No.Ex 対米鯖第三≠五臨時偵察小隊 ⑧
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ぺ、ペース上げるから!
「俺が輸送部隊の代表だが……」
「貴方が。このメンバーを相手にトップを張るには難しいかもしれないですが、頑張ってくださいね」
彼女の呼びかけでこちらに寄ってきたプレイヤーに何か特筆すべきものは感じなかった。
それもそうだろう。ほぼ一つの街を占有しているUADDから離れた位置で活動しているUADDメンバー。それは本流の立場ではないことを示している。いや、DDに対する熱量に違いがあるのか。
まずもってUADDという存在は歪んでいる。
自分達の組織名に特定の団体を目の敵にしている事を隠さない名称。分かり易い宣伝にはなるけどこれは同時に呪いにもなっている。先生はそう言っていた。
生産組組合が攻略組でありながらやはり生産が主体なのはその名前の影響が少なくない。
PKの首魁であるDDと敵対的な立場を表明する事自体は生産組組合がアサイラムにとっているポーズに近い部分がある。
けどその実態は大きく違う。
彼等は本当にDDの敵対が第一優先で、その為には他の勢力にもなりふり構わず支援を要求する。
一方で生産組組合はアサイラムが一般プレイヤーに向けて明確な攻撃行動に走る、あるいは走りかねない時に対アサイラムの動きを行う。この時に直接的に一般プレイヤーから何かを徴収したりはしない。
そもそも最初はDDサイドからの攻撃だったとはいえ、プレイヤーの集団が特定の団体に積極的攻撃行動を取り続けているのは粘着プレイと何が違うのか。
確かにPKはマナー違反だ。しかしルール違反ではない。
コンビニの前に屯してドンチャン騒ぎしてるヤンキー崩れは確かに迷惑だが、迷惑だからと言っていきなりバットで殴りかかっていい訳ではない。
UADDが大衆から見逃されているのは、一応PKへの弾圧が大衆の利益に繋がっているからだ。されど実態はもはや悪質な粘着プレイヤーと紙一重。
本来であれば、UADDの根着じみた攻撃でDDが一般プレイヤー達から距離を取った時点でUADDの本懐を果たしている。それを後追いして本拠地まで潰そうと躍起になっているのはかなり危うい。運営も妙に介入を避けているのは運営にとっても裁定が難しい案件だからなのだろう。
けどUADDに所属する全てのプレイヤーが今のUADDを正常と見ている訳ではない。
今この輸送部隊にいるUADDのメンバーは恐らく現在のUADDの在り方に懐疑的だ。心のどこかでもうやり過ぎだと考えている。然りとて明確に離反するには長く所属し過ぎたか組織に愛着があるか。そのせいこうして面白くもない輸送部隊に本隊から要請を受けて加わっているのだろう。それは義務感にも近い。だから本来部外者のMCさんに簡単にリーダーを譲ってしまう。
けど女帝はそれを許さなかった。
貴方達が主役のはずだとUADDを表に引っ張り出した。
その時視界の隅に大井バさんの姿が映った。
彼にとっても女帝は昔から知ってる同年代のプレイヤーのはず。しかしその表情は何かに気づいて恐る様な。浮かべたいつもの柔和な笑みがどこか強張っているような。
そこで私も何か違和感、というか嫌なものを感じた。
この女帝の動き。
アメリカサーバーのトップ陣営であるMCさんをスルーしてまず私に声をかけた。続けて自陣営をアピールし、MCさん達の影に隠れつつあったUADDを表に引っ張り出した。
主体はUADD。
全体の人数なら生産組組合が最多。
戦力ならアメリカ助っ人組が優れ。
物資なら女帝傘下が最も充実している。
ロシアと日本の攻略組が出てきているのにMCさんが一方的に主導権を握ると角が立つ。であれば主催であるUADD陣営が指揮をすべきだ。
しかし今ここにいるUADD陣営にこのメンツを捌く能力も求心力もなく。
