表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

854/876

No.Ex 対米鯖第三≠五臨時偵察小隊 ⑮


 悪夢から目を覚ますように飛び起きる。

 薄暗いテントの中には魔人バブゥさんが椅子に座ってメニュー画面を弄っていた。

 

「………逃げ切ったのですか?」


「俺は最初から逃げる事しか考えていなかったからな。装備も全部その為に整えてきた。グリモクロールという奴が本隊を引き付けてくれたというのは大きいがな。アイツは咄嗟に自分を囮として攻撃を引き付けて逃走。誰か一人でも生き延びるように立ち回ったわけだ。1人でも生き残れば装備品の没収は避けられるからな」


 確かに。すっかり頭から抜け落ちていたがプレイヤー同士の集団戦はどちらかが全滅すると、全滅した側はインベントリからアイテムを一つドロップする通常処理に加えて装備を一つ取られる。

 それを避けるために魔人バブゥさんだけが全力で最初から逃走を選んでいたといわれると少し釈然としない部分があるも納得するしかなかった。


「どうやって逃げたんですか?」


「アイテムとかを使って誤魔化しつつ、UADDの本拠地側に逃げてから転移した。心理的にもアイツらがその方面に追っ手を向けてくる可能性は低い。グリモクロールたちはそれを読んで誰か逃がす為に囮になって逆に逃げたが多分駄目だろうな。特にあのサメと炎の鳥か。アレは準備無しでどうにかできる連中じゃないぞ」


 淡々と述べる魔人バブゥさん。他に生き残りはいないのか。

 輸送作戦を失敗されるという目的は果たしたが、指揮官としては忸怩たる結果だ。


「前哨戦でアイツは出てこない。この後の本格的戦闘で一気に潰しに来るぞ。こんなの小手調べだ。DDの士気上げとUADDの士気下げを事前にやっておく程度の考え。負けが続いたDDに自分の指揮で勝ったという事実を与えることで指揮系統を一本化する狙いだな」 


「では、これからどうするんですか?UADDの拠点に?」


「俺の本当の目的はアイツが前線に出てくる本格戦闘の偵察だ。どの程度の戦力をどのように運用しているか直接観察したい。その為にはUADDに直接加わるのは悪手だ。負け戦に首を突っ込む気はない」


 負け戦。この戦闘、魔人バブゥさんは絶対にUADDが負けると確信している様に思える。

 その為、私は思わず疑うような視線を仮面越しに魔人バブゥさんに向けてしまった。


「何を考えているか当ててやろうか。それは考えているだけ無駄だ。アサイラムと生産組組合の関係が只の敵対関係ならあり得るが、大前提が仲間内同士の遊びなんだぞ。アイツの発言力は非常に高い。アイツに呼びかけられたら裏切る奴は何人もいるだろう。だが、そこで選ばれたヤツと選ばれなかった奴の格差が生まれる。アイツはその様な格差をつけるのは不味いと知っている。つまり、この裏切りへの呼びかけは核爆弾のスイッチに近い。いつでも裏切らせることはできるが、そのスイッチを押したら信頼関係も崩壊する。だからあいつは裏切りをさせない」


「ああ………」


 言われてみればそうだ。

 裏切りと言うのはここぞというところでやらないと意味がない。

 ただ、この理論には穴がある。


「では、彼が働きかけず、能動的に個々人が裏切る準備をしていたら?」


 潜在的に裏切ろうとする意思が強い人の方が多数派なのだとしたら、そちらの方が民意となる。なら、もはや誰が裏切り者なのか分からない。本当は居ないのかもしれない。いようがいまいが彼の存在が疑心暗鬼を産む。

 

「だから、裏切り者そのものはいないだろうな」


 相変わらず表情一つ変えず淡々と考えを述べる魔人バブゥさん。

 完全な肯定も否定もしない。自分がどちらに立っているかも明言しなかった。


 微妙な空気に包まれるテント内。その静寂を破るようにテント内で3つの発光が起きてガバリと仲良く3つの影が寝袋から起き上がった。


「強かったー!」

「命乞いダメだったねー」

「あともうちょっとなぁー。言いくるめにパラメ振っておけばなー」


 私の後で殺されたのだろうギャルズ三姉妹が死に戻りした。


「おい。打ち合わせと違うぞ」


「え?アッ!」

「やばっ」

「忘れてたー」


 今私が居る場所は山岳地帯に少し分け入った所。

 万が一の事態に備えて適当な場所にテントを設置しておいて、死に戻りで復帰できるようにした。

 …………と言う名目で、私と魔人バブゥさんだけ作戦終了後はUADD本拠地に偵察に行く予定だったのだ。


 その時にあまり他のメンバーに怪しまれないようにテントを設置したが、皆は作戦終了後は別の仕事があるのであえてリスポンを更新せずに死に戻りですぐに帰還する手筈だった。

