No.Ex 対米鯖第三≠五臨時偵察小隊 ㉔
最初に配られた一万の初期限定特典。DevilMaskさんの様に当選はしたが放棄したことを宣言したプレイヤーの数は7000人近い。検証チ―ムが世界全体で協力して褒賞も用意して情報提供を呼び掛けた結果、ここまで情報が集まった。
実際は褒賞に釣られてか世界全体で30万人以上の自称元初期限定特典勢の申し出があったが、その中でもスクリーンショットや映像として確実な証拠を持っていたプレイヤー達という条件でやっと7000人まで絞り込んだ。
では残り3000人は。
恐らく検証勢の見立てでは証拠不十分で確定しなかった人たちの中にも本当の当選者も居るのだろうとされている。しかし他の自称当選者が多すぎて選別が難しいらしい。初期限定特典に関する詳しい情報を月面サーバーを始めとした一部のプレイヤーが完全開示したことで嘘をつきやすくなってしまっているのだ。
嘘はまるっきり事実と異なるならすぐにわかる。例えばその辺の人を適当に捕まえて宮内庁の人間関係図について嘘でもいいから詳しく説明してみろと問い詰める。当然そんなことは外部の人間はわかりっこないので素人が聞いていてもその語りには違和感が出る。すぐにボロはでる。
しかし事前に性別年齢役職を知っていたら、想像力豊かで知恵の周る人なら実際はともかくそれっぽい事が言える。口から出た出まかせがたまたま真実に近い事もあり得る。
それにより、如何にもありそうな事を少なくない数のプレイヤーが申し出る為、SNSで当選したことをスクリーンショット付きでUPしていたりしないでも限り証拠にならない。現実なら虚偽の申請は何らかの罰則も与えることができるだろうけど、ゲームの世界では罰則を与えられないので幾らでも嘘つきが発生する。
「だとしても、ここまで普通のプレイヤーと違う事ができたら、もうそれは別のゲームに近いのでは…………」
閑話休題。
月面サーバーの様に一般に迎合せず初期限定特典勢として確定しているプレイヤーは確か、50人にも満たないとされている。
日本ではアサイラムの統領。自分自身でアンデッドを使役する初期限定特典勢だと大々的にカミングアウトした。
それと容姿や様々な目撃証言などからアサイラムの堕天使もプレイヤーで確定。
あとはビームをぶっ放す魔女も初期限定特典勢との見立てが強い。先ほどの抗争でも斜面を全凍結という離れ業をやってみせたが、その動きは確かにNPCより人間らしかった。
それと第二ギガスピで目撃された大鎧の戦士。
加えて今まで未確認だったサメの召喚術師と炎の魔人。アレはアンデッドの動きではないのでプレイヤーと判断するなら初期限定特典勢で確定。
胸の大きい小柄な女性は目撃証言や能力があやふやな為未確定。
これで6人。
アメリカはDDに初期限定特典が集まっており、トップ、忍者、三叉槍、Gigerで4人。しかし先ほど観察していた感じ、大鍋を常に抱えて動いていたプレイヤーも其方側の可能性が極めて高い。これで5人。
もうこの時点でアサイラムとDDのタッグが如何に理不尽か分かる。
あと有名どころでは中国のPKトップクラン。
ブラジルのPKクラン。特にそのトップは生粋のシリアルキラーで有名。
フランスのPKクラン。『塔そのもの』を武器として振り回すプレイヤーが確認されている。
スイスでは植物の様な人型モンスターが猛威を振るっていると前々から噂があったが、実はそれが最近プレイヤーだった判明した。PKクランに迎合したことで情報が漏れたらしい。
パキスタンでは人狼ならぬ人虎が確認済み。今も無差別PKを続けているとのこと。
ロシアでは女帝がPKクランを潰して3人の初期限定特典勢を傘下に置いた。
南アフリカでは触れた物全てを金に換えるプレイヤーが他PKプレイヤーと共にトップ層とぶつかり、トップ層の装備を金に変えてしまって甚大な被害を出した。
他、フランス、イタリア、スペインなどで確定を裏付ける情報が上がってきている。特にスペインでは定期的にガステロが起きるらしい。
おそらく、これら全ての動きの中心にいるのがアサイラム統領だ。
こうしてアメリカにも出現し、多くの初期限定特典を抱える事で有名だったDDと手を組んだ事は確実に世界全体に影響を与える。その結果として、他PKクランがどう出るかは不明だ。
迎合か、反目か。少なくとものこの戦闘を見る限り、アサイラムとDDのタッグに歯向かうのは正しい選択とは思えない。
おまけにこれにロシアの女帝が関与しているともなればなおさら。これは予想でしかないが、何らかの形で彼女がアサイラム側に表舞台でもついた時、絶対に初期限定特典3人も引き抜いていく気がする。実際ロシアの初期限定特典持ち達は女帝傘下と言いつつ、そのクランに所属しているというよりは女帝個人に従っているらしい。あの感じだと、グリモクロールさんもアサイラム側に付きそうだ。
何が怖いかと言えば、女帝は合流しようと思えばもうアサイラム側に合流できるはずなのにしない事だ。
周囲からの情報を断片的に集めて予測したことだが、アサイラム統領と女帝の仲は単なるゲーム仲間ではない。であれば、彼女は合流前に何かをしようと企んでいると考えるしかない。
あるとすれば、何らかのロングラン形式のユニーククエストの最中。あるいは、先生が所持している単一アイテム神寵故遺器取得に王手をかけているか。もっと違う理由もあるのかもしれないが、女帝がわざわざ合流を遅らせている理由を考えるとその辺りだと考えられる。
こう考えると、彼が表舞台に出る時に必ず持っている旗も同じ物なのではないか。皆はアレを初期限定特典と考えていたが、本当にそうだろうか。
◆
「いやらぁ!死んじゃう!」
「ヌルままヘルプミー」
「足ガクガクしてきたぁ」
「泣き言言わない!走って!」
このギャルズ三姉妹は、本当に血の繋がりがないことが不思議なくらい感性が似ている。散々私も引っ張り回されたので扱いも心得ている。
彼女達は安全圏を見つけることが評価されているけど、私はどちらかというと誰にどれくらい甘えてもヘイトを集めないか、を見極めるのが上手すぎると思っている。
そう考えるとこうしてぐだぐだ泣き言を言うのは私に甘えているのだろうけど……イラっとすればいいのか信頼されていると言えばいいのか。
甘やかしている様でノートさんは締める時はキッチリ締めるのでギャルズ三姉妹もだらだら甘えたりしない。飴と鞭を使って彼女達をしっかりコントロールしていた。
「マジで体重いのぉ」
「スタミナ赤点滅!」
「う゛おおおおん……」
振り返れば、彼女達の足取りがフラフラしていた。最初こそふざけ半分だったのかもしれないけど、最初にテントから出てきたあたりデスペナがまだ残っていて体力の減りが著しいのかもしれない。
それこそ後衛職は意識して普段から走り回ってたりしないと前衛とは大きな体力差がある。何が厄介かと言えば、「体力」は重要なパラメータであるはずなのに、ALLFOでは隠しパラメータ状態になってしまっていること。自分自身で正確なスタミナ量の把握が困難になってしまっている。
このままでは共倒れになる。私はそう判断した。
悪路の山登りは専用装備や適した称号を持っていないとかなりの勢いで体力を消費する事を私は失念していた。
「……どっちに逃げるべきですか?」
だから、一か八か彼女達の生存本能に賭ける。
「「「ノラパイのとこ!」」」
ま、満場一致ですか。
 