女帝陣営は惜しみなく物資を提供しているようで、裏を返せばそれは守るべきものが増えているという事。されど女帝陣営の馬車の数に対して防衛に必要な兵士の方が足りてない。
船頭多くして船山に登るというが、これは意図的に登らされているような。
おまけに物資が多くなり隊列が大きくなれば遠くからでもより目立つ。
感知系能力の対抗策はあるけど限度がある。
この問題に気づいて女帝に提供物資を減らすように言う事も出来るが、問題はトップがわざわざ出張ってきている事。アメリカの陣営がロシアが善意で提供した物資に対して自分達では守り切れる自信がないので一部返しますなどと言えるだろうか。
だからか。
同行しないのに多忙なはずの女帝本人がこうして立ち会っているのは。
最大限UADDひいてはアメリカに恩を売りつつ実際は最大限アサイラム側に援護射撃をしている。
この輸送自体にやる気はなかったが、世界にも名が轟くロシアのトッププレイヤー直々に貴方がトップを張りなさいと言われたら。
要らぬやる気を出してしまう事もある。
女帝の言っている事自体は真っ当なだけに。
先まで少し不満げな態度だったUADD側の代表の目にみるみる光が灯る。
何手先まで読んでの動きなのか。
ハッとして白銀の騎士を見ると、彼女の口が微笑のまま微かに動いた。
アへルナオムスメ。
違う。
…………ナメルナコムスメ?
8文字。口パクで正しいかはわからない。合っているかはわからないが目がそう物語っていた。
プロゲーマーが増えた。だから?
お前達如きで守り切れるとでも?
それは“私達”を舐め過ぎではないか?
凡そどんな時だって飄々と余裕そうなイバさんさえ圧倒する気迫。
これが、女帝。
きっと彼女には私とは違う世界が見えている。
絶対にこの輸送作戦が失敗すると言う未来が見えている。
出立前に先生から聞いたが、今回の作戦は具体的な日程や作戦はアサイラム側と一切話し合ってないらしい。それは予想もしないところから生産組組合とアサイラムが裏で繋がっていることが露見しないように、との意図がある。
細かい部分は全く詰めてないから予定外が起きやすく、逆に変化に柔軟に対応し易い。その偶発性には生産組組合とアサイラムの対立というリアリティが滲み出る。
正直私には理解できない領域の思考だ。
きっとこの輸送作戦が成功してしまったとて彼等にはどうにか出来るのだろう。複数の作戦が同時に走っている。一部は共闘しているが一部では相手の手を探っている。
白銀の騎士単体が潜在的アサイラム陣営とは教わっているが、彼女は今回の事をどこまで知っているのか。
読めない。アサイラム統領から要請されて動いているのか、自発的に動いたのか。
正月イベントである程度の成功を収めたと自己でも思っていた私の心に冷や水を浴びせるように、彼女は格の違いを私に教えた。
「協力は感謝する。だがどう動くかは実際に輸送する面々で詰めるべきだ。違うか?」
「ええ、そうですね。ですが、貴方方の要請で我々も物資を供出するならこちらにも発言権は認めて欲しいですね」
蛇に睨まれた蛙のように思考が硬直しかけた私を救ったのは、思わず気の抜けそうな幼児声だった。
魔人バブゥさん。
空気を意図的に読まない彼にとっては女帝の威圧さえ関係ないのだろう。どんなに真面目な議論をしようとしても魔人バブゥさんの度肝を抜かれるその赤ちゃんコスプレと赤ちゃん声が全ての印象を馬鹿馬鹿しくさせる。
本当にどこまでもふざけたアバターメイクなのに、その結果として皆のペースを崩す事に異様に長けている。
「(あれ?でも魔人バブゥさん的には輸送が失敗した方がいいよね)」
今までは同行していても我関せずと言った様子で掲示板に目を通し続けていた魔人バブゥさんがこのタイミングで動いた理由は。
恐らく女帝の介入は彼の看過できるラインを超えたのだ。
これは生産組組合側も読んでいなかった展開、という事だろうか。
大井バちゃんは便利な駒過ぎて滅茶苦茶女帝に扱き使われた過去があるので女帝が苦手




