No.535 これはヤラセwww
またsteamのサマーセールで散財したバカは私です
「「下がれ!!」」
その腕の振り上げを見てメルセデスとラノ姉の声が被る。
大まかなモーションそのものはパッと見では同じ。腕を上げて下ろす。
が、1割を切った瞬間に散ったピンクのハートのエフェクトとほんの少し今までの振り下ろしよりも肩を入れてより叩きつけるようなフォームを見てメルセデスは危険を察知した。
激しく移り行く戦況の中で、慣れてしまえばある種面白みもないほどに分かりやすいゲンゴロウの動き。
車の運転などでも言われることだが、物事は不慣れな時よりも慣れてきたと思った時が最も危険なのである。
それは油断が生まれているというのもあるのだが、脳の構造的にパターンが始まる事で脳が情報処理能力を勝手に下げ始めるからでもある。
一定の動きに慣れてくると、少しの違いを視覚情報として脳には送られても勝手に自動で補正をかけて「いつもの動き」という処理をしてしまう。
そこで逆に僅かな違和感を察知する情報処理能力を持つ脳を持つ者が、プロゲーマーの指揮官をこなすことができる。
メルセデスの知覚能力は、脳は、些細な違和感を察知すると同時にそれが危険な物であると即座に気づいた。
そして細部に対して明確な知覚ができているわけでもないのに、ほんの些細な違和感に過敏な反応をするラノ姉も危険性を直感した。
カウンセラーとしての天性の才覚。微かな違和感を敏感に感じ取り対処する性質がゲームにも遺憾なく発揮されている。
今この場において指揮能力においてはワンツートップの信頼性を誇る人物たちの警告に対し、若干の戸惑いはありつつも他プレイヤー達は大きめに距離をゲンゴロウから取った。
斯くして2人の判断が誤りではなかったことが次の瞬間に証明される。
いつもより叩きつけるように振り下ろされた脚がぐさりと地面に刺さり、ピンクのエフェクトが刺さった脚を中心に伝播するように広がるといきなり針山の様に飴細工にも見える針が大量に地面から突き出した。
もし距離をしっかりと取っていなかったら。
脚から少し離れていたヤツは咄嗟にもっと離れれば助かったかもしれないが、他にもプレイヤーが居て後ろに勢いよく下がれない前線寄りのプレイヤーは確実に刺し貫かれていただろう。
「行動パターン変わったね!ボス発狂モードだよ!」
一定値以下のHPになる事でボスの動きが大きく変わる仕様。
あまりにも王道でメジャー。されど慣れてきて作業感が滲みで始める時に空気を換えるには最高のエッセンス。
情報が無さ過ぎて、正しい情報が少なすぎてネット上の第五種情報など殆ど当てにならない。
なんせ、第五種が発狂モードになるまで第五種を追いつめたのがこの即席チームの他は実際に第五種を討伐した二つの団体だけなのだから。
ようやくゴールへの最終トラックに突入したと思いきや、最終トラックのコースがSASUKEでしたみたいなオチをくらいプレイヤー達に緊張が帯びる。メルセデスも完全に予想外と言えばウソになるが、実際に嫌な想定の方が現実となると渋い顔になる。
―――――――――そりゃそうだよな!ここで終わってたら興ざめなんてもんじゃねぇ!
故にこそ、この状況に笑顔を隠しきれないラノ姉は配信上でやたら目立った。もはやマゾと形容とした方がいいくらいに、難易度を吊り上げられているのにむしろその方が余程楽しそうにしている。
本来あり得るはずのないラノ姉への出演オーダー。
プロゲーマーの乱入。
そもそも案件放送なのに視聴者参加型などという放送事故誘発当たり演出でしかないかなり攻めたプロット。
そこに第五種の登場。そして都合が良すぎる第四種の参戦。
さてどこまでGoldenPearの想定なのか?
