過剰な助力は、『教会』への敵視からくる物。『教会』との直接的なかかわりが断たれた今は、バルバリッチャの積極的な援護はもう期待できない。
2つの意味で自分たちの絶対的なセーフティーゾーンでは休めないことを悟ったノート達は、馬車に乗ってとりあえず1の森と2の森の境にあるセーフティーゾーンにミニホームを設置。ここでようやくログアウトできた。
あまりに語りたいことは多かった。報告するべきことは多かった。しかしそれ以上に皆が疲れており、翌々日集合することを決める。
1の森と2の森の境にあるセーフティーゾーンはナンバーズシティからそこそこ近い。今のプレイヤー達が全力で挑めば、1の森程度は突破できなくはない。
そこにミニホームを置きっぱなしにするリスクはあったが、ノート達はプレイヤー達に見つかることは無いだろうという予測を立てた。
どうやら街の方ではイレギュラーイベントの後に続く『ボーナスイベント』が発生したらしい。内容的には、イレギュラーイベントで色々と荒れた地をプレイヤー達で復活させるという物だ。
ギルドでの素材買取金額が全て4倍になり、復興に関与しない物資の値段は1/2に、通常では受けられない利率の非常によいクエストも多数発行。
イベントに参加できなかったプレイヤー達への救済措置とみられるイベントが発生し、ノート達が齎した爆弾級の素材の数々も相まって日本サーバーはお祭り騒ぎとなっているようだった。
その上、土地の変異でレアドロップ率なども大幅に上昇し、出現しにくい魔物も出没するという。
ゲーマーならば小躍りするほど嬉しいイベントに違いない。そんな状況下でわざわざ街を離れて森に突撃するプレイヤーなどいるはずもなかった。
——————一部例外を除いて。
◆
ノート達がミニホームから出ると、ノートが急に立ち止まり皆で玉突き事故を起こす。なぜいきなりノートが立ち止まったのかわからずユリン達が前方を覗き込めば、そこには二人の人間が立っていた。
しかも一人は弓を構え、一人は刀を手にしている。
位置はセーフティーゾーンの結界ギリギリ。ノート達との距離、僅か10m。
『教会』からの追手だろうか。
そこは非戦闘エリアであるセーフティーゾーンであることは分かっていても、スピリタスは反射的に皆を守るように先頭に立ち、ヌコォもボウガンを取り出し遊撃用の位置取りに。
因みにネオンはまだ状況に追いついておらずアタフタしていた。
それはネオンの反応が遅いというよりは、元々ネオンが好戦的でないということも大きい。
しかし一番の原因は、彼女が最も頼りにする司令塔が未だ動かず、本来ネオン同様遊撃の構えに移るはずのユリンまで棒立ちだったことにある。
特にユリンは不思議そうな顔から一転、苦虫でもかみつぶしたような顔だ。しかしそれが見えているのはユリンの斜め後ろにいたネオンだけ。
“敵”を感知し反射的に素早く前に出たスピリタスとヌコォにその顔は見えない。
一方、顔が見えないのは相手も同じ。一人はつばの広い魔女のような帽子に体格を見抜き辛い漆黒のインバネスコート。
一人は黒塗りの笠で顔を隠し、体格も侍の様な衣装の上から更に薄手のコートの様な物を羽織り判別がし辛い。
顔も性別でさえも、その外見からは見抜くことは難しい。いや、隠しているというべきか。
どこまでも怪しげな二人組は、挑発するようにノート達に手招きをする。
「なんだ、アイツら?何がしてぇんだ?」
「プレイヤー?でも今は…………」
冷静さを幾分か取り戻したスピリタスとヌコォは、対象から目をそらさずに疑問を呈す。しかし返事が返ってこない。
チラッと二人がノートに視線を送れば、ノートは驚いた様な、決まりの悪そうな、変な表情をしていた。
その横に立つユリンなど、誰が見てもわかるほどに悔しさを滲ませたしかめっ面をしている。
はて、一体この二人の反応はなんなのか。状況からヌコォは素早く答えを導き出す。
「二人の知り合い?」
ヌコォが真っすぐな目で見つめると、ノートはフイっとさりげなく目を逸らし非常に歯切れ悪そうに答える。
「あーー、えーと、多分、そう、だな。まだ確定したわけじゃないが」
いや、しかし、あり得るのか?ノートが現実逃避気味に色々考えていると、ユリンがそれを遮る。
「ノート兄、あれそうだよ。一昨日”露奈”から変なメッセージが届いたと思ったんだよ。咄嗟にあれこれ言ったけど、多分探られた」
