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No.Ex 第十章余話/NeWとNavyの現状報告❷


「あー、人手が足んねぇ。AIで大分代行できていてもやっぱ事務が面倒過ぎる。大人しく雇った方がいいか~?」

「あん?何言ってんの?ジアさん来るんだし日本での勘を取り戻すまで事務仕事暫く任せときゃいいじゃんかよ」

「ブッ!?おまっ、何で……?あ、ルナさん経由か」

「シシシシ、おお怖い怖い。よくそこまですぐに気づくな」

「ジアのやり方なら大体わかる」

 

「惚気たね」

「だな」


 若干のんびりした空気だったが、NeWが急に踏んだアクセルのせいでノートはコーヒーを噴きそうになる。

 ジアの同居話はまだ殆ど表沙汰になっていない話だ。と言うより、本当は3人でリアルで顔を合わせる今日ノートは自分の口で言うつもりだった。親友だからといってプライベートの事を一から十まで報告する義務などかけらも無いが、ジアの件は3人の仕事にも多かれ少なかれ関わってくるので早いうちに情報共有した方がいいのは明確だからだ。


「外堀埋めに関してはジアさんお前より遥かに上手いからな」

「彼氏の親友の彼女と繋がりを持っておいて遠隔で色々できるようにしたりね。そのうち僕の彼女にも何かしら僕を挟まずにいつの間にか接触しそうな気がするよ」


 女傑、という言葉で片づけるには異常な女の事を2人は嫌と言うほど知っている。

 ALLFOに人生を捧げる勢いでプレイしている人間などこの時間の有り余っているご時世腐るほどいる。それでも自分の国のサーバーの中ですら何かしらでトップを取る事が出来るプレイヤーなど極々僅か。サーバー全体の指針に影響を与えられるプレイヤーなど更に少ない。

 表ではカウンセラーとして一般平均よりも遥かに稼ぐ傍ら、長期休暇には彼氏の元を訪れながら、それでも一国のサーバーの長の1人を務めるなど、ただ要領が良いとか頭がいいで済ませられる事ではない。世界トップクラスの才能を持つ連中の頭を押さえつけてノートの正妻ズラを堂々と出来る程度には、連れと同じくジアも大概おかしな性能をしているのだ。

 

「ジアの考え方ってこう、オセロなんだよな。ひっくり返したい駒、取っておきたい駒があるとまずその周りから制圧していくと言うか。座右の銘が『将を射んとせば先ず馬を射よ』って感じだから」

「またみょーちきりんな例えだが、言いたいことはビミョーに分からんでもない」

「目に届く範囲は押さえておきたい性分なんでしょ、彼女。未知を出来るだけ潰しておきたいんだよ。束縛とはまた違う『支配』だよね」


 コレをしろアレをしろ、とジアは遠く離れた場所で何をしているのか分かりにくいノートに言わない。身の回りのことを全て報告しろなどとも言わない。調べたいことは自分の手で調べるのがジアのやり方だ。世間一般の『束縛』が縄での雁字搦めなら、ジアの束縛はどちらかというと漁の網だ。直接縛らないがいつでも巻き上げられる状態になっている。


「ぶっちゃけおっかなくねぇの?たまに俺でも怖いぞアレ」

「人様の婚約者に何言ってくれてんだ。可愛いでしょうがあのムーブ」


 真顔で言い切るノートにNeWとネーヴィーは処置無しと首を横に振る。

 

「お前が1番頭おかしいなやっぱ」

「その神経じゃないとジアさんと付き合ったり、あのメンバーに複股かけるなんて出来ないだろうね」


 ジアもノートと同じくまともなフリをするのが得意なタチだ。誤解を招く表現を敢えてするなら『人間のフリ』が上手い。

 父親の定期的な転勤による幼少からの度重なる環境の激変。それによる不安定な人間関係。その中で過剰な適応を果たしたジアもまた根本にあるものはかなり歪んでいる。表面上の付き合いならまだしも、深い付き合いになってくると少々常人とは異なる価値観や考えで生きている事が見えてくる。故にNeWもネーヴィーもジアとは長い付き合いだが、その関係は友人ではなくあくまで『ノートの彼女』だ。


 ジアの様に歪んでいる者を探せばいないわけではないだろう。ジアの場合、根本が歪んでいるだけならまだ良かった。問題はその気質からくる暴走じみたムーブを実現させてしまう破格の才能を持っていた事だ。

