No.67 祈る聖女共・走れ墓荒し隊
(´・ω・`)今日はお休みするといったな。アレは嘘だ。
その異常に一番早く気づいたのは墓地から墓地へ移動する時に遭遇したプレイヤーを片っ端から殺していた『スピリタス&ネモ』ペアだった。
「なんだ、アレ?」
『…………スピリタス様、お気を付けください~。おそらく~今まで屠った十把一絡げの者とは~格が、違いますよ』
全身白づくめ。インバネスコートと軍服をミックスさせた独特の衣装に、頭には銀色の金属で作られた三角形状の天蓋の様な物。そんな怪しげな存在が、非常に素早いスピードで短距離転移を繰り返しながら接近してくる。
いつも余裕たっぷりで間延びするような口調のネモの言葉に、はっきりと鋭さが帯びる。
「だろう、なッ!!」
まだその敵とは距離がある。しかしスピリタスがネモの顔の前に素早く拳をつきだせば金属の弾かれる甲高い音が響き、謎の存在がノーモーションで投擲したナイフが地面に転がる。
「しくじったな、ありゃ『バウンティハンター』って奴か?」
スピリタスもナンバーズシティ間の開通イベント時に実装された特殊NPC『バウンティハンター』に関してはノートやスレによく張り付いて情報収集を怠らないヌコォから存在自体は聞いていた。
曰く、ただ寡黙にPKプレイヤーを狩る死神の如き存在。ただし、街から一定以上離れた場所では出没せず、加えてダンジョンなどにも出没しない。
その特性によりPKプレイヤーのほぼすべてが街から一定の距離を置いた場所に出没するようになった。なのでプレイヤーからは対新人狩りの措置だと結論が出ている。
PKプレイヤー達も一度バウンティハンターの討伐を試みたが、粛清対象となったプレイヤー一人一人に対してランク+10程度というメタを張る性能で襲い掛かってくるので素直に殺されるより余程大きな被害を被った、という事実が確認されている。
また、命乞いなども一切通用せず、プレイヤー達を助けるためではなく、ただPKプレイヤーを狩ることのみにしか興味がないようだ、ということも判明している。
現に周囲に魔物に殺されそうなプレイヤーがいても全く助けてくれなかったらしい。
「(こうなりゃ尻尾撒いて逃げるしかねえが、もしオレにメタを張るって事なら遠距離主体で近接戦闘をそもそもさせねえってことだよな。ただ逃げ回るにしてもどうしたもんかな。ダンジョンに逃げればコイツの追跡は止まるのか?)」
ラッキーだったのは、どうやらネモは粛清対象ではないようで追いかけてくるのは1人だけだったこと。
そしてスレの情報通り、スピリタスに対して完全にメタを張った仕様のようで、スピリタスの攻撃はほとんど意味をなしていない。
ただそれは対スピリタス仕様なだけでネモに関してはその限りではなく、ネモが樹木魔法で道を滅茶苦茶にする遅延工作はきちんと効果を発揮していた。
「(…………変だな。粛清対象のランク+10の存在にしちゃぁ、なんだか弱くねぇか?)」
スピリタスがプレイヤー相手に無双していたように、ランク5以上離れた格上は圧倒的な実力差がある。そのランクが上がればあがるほど、よりその差は大きくなる。今のスピリタスはランク11。ならばこのバウンティハンターはランク21付近の強さのはず。
だというのに、絶望感を感じるほどの戦力差は感じない。むしろネモの遅延工作がしっかり通じていることにスピリタスは拍子抜けする。
「(デマってことはないよな?やたら慎重なノートに、正確さの追及には偏執的なヌコォだ。アイツらがオレに伝える情報に裏付けが取れてない不正確な物があるとは考えづらい。ってことは弱体化してる特別な要因でもあるのか?)」
まぁ、オレが考えるよりノートの方がそういうのは得意だ!そういうのはアイツに任せよう!
