No.Ex 戦闘講義Ⅷ
「何でも使っていいって許可は貰ったからな」
『『一応、使い魔ですので。マスターの願いを聞き届けました』』
『私もサポートさせて頂きます』
『にゃぉーん』
『御主人様、御褒美を期待していますわ』
バルバリッチャの攻撃を防いだのはノートの超反応でも奥の手でも無い。
いやある種奥の手か。奥過ぎて使った事がない手だっただけで。
空間が捩れる様に研究室の様な空間と闘技場の空間が混ざり合い、背景が溶けてザガン達が取り残される様に現れる。
ザガンは魔王だが、ノートと契約を交わした使い魔の一体でもある。
バルバリッチャが何を使ってもいいと言った次の瞬間にはノートは悪魔組に救援要請を脳内で出していた。
普段はザガン達がOKしていたとしても、ノートはバルバリッチャの許可なくザガン達の力を借りる事は出来ない。
その為今までの戦闘で直接的にその力を使う様にノートから要請した事は一度もなかった。
だが今はバルバリッチャが自分の言葉で許可を出した。
揚げ足取りだろうがなんだろうが、間違いなくバルバリッチャは言った。
ノートの呼びかけに応じたのはザガン。それとけものっ子サーバンツの鴉娘ヒィレイ、猫娘のミィマオ、狐娘のナナツネ。
7人のけものっ子サーバンツの内、要請に応えたメンツは人間への興味が高いメンバーであり、ノート的には予想できたメンバー。頭が良く、例え今矛を向けてもバルバリッチャが笑って許してくれると理解しているメンバーとも言える。
ザガンは従順に見えてなんだかんだアグラットよりもバルバリッチャの命令を無視した様な動きをする。普段のアグラットが駄犬よりの忠犬なら、ザガンは犬系かと言われると大いに首を捻る。
しかし忠誠がないわけでもない。忠誠にはいろいろな形がある。例え主人に矛を向けても、主人を楽しませる事で忠誠を表す者もいる。
ザガンの物理衝撃カウンター障壁魔法はかかった物理負荷の大きさだけ強烈に牙を剥く。
ちょうど最近ノートが撃破したゲンゴロウのように、物理特化はそれが跳ね返ってきた時に対策が難しい。バルバリッチャも自分自身の攻撃を相殺するのに魔法を使わざるを得なかった。
反射系の魔法はノート達でもほとんど確認できていない。
腐った森に出没する人面芋虫が何故かこの系統の魔法を得意としているので有ることは知っているが、こいつ以外今のところ反射系は確認できていない。
それでもまだサービス初期からいけるような場所にいるMOBが使える魔法を、人間よりはるかに優れた魔王が使えない道理はない。
「直接的な攻撃はなしで、俺たちの強化に全力を割いてくれ。あとレクの回復よろしく。御褒美の質は俺達がどれくらい耐えられるか次第だな」
ノートが欲しかったのは仕切り直しの時間。
自分の思考を現実に合わせる時間。
「バルちゃん言いたいことは分かったよ。確かに、俺達は強みを伸ばすより弱みを潰そうとしている節がある。それは俺たちが本質的に個では強くないからなんだよ。できるけどやらないのと、できないからやらないには天と地の差がある」
半端に磨いた十の矛より、一心不乱に磨き上げた一の矛が十の矛を凌駕する。
この世界はオンラインゲームだから。
全てを自分で解決しようなど不可能なのだから。
ソロを前提にして攻略できるならオンラインゲームである必要がないのだ。
ノートの言葉に対し、考えるように目を瞑るバルバリッチャ。
会話パートだろうが容赦なく銃をブッパできるマシーンどもはバルバリッチャを狙撃するが、バルバリッチャはさらに動きのギアを上げて弾丸を指でつまんで投げ返す。
それを予想していた鎌鼬の第二射が摘まれた弾丸をピンポイントで射抜こうとするが、弾丸同士が衝突する前にバルバリッチャが瞬間移動のようなスピードでバックステップを踏み魔法の炸裂から逃れると同時にまたもヌコォの強奪から逃げる。
一方で支配地を増やすようにザガンを中心に闘技場が黒く染められていく。
ヒィレィとナナツネがノート達にバフ魔法をかけまくり、ミィマオがデバフをバルバリッチャにばらまいて妨害する。
それでもバルバリッチャの余裕は崩れない。
目を閉じて戦っている。
「そうは言いつつも、って感じだよな。実際、格闘の訓練していてもバルちゃんに近接戦を挑まれた俺たちはそれぞれが一番得意な方法で迎撃した。付け焼刃じゃ咄嗟には使えないわな」
ALLFOは職業採用形式のゲームらしからぬ要素がある。
それは習得できるスキルと魔法の自由さ。そして装備の自由さ。
普通のMMORPGであれば、戦士が大剣を振り回し、魔術師がローブに杖を装備し魔法を放つ光景は当たり前の光景とも言える。だが、分厚い鎧に身を包んだ戦士が魔法職よりも器用に魔法を放ち、魔法使いの格好をした者が鎧を着込んだ戦士よりも圧倒的なパワーで大剣をぶん回すのはなかなか無い光景である。
何故か。
その原因を理解するにはゲームの歴史を紐解く必要がある。
プレイヤーの化身がファンタジーの世界でモンスターを倒し、世界にある数多の問題――小さな物で言えば風邪を引いた子供の為に薬草を取りに行く程度のものから大きなものなら世界を破壊する邪神の討伐まで――――を解決するRPGの一連の流れ。
この流れの源流を辿るとTRPGに辿り着く。
コンピューターが演算し、ディスプレイが世界を描き、コントローラーでキャラクターを操作する。
ではゲーム機やテレビが無い時代にRPGは無かったのか?
