No.Ex 対米鯖第三≠五臨時偵察小隊 ⑫
お盆ゲリラだよ(フライング)
ギスギスする空気。
前線に出ていたプロゲーマーチームも話が拗れ始めた事に気づいたのか伺う様にこちらに戻ってくる。
上層の不和は周囲へと伝播し、全ての関心がこちらに向いた。
私ですらもそちらに気を取られた。
その時だった。
「来るぞ」
叫ぶでもなく淡々と事実を告げる声。
しかしその子供のような異質な声が周囲の注意を惹き、魔人バブゥさんの目線の先を追う。
今私達はUADDが拠点とする街のエリア、砂混じりの不毛の山岳地帯に足を踏み入れようとしていた。視界が開けていて奇襲は困難。若干の地面の凹凸があるために身を隠すことはできようが多くは隠せない。索敵もしていたし若干気が抜けていたのもある。
故に脳が即座の理解を拒んだ。
斜面の上から津波が来た。
不毛の大地に大質量の水が押し寄せてきた。
即座にDD特記戦力の初期特持ちの力だと記憶が告げる。
けど事前に情報にないものがある。
凄まじい勢いで斜面を駆け降りる津波の上の方に何かいる。激流をサーフィンの様に乗りこなしている何かが。
「なんだアイツ!?」
ZaylaXが叫ぶ。
ZaylaXは「なんだコレ」とは言わなかった。DDのことをよく知っているために津波の原因は理解しているのだろう。
けれどその津波を乗りこなして急接近する存在には思い至らなかった。故になんだアイツと叫んだ。
この津波相手に戦い慣れているのかプロゲーマーチームは即座に防衛陣形を組んだが全員の視線がその謎の存在に向いている。
遠くからはわからなかったが近くまできてなんとなく姿形が分かり始めた。シャチ……いやサメか。
小柄な誰か。その手には、ノコギリと“銃”が握られていた。
アサイラム。即座に悟る。
銃は段々一般的に出回りつつあるがその出来で私は直感した。
プロゲーマーチームもそう思ったのだろう。
全員の注意が完璧にその異質な存在に向いた時、アメリカプロゲーマーチームの後衛の1人がグシャリと潰れてズドンと衝撃音。その衝撃波で周囲の後衛プレイヤーも吹き飛び、まとっていた透明マントを吹き飛ばす様に唐突に前衛部隊後方に爆炎が巻き上がった。
「し、死ぬかと思ったでゴザル!」
どこから。
いやわかっている。
上だ。手段は不明だが上から降って来た。
全身を炎上させるその姿。炎が翼の様に背に広がる。
その謎の存在に腕を掴まれて一緒に落ちて来たと思われるエセ忍者が軽い口調で叫ぶ。
前門に津波と謎のサメ。後門に急に出現した炎の魔人とエセ忍者。
誰よりも速く動いたのは炎の魔人だった。エセ忍者が叫んでいる最中には既に動き出しており、衝撃波で吹っ飛んで転んでいたプロゲーマー後衛職の頭を一瞬で肉薄するや容赦無く踏み潰した。頭の防具ごとクシャリと頭が潰れて一撃で死んだ。
ランクが上がればヘッドショットの1発でも耐えられる様になってくるが頭が丸ごと潰れたら流石に死ぬ。その蹴り足、炎の中にダイヤの様に輝くヒールが見えた。
咄嗟に隊列を崩して炎の魔人に対処をしようとするプロゲーマーチーム。けどそこに追い討ちをかける様に降って来た。空から、サメが。
そう。電撃を纏うサメの雨が空から降って来た。
「《大砂幕の術》!」
急襲。それはわかってる。
けど畳み掛ける様に脅威が迫り判断力が狭められる。
そこで更に状況は変化する。
インパクトの強過ぎる炎の魔人とサメサーファーに注意を向け過ぎておちゃらけた忍者擬きから意識が逸れていた。
その忍者もどきが何かを吹きかける様なモーションをするとあたりが砂塵に包まれた。
視界制限。この砂の中でも煌々と燃える炎の魔人だけは位置が分かる。
人間は視界不良の中、目印になるものがあるとつい目で追ってしまう。
急に動く物も目で追ってしまう。
目線を惹きつける条件としては完璧。
それを逆手に取る様に炎の魔人が瞬間移動と見紛う勢いで動いた。
