No.533 大本営発表
「前振り薙ぎくるぞ!」
「わかってるよ!メルちゃん下がって!」
何度目かの片前脚振り上げからの高速振り下ろし。からの横薙ぎ払い。
シンプルながら下手に近寄った瞬間に餌食となるという攻撃。
「回転攻撃来た!右後ろ方向ポジ避難!他は遠距離攻撃ね!」
少し離れた位置でゲンゴロウの動きを見ていたラノ姉が予兆に気づき直ぐに指示が飛ぶ。
薙ぎ払い攻撃から更にコンボ。右後ろ脚を軸に右半回転。続けざまに右前脚を軸に右半回転。これを2セット。アフリカ像レベルの巨体が素早く回転して動くのだ。横回転による遠心力を乗せた巨体にぶつかられたら人間など軽く吹っ飛ぶ。
しかしこの攻撃はゲンゴロウの中では隙の多いデレ攻撃。
回転後、重心を変えて軸足を変える時に少々の間がある。この時にマシュマロの胴部分に向けて遠距離攻撃を当てる事が出来る。近距離攻撃を当てる事も出来なくはないが、回転に巻き込まれるので推奨はされない。やるなら二回転後だ。
「噛みつきか、飛び掛かりか…………LOWWA、メルちゃんバック!防衛隊2人を守って!これは噛みつきだね!」
ゲンゴロウは攻撃こそシンプルだが、攻撃と攻撃の間の猶予が短い。それも通常のPvEにおけるエネミーらしさがない。
ALLFOのエネミーたちも割と理不尽に見える性能をしているが、それでもある程度攻撃チャンスが発生している。一方でゲンゴロウの攻撃はファンシーな見た目に反してぶっ飛んだファンタジー攻撃をしてこない代わりにかなり堅実な攻撃をしてくる。
その為、出来る限り指揮官は早い段階でゲンゴロウが次に何をしてくるか予想して指示を出して陣形を変化させ、攻撃のチャンスを的確に作っていく必要がある。
二回転後は完全に攻撃タイム。
目が回るのか知らないが横回転後のゲンゴロウは少し止まる。
問題はその後に発生する大ダメージ攻撃。攻撃の種類は二つ。
「飛び掛かり」は本当にシンプル。体をかがめて遠めにいるプレイヤーに的を絞り、体の向きを微調整。標的が自分の正面に入った瞬間に大跳躍からの防御系能力完全貫通ボディプレス攻撃をしてくる。
「噛みつき」であれば頭を横に振りながら3度前身してくる。元々肉食のゲンゴロウは顎が強めで、下手に噛みつき攻撃で噛まれたら振り回されて死ぬ。防御極振りの奴に周囲がバフを重ねがけして、ようやく生存率五分になるかどうか。
今のゲンゴロウはバレンタイン仕様の為に顎が鋭利に欠けた厚めの醤油せんべいになっており、噛みつかれたとしても焼けた醤油の香ばしい香りに包まれて通常版よりは若干恐怖感が薄くはあるが、ジェットコースターよりも酷い感じでブンブン振り回されてしまえばとりあえず死を覚悟する気持ちになる。
おまけにこの「噛みつき」は妙な判定バグを感じるレベルのホーミング&吸い込み判定を持っており、口の直線状に立っていたらまず助からない。
現状、この戦闘はラノ姉、メルセデス、LOWWA子の三人が居て成立している。この3人のうち誰かが1人でも落ちた瞬間に総崩れを起こす。その為に前線に立つメルセデス、LOWWA子の2人が噛みつきの餌食にならないように死んでくれと防衛隊と言うの名の身代わりを前に出す。
「ラノ姉様の為にぃぃぃぃぃ!!」
「ラノ姉陛下バンザーーーーイ!」
「大本営発表!戦艦ゲンゴロウ一隻撃沈!」
「ちょっと危ない感じのネタやめろーーー!!案件中なんだよーーー!!」
しかし高確率で死ぬというのならそれも利用はできる。農民系は死にやすいため、死を以てして発動する強烈なカウンター系の攻撃もある。その手の能力を発動してゲンゴロウに突撃すれば都合3度大きめのダメージがゲンゴロウに入る。
これで後2割近く。ちまちまと削り続け、いつゴールにたどり着くのかもわからなかったような状態からようやくゴールテープが見え始めるラインにまで到達した。