その問いの答えがTRPGだ。
今のデジタルなRPGが誕生するよりも昔、今のコンピューターの処理、システムの管理をKPやGMと呼ばれる役割を担う人物が行い、ディスプレイはなくても絵や言葉、想像力で世界を自由に描いた。
紙とペンとサイコロだけで今のVRMMORPGの様な自由な世界を昔の人々は確かに作り上げていた。
それこそがTRPGというジャンルである。
このTRPGの中でもいわゆるファンタジー系に属するジャンルの中で、『このキャラはAだからBである』という共通設定の様な物が生まれ始めた。
魔法とは神秘である。習得には高い知能と多くの勉学を必要とする。故に魔法使いの肉体は貧弱である。だから装備出来る物もあまり重くないものでないとダメだ。
戦士とはとにかく肉体的な強さが物を言う。身体を鍛え抜いた戦士達は重い鎧を着ても活動が可能だ。色んな武具を装備できる。ただ、肉体を鍛える事を優先してきたので知識では魔法使いに劣る。魔法なんてちっとも理解できない。
盗賊は魔法使いの様に勉強熱心でもないし、戦士の様に肉体を鍛え抜いた者でもない。日陰を生きる者で、故に皆に気づかれずにコソコソ動くには小柄な方がいい。肉体的な理由から直接的な攻撃力は低いが、それ故に人一倍危機に敏感で、器用にいろいろな事をこなすことが出来る。
僧侶は勤勉で信心深い。人に救いを齎す僧侶は皆の傷を癒やし呪いを退ける。
信仰にリソースを割いているから戦士ほど頑強でもないし、魔法使いの様にいろいろな魔法を使える訳でもないし、盗賊の様に器用でもない。それでも皆の傷を癒やし継戦能力を格段に上げる僧侶は長い旅路に於いて必要な存在になるだろう。
テーブルトーク『ロールプレイングゲーム』。
ロールプレイングとは、自分ではない存在を演じるという事である。
TRPGに於いてプレイヤーは皆主人公だ。
主人公達が手を取り合って問題解決に向かうのは何故か。もし主人公1人で何でも出来るならパーティーを結成する意味がない。
そうではないから主人公達は手を取り合う。
納得できる理由づけをして得意と不得意な点を作り、皆でそれを補い合う。
人間とは役割分担を得意とする生き物だ。
氷の世界でマンモスを追いかけ回していた時代から既に人間は狩りと育児を役割分担していた。農業が始まれば役割はさらに細分化された。
1人の人間が全部の仕事をやるより、仕事を割り振ってそれぞれにプロフェッショナルを作った方が社会は上手く回ると人間は学んだ。
RPGの職業システムとは、それをかなり分かりやすくしたシステムと言っても過言ではない。
学者は多くの時間を勉学に捧げている。
勉学に時間の分、他のスポーツ選手の様に肉体を鍛える時間がない。
逆もまた然り。スポーツ選手は皆が仕事をしている間、身体を鍛えて技術を磨いている。その時間の分だけ勉強に費やす時間はなくなる。
どちらもやろうとしても、1日の時間は皆平等だ。50%ずつの努力と時間では、100%の努力と時間を費やした他の人間に勝てない。
これをゲームに置き換えると。
魔法使いは魔法を習得する勉強に時間を費やしているから肉体を鍛えている余裕がない。
戦士は肉体を鍛えているから魔法を習得する勉強に時間を割けない。
と表現できる。
この理論の根底には「人間は『ノーベル賞を取れる様な学者』と『金メダルを取れるスポーツ選手』という二つの存在を同時に実現出来るという程器用な存在ではない」という共通認識がある。
だから戦士の肉体を持ちながら魔法使いよりも魔法を使いこなすキャラはいないし、魔法を使えるのに戦士よりもパワフルに大剣をぶん回すキャラはいない。