ユリンは覚えていた。ログインして暫くした頃に、久しぶりにとある奴からメッセージがきたことに。
物事はハッキリ言うタイプの“あの女狐”にしては少し要領を得ないふわっとした内容だったが、なんだか挑発してきたのでムキになって色々と言ったことも覚えていた。
勿論、ギリギリ明かしても問題ないレベルで、そして相手がそれをベラベラ喋らないと信用したうえでだったが、少し不自然だった理由がこの状況を見ればユリンには分かってしまう。
「じゃあ、俺達、厳密には俺の客だな」
それを聞いて腹を括ったのか、ノートの顔から迷いがなくなる。
なにがなんだかまだよくわからにスピリタスとヌコォの横をすり抜け、ノートは適当な六角棒(プレイヤーからドロップした武器)をアクティベートするとスタスタと歩いていく。
「おいっ、ノート!」
スピリタスは思わず引き留めようとするが、ノートは振り返らず大丈夫だと言わんばかりに前を向いたまま手を振る。
セーフティーゾーンの境界線まで4m……3m……2m……1m………
ノートの足がラインを踏み越える。
それと同時に、ノートは闇の散弾を撃ちだす〈ダークショットガン〉の魔法を無詠唱で放った。
〈ダークバレット〉と違い〈ダークショットガン〉は射程距離は短い。しかしその1回で約30以上の弾を放射可能で、対象との距離が近いほどにその威力を増す性質をもつ。
今は仮面こそつけていないが、依然としてノートはネクロノミコンとバルバリッチャのくれた装備で闇属性は異常に強化されている。
ノートの本業が死霊術師であっても、至近距離でこの魔法をくらえば最前線組のタンクでも沈められる。ノートが近接戦では好んで使う、故に熟練度もトップクラスで高い対PLでは必殺級の魔法だ。
無詠唱の完全な不意打ち。回避はほぼ不可能。この距離で当たればほぼ死亡確定。
ヌコォとネオン、スピリタスがノートのいきなりの凶行に声を上げそうになり、そして沈黙した。
一人はそれが分かっていたかのように、魔法で分裂させた矢で大部分を相殺。もう一人がヌルっとうねるように動いた時には殆どの弾丸が切断されていた。
勿論、双方全てを無効化できたわけではない。しかし反対属性である光も聖も使わずに、面をカバーする防御も使わずに二人は切り抜けて見せた。
しかし二人はそこから止まらない。弓を持つ方は素早くかがみこみ足払い。一人はそれに合わせるように刀でノートの胸を素早く打つ。
一瞬にして姿勢を崩されたノートは二人に押し倒される。
そして引き絞られた矢は顔の目の前に、刀は首に添えられた。
押し倒されたノートは、二人を見上げる。隠れていた顔も下から覗けばばっちり見えた。
「はろはろ~、ノっくん!よーやく見つけた~!!」
「こんにちは、この女タラシ。また増えてるわね。紹介してもらえるかしら?」
「………熱烈な挨拶どうもありがとう。”トントン”、”スネコスリ”」
ノートの奇襲などまるで気にも留めていない。二人は平然と迎撃し、その命を刈り取らんとするポーズからは不自然なまでに気の知れた仲のような挨拶。
ノートも未だ冷静さを取り戻せてはいなかったが、なんとか挨拶をする。
ヌコォ達は一体なにが起きているのかよくわからず、ユリンは3人が見たことないほどに苦々しい表情で謎の二人組を睨みつけるのだった。
◆
とりあえず話をしよう、ノートがそう提案すると二人はあれだけ苛烈な反応を見せながらあっさり引き下がる。
ヌコォ達が未だ状況についていけない中、ノートは二人を連れてやたらゆっくりとした足取りでユリン達の元まで戻ってくる。
なんとなく気まずい空気。誰もが話し出さない中、いい意味で空気を読まないヌコォが切り出した。
「ノート兄さん、その人たちは一体誰?」
パスはヌコォが出した。あとはそれに合わせるだけだ。いつものノートならスラスラ答えているだろう。
しかしここまでお膳立てされても、ノートは珍しいことに答えあぐね、二人に何らかの意を込めた視線を送る。
アイコンタクトで3人が何らかのやり取りをしたのだろう。暫くして2人はその顔を隠していた帽子と笠を取る。
念には念を入れたのか、その顔はスカーフによってさらに目元まで隠されていた。それを取り払うと、ノートとユリン以外が困惑で硬直した。
「あー……なんだ。3人も知ってるかもしれないが、こっちの西洋系のハーフっぽい顔してんのが、『VRクレー射撃』の世界ランキング7位の土御門露奈。んでこっちの刀持ってんのが一昨年のEスポーツオリンピック『VR殺陣』金メダリスト、現世界ランキング3位の沖田錬華だ」