そしてスピリタスはとあることに気づきかけるが、それ以上に考えるのは面倒なのでその手の事が自分より得意な人に丸投げすることをあっさりと決める。
この割り切り具合も、スピリタスの昔から変わらないところである。
「とりあえず、次の墓地まで逃げるぞ!遅延工作は任せた!」
「りょうかいです~」
◆
スピリタスがバウンティハンターと追いかけっこをし始めてしばらくたったころ、ユリン達のペアも、ヌコォ達のペアも、スピリタスがバウンティハンターの粛清対象になったことに連動して粛清対象になり、バウンティハンターに追い掛け回されていた。そして二人ともスピリタスと同様の結論に達し、次の墓地へ急ぐ。
それぞれのペアも同伴していた死霊たちが遅延工作を行い、それのお陰でバウンティハンターと直接戦闘をせずに済んでいたのは非常にラッキーと言える。
例外なのはネオンのペア。どうも同伴者のアグちゃんは彼らにとっても規格外らしく、襲い掛かったバウンティハンターはちょっと本気を出したアグちゃんに軽く捻り潰されていた。
「あ、ありがとう、ございます」
「別にいいわよ、これくらいなら。面倒だからそのままもう一つの墓地も荒らしにいきましょ!」
「だ、大丈夫、でしょうか…………?」
「こいつら程度なら、1万でも2万でも来たところでなんの問題もないわよ」
そんなアグちゃん無双のお陰で、「ダンジョンに逃げ込めばどうにかなるのでは?」という発想に至ったわけではないがネオンペアももう一つの墓地へ移動を開始した。
そして――――
◆
「(やばい!死ぬ!ほんとに死ぬ!!なにコイツ理不尽すぎ!)」
一番切羽詰まっていたのはノートだった。
ノートの場合、戦闘能力の評価には本召喚の死霊も含まれる。結果、白い光で形成された鳥の小隊を引き連れたバウンティハンターにノートは猛攻を受けていた。
要するに、スピリタスは同伴していた死霊が戦闘能力の評価に含まれなかった分、そのしわ寄せがノートに一気に集まっていた。
ノートにメタを張る性能を持つということは即ち『同程度に何らかの存在を召喚出来て且つ本体も強い』というのがノートを追跡するバウンティーハンターの性質となっているのである。
そのせいで、他のバウンティハンターより強いのにもかかわらず、遅延工作をしてくれる同伴も居ないので、ノートは今までで1番のピンチだった。かといってゲーム内貧乏性なので、万が一足止めにメギドを召喚して殺されたら召喚をし直すのにせっかく皆が貯めてくれた魂貯金が“ぱあ”になるならやはり使えない。
「(クッソ!バウンティハンターの事すっかり忘れてた!!)」
二兎を追う者は一兎をも得ず、ということわざの如く、今回はあれもこれもと功を求めた結果、ノートは色々な面で見落としが多かった。そのツケが今になって回ってきたのである。
いつもならアンデッドでも簡易召喚して遅延工作を試みるところだが、バウンティハンターはそれにメタを張った性能をしている。おまけに闇魔法も呪魔法も一切効かないとなれば完全に手詰まりである。
不幸中の幸いは、バルちゃんに関してはその評価に計上されていないことだろう。アグちゃん同様に規格外枠らしく、バウンティハンターがひきつれる奇妙な光の鳥は一羽だけバグったみたいに強いなんてことはなかった。もし計上されていたらとっくにノートは死んでいたはずである。
そしてノートもまた、追い詰められこそはするもののバウンティハンターの強さに疑問を抱いていた。
「(やっぱり想定よりは弱いよな。一体何故だ?俺達が解放しちまった文字化けクリーチャーとか、理不尽ビームクマムシのせいで感覚がマヒしてんのか?これならよっぽどあの人形兵器の方が怖かったぞ)」
繰り返すように、ノートはハッキリと追い詰められている。それをなんとか知恵を絞って逃げ続けているだけに過ぎない。しかしだ、そもそもランク+10の相手に曲がりなりにも鬼ごっこをすることができる方が変なのだ。
「(精々、ランク+5程度か?多く見積もってもランク+10なんてありえん。せいぜいその半分程度だよな………半分…?)」
――――そもそもバウンティハンターってなんだ?コイツは人なのか?
ALLFOはある程度全ての現象に関して合理的な説明を付属させようとするところがあるところにはノートも気づいている。
にもかかわらず、『粛清対象の“ランク+10”で“メタを張る性能”を必ず所持するNPC』というのはあまりにも不自然だ。PKプレイヤーを単純に殺したいならば、もっと理不尽なまでに強いNPCを用意すればいいだけの話だ。
人形の一件でもわかることだがごちゃごちゃと能力を付けなくても『硬い、速い、強い』、それだけで十分に脅威なのだ。いちいち粛清対象に合わせたNPCを放出する方がよほど面倒だろう。
それともう一つ、鬼ごっこをしていてノートが実感したのは、バウンティハンターには人形兵器と似た雰囲気があるということ。
確かにバウンティハンターは強い。しかしその行動理念はあまりにも単純で、そして目先のタスクを優先的に片づけようとする無機質で機械的な面が強い。
闇雲に攻撃をしてくるだけで、搦手を使ってくる様子が一切ない。
そして街の付近にしか出没しないという特性。これは一体なぜ?
機械的な行動、一律の外見、不自然な特性。これにALLFO的なフレーバーテキストが存在するとしたら、この不自然をどう説明する?
