No.68 反転スル天祀ノ結界・開錠セシ不浄ノ門・来タルハ冥途ノ渡シ船①
その日、日本サーバーのプレイヤー全員に初めて見るシステムメッセージが表示された。
赤く点滅するメッセージ、特殊災害という新要素、都市の大結界の破壊という不吉な文、そして“イレギュラー”イベント。
それが一体どのような物かわからず、プレイヤー同士で顔を見合わせる。
一方で教会では蜂の巣をつついた様な騒ぎ。聖女達がばたりばたりと倒れ、混乱は加速する。
異常に1番初めに気付いたのは、フィールドで狩りをしていたプレイヤー達だ。
都市の周りは草原になっており見通しがよく、そこは魔物がポップすることのない言わば安全地帯。その草原が枯れていき、周囲の森の木々が枯れていく。
「な、なにが起きてるんだ?」
「分かんねえよ。でもいいことではないことは確かだ」
「ねえ、あれ…………」
ガヤガヤと無秩序に騒ぐプレイヤー達。その中で一番目の良いプレイヤーが森を指さす。
そこには枯れ始めた森からワラワラと湧いてくる大量の何かがいた。それらはプレイヤーを見つけると一気にそちらに駆け出す。
ゴブリンゾンビ、ドッグスケルトン、アンハロウドクロウ、クロウラーゾンビ、グール、ゾンビ、スケルトン、ゴブリンファイタースケルトンなど…………どれもがアンデッド系の敵だ。森などに出没する魔物がアンデッド化しただけで強さ自体はそう異常な訳でもない。寧ろ雑魚敵だろう。
しかしその数が通常のそれではない。
人の、獣の、虫のアンデッドが群れをなしプレイヤーを強襲し始める。
それはある種のパニックホラーに近い。いくら剣を振り回し無双していても、一匹に体当たりを喰らって態勢を崩せば、後は雪崩のようにアンデッドの群れに呑まれる。一部のアンデッド共は共食いを始め、無秩序に暴れ、より強大なアンデッドが生まれていく。それはまるで蟲毒の壺。プレイヤーはその虫の一つに過ぎない。
ゾンビもスケルトンも雑魚だ。しかし彼らに恐怖という感情はない。どれほど味方が殺されようともその死体を踏んづけて生者を侵さんとし続ける。その圧倒的物量で飲み込もうとする。
イベント開始から5分、シティの周りはアンデッド犇めく地獄絵図と化していた。
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だがしかし、例外的に、その地獄絵図が天国かあるいはボーナスステージにしか見えてない人物が一人いた。
「(ア、アンデッドの大群、だと?こんなの…………最高じゃないか!!)」
元々アンデッドの魂の回収をしにノート達はわざわざ手の込んだ真似をして時間を割いてここまで来たのだ。
バウンティハンターのせいで一時はどうなることか思っていたが、イベント開始と同時、というより墓石の破壊と共に墓地の入り口で出待ちしていたバウンティハンターも勝手に消滅してくれた。
おまけに数千は下らない規模のアンデッドの大群である。
プレイヤーからすれば恐ろしい存在だろうが、ノート達はランクが違う。
ノートが幽霊馬車を走らせるだけでアンデッド達はロードローラーに轢き殺されようにただの赤いポリゴン片になって爆ぜていく。
フィーバータイムに突入したのはユリン達も同じ。プレイヤー達は大量に湧き出るアンデッドのせいでユリン達には一切攻撃ができなくなった。あとはそこに追い打ちをかけるように攻撃をすれば、アンデッドが勝手にプレイヤーを殺してくれる。
そのアンデッドをユリン達が狩るのだ。
特に大暴れしていたのは『ネオン&アグちゃん』ペア。こういった過密集団戦で最も猛威を振るうのがこのペアだ。二人が魔法を使うたびに一度で百単位のアンデッドが吹き飛ばされていく。
「アハハハハハ!なにこれ楽しい!!」
プレイヤー達が必死になってアンデッド達に対応する中、ノート達だけはゲームジャンルが無双アクションゲームになったように一度の攻撃で数十の敵を屠り、アンデッドの群れを捌いていく。
しかしアンデッド達が新たに湧き上がるスピードの方が更に早い。アンデッド達は飽和し、やがて共食いを開始する個体が増え始める。
アンデッドが一度大量に発生するとそこは新たなアンデッドの発生地としての土壌になる。
共食いを開始するとその中でワンステージ上の個体が現れ始め、より上質なアンデッドの発生地へと変化する。それにつれ、アンデッドの質も上昇するという負のサイクル。
これが同時多発的に発生するとそれらは連鎖し、恐ろしいスピードで土地を侵食する。
こうしている今も、アンデッドは増加し、精錬され、新たなるアンデッドが生み出されている。
この地は元はアンデッドに支配された不浄な呪いの荒野だった。それを浄化し、この地に教会主導で街が作られた。結界が張られ、アンデッド達を地に封じ込めた。
しかし完全に封じ込めることはできない。よって不浄なる魂を鎮めるための墓地、結界としての役割を担いそして強引に封印して暴発しないように、ある程度アンデッドの発生するエネルギーを発散させるための場所として、ナンバーズシティの墓地は作られたのだ。
故に墓地のみにアンデッドは湧き、ギルドは高い報酬を出してそこのアンデッドを定期的に討伐するように促した。
負のエネルギーを発散する場所は小さくして場所をしっかり区切ればそれ以上に増殖することはない。その区切りが破壊されない限りは、コントロール下に置くことは容易いのだ。
だが、その区切りが破壊され、それを元としていた結界まで破壊されるとどうなるか。
大きな袋に貯めた大量の水。その袋に小さな穴を沢山あけると水が零れていく。しかしこの穴同士が繋がり大きな穴となると、漏れ出る水は多くなる。
それまで溜め込んでいた水が多いほど、それは勢いよく出る。結果として水圧により最早何もしなくても袋の穴は広がっていきやがて袋は『限界に達して裂ける』。
今しがた起きているのはまさに其れ。いや、完全に裂ける寸前と言ったところか。各シティに張られた大結界より遥かに強力な小結界がアンデッドの進行を妨げ、同時に土地としての決壊も辛うじて防いでいた。
しかしこのまま土地の汚染が進めば小結界がいつまで保つかも不透明だった。
やがてプレイヤーの大多数も現状を認識し始めたのか、隊列を組んで多くのプレイヤーが協力してアンデッド討伐を開始する。
これは一種の支配権争いである。プレイヤーはアンデッドがこの地を完全に元の不浄なる地にする前にできる限り多く討伐し自分たちの手に支配権を取り返さなければならないのだ。
それがこのイレギュラーイベント『反転セシハ天祀ノ結界・開カレルハ封ジラレシ門・来タルハ冥途ノ渡シ船』の内容。
戦闘系プレイヤーも、生産系プレイヤーも、攻略組もエンジョイ組も、古参も新参も、さらにはPKプレイヤーですら関係がない。(極々一部を除き)全員が一丸となり、支配権の奪還に向けて無限にさえ感じるアンデッドの大群との戦闘を開始した。
(´・ω・)短いからあともう一話今日中にゲリラします