No.Ex 第十章余話/NeWとNavyの現状報告➍
「まぁ取らぬ狸の皮算用をしても仕方ない「仕方なくないよ。僕の負担が大きく変わる」………わかった。ちゃんと考えるから」
「そんじゃまぁウチの頭に今後の方針を考えてもらう序に俺の方の話をすっか」
「おい逃げんな」
さりげなくNeWはノートに思考を押し付けて話を始めた。
「俺の方はまぁまぁ内部に食い込めたかな。幹部衆の初期特の能力も全員調べは付いた。あとは思考傾向と取り巻く環境もな。ここまで来たらもう少し整理はしたいがこれ以上動くとちょっとあぶねぇな。恐らく俺は上から目を付けられてる。上もバカじゃねぇ。ってかトップがそこのアホと同系だな。前提理論こそあるが肝心な部分を勘で動いてやがるから動きが予想しにくい」
「うっせ。それを担いでるお前も大概だぞ」
「担いで詰まんねぇ神輿を担ぐ趣味はねぇからな」
NeWはデバイスを操作してノートとネーヴィーに纏めた資料を共有した。そこには中国のPK団体のトップ団体の実態を詳しくまとめたものが記されていた。特に幹部衆に関しては初期特や種族、性格や今までの戦績まで調べ上げている。
その情報の中にはノートでも見逃せない物が赤字で記されており、目を細めた。
「流石の内偵だな」
「相変わらずどうやってここまで調べてるんだい?趣味嗜好から人間関係まで………」
「噂から又聞き、そこから予想し、決め打ちした物を調べて答え合わせ。そこから更に未知を潰す。既知を増やせば建てられる予測も増える。推理ゲームの延長だぜ。TRPGでもよくやるだろ?ゲームと一緒だぜ」
この3人の師匠達は言う。
一を聞いて十を知って及第点。知った中から百を予測しろ。そのうち五十を当てて上出来だ、と。
思考を止めるな。あらゆる状況を考えろ。口にすれば容易くとも至難の業である思考の組み立てを愚直にするように師匠達から彼らは厳しくしつけられた。
AIが社会に根付いた今、どんな技術革新が明日起きるか分からない。色々な下準備をAIが整えるおかげで、より多くの人間にチャンスが与えられている。どんな才能が急に芽吹くかわからない。
そんな社会において一から多額の財を築き上げるのは非常に難しい。傑物ですら運がなければ沈んでいく。故に常にアンテナを高くし、ベストを尽くし、運を取りこぼさないようにする。下調べはNeWの専門だが、同時に分析能力もこの3人の中でずば抜けているのだ。
「しっかし、俺がこんな頑張っても鬼札厨パデッキを使って力と勘とノリで強引にアメリカを轢き潰してる野郎がいるとなんだかな~」
「アレは内通者によって情報が洩れまくってたからな。強引にやった分かなり無理したし」
「それだけであんな手勢で万のプレイヤーを押さえつけるのは普通は無理だけどね」
「シシシシシ、まぁ俺らが担ぐ神輿としてはやっぱこれくらいやってくんねぇとな~」
冗談交じりのNeWの愚痴にノートは苦笑し、ネーヴィーも同じく苦笑する。
冷静に考えて、ゲームでなくてもたった20人にも満たない手勢で万同士の軍勢の抗争を終わらせるのは不可能に近い。荒唐無稽な話だ。入念に下調べしていたとしても如何なる策をたてればいいのか見えてこない。
そんなバカ話をノートはぶっつけ本番でやり切った。
実はアメリカ遠征自体はNeWもネーヴィーも実行直前に聞いていた。
あまりにも無謀でアホな事を言っている親友に対し、2人は止めるでもなくバカだなと笑った。そこには長い時間を共に過ごしてきたことによる強い信頼があり、実際にその親友は有言実行した。
この3人の関係は対等だ。誰が偉いとかそんなものは一切ない。得意分野は異なってもそこに優劣もない。それでも誰か1人リーダーを選べと言われればNeWもネーヴィーも迷いなくノートを指さす。自分が担ぐ神輿はこの男だと二人は昔から思っているし、担ぎ続けている。呆れるほどに荒唐無稽で破天荒で、しかしその神輿がどう動くか気になって仕方ない。だからこの男を担いでいこうと決めたのだ。
