No.Ex 対米鯖第三≠五臨時偵察小隊 ⑬
人面牛の素体は赤銅の遺跡刑務所擬き正門の門番やってたフランケン牛君です
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召喚可能限界があるアホな簡易死霊に乗っ取りに特化した高知能な悪魔を脳ミソに直接ハ〇イルダーオン!して遠隔運用するというカードゲームなら即禁止待ったなしの運用
「生存者は陣形再構築!」
「このっ!」
「おっとそこまでだMC!ZaylaX!」
ただ、この状況の最中でも前衛寄りのプロゲーマーチームは生きていた。
動きが早い。
しかしそれは襲撃者側にとっても読み筋なのだ。
ジャララララという鎖の音。事前情報に入ってはいた。
MCさんとZaylaXが金色の鎖に囚われていた。彼女らとて最大限警戒はしていたはずだ。
されど立て続けに奇襲を受けたことで隙を潰しきれなかった。
DDの統領の初期限定特典の鎖の拘束力は、現状の環境では一度嵌ってしまうと彼を殺す以外に抜け出す方法がないとされている。
恐らく津波を追いかけるように降りてきた人狼部隊が混乱覚めぬ私達に襲い掛かる。圧倒的な火力と敏捷性。こちらが攻撃に転じられれば押し返せるかもしれないが今この状況で立て直すことは難しい。そうなるとその強烈な攻撃力がただただ叩きつけられることになる。
プロゲーマーとて混戦の最中3秒以上の硬直は致命的な隙となる。
MCさんはノコギリを振り回すサメ頭のプレイヤーに頭部を切断され、ZaylaXは炎の魔人に頭部を蹴り飛ばされた。
そうして接近されて初めて分かった。この不明な二大戦力のみ、顔にピエロマスクを付けていた。
ピエロマスクそのものは珍しくはない。
ただ表立って付けるプレイヤーはとある傾向にあると偏見の目で見られる為、大おぴっらに付けるプレイヤーは少ない。
現状のALLFOに於いて、ピエロマスクはアサイラムという実態不明な集団のトレードマークに近い。日本では真青米教が親アサイラム派の表明としてピエロマスクを付けているし、新生ロストモラルも本家公認の印の様にピエロマスクを全員装備している。また、それにすり寄りたいPKプレイヤー達も真似するようにピエロマスクを付けている。
もはや日本ではピエロマスク=PK肯定派or痛い中二病のイメージができつつある。
そして1つの国での流行りは他のサーバーにも伝播する。
けれど一目見ただけでそのピエロマスクは出来が違った。
私も仮面を付けているから分かる。ハロウィンイベントで解禁されたマジックミラーの様な機能を持つ【仮装面】ではなく、装備品としての仮面はかなり工夫しないと視認性が悪くて戦闘に向かない。
金属鎧を付けて戦争をしていた時代を考えると兜をしていて戦っていたのだから視認性云々は大丈夫なようにも感じるが、それは魔法などと言う不思議パワーがないのと、鎧のせいでお互いに動きが鈍いという事が大きいように思える。
しかしVRでは軽装備であり得ないほどの火力を出してくる戦士も普通に存在する為、視認性が悪い状態で速度も大きく劣るなんて状態で戦ったらまず負ける。
故に仮面という装備を付けて高速戦闘が可能な時点でその仮面は普通の仮面ではない事が分かる。
サメ頭にピエロのペイントを付けたようなマスクと、鷹の様な鳥の頭にピエロのペイントを付けたマスク。複雑な形状に敢えてピエロのペイントを付けているのは余程の拘りか理由がある。
けど、これは、私も知らない戦力だ。
サメの召喚者と燃え上がる身体。こんな超常現象を使えるのは初期限定特典だと確信していい。
そしてこの巨牛も。
鑑定しても名称は弾かれたが属性はアンデッドという事が判った。
アンデッドをこのように使役する存在は現環境ではほぼほぼ限定される。
いるのか、この近くに。
それとも何かしらの方法で遠隔コントロールする手段が?