22世紀、Eスポーツの市民権はスポーツの市民権を上回った。そしてEスポーツ用の競技が幾つも出来上がりオリンピックまで開かれるようになった。
VR機器さえあれば誰でも簡単に始められるだけあって、国際指定競技のEスポーツの競技人口はスポーツのそれを遥かに上回る。
例えばユリンが得意とする『チャンバラ』。これは剣を用いて斬り合うシンプルな競技だ。子供でも簡単にできるので非常に人気が高い。
『VR殺陣』。これはチャンバラと似ているがフィールドと使用可能な武器が異なる。
チャンバラでは円形のステージで剣一本。剣で致命傷を与えられるか、フィールド外へはじき出された者が敗者である。
一方VR殺陣はフィールドは何種類か用意される。市街地、廃屋、寺、岩場など『チャンバラ』より広くランダム性がある。そして使用できる武器は“近接武器の全て”だ。どの武器を選択するかはプレイヤーに委ねられる。
あとはこれで殺し合うだけ。一定時間ごとにフィールドが収縮するので、フィールド外へ相手を弾き飛ばすか、殺せば勝利となる。
『チャンバラ』が短期決戦型なら、『VR殺陣』は長期型。フィールドを素早く立ち回り相手に合わせて様々な武器を使えなくてはならない。
『VRクレー射撃』は元々あったクレー射撃にゲーム的要素を加え更に見栄えをよくした競技だ。本物のクレー射撃は、まず射撃可能な機会がなく競技人口が伸び悩んでいたが、『VRクレー射撃』ならだれでも簡単に始められる。よってこちらも競技人口の多い花形種目と言える。
そんな花形競技の世界ランキング7位と、金メダル保持者の世界ランキング3位。ニュースのスポーツ欄でも眺めていれば必ず目にしたことがある名前と顔である。
要するに、ノートが紹介するまでもなくとりわけ日本では超有名人というわけだ。
確かにノートもテレビ出演はしているが、この2人は広告にもガンガン起用されているし、見た目がいいこともあって注目度も高い。
その知名度は圧倒的に異なる。
「あーー、わかった。とんでもねぇ人なのはひとまず置いといてだ、どういう関係なんだよ」
しかしスピリタスも、スポーツ用品系のモデルをしているのでそこそこ知名度はあるし、ドのつくレベルのマイナー競技とは言え頂点を知る者。確かに驚きはすれど、すぐに気を取り直す。
身分は分かった。ノートが言い渋るのも分からなくはない。自分の判断で有名人の身分を勝手には明かせないだろう。それはスピリタスも納得できる。
だが、スピリタスにはノートが妙に言い渋ったのはそこではないと分かっていた。
紹介した。そして正体はわかった。しかし聞いているのはそれではない。“ノートとどういう関係なのか”という事だ。ノートは其れに答えていない。故に、スピリタスはノートではなく2人に問いかける。
2人はスピリタスの視線を受けて顔を見合わせる。次の瞬間には、ノートの腕を錬華はギュッと抱え込む。そして満面の笑みで言い放った。
「ノっくんのかのじょ!!」
「違うぞ!?」
錬華の爆弾発言に思わず叫ぶノート。錬華が抱き着いた腕に気を取られていると、反対側の腕にそっと触れられる。反射的にノートがそちらを向けば、ノートの肩に柔らかくもたれかかり息遣いがわかるレベルの顔の近さで露奈は真っすぐにノートを見つめる。
「厳密には…………元、彼女候補。でも、私達の関係はそれだけでは無いわよね?」
「アレはそもそもお前らが自分たちの身分を盾にしたうえで俺に酒をしこたま飲ませてだな………!!」
「満更でもない癖に。本当に嫌なら貴方だったら関係を完全に金輪際断つ筈よ。それに、万が一バレたら“ちょっとした”スキャンダル。貴方がテレビの前で被ってる化けの皮も完全に剥がれる。そのリスクが分かってない人では無いでしょう?」
淡々と事実を突きつける露奈。語るに落ちるとはこのこと。ノートも完全に否定できないからこそお得意の弁舌も機能しない。
というより、これ以上あがくほど傷口が広がるのがノートには分かっていた。
「全部、初めから聞かせて?」
表情は変わらない。しかしどこまでも冷え切ったヌコォの声に、ノートは白旗を振って逃げたくなった。
(´・ω・`)キャラが増えたけどゴチャゴチャしないように頑張ります。
(´・ω・`)因みにまったく役に立たなかった六角棒君はただのブラフです