美しい動きだった。まるで全身バネの様な、0から一気にトップスピードに持っていく動き。砂塵の中でも舞の様なその動きはよく見えて、そして繰り出された蹴り足で何かが盛大に吹き飛ぶ音がした。多分誰か蹴られた。そして蹴られた誰かは前衛の誰かにぶつかったのか鈍い金属音と悲鳴が聞こえた。
「引いてください!とにかく砂塵から出て!」
続けて雷が降り注ぐ。
いや違う。サメだ。私が取れたのは兎に角距離を取ること。生産組組合を津波と砂塵から離すこと。
そのサメはただの雷の魔法とは違う。おそらくサメに意識があり、能動的にプレイヤーを狙って来た。
私を庇う様に咄嗟に盾で追尾して来たサメを弾いた大井バさんが苦悶の声を漏らす。
「金属はダメだ!感電する!」
大井バさんが珍しく焦った様に叫ぶ。
ただそれだけで脅威度の高さがわかる。
この電撃は飾りではない。触れただけでも対策をしていないとアウト。そして今回私達は対電撃装備なんて用意していない。
感電のバッドステータス。スタン効果を発生させるそれは咄嗟に皆を庇おうとしたタンク程刺さる。何せ魔物の素材を使いこそすれ、基本的には金属を使った盾を装備しているから。
その硬直は最悪の隙となり津波がまともに防御できない状態で激突した。
津波そのものにダメージはなくとも、物理的なエネルギーは陣形を大きく崩すだけの力がある。私もあっという間に津波に飲み込まれた。即座に大井バさんに回復とバフを飛ばしたおかげで大井バさんが再び庇ってくれた為に流されることはなかったが他のメンバーはそうはいかなかった。
最悪の大混戦。
私の頭は最早DDを勝たせるという指令を無視していた。勝たせる?そんな事するまでもない。全力で勝ちに行かないと無能の烙印を押されかねないくらいにDDは強い。
そして最悪は続く。
そうだ。
アサイラムの統領が絡んでいるなら想定して然るべきだった。
私と大井バさんが助かったのは単なる奇跡だった。
津波で砂塵が流されて視界が晴れる。
そして赤いポリゴン片が激しく舞い散っている様子を見た。
まるで雪玉に石ころを詰めて凶器とする様に、津波の中に仕込まれていたソレ。
『『『『Goooooooooooaaaa!!』』』』
普通津波にもみくちゃにされながら落ちて来たら暫くは三半規管が使い物にならずに即座に復帰することなど不可能だ。けど例外的な存在もいる。
例えば、アンデッド。
全身を鎧で覆った人面の巨牛と表すべきか。いや違う。これは鎧などではなく、極太の有刺鉄線が巻き付けられているような体をしているのだ。
有刺鉄線がなく、その露出した頭部には蠅のような奇妙なクリーチャーが取り付いており、まるで寄生しているかのようだった。
明らかな異形。全身から黒い血を噴き出す痛々しさ。
その巨体には有刺鉄線に引っ掛けられた不幸なプレイヤー達がくっ付いていた。
続いて咆哮。視界の端で恐怖のバッドステータスにレジストしたことを知らせる通知。
ただ全員がレジストに成功した訳ではない。UADDはほぼ全員バッドステータスを受けていた。
こんなにも、一方的なのか。
「き、聞いてないぞこんなの!ふざけんな!」
UADDの代表がセルフ発狂して叫んだ。
聞いてない、とはどういう事か。普通に捉えるなら理不尽な襲撃への叫びだろうけど散々DDとやり合って来た彼らの発言としては変だ。
ただその叫びもすぐに尽きた。ゴロリと転がった巨牛にプチリと潰された。感電と恐怖のバッドステータスの二段構えで動けなくなっていたところに牛の容赦ないボディプレス。『押し潰し』と言う攻撃はいわば継続多段ヒットダメージだ。毒より怖い。
脱出できなければ相手は死ぬ。
大質量は小細工を必要としない。有刺鉄線で巻き込んで転がれば人は死ぬのだ。
北西攻略でもやった猫だまし式前後3段挟み撃ち式だけど、ノートの猫だましは手と手を打ち合わせるんじゃなくてソイツの顔を挟む様にダブルビンタして猫だまししてくるから、この初手両ビンタ猫だましをくらった時点で大体詰みっていう
猫だまし、はあくまで『騙し』だけど、ノートのは殺傷性があるから騙してないんだよね
 




