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No.Ex 対米鯖第三≠五臨時偵察小隊 ⑲

間違えて20話を19話として更新したので修正しました!よって本日2話更新!





 オンラインゲームの基本原則はレベル上げと素材集め。ALLFOではどちらかと言えば熟練度と新技能習得がメインか。


 オンラインゲームには沢山の時間が費やされる。

 普通の買い切り型ならスタートからやり込みの裏ボス撃破まで100時間遊べたらかなりの大作だ。しかしオンラインゲームでは100時間という数字はあまりに少ない。

 そんな沢山の時間を費やすような趣味だから、最初は少しだけと課金をし始める。

 一回当たりの課金が1000円に満たないくらいでも、支払う頻度が増え始めたら?何かしらの要因でログインが遅れ、他のプレイヤーに置いていかれないようにまた課金して。最初はたった1000円くらいだった金額が3000円、5000円と上がり、イベントの時などはつい1万円くらいを使うようになるのはあっという間で。

 

 ここまでくると人は費やした時間と金のせいで辞めたくても辞めらない。

 徐々に苦行にも近いものになっていくのに。すでにそれがアイデンティティに近しいものまで自己の中で肥大化していくから。


 VRで最盛期を迎える前に一度オンラインゲームが完全に下火になってしまったのも分かるという物だ。VRの場合は実際に動き回るので作業感が減る為に再びオンラインゲームが台頭し始めたが、基本的な根っこはPCオンラインゲーム時代から変わっていない。


 そんな世界で、俺が楽しませてやるから地獄の果てまでも着いて来いと一旗揚げる様な人物がいたら。

 味方として誰よりも愛され、敵として誰よりも憎まれ。誰もかれも無視できない。

 無名よりも天下に轟く悪名を世界に焼き付けて、彼の存在を脳に刻み付けられる。

 歴史でもそうだ。善政を成した賢き者よりも、賛否両論でも大きな悪を成した者の方が知名度が高くなる。ただの窃盗や詐欺なら鼻で嗤われるが、スケールの違う悪には人を惹き付けるロマンが宿る。

 

 憎まれていても倒すべき敵がいるというのは大事なのだ。 

 人は自分が善人側に居ると思い込みたいから、自分よりも大きな悪を見て安心する。日本の恥だ癌だと揶揄されているが、アサイラムの名を語る日本人たちが憎悪100%というかとそうでもない。

 オンラインゲームの敵のバリエーションなんて限りあるから、自分達共に成長しいていく敵がいるのは張り合いを生む。


 

 無論リアルで虐殺をしていたら支持されることはないだろうが、彼は絶妙なバランス感覚でヘイト管理をしている。イベントボスの様に登場して大暴れして、被害だけでなく毎回何らかの形で利益も齎し、公式NPCからも名指して悪党として指名されて襲われていてもまだ死なない。

 首にかかった賞金はいよいよ国家予算めいてきた。

 ここまでくると同じプレイヤーという枠組みを超えてくるように感じてしまう。


 彼は恐らく意図してその領域に踏み込んだ。

 常人の神経なら耐えられないそのステージに立った。

 同じ悪を成すならこちらを目指せ、敵として立つならこの首を獲って見せろ、と。

 それがプラスでもマイナスでも、大きな感情を多くのプレイヤーから向けられることでそのカリスマは絶大な物へと変化する。


 至れるだろうか、その領域に。

 そんな問は答えを出す前に自分自身で鼻で嗤ってしまう。

 不可能だ。

 何故彼がここまで近しい人達に信仰めいた好意を寄せられるか理解できた。彼は敵を作ることを恐れていない。敵がハッキリしているから味方をしっかり守ってくれる信頼感がある。俺こそが首魁だと名乗りを挙げてヘイトと責任を一身に背負い込む覚悟を持っている。

 だから皆彼を好いているのだ。

 


「始まったぞ」

   

 そんな私の考えを裏付けるように彼の声が響き渡る。

 崖を大規模に爆破し、大津波と共に坂を高速で滑り落ちるその戦艦は。


『グッドモーニング、アメ公諸君!いつまでも正義中毒拗らせてんじゃねーぞ!ここからがレイドの本番だ!いつまで自分達が有利だと思ってんだ!?今更運営に泣きついてもどうしようもねーぞ!さぁ北西勢力の粘着ヤロー共、死ぬ気で足掻けよ!』

 

 今までの紳士的な風を装った言動をかなぐり捨てた剥き出しの嘲笑。

 心底人を小馬鹿にしたような高笑いと共に戦艦が壁に激突した。

 




「つ、つ、ついたーーーー!」

「達、成、感!」  

「お、思ったより遠かった…………!」


「だから何度も言いましたよね。目に見えている距離感と勾配のある土地の距離感は大きく違うと。なのにあっちへフラフラこっちへフラフラ寄り道しましたよね」 


 魔人バブゥとフラミゴが遂に始まったDD&アサイラム連合と北西勢力もといUADDの激突を見守る一方、最初の目的を完璧に忘れて遠方の謎めいたエリアの探索に向かっていたギャルズ三姉妹withヌルは遠回りをしながら遂にその不思議な火山口に辿り着いた。