どう考えても、やはり一々粛清対象に合わせた専用のNPCを作るなんて極めて非効率だ。
「(ん?…………作る?非効率?いや、そうじゃない。“効率を求めた結果がこのNPCだとしたら”、もっと言うなら“このNPCを人造兵器と仮定したなら”、動力源はなんだ?)」
その時、通電したようにノートの中でそれらが一つになった。
お陰で一度立ち止まりかけたせいで痛い一撃をもらい派手に吹っ飛ばされたが、この状況から逆転できる一手を思い出し興奮しているノートにとってはさほど影響はない。
『タナトス!タナトース!!今どこだ!?何してる!?』
死霊術師のスキルである、自分の死霊との念話。それにタナトスは素早く反応する。
『どうなさいましたか、御主人様?今しがた私とバルバリッチャ様は一つ目の墓地を潰し、二つ目の墓地に取り掛かったところです』
『それは朗報だ!バルちゃんにも伝えてくれ!自重はしなくていい!全力をもってして二つ目の墓地を出来る限り早く完全に潰してくれ!!』
『畏まりました』
ノートはタナトスとの念話を切り上げ、ゴヴニュ、アテナ、ネモに念話を発動する。
『緊急事態に付き、お前たちの制限を解く!全力を以てして墓を潰せ!』
『わかっただ!』
『承りました』
『がんばりますね~』
それから数秒後、タナトスから念話が来る。
『御主人様、バルバリッチャ様が今しがた墓の制圧を一撃をもって完了いたしました』
『流石バルちゃん!!』
ノートが歓喜に満ちた声を挙げて振り返ると、明らかにバウンティハンターの戦闘能力が落ちた。
「ビンゴーーーー!!」
一気に心の余裕を取り戻したノートは、ついでにとあることを思い出す。
今までは足止めばかりを考えていた。しかもメギドにも、他の死霊にも頼れない。だが、ノートには頼りになる死霊がまだいたのだ。
ノートの所持する死霊の中で現状一番の古株、現実通貨も使って唯一“2段階の進化を遂げている死霊”。こと“走る”だけならメギドすら敵わない存在。そしてそいつは今、ノートの仮面の影響で更に恐ろしい存在となっていた。
「《再召喚・大貴轟幽竜馬車》!」
街の周りをただ走り回りプレイヤー達を轢き殺しまくり、本当の意味でバウンティハンター放出の原因を作っていた強力な死霊がノートの前に現れる。それにノートは飛び乗ると、大声で号令を出す。
「アイツから全力で逃げろ!方向は南東だ!」
パチンとなる鞭。スーッと慣性を感じさせない走り出し、馬車は一気にトップスピードへ。MOBもプレイヤー達も轢き殺しながら幽霊馬車は爆走する。
あまりのスピードにバウンティハンターも追いつけず、グングン距離は離れ、あっという間にその姿は見えなくなる。
そう、バウンティハンターは対象を倒す事に特化しているが、相手の逃走を妨害する能力にはそこまで特化していないのである。
「よし、このまま馬車で突っ込むぞ!!墓石も全部これを利用すれば簡単に破壊できる!!勝った!計画通り!」
窮地から脱出し、ハイテンションで叫ぶノート。そのノートの前では聖女の祈り虚しく、ファストシティの墓地だけでなくセカンドシティの墓地でも破壊の音が響きだす。
時を同じくし、全力を出すことを許可されたノートの死霊たちの活躍でユリン達はバウンティハンターから逃げきり墓地に到着。死霊からの伝言を聞き、ノートの意思を正しく汲むと墓石の破壊を最優先に行動を開始する。
そしてファストシティからセカンド、サードとそれぞれの墓地が破壊されていく。それぞれの教会で聖女が歎願し、それを食い止めるように言われたが、一歩遅かった。
主力プレイヤーがその場にいたら、もしかすると間に合ったかもしれない。
しかし、その主力たちがノート達により先に討ち取られ、教会に死に戻りしていたのだ。万全の状態でなく、そして圧倒的な実力差の前に直ぐに奮起するプレイヤーなどいるはずもなかった。
墓地の破壊が進むたびにバウンティハンターは弱体化し、街に小さな歪みが起こりだす。
その小さな歪みはやがて加速度的に大きくなっていく。
「これで、終わりだ!」
セカンドシティの墓地の最後の墓石。結果的に一番最後まで奮闘していたノートは、ナンバーズシティの墓地の最後の墓石を時間が惜しいと言わんばかりに『バルちゃんナイフ』の一刀の元に切り捨てる。
いつもならそんなことは決してしないだろうが、今のノートはテンションが上がり切っていてノリに乗っていた。それが最後の致命的な一撃とは知らずに『斬れぬ物など、あんまりない!』と言わんばかりに悍ましきナイフは無慈悲に振るわれた。
スパッと豆腐のように斬られ、ズルリと墓石が落ちる。それと同時に、全面窓ガラスの高層ビルの窓ガラスが一斉に木っ端微塵に砕けたように囂囂たる不吉な音が響き渡る。
【都市の大結界が破壊されました】
[Warning:特殊災害が発生します]
【イレギュラーイベント『反転スル天祀ノ結界・開錠セシ不浄ノ門・来ハ冥途ノ渡シ船』を開始します】
――――そして街に、日本サーバーに、未曾有の大災害が起こる。
(´・ω・`)レビューを頂いたのでテンション爆上がり。私ってばとっても単純なのね。




