No.532 正妻ポジ
CoC沼から帰還
PLはしばらく引退かなー
地道な攻撃の積み重ねにより、ゲンゴロウのマシュマロボディには大量の瓦礫が突き刺さりハリネズミの様になっている。
LOWWA子の咆哮により皆の必死さも上がる。
ラノ姉の指揮も効率化が進み、攻撃の要であるLOWWA子と防御の要であるメルセデスの両輪のスピードが揃い始めた。
内心ではまた女引っ掛けてない?という怒りがある。知能面でノートに認められてそうなメルセデスに対する隔意がある。
小学生の時から追いかけ続けて、何度自分の惚れた男が女を引っ掻けたところを見てきたのか。少し目を離したうちに暫く増えてなかったはずの彼女枠が2人も増えていた時は内心発狂しそうだった。
お前ほんまいい加減にっ…………!!とキアラが素でノートに詰め寄りそうだった。
小学生から高校まで同じだったキアラは、ノートがそういう人物であるということをノートの傍らにいる女性陣と比べても圧倒的に知る機会が多かった。
ふとした時に見れば仲良さげに女子と喋っていたりして、かと思えば別の場所で別の女子グループとも話していたり。トンチキな言動を偶にするせいでセルフで好感度を下げていた為にわかりやすくモテていたかというとそこはキアラも首を傾げるが、それでも何人かの女子が裏では「あの子結構好きかも」みたいなことを言っていたことを知っている。ユリンやゲームを優先せず女子と遊ぶ方向に舵を切っていたら、もっとモテていただろうにとキアラは見ていた。
いない存在として扱われていてキアラの前では、皆気にせず友人内でしか話せない様な事も平気で言ったりしているのだ。キアラがそれを誰にも言わない、というより言う相手がいないから、地蔵かなにかみたいな扱いだったのだ。故にキアラはノート以上に、昔のノート周りの人間関係の図を良く知っている。地蔵扱いであっても、その地蔵には目も耳も記憶する脳みそだってあるのだから。
「LOWWA子!パーク切るぞ!次のタイミングで詰めるんだ!」
「あいあいさーーー!!」
――――――嗚呼もう。この女がノラ君の作戦に必要でなかったら今すぐ闇討ちしてるのに。
そんな思考がキアラの思考を過る。
―――――――みんなみんな邪魔だ。ノートの周りにいる有能な女みんな消えて欲しい。お前らのせいで、視界に入る為だけでも嫌になるような努力を積み重ね続けて、まだ終われないでいる。この男はまだやれるだろうとケツを叩いてくる。首輪を引っ張ってくる。
ずっと見てきたから、キアラはノートの残酷さもよく知っている。才能でどこまで自分の近くに置いておくか、置き続けるかキッチリと線引きする才能至上主義めいた残酷さを。
ノートの彼女と堂々と言えるメンバーは皆何かしらで常人が逆立ちしても決して到達しえない何かしらの才覚を有している。
表面上はわかりにくいし、最初はキアラもなんでこの子を?と思ったネオンですら、蓋を開けてみれば全体的なスペックの高さに加えて異常な記憶力を有している。知識のアウトプットと応用はまだ発展途上の為に認識しづらいが単純なインプットならキアラがどうあがいても勝てないと悟るぐらいに根本的な頭の作りが違う。努力に対する心理的ハードルが異常に低いと言う多くの人類が羨む性質も有している為、成長の度合も異常だ。
努力。それはまるで魔法の力の様に語られるが、全くそんな事はない。
努力と言うのはその人の初期能力を1として、その最大能力値を+1する行為の事ではない。
人間は生まれた時に全てのパラメータ限界値が定められていて、そのパラメータ限界値までパラメータを高めることを努力と言うのだ。そして努力によって上がるパラメータの値の幅は、限界値の対比によって決まる。
例えば知力の最大値が10の奴が10年頑張って上がるパラメータが+1なら、知力の最大値が100で生まれた人間は同じ10年頑張ればパラメータは+10上がる。同じ10年でも最大値が異なれば残酷な迄の差を生み出す。
一を聞いて十を知る、と言うように、同じ1でも才能の幅は吸収できるものに圧倒的な差を作り出す。
努力と言うのは「最初に決められた潜在能力値をどこまで表に引き出すか」の戦いなだけで、才能そのものの上限値が向上する事は決してない。
なので、初期値が人並みはずれて高いパラメータを持って生まれれば、小学生未満の段階で徐々に差が見え始める。
頭のいい子。運動の出来る子。コミュニケーションの上手な子。才能の限界値が高い子は生まれた時点で更にボーナス値を持っている事が多く、簡単に凡人を突き放す。
そこから努力を更に積み重ねた一部が更に上に行く。自分の潜在能力値を限界値まで近づける努力を積んだ者が何らかの分野で頂点を取る。
生まれながらの才能の限界値が50しかない者は、限界値100の人間と競り合おうとしたら倍以上の努力をしてようやく釣り合う。それでも限界値が100の奴が50の値を超える様な努力をしてたらもうどうやっても勝てない。それが競技の世界だ。おまけに限界値50の奴が血反吐を吐くような思いで限界の50までパラメータまで伸ばそうとして足掻いている傍らで、限界値100の連中は涼しい顔してその50の値を超えていくのだ。
努力が何でも叶えてくれるなら、誰もが金メダル候補者だ。されどそんな夢の様な話はないのだ。
最も分かりやすい例を出すなら、才能を身長に置き換えれば分かりやすい。
身長と言うのは生まれた時点で遺伝子によって最終的な数値は既に決まっている。
身長は早熟な子も居れば、中学や高校で一気に伸びる子もいる。それでも身長の大きい人は幼少期から大きい確率が高い。
では身長を伸ばす為の努力とは?
