No.536 日本駄菓子界のトップ知名度
ただいま
夏休み(ではないけど)ゲーム行脚をしておりました
飴細工の腕がグネグネと変形を開始する。
激怒モードに入った表れなのか大量にピンクのエフェクトが出始める。
そのエフェクトが腕の周りで強くなり、遂には赤に近いレベルの発光に到達する。
「なになになに!?」
「ヤバげなエフェクトですねぇ!?」
「次はなんだ!?」
赤いエフェクト。
強烈な熱を放つ腕。
飴細工の腕が棘だらけの鞭の様に変形をして叩きつけられる。
「アタシぃ!?」
一撃目はなんとか全員回避し、既に全員警戒はしていた。
されど次に行われた攻撃は今までに無かったリーチ拡張攻撃。
まだ熱を持っている状態の飴細工なのかグネリと曲がった腕はラノ姉を狙い撃ちするように伸びた。
「ヘイト無視か!?」
「いやアナザーカウントヘイトっぽいですねこれぇ!」
それを見てメルセデスはヘイトに関係なくゲンゴロウが攻撃を始めたのだと思うが、すぐにそれをLOWWA子が否定する。
これは単純にPvEの経験値の差。
対人戦の経験数ならメルセデスに軍配が上がるが、対モンスターならLOWWA子の方が経験数が多い。その動きを見ただけでゲンゴロウの狙いをLOWWA子は察した。
今までのヘイトカウントが今までのゲンゴロウへの与ダメージから算出されているとしたら、今回のは恐らく別。誰か一人をランダムで狙う攻撃だとしたら、あまりにもピンポイントでラノ姉が狙われていた。
―――――――ダリィぞこれ!?
LOWWA子は指揮能力による別個のヘイト値からラノ姉が狙い撃ちされたと考えたが、ラノ姉はそこまで断定はしなかった。確定ではないものを過信するのは危険だからだ。
されど腕の赤いエフェクト以外に発生条件が分かりにくいとなると、ふとした時にもう一度あの攻撃が来たら避け切れるか。先ほどの回避は全員が急な攻撃パターンの変化で過剰に警戒して散っていたから回避するスペースがあったが、もし変にラノ姉を庇う陣形を強いたままだったら全力で回避できたかどうか。
「これは―――――なっ!?」
ラノ姉が頭を必死に回転させている一方で最前線の指揮を担うメルセデスがなんとか距離を詰めてマシュマロボディに攻撃を当てて立て直しを図るが、すぐに言葉を失う。
ズルズルと触手を縮める様に伸びた腕が縮んで元の形状に戻ると同時に、腹回りが強く発光する。
グググッとなにかを貯める様に猫背になるゲンゴロウ。距離を詰めたメルセデスが絶句したのはその腹から突き出た筒状のスナック菓子。
様々なテイストバリエーションと値段10円台を維持し続ける日本駄菓子界のトップ知名度を維持し続けるお菓子を少し大きくしたようなものが腹から数十本と突き出した。
見た目はファンシーだが、周囲に桃色のエフェクトが妙にトゲトゲしい。
その筒状の駄菓子に重なるように広がったピンクのエフェクトが銃の様な形になる。
メルセデスにはその筒状の菓子が銃口に見えた。
引くか、ガードか。
「ビビったら負けだぁ――――!」
敢えて止まらない。
ガードもしない。
回避も間に合わない。
だったら、活路は、前。
武士の鎧を着用しながらも果敢にスライディングをし腹の下に潜り込む。
通常なら馬力が出ないだろうが、アゲマイによって劇的な身体能力強化が施されているメルセデスは棚の下に爆速で消えていくゴキブリのような勢いで腹と地面の僅かな間に滑り込む。同時に振った太刀が腹を切裂いた。
「良かぞ良かぞ~!ほらほらがまだせ!みんなで舞え舞え!FEVER!!FEVER!!それそれそれそれぃ!!」
このドタバタ騒ぎの中、非常に楽しそうにアゲマイは舞い踊る。
アゲマイの特徴の一つとして、アゲマイは直接的な攻撃を周囲にしない限りにヘイト蓄積率が非常に小さく、尚且つ受けるダメージが極めて小さいことが挙げられる。
ある種最強の傍観者。場が盛り上がればそれが一番楽しいという快楽主義。武士よりのNPCではあるが、武士だけに味方しないやりたい放題のキャラ。
アゲマイの性能を引き出したいのなら、単純に米を捧げる事も大事だが楽しませることも大事なのだ。
「全員距離を多めに取って!近接でダメージ稼げるヤツ以外は瓦礫の投擲だけでもダメージ出るから!」
「FOOOOOOOOO!!」
メルセデスが作り出した僅かな間。
その間で即座に思考の立て直しをしたラノ姉から指示が飛び、皆の思考がまとまる時間を捻出すべくLOWWA子が雄たけびと共に銃口だらけのゲンゴロウに肉薄する。即座に振り下ろされたゲンゴロウの腕を回避。脚の切り返しで即座にジャンプし、三角飛びの要領で腕を蹴上がりゲンゴロウの脳天に瓦礫をダンクする。
――――――流石!