「んで、どうすんだ?こっちはDDより盤石だぜ〜?初期特が多く集まってる点では手を組むメリットは一応あるぜ」
「DDとはアサイラムと同等で、実際にはアサイラム優位でレギオンを組めているけど、中国側は一筋縄じゃいかないよね」
「ん~~~…………もう少し様子見だな。俺らは暫くユニーククエストにつきっきりだ。それに地盤固めもしたい。DDから多くのメンバーを引っこ抜いたはいいけど、それはつまり多数派の天秤が揺らいでるってことだからな。アメリカ人相手じゃ簡単に首輪を付けるわけにもいかないし、精神面で縛っていくしかない」
人は3人集まれば徒党を組む。もともとのアサイラムメンバーの人数は14人。そこにGingerとMGチームを加えて現在27人。Gingerは親アサイラム派だが、MGチームはDDにもまだそれなりに恩義を感じているし愛着もある。完全にアサイラム側と言うわけではない。今後アサイラムとDDがずっと協調路線を維持できる保証もない。単純な武力では勝てるが、ほぼ半数近いメンバーに温度差があるのは組織として安定しているとは言い難い。
特にMGチームと今後協力していく事になる生産死霊組はノート絶対主義だ。対してMGチームは協力者の延長線、パトロンのポジションにノートを置いている。その温度差を軽く見ているとどこかで破綻は起きる。死霊達は一見穏当に見えるが、それは見せかけに近い。元より破壊に大きく寄った存在が生産を行っている事はかなりの無理をしているのだ。どこかで地雷を踏めば暴走するリスクはある。
「ま、それこそお前の得意分野だろ」
「癖のあるメンバーを説き伏せて、上手く扱うのは一番得意でしょ?」
「ラクに言うなよな。まぁ俺自身で撒いた種だからやるけどさ」
ノートの手札は、カードゲームで言えばゲームを左右する超激強ウルトラレアカードばかりだ。ユリン、ヌコォを始めとして、どの手札も一つの大局をひっくり返せる力を持っている。実際の効果も強いことしか書いていない。
けれど、実際に運用してみようとするとコストが重すぎたり何かしら致命的な欠陥を抱えていて採用を見送るケースが多いようなカードばかりでもある。人間嫌いなユリンだったり、ノート以外の指示は割と無視するトン2だったり、銃第一主義の鎌鼬や、裏切りも上等で不安定な部分が多いゴロワーズ。他のメンバーも何かしらチームプレイをする上で欠点を抱えている。けれど皆、ノートが頭を張るから言う事を聞く。本来そのカードが持つ多大なデメリットを踏み倒せる。
相手を分析し、理解し、心酔させる。大多数相手だと雑になるノートだが、一人一人に的を絞るなら話は別だ。気づけばできていたことを今まで通りにやればいい。
MGチームは性格こそ義理堅く信用こそ於けるが、それが=善人にはならない。善人ならそもそも悪名高いPK団体に手を貸さない。人格の良さと悪人は両立する性質なのだ。
直接人を害するPKと、それを援護する生産担当。近いようでいて、そこには大きな差がある。
むしろここで気軽にアサイラム側に乗り換えてしまう方がノート達としては信用が置けない。なんだかんだあっても古巣を大事にできる精神を持っている連中だからこそノートはスカウトしたのだ。
なのですぐに完全掌握できないのは織り込み済み。ここからゆっくりと精神的にアサイラム側へ傾けさせるのがノートの役目だ。
さてこれからどうするか。
ノートは『担いでたら面白いから』と言う理由だけで自分を全面的に援護し続けてくれている親友2人に対して、アメリカの騒動の顛末とこれからの予定を語り始めた。




