No.Ex 戦闘講義Ⅰ
久しぶりの日曜ゲリラ~♪
時系列的にはIkki直後
「…そんなキラキラした目で見んなっ」
「わくわく!」
「声に出すな、バカ鮫!話を聞け!」
「ウチも楽しみやんなぁ」
「VMっちまでそのノリで行くと収集つかなくなるっすよ」
「ふふふ」
「がんばれ、スピ先生」
「うるせぇぞっ!そこに座ってんなら話聞けっ!」
場所はミニホームの闘技場。
アサイラムでも新参よりのツナとエロマはプロゲーマーでもリアル格闘技の経験がある人間でもない。
その為、この二人に向けて度々アサイラムメンバーの誰かしらが講義を行うのは今や定期イベントとなりつつあった。
今日の定期イベントのテーマは近接戦闘。
講師はスピリタス。アシスタントとしてトン2も珍しく講師として待機しており、Gingerは新参ではあるが講師見習い側としてトン2の隣にいる。
色んなプレイヤーが講師になるが、アサイラムメンバーで一番人気なのはスピリタスだ。理由は単純明快。言っている内容が初心者でもわかりやすく、面倒見がよく、才能に比例するように性格も歪んでいるアサイラムメンバーにおいて圧倒的に根が真面だからだ。
その為か、今日の講義にはツナとエロマの正規生徒に加え、VM$、カるタ、ネオンも臨時生徒として参加していた。
問題はそこにノートも混ざっていることだろう。スピリタスとしてはこの上なくやり辛い。
まずノートがいると普段から騒がしいツナのテンションが3割増しになる。
ツナが騒ぐと連動してエロマの声もデカくなる。
VM$も普段から真面目とは言い難い生徒だが、ノートがいると割とふざける。
カるタは根が真面目な側だが、カるタもノートがいると指導者側から生徒側になってしまう。あまり当てにできない。
ネオンも普段は真面目側なのだが、ノートがいると精神的安定性が上がるために、あわあわしつつスピリタスに協力する側からこの場の状況を楽しんでしまうようになってしまう。
ノートに至っては論外だ。スピリタスが恥ずかしがる姿を見て楽しんでいる節が度々あり、更にはスピリタスにとってノートは人に物事を教える時の参考元でもある。やり易いわけがない。
「今回も実践っつうよりは基礎的な考えの話をする。さらに詳しく言やぁ、カウンターだっ。近接と近接のぶつかり合いになった時の想定だなっ」
スピリタスからすると、ツナのような子供特有の純真100%の瞳で見つめられるのは不慣れだ。
男勝りなキャラで過ごしてきた都合上、その容姿も相まって通っていた女子校ではまるで男性アイドルに向けるような黄色い声援を浴びせられることは少なくなく、時には本気で告白をしてくる女子もいた。今のスピリタスの女性ファンの大半も、その男勝りな性格と美麗な容姿で推している。
ただ、この男勝りな性格は子供相手には威圧的であまり適しているとは言えない。
その為か、子供と接する際はどうしてもスピリタスが纏っている男勝りな仮面が外れそうになる。
ツナはことさら幼いわけではないし子供ほど聞き分けがないわけでもないのだが、その目で見られるとどうにも調子が乱れるのだ。
ただ、憧れや善意は言って収まるものでもない。
スピリタスは強靭なメンタルでその視線をいったん意識の外に置き、講義を続ける。
「そもそも、カウンターにはどんなイメージを持ってる?」
「スピ姉の得意技!」
「…反撃の切っ掛け?」
スピリタスの問いに対し、ツナは即答。エロマは一拍の間を置いて答える。
ツナは講義とは関係なく自分の考えたことそのままを回答し、エロマは講義を踏まえつつ回答しているがだいぶ攻撃的な方面にフォーカスした回答だ。このやり取りだけでも二人の性格が垣間見える。
「ツナ、そういう話じゃねぇんだが…まぁいい。オレからするとだな、カウンターってのは横着なんだ」
「「横着?」」
予想外の回答だったのだろう。ツナとエロマは首をかしげる。