ビビったら負け。
これは全指揮官が肝に銘じるべきモットーである。
ビビるというのはそれだけ思考を鈍らせる。ある種恐怖が薄い奴ほど状況の変化に対して即座に対応ができる。
ラノ姉は周囲を置き去りにするレベルで思考を回し続けられるが、周囲が付いて行けるとは限らない。周囲の歩幅が揃うとは限らない。
故に周囲も立て直せる間が欲しかった。
そのラノ姉のオーダーを読み取ったように派手な動きをすることでLOWWA子が視線を引き付けた。分かりやすい動き。同時にゲンゴロウからのヘイトを集める。配信者としてもパーフェクトに近い動き。
ラノ姉とは異なり後天的ではあるが、非人間的なまでに恐怖が麻痺しているLOWWA子も立て直すのは非常に速かった。
「下がって全力で“全方向”防御態勢!推定跳弾!」
銃口が発光するのを見るや否やラノ姉の鋭い指示が飛ぶ。
全方向、というラノ姉の指示に全員が脳裏に疑問符を浮かべるが、その疑問符が完全に形を結ぶ前にクラッカーを鳴らしたような音がして銃が発砲される。
筒状のスナック菓子から放たれたのは白い弾丸だ。
その白い弾丸は普通の銃弾の様に残像すら追いきれないスピードではない。だが、銃弾見てから回避余裕でした、と言えるほど温いスピードでもない。おまけに地面に当たった弾丸はスーパーボールの様に跳ねる。
「アハハハハハ!だと思った!」
全員が阿鼻叫喚になる中で、予想が当たったラノ姉の笑い声が響き渡る。
今までに積み上げた経験。製作陣の思考のメタ読み。そして直感。全てを寄り合わせてどんな攻撃が来るか予見したラノ姉は笑いながら敢えて前進した。後衛から、中衛にポジションを置き換える。
全部を避けようとするから被ダメが増えるのであって、最初からある程度切り捨てが出来るなら慌てたりしない。
先読みに加えて恐怖心の麻痺。
ラノ姉の笑い声は周囲の混乱を鎮めていく。
精神的支柱が揺らげば全てが揺らぐ。
指揮官の背負うプレッシャーは結果を出すこともそうだが、その指揮の中でブレてはならない。
この重みは指揮官にしかわからない重みと苦しみだ。
そして更に優れた指揮官は周囲の揺らぎすら吸収して安定を図る。
異常事態に於いて中心がいつも通りに振舞ってくれるというのはそれだけで周囲を安心させる効果があるのだ。
「アハハハハハ!ヤバいねこれ!消滅まで跳ね3回だね!」
ケラケラと笑いながら更に前衛寄りに。
マシュマロ弾丸を回避しながら周囲を観察し、前に出て視線を引き付け全体の安定化を図る。
―――――それでも無理か!
だが、安定させたところで回避できるかは別問題だ。
この戦闘の支柱である3人の様に恐怖心が鈍く冷静に避けられるとは限らない。焦りによってアゲマイの身体強化が逆に牙をむき、回避をミスって思い切り顔面にマシュマロを受けた者が何人か脱落する。
デカい買い物をして家計が火の車(´・ω・`)