それは睡眠だったり、食事だったり、運動だったりする。
幾ら潜在的に身長が伸びる潜在的能力値があっても栄養や睡眠が足りなければ伸びる物も伸びない。
逆に両親の身長が高いなど、もともと伸びる素養を持つ子がきちんと健康的な生活を送れば身長はぐんぐん伸びるだろう。
人は何故か身長などの身体的特徴とスポーツや勉学などの才能を切り離して考えがちだが、一緒だ。一緒なのだ。全ては遺伝で、生まれた時に既に最大値が決まっている。
とんびが鷹を生む、などという言葉があるが、それは往々にしてそのトンビが鷹になれるだけの素養を持ちながら努力をせず、あるいは努力できる環境で育たず、潜在能力を引き出し損ねていただけなケースが多い。両親からかけ離れた才能をいきなり発揮する事は本当に稀なのだ。
そしてその努力をする為の環境は、標準的な生活レベルが向上している22世にあってはほぼ全ての人類に与えられている。
ただ、その点でいえばキアラは遺伝的には十分なだけの可能性がある。性格的な問題や運などが絡み結果こそ残せなかったが、プロゲーマーだった父親と、人を誑し込むことにかけては天性の才覚と身体を持っていた風俗嬢の母親。キアラはそのスーパーハイブリッドだ。
LOWWA子という配信者はこの二つの才能を最大限まで引き出した存在と言える。
されど、キアラは母の才能をさほど求めていなかった。
母の才能を捨ててでも父の才能がもっと欲しかった。
キアラ本人はあまり気づいていないが、キアラもノートに似ている。自分の最大の才能である人心掌握などの能力をあまり重要視しておらず、プロゲーマーに必要な身体的な才能を渇望している。
「(この、アマ………!)」
人心掌握と言う点を考慮しなければ、キアラから、LOWWA子からすれば、メルセデスは完全上位互換に見える。
配信者として有している人気も、ゲーマーとしての腕も格上。
殺したくなるほどそんなメルセデスの存在が憎い。
想い人の絶対的な正妻ポジで踏ん反りかえってる自分の完全上位互換としか思えないロシア女の面影がチラつくのが余計にメルセデスへのヘイトを上げている。
「(視界も広いし、よく動く…………!)」
されど自分が嫌っても相手が嫌ってくるとは限らない。
メルセデスはメルセデスで、最初はラノ姉だけに興味がむいていたが、共闘し始めるとLOWWA子も非常に高い状況判断センスと戦闘能力を持っている事に気づく。才能も有り、きちんと努力を積んできた痕跡が見て取れるメルセデス好みの動き。
もしよかったらLOWWA子の方もプロゲーマーとしてスカウトしてみようか。ラノ姉より訳の分からなさが少ないためにメルセデスとしてはLOWWA子を高く評価していた。
斯くして知らず知らずのうちに、この第五種討伐メンバーの中核である三人の間には謎の三角関係が出来上がっていた。
相関図
ゴロ助→狂愛・崇拝→ノート
ノート→遊び相手に悪くない→メルセデス
メルセデス→気に入った→ゴロ助
ノート→???→ゴロ助
ゴロ助→ブッ殺すぞ→メルセデス
メルセデス→厄介ファン→ノート
ちなみにラノ姉のモデルはジアというゴロ助にとってはイライラポイントの事実。
メルセデスがノートに対して勿体無いと感じたフィジカルの才能欠如のデメリットがなく、ノートと競り合ってくる頭も持ってる女帝です。
カリスマ、頭脳、コミュ力、フィジカル全部のカードでUR札握ってるチートです。