ツナとエロマからすると、スピリタスは間違いなくアサイラムの中でもトップのカウンターの名手だ。そのカウンターの名手がカウンターを否定するような事を言い出したのでエロマとツナからすると理解ができない。
「あー…トン2!Ginger!ゆっくりめに模擬戦ってできるかっ?」
各々アシスタントのはずなのに武器の素振りして熟練度稼ぎに勤しんでいた2名は、急に声をかけられピクリと反応し、顔を見合わせる。
可でも不可でもなく、困惑と言った様子。
そもバトルジャンキーにとって元から制限を課して戦闘を行うならまだしも、手を抜いて自分の意識だけでぬるい戦闘を行うというのがどうにも難しい。
「うーん、じゃあいいやっ。ノート、相手しろっ」
「へいへい」
こりゃダメだと役に立たないアシスタントに見切りをつけたスピリタスは、どう見てもガヤをやっているとしか思えない男にせめて役に立てと声をかける。なにせ、使えるものはなんでも使えとスピリタスに教えたのもノートなのだから。
スピリタスはインベントリから木刀を取り出す。
ノートはそれに応えるように闘技場に実験用として常に備蓄されているなんの変哲もない盾と剣を装備して戻ってきた。
自分のやりたいことを言わずとも理解している男を見て、スピリタスはうむと頷く。
「お前受け側なっ」
「はいよ」
それを言うが早いか、全力ではないものの目に見えるスピードで上段からスピリタスはノートに切りかかる。それをノートは盾を構えてガードした。
「今のは近接戦だとよくある動きの一例だなっ。そんじゃこの動きをカウンターの観点から見てみるぞっ」
そう言うと、スピリタスは一人で先ほどとった上段からの振り下ろし攻撃をゆっくりと再現し、振り下ろす前で止まる。
「こん時、オレの腹はがら空きだよな?」
「カウンターでぎんね!」
ツナはスピリタスの意図を察し、フライング気味で回答する。
先走っているが欲しいコメントだったのでスピリタスはそれに乗っかる。
「んじゃどうしてノートは今カウンターの動きを取らなかったんだろうな?」
スピリタスの疑問に対し、上手いことが言えたとご機嫌だったツナの表情が途端に混乱に代わる。必死に考え始めたのだろう。ただどうにも深読みしすぎているのか脳のCPUが露骨に上がっているのが見て取れる。
エロマも黙ってはいるが、すぐに回答が出せないあたり答えに詰まっているよう見えた。
そこでほかの臨時生徒にも目を向ける。
VM$はニヤニヤして何を考えているか読めない。ただ物事の本質を見極めるのは上手いタイプだ。おそらく正解はわかっている。ただ今回の講義がツナとエロマをメインとしているので回答を控えている。
カるタは黙ってこそいるが回答自体は思いついているのだろう。ただそれが複数あるので、どれが一番の正解かを考えている。
ネオンはどう見てもまだ考え中だ。エロマとよく似た表情をしている。根が真面目で考え込みやすいのはエロマもネオンも良く似ている。
「俺が下手くそだからだな。トン2達ならカウンターしてたわな」
「いやそういう話じゃねえっ」
そこでノートが茶化すような自虐回答。スピリタスは反射的に否定するが、否定したすぐ後にノートが単に茶化したわけではないと察する。
というのも、ノートの回答は極論合っている。
先ほどのいきなりの上段振り下ろしを使えないアシスタントどもにやっていたらどうなったか。確実に上半身と下半身が涙の別れをしていただろう。
問題は何が違うのか。なぜノートは防御を選び、トン2とGingerはカウンターを選べるのか。
その情報を与えられたことでピースがそろったのだろう。
ネオンは答えにたどり着いたのか表情が和らぐ。
専門ではないとはいえ、ネオンは既にノートから盾の使い方を習っている。防御方面から答えに近い理論を見つけ出したのだろう。
スピリタスはこれ以上考えさせるのも効率が悪いと判断し、再度木刀を構えた。
少しずつALLFOに戻してく