 意識的に人に好感を抱かせ、支配し外堀から埋めて手にしたい物は支配下に置き、要らない物は一切の情け容赦なく潰す。

 根回しの天才。

 それがジアを形容する上で非常に正しい肩書きの一つだ。ピンポイントで最高効率で周囲の環境を抑えていく。それがジアのやり方だ。環境が変わるたび、周囲の人間が変わるたび、彼女は周囲を効率的に支配して瞬く間に1番の人気者として君臨していた。生まれながらにして宿していた女王の才覚は周囲の環境の変化に連動し着実に芽吹いていた。

 そんな彼女が完全に手にしたくても全然支配できないから、ジアはノートに執着する。自分の性根に気づいて周囲から察しの良い人間がジアを恐れて去っていくのは慣れていた。そう言う賢い奴は意図的に先んじて排除してきていた。なのに、そんなジアのやり方を「大いに学べる所がある。面白い」などとほざいた同い年の男は初めてだった。


 知性に性的な魅力を見出す女は、その男の思考回路に一目惚れしたのだ。

 気付いたら自分の全ての知り合いと知らないところでいつの間にか繋がっている彼女など恐ろしく感じる者もいるかもしれない。むしろ恐怖する方が正常だ。着実に包囲網を形成されていると気付けば余計に逃げたくなるかもしれない。

 そんな包囲網を見て『相変わらず綺麗な網だなー』などとほざけるから、ノートはジアと付き合っていけるのだ。そんなおっかない女との将来を見据える事が出来るのだ。恐怖でなく興味を持ち、やり口を賞賛をするからノートはノートなのだ。


「まあ先に言われちまったけど、ジアと同棲するからよろしく。このままジアは俺の事務所所属にするから今後2人に仕事振ってくる事もあると思う」

「人間性はアレだが仕事の腕に関しては信頼してるし別にいーぜ。ところで、今現在進行形で従姉妹と同棲してるのはホントなんか?そのせいでジアさんかなり予定を繰り上げて動いてるみたいだけどよ」

「あー、事実だな。うん。俺がノーと言えなくなるタイミングで言ってきたからな。流石に野宿させられんし、実家に帰りなさいとも言えん状況だからな」

「やり口がお前との血の繋がりを強く感じるぜ」

「それはジアさん荒れるだろうね」

 

 ヌコォの居候話に関しては女性陣の中でもかなり反応が大きい出来事で、居候が決まった事をノートがジアに報告した時は、女が1人増えても「ふーん」くらいで済ませるジアも数秒無言になったほどである。

 無表情で何を考えてるのか周囲にイマイチ理解されない事の多いヌコォだが、その内面は合理主義の塊。その合理の中にノートの教えがたっぷりと含まれているので周囲の裏をかくムーブを平然とできるし、レスバもかなり強い。


 ただ、ノートと真っ先に同棲するつもりだったジアからはするとしてやられた、としか言えない。電話で直接苦言を呈しても『早い者勝ち』とヌコォは平然としていた。

 ノートの父方は皆探究好きであると同時に合理的なので弁舌に強い。強かさも似通っている。加えてヌコォは『ノートの親族』という強力なカードを持っているので他のノートの彼女では通せない無理を通せてしまう。犬家ひいてはヌコォの父、ノートからすれば叔父である弓助にはノートもかなりお世話になったので頭が上がりにくいのも余計にそれを後押ししている。


 今まで存在自体は周知していてもなんとなくヌコォと黄金世代サイドをノートは引き合わせなかったが、これはノートの勘がそうした方がいいと判断したからだ。

 もう大丈夫だろうと思い引き合わせたが、引き合わせたら引き合わせたでお互い遠慮はなくなりつつある。いい意味で言えば他人行儀ではなくなっているのだが、その分火花が散る機会も増えるのは仕方のない事だ。同じ男を好いたからといって全員いつでも仲良しこよしとはならないのだ。

 その火花が大火事の火種にならないように立ち回るノートは大変だが、歪みのある関係を作ったのはノート自身なのだから当然の義務だ。


「まあジアのアレコレはまだ時間かかるし、本決まりしたら改めて通達する。しっかしゲームよりリアルでの合流の方が早くなるとはな」

 

「ロシアの女帝、中国鯖ですら噂に聞くぜ」

「僕も聞くね。ロシアって真青米教が食い込めない空白のポイントになってるみたいなんだよ」


「あー、そっか。ワッシー青米の何処かまで食い込めたん?俺経由でジアと話しつけてワッシー代表で青米をロシア進出させようか」

「じゃあそこら辺の進捗を軽く話そうか」


 ネーヴィーはデバイスをいじって幾つかの画面を表示した。



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― 新着の感想 ―
ルナさんとジアさんがそれぞれどう思っているのか気になります
[一言] ああなるほど、基本ムーブが「政治家」なのか……そりゃあんだけの組織作れるわな
[一言] ( 'ㅂ')ヒッ やっぱりバケモンしかいねぇ!(褒め言葉)
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