その時、巨牛の頭に刺さるようにくっ付いている蠅の様なクリーチャーが気になった。
私は襲い掛かってきた巨牛から逃げつつ鑑定対象を蠅に限定した。鑑定結果自体は完全に弾かれていたが、重要なのは巨牛とは別枠で鑑定対象に取れたという事だ。
「頭を!蠅を狙ってください!恐らく蠅がコントローラーです!!牛本体とは別物です!」
それは直感だったが大きく外れていないと思った。
蠅。確か決闘でアサイラムが使役していた。その蠅に私は似ていると感じた。
搦手を使ってこないのは低知能なアンデッド故にとも思えるが、恐らく遠隔で動かす為に指示を限定する必要があり、何かしら条件が、脳みそに何かが刺さって操作されても死なないだけのタフネスが必要な存在だったのではないか。
「ひゃーナニコレェ」
「HQ!HQ!ってやつだ!」
「あ、それゴロちゃんパイセンに似てるぅ」
自分は何をすべきか。
今私の脳内には最善手がぐちゃぐちゃになっている。
咄嗟に生き延びようとする思考とこのままで良いと何処か冷静に捉えている思考。
荷物を守るポーズを取るべきか特記戦力を抑えにいくか生産組組合の立て直しをリーダーとしてするべきか、べきかべきかべきかべきか。無数のすべきが脳でスパークする。
思わず立ち尽くしそうになった間抜けな私。
その思考の海に溺れかけた私を掬い上げたのはこの状況に似つかわしくない能天気な声だった。
「どうするミゴちゃん?」
「逃げちゃう?らんなうぇい?」
「レッツファイト?」
それはギャルズ三姉妹だった。
どうやってかこの大混戦の中で生き延びていたようだ。
そう言えば、誰かがポツリと漏らしていた。この3人は戦い方を仕込んでも殆ど成長にしないのに、生存の才能だけは驚く程最初から優れていた、と。
言い換えれば「安全圏の選定と確保」に対する嗅覚が抜群に優れているのだ。
人は有利な状況ほど判断を鈍らせる。
人は無手ならまず熊に挑もうとしない。けどその手に散弾銃があったりすると変に色気を出す。無論素手と比べて勝率は上がるだろうけど、まず生き延びる事が最優先ならやはり逃げたほうがいい。
彼女達は強くないから重くて無駄に体力を消費するくらいならと、潔く散弾銃を捨てて戦闘のコマンドを呆気なく完全放棄できる思考回路をしているのだ。
「可能な限り、粘ります!」
戦う、逃げる、援護する、妨害する。
色々な選択肢が頭の中で弾けて彼女達によって収束した。
そうだ。忘れてはいけない。これにはアサイラムの威力偵察としての名目もあったのだと。
であれば最後まで意地でも生き延びる。1秒でも長く彼らの戦闘を記憶に焼き付ける。カメラは大丈夫だ。ギャルズ三姉妹達の頭上に撮影中の赤いアイコンが出ている。本当に抜かりがない。
「おけー」
「でも無理ゲーくない?」
「ねー」
「まずは大井バさんの援護を!」
気の抜けるような彼女達の適当な反応。無理ゲーなのはわかっている。それでも足掻く。
大井バさんがソロで対処している巨牛。その出立ちはあと2回り大きくしたらちょっとした中ボスでも通じそうなビジュアルの敵だが、動きはアンデッドらしく全体的に変に鈍いのに局所的に素早いという極端で不安定な動きをしている。まるで酔っぱらいのようだ。
最初の波を使っての突撃を主目的とした存在のせいか邪魔以外の何者でもない。その時視界がブレた。これはタンク系の能力を使われた時のタゲ強制をされた感覚だ。
流石PKの名手と言えばいいのか。少し立て直しかけ始めた瞬間にタンクとして使うとは。1番嫌なタイミングで巨牛はタンクとしての役割を発揮した。
「大井バさん!」
再度強めのバフ。本来であれば聖属性魔法などで直接攻撃を仕掛けるべきなのだが、アサイラム統領の死霊には聖属性が効かないというふざけた推測があるのだ。だから私は大井バさんの強化を優先した。
「これは戦いにくいね!頭以外に攻め場所がない!」
巨牛の有刺鉄線に巻き付かれた肉体はそれだけで凶器だ。服を引っ掛けたらよくて引きずり倒され、悪ければ装備が破損する。私の巫女服なんてズタズタになるだろう。おまけに有刺鉄線そのものが刃を弾く。近接武器を闇雲にぶつけたら乱組状態の針山に武器が絡め取られてしまう。
視界の端でも生き延びて巨牛を片付けようとしている人達が攻めあぐねていているのが映った。
本来であれば光・聖属性攻撃連打が正しい攻略方法の牛君ですがノート召喚の死霊はその弱点が消えているという悪夢。遠距離攻撃手段0なので大火力の魔法の引き撃ちが正解。(なお突進スピードは最大40㎞オーバーとする)