 なのに何故かギャルズ三姉妹がいた。


 彼女達は要領を得ない言い訳をしたが、つまりこうだ。

 このテントはギャルズ三姉妹が建てた。この3人は奇妙なくらいに疑われにくいのでその役目を元々魔人バブゥさんから請け負っていた。で、自分たち名義でテントを建てたはいいけどついいつもの癖でリスポンを更新してしまった。

 そう言う事だ。


「転移して帰れ」


「えー!?課金アイテム使いたいたくない!」

「ついていきたいなぁー。邪魔しないからさ、ね?ね?」

「わたしたちもパイセン大暴れシーンのカンショー権をしょもーするー!」


 課金アイテムの『帰還転移石(使用に全MPとMONの5割消費。使用を開始してから1分の待機時間が必要)』はコストが高いだけあってあまり人気がない。それでも万が一に備えて各員2つずつくらいは持っているが、魔人バブゥさんからその使用を強いられるとギャルズ三姉妹は抵抗した。

 録画はしていても彼らはプライバシーモードだ。十中八九モザイクだらけなのでしっかり戦闘を見たいなら直接見るしかない。だから私はここにいるし、彼女達も同行を強く希望したのだろう。


「………勝手にしろ」


「「「勝手にしまーす!」」」


 あまり表情を変えるタイプでもないし、サングラスのせいで余計に表情を読みにくいが、私は魔人バブゥさんが明確に徒労感を覚えていることがわかった。多分長い付き合いで言うだけで無駄と理解しているのだろう。


 やれやれと言いたげに首を振りながらテントを出る魔人バブゥさん。続けてギャルズ三姉妹が出て、最後に私がテントから出る。

 テントから出て何か様子が変な事に気づいた。何か変なものに遭遇したかのような奇妙な空気。擬音をつけるならまさしくばったりと言う音がピッタリな空気。


 彼らの視線の先には『こちらを岩陰から見ようとして思わず目が合ってしまい硬直しました』と言わんばかりの人影があった。


 かなり細身な人影。見覚えはないが。いや、うっすら既視感がある。けど名前が出てこない。


「ヌルちゃんじゃ〜ん!!!」

「なんでこんなところにいるの!!?」

「おひさしーーー!!」


「あ、うっ、なんっ」


 私も思わず動きを止めると、時を動かすようにギャルズ三姉妹の明るく甲高い声。キャ〜と悲鳴をあげながら駆け寄るとその謎の人影をあっさり捕獲。抱き上げてこちらに連れてきた。


 人形のようにもみくちゃにされている推定ヌルさんはギャルズ三姉妹のライトパワーに圧倒されているのか言葉が出てこないようだ。

 だがその視線が魔人バブゥさんと合うと、首だけをペコリと軽く下げた。


「ご無沙汰です、師匠」

「なんでここにいる?」

「この場所に何故かオブジェクトが放置されていたので何かのイベントかと勘違いしました」

 

 確かに、最悪魔物に壊されてもいいくらいの気持ちでテントを張ったが、普通はこんなだだっ広い見通しの良いエリアに見張りもなしにテントを張るなんてまずない。

 私も同じ状況だったら一体なんだろうと思わず確認しに行ったかもしれない。


「何故アメリカにいる?」

「察して下さい」


 けれどそれは魔人バブゥさんの求めていた回答ではなかったようで質問を変える。すると推定ヌルさんは淡々と回答した。

 ギャルズ三姉妹の反応、魔人バブゥさんを師匠と呼称し、そしてヌルと言う呼び名。私の海馬が一つの情報を提出する。


 そう言えば、アサイラム統領がレギュラーメンバーとして起用していた中に痩せ過ぎなくらい細い少女がいた。映像のその姿よりも身長は伸びているが痩せ気味は変わっていない。黒づくめの怪しげな格好も同じだ。見た目からしてTheアサシンと言うべき感じだ。

 そしてその少女は映像の中でヌルと呼ばれていた。


 


 

 

https://ncode.syosetu.com/n5479gf/536

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
えそこでヌルと遭遇すんの
更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 糸使っていたニンジャさん
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