「おーいラノ姉――!その辺ほっつき歩いてたNPC連れてきたよーー!」
「マジで!?めっちゃナイス!ってアゲマイちゃん!?」
「アゲマイちゃんだと!?」
「うぉーーーアゲマイちゃんだーー!!」
「これで勝つる!!」
「アゲマイちゃん助けてくれっーー!!」
「なんじゃおんしらはぁ!?ってどえりゃーもののけがおるがな!?」
先の見えない乱気流に対して帆を上げ続けていた帆船に、一定の流れの持った風が当たり始める。その追風は更に大きな風となる。
「一時共闘と行こうよ!アゲマイちゃん!」
死に戻りして戦場に戻ってくる途中、1人のPLが連れてきたのは第4種NPCの一体。武士側のネームドNPCだ。
姿は日焼けサロンで綺麗に日焼けしたスタイルのギャルに色鮮やかで絢爛な着物で花魁のコスプレをさせた様な感じ。おまけに現代風アレンジなのか着物の丈はかなり短めになっていてミニスカの様になっている。
名をアゲマイ。現環境のIkkiの中で屈指の人気を誇るNPCである。
理由はシンプルにビジュアルがいいと言うのもあるが、同時にそのカラッと明るい性格と、ギャルっぽい若々しい姿とは対照的なかなりコッテリとした方言混じりの口調のギャップ。
そして何より、彼女の能力が彼女の人気を決定的なものにしている。
その能力は強力なバフ。
単純な攻撃力の値を強化するだけでなく、物理演算にもゲーム性を変えるほどのぶっ飛んだバフをかけてくる。
それでいて、このバフの範囲の取り方が通常の第四種ヒロインと違うのがこのNPCの最大の特徴だ。
第四種、つまり武士側のNPCでありながらアゲマイのバフの範囲は全員だ。倍率バフの為に基礎値の高い武士の方が相対的に強化されるものの、農民、武士関係なく全体にバフをかけてゲーム性を破壊してくる。
「しょんなかねーーーーー!!レッツパーリーーー!!」
アゲマイは背中に手を回してバッと何かを引き抜く。
それはフワフワの羽毛を束ねたドキツい蛍光色を色々と混ぜた扇子。22世紀に至っては古臭いを通り越して一周回ってファッションとして使っている様な人物もいる所謂ジュリアナ扇子、あるいはバブル扇子である。
同時にどこからともなくアゲマイの頭上15mくらいの位置に現れるは直径3mにも届く巨大なミラーボール。周囲の明度が不自然に下がって少し暗くなり、その代わりに暗がりをミラーボールの虹色の光が辺りを煌々と照らす。
そして流れるのは日本のバブル期に流行った曲をAIでミックスした様なポップな曲。
――――――のはずだが、今は少し違う。
ただ、今のバレンタインモードのアゲマイはショッキングピンクでハート型の扇子を装備しており、着物もどことなくオシャレなお菓子の包装を思わせる様なマイナーチェンジが施されている。
音楽もディスコ調のものから著作権フリー状態の有名な恋愛系の歌をポップアレンジした曲が流れ出す。
「うおおおおおお!LOWWA子勝てよーー!!米全ツッパだ!!」
「持ってけドロボー!」
「伝説になるんだーー!」
アゲマイがバフをばら撒き始めると、馬鹿げたゲーム性に対して意外と硬派なバトルロワイヤル調のゲームは急激にファンタジー過多な挙動が増え始めるバトルアリーナゲームと変化する。
しかしそれだけで終わらない。アゲマイの強化幅は捧げられた『米』の量で更に跳ねる。
これは武士側のNPCだけあって武士の方が還元率が高くなる。但し、これはツケ払いのようなもの。守るべき米が即座に減る訳では無い。費やした分だけ武士は鬼神の様な強さを誇り始めるが、その分の利益が取れなかったら大幅なマイナスポイントをつけられてマッチランクの大幅ダウンもあり得る。
一方で農民は今武士から奪い取った米の分しか費やせない。その代わり大損もしないのだ。
ぬきたしリマスター版出たって
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