この仕組みをより際立たせる為に、一般的なMMORPGでは装備、スキルや魔法の習得にステータス条件を設ける事が多い。
大剣Aを装備したければ筋力50以上、技術30以上が必要。
金属の全身鎧であれば筋力80、体力50以上が必要。
ファイアストームの魔法を習得するには知能50、精神が30必要。
この様に『必要ステータスを満たしていないと使えません』というやり方はロールプレイングに説得力を持たせられる。
例えばの話、筋力と体力が成長しやすい戦士なら、重い装備を装備しやすくなる。一方で適性の低い知能とかにリソースを割いていればその分他の戦士から大きく遅れを取る。結果的に戦士なのに魔法を習得しようなんて甘えたやり方は淘汰される。
魔法使いであれば、魔法がメイン武器なのだから知能や精神を鍛えるべきで、大剣を振り回せるほど筋力とか余計なステータスにリソースを費やしている場合ではない。
出来る事出来ないことをキャラごとにハッキリ分けるのは可能性を狭めている様で、結果的には親切なのだ。
因みにALLFOにステータス制限がないかって言うと別に全くないってわけじゃない。
『装備自体は出来る』のと、『使いこなせる』のが別ってだけで
例えばランク1魔法使いビルドスタートでも金属鎧は装備できます。
けどその状態で満足に動けるかは別の話ってこと。
ALLFOにおける装備って「物理的に装着している」って意味じゃないしね
それはノートやネオンの初期特がわかりやすく示している。
『物理的に使える』のと、『装備している』はALLFOにおいて明確に区別されている
更に設定開示すると、ビルドと適した武具を『装備』すると実は装備の出力が上がります。
例えば
数値にすると物理演算値上では同じ筋力値になるランク5の魔法使いが使う剣Aと、ランク1の戦士の使う剣A。
2人が剣Aを使った時に算出される『物理演算上の数値』は同値ですが
ALLFO上の『最終計算ダメージ値』は後者の方が高くなります。
例えば魔法使いが胴の装備に魔法の威力を底上げするローブを選択して、その上から物理的に金属鎧を着こむことは可能です。そして装備していない状態で運用すると、これは『物理演算』上の効力を発揮します。
この金属鎧を守護戦士が『装備』すれば、同じ金属鎧でも守護戦士の鎧の方が圧倒的な防御力を発揮します。
ノートがバルバリッチャソードで敵を切り裂けるのは、バルバリッチャソードが物理演算という世界の法則に食い込むほど『新しい法則』として破壊の力を示すからであって、そこにノートの力は一切介在してない。だって『装備』してないから。
なので例えばユリンがバルバリッチャソードを『装備』した状態で使ったりすると………
『職業』ってのはただ成長方向性を示すだけじゃない
『装備』ってのはただ物理的に持ってるわけじゃない
ってこと
この仕様を悪用して本命の装備を隠して別の服を着ておくなんてこともできる。
敵対者にビルド誤認させる為のPK向けの仕様ってことだね★
あとゲーム的に言えば昨今のゲームでよくあるオシャレ装備方向への配慮ってのもある。
実際に装備してるのは鎧Aだけど、テクスチャは鎧Bの奴を採用するみたいな例の機能
あそこまで派手に見た目は変わらんけど、ALLFOはそこんとこ割と生産職の腕次第で融通効く
ノート達が表舞台に出る時に軍服着てるのと同じようなもんです
つまりなにが言いたいかって言うと、極論、『戦士』系が『装備』するならビキニアーマーも装備として機能する世界ってことだ!!(物理演算上の防御力はゴミだけどゲーム上の演算はまた別の数値が計上されてるからね!!(まあ物理ダメージは物理ダメージで別個で受けてるから本気で装備するのは正気の沙汰ではないけどね!!))
 