今のご時世、プロが使う分析ツールなどもAIのお陰で素人が弄れるようになっているため、案件配信中に普段と与ダメージなどの数値なんて調整しようものなら物好きの暇人が直ぐに嗅ぎつけて「これはヤラセwww!」とドヤ顔で指摘し始める。
登場する第五種にゲンゴロウを割り当てる。
ランダム出現の第四種にアゲマイを選ぶ。
ここまでは偶然と言う言葉でまだ逃げられる。
本来はランダムなものが実は裏では固定値にされているのは内部告発でもしない限りなかなか発覚しない。
けれどゲンゴロウのHPを勝手に削ったり試合時間を伸ばしたりなんてことは絶対にできない。ランダムではない目に見ているデータは、リアルタイムで世界に映し出されているモノを勝手に都合よく書き換えることは22世紀でも不可能に近い。
世には成功者の足を引っ張りたくてしょうがないしょうもない人種が残念ながらいる。それでいて大して頭が良くなくても人の粗探しができてしまうツールが22世紀には増えすぎている。
ランダムではない数値を弄ったら確実に突きとめて揚げ足取りをする暇人が22世紀には腐るほどいる。
この状況から配信を上手く纏められるかはあくまでラノ姉たち頼りなのだ。
―――――――――知るかバーカ!
けれど、それでもこの女は、男は嗤う。
Ikkiの売れ行きなんざ俺の知ったこっちゃねぇ。
この配信でLOWWA子が評価されて売れればいいんだよ!
そして俺が面白ければヨシ!
メルセデス云々は配信へのイメージダウンを避けるためでしかない。燃えようがどうしようが本心ではどうでもいいとしか感じない。
そんな独善的な思考。ブレない指針。
メルセデスはLOWWA子をいつでもたてて動くラノ姉を勿体ないと思ったし、非常に献身的に感じた。
けれどそれはこの女の理解としては大いに間違っている。
配信も、LOWWA子を最大級に飾り立ててプロデュースするというのも、全てがゲーム感覚でしかないのだ。
縛りゲーして難易度を上げて刺激を高めて渇きを慰めているのだ。
献身的に見えるその態度も全てがあくまで全てがノートの作り上げた「ラノ姉」という虚像を演じるゲームのスパイスでしかない。ジアをベースに組み上げた仮想人格だ。
面白くもないものを続けるほどノートは暇じゃない。
いや、やらなければならない事を、それならば楽しんでやるべきだと感じるし、楽しめる状況に自分で整えるから、ノートはノートと言えるのだろう。
予測する。
分析する。
それは今まで見てきたゲームの情報だけでなく、メタ的な情報も全てひっくるめてだ。
使えるものはなんだって使って勝ちに行く。
GoldenPearは恐らくかなりアホな賭けをしている。
それは間違いない。
力を持ったインフルエンサー的プロゲーマーがピンポイントで因縁のある配信者の案件配信に紛れ込んだ事が偶然だと?
参加したプレイヤー達が全員脚を引っ張らない程度には動けて、ラノ姉やメルセデスの指示をちゃんと聞けて物分かりの良い連中ばかりなのが偶然だと?
そんなわけがない。
ノートの本能がそう叫んでいる。
ALLFOでも初期限定特典の配布際には明らかな偏りを感じる。
ランダムであるはずのものに、非ランダム性がある。
GoldenPearがオンライン上の動きから人間の本性を見抜くことなど赤子の手をひねるより容易い。
この案件配信にとって都合の良い人物だけをピックアップしてこのシチュエーションを成立させように仕向けることは技術上可能なのだ。
そもそも、自分が今指揮をしているプレイヤーが「人間であるという保証」すらない。
ALLFOで人間以上に時に人間らしいNPC達に出会ってきたノートからすれば、NPCが全力で人間のフリをし始めたらもはや判別は不可能な領域に近いと感じている。
寄せ集めにしては「指揮がしやすすぎる」と歴戦の指揮官ならではの違和感を覚えたノート故の独自見解。
それが正しい事なのかはさておき、ゲンゴロウは再度手を大きく振りかぶった。
Darkest Dungeon ムズカシ…………(・ω・`)