「うおーーー、でっか」

「真っ暗だねー」 

「ねー」


 底の見えない暗く大きな穴。

 ヌルは此処に至るまでのフィールドワークでこのエリア全体を休火山であると結論付けていたが、そう考えるとこの大きな穴は不思議だ。この火口跡と思われる大きな後は黒い金属の様に成っていて硬く、鑑定もまともに通らない。


 その為手持ちの中で一番丈夫なツルハシでスキル併用で金属を叩く。5回くらい全力で振ったところで黒曜石ともまた違う感じの大きめの金属片を抉るように僅かばかり採掘出来た。


 さて、何故本来月面サーバーのトップクランに所属するヌルが1人でアメリカサーバーに居たのか。

 これには色々な要因が重なってる。魔人バブゥの手前誤魔化したが、一口に語り切れるものではないのだ。特にこのギャルズ三姉妹の前では語りたくない事実もあった為に。


 率直に言ってしまえば、彼女は元のクランからプチ家出中なのである。

 何故か。それは同じくクランの中核であるメンバーに公開告白されたから。それをヌルははっきりと振ったから。

 月面サーバーに居る初期からのメンバーは月面で働く人々だ。狭いエリアの為に働いていれば大体の組織とは何らかの形で繋がっていて、プレイヤーの間でも人によってはリアルでの知り合いが少なくなかったりする。特にヌルは仕事柄あちこちで歩くので知り合いが多い。

 

 その為、月面サーバーの初期特勢が早い段階で融和ルートに進んだというのもある。なにせ知り合いが多いのだからPKばかりしていたらリアルでも影響が出かねないからだ。


 そのヌルに告白してきたプレイヤーも初期特持ちの一人で、もはや月面サーバーに無くてはならない人材だ。ヌルとはリアルでは顔は知っているくらいの仲だったが、ゲームで共に遊ぶようになってからは妙に距離を狭められた。

 ヌルとしては特にそのつもりはなかったのだが、恋愛というのは時に本人に全くその気がなくとも、むしろ素っ気なくされてしまうと燃えてしまう男もいるのだ。それが上手くいけば情熱の人だと持て囃されるが、特にそうでも無ければ女性側からすると傍迷惑でしかない。


 ヌルは別に鈍いわけでもないのでそれとなく避けていたのだが、それが逆効果になる時もあると理解できない程度には全く恋愛に対して興味がなかった。

 彼女の中では既に理想的な男性像が明確化されている。ただ、そう。1人選ぶとしたらと頭に思い浮かべるその男が同い年で、それで一番大事なことだが、そう、一人の女性に対して“一途”なら………と思わなくもないが、出会った時から自分では欠片も歯が立たない猛獣の如き女性に囲われていて、相手も妹分のように接してきたから、ヌルとしても女性として好意を向けるよりは兄の様に慕うようになった。

 どこまでも主従で、ちょっと厨二病を無自覚に拗らせて自分自身が従者の立ち位置に居る事を楽しんでいたから、同じ目線に立てないから、師匠をしてくれた姉貴分たちの男に粉をかけるような事は不義理だと思っていたから、絶対にLOVEにはならなかった。

 けど、あんな感じがいいな、とは思わなくもなかったと言えば嘘になる。本当に、一途な人だったらと残念に思う。

 

 簡単に言えば、どんな時でも少し余裕があって自分の事を優しく受け止めてくれる感じの男が好きなのだ。そして何度も繰り返すように一途であること。ほかに女の影がない感じの人。自分の姉が浮気されて苦しんでいたのを見ていたので彼女の中ではそれが絶対条件なのだ。

 しかし彼女に言い寄った男性はちょっと多情気味で押せ押せな情熱型。彼女の好みとは大きく違った。


 なので上手く避けていたつもりだったのだが、情熱の男は皆がいる前で盛大にサプライズ告白を強行。こうなるとヌルとしてもしっかり断るしかなかった。

 それでも諦めた感じが無く、元々彼がヌルに好意を寄せていたことは周知の事実だったこともあり空気が悪くなったわけではないが、変に開き直られて告白され続けるのも少し面倒だった。

 困った彼女はどうしたらいいかと一番頼りになる姉貴分に相談した。

 

 彼女からすると別に月面サーバーに強い思い入れがあるわけでもないのだ。なんだったらアサイラムについてもよかった。それでも、初期特の融和ルートが気になるから調べてほしいと兄貴分が頼むから内通者として月面サーバーに居たのだ。


 そんな彼女に難しい相談をされた姉貴分の答えは、一度距離を置いたら?という物だった。

 男側は今頭がピンク一色なので物理的に距離を取るがヨシ。そうすれば面白がっている仲間たちも少しは落ち着けと宥める側に回る。武者修行の名目で強引に出てしまえ。大丈夫、クランに所属したままなら帰る気はあるのだと思わせられるから、と。兄貴分には私から事情を説明しておくよ、と。

 ヌルは一理あると置手紙をして出奔した。



 

活動報告に外伝にまつわる情報を記載しました。

これは本当に読まなくていいオマケです。

だってALLFO関係ないから。

注意書きを読んでも読みたいと思った人だけどうぞ

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― 新着の感想 ―
「だから何度も言いましたよね。目に見えている距離感と勾配のある土地の距離感は大きく違うと。(後略)」 ギャルズたちの寄り道をとがめた言葉ではあるものの丁度フラミ≠ゴがノートとの間の距離を認識したように…
更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 内通者だったのか
火山砂はこのせいか。
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