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No.65 Let's GO!墓荒し隊!①

お ま た せ



「今回のプランについてもう一度確認するぞ」


 久しぶりの大貴轟幽竜馬車での移動。装甲車(ナンバーズシティの近くの森のボス程度なら轢き殺せるレベル)じみた性能を持つ馬車に乗りながら、今回の作戦を改めてノートは確認する。


 馬車自体が元々広いが、それに加えて空間拡張の効果も兼ね備えているので中身はリムジン以上に広い。しかし今はかなりきつきつだった。

 なぜなら今は『祭り拍子』の面々だけでなく、バルバリッチャ、アグラットに加えてタナトス、アテナ、ゴヴニュ、ネモ、とサイズ的に同席できないメギドを除いてノートの本召喚の死霊も全員同席しているからだ。


 つまり今のミニホームはノート達が序盤に本拠地を移して以来初めての無人。なので今は初めてミニホームがアイテム化され馬車のアイテムボックスに収められている。


「今回の一番の大目標はナンバーズシティの墓地の襲撃だ。ただ、死霊の魂のストックを増やすだけでは芸がないので、本来は非戦闘要員であるタナトスたちも作戦に参戦してもらう。生産のみならず、他の面での成長を図りたいからな。

 そして今までともう一つ大きく異なるのは二人一組で戦力を分散することだ。まあ、プレイヤーのレベルや墓地の攻略ランクから考えてそれでも不覚を取ることはないはずだ。バルちゃんもアグちゃんも協力してくれるって話だし、二人一組なら6グループ作れる。

 んで、墓地の数は12。おそらく敵の湧きペースに対して二人でも殲滅する速度の方が早いはずだ。なんせランク1の時の俺とユリンでも制圧できたしな。

 だから二つの墓地を行き来すると丁度いいだろう。よって1グループあたり二つの墓地を割り振る。グループ分けは――――――」


 グループ分けは色々と意見が割れたが、性格や戦闘的な相性を鑑みた結果

①ネオン&アグちゃん

➁バルちゃん&タナトス

③ヌコォ&ゴヴニュ

④スピリタス&ネモ

⑤ユリン&アテナ

⑥ノート&メギド

+大貴轟幽竜馬車は街の外周を走り続ける


ということになった。

 今回のプランではプレイヤー陣が前に出るよりは、死霊たちをメインに戦うことを想定している。プレイヤーはどちらかといえば対プレイヤー要員だ。

 さてグループ分けについて少し触れておこう。まず第一グループの『ネオン&アグちゃん』は、ネオンの相性がかなり重視された。ネオンがこの中のメンバーで二人きりで行動する場合、性格的な相性が一番良い(というよりネオンが一番行動を共にし易い)のは勿論ノートである。

 しかし後衛職2人を一緒にするのも些か非効率だし、他のメンバーから不公平だ!という不満が多数(?)寄せられて却下になった。

 次点で料理友達、あるいは祖父と孫的な関係のタナトスなのだが、この中で最も脆いタナトスを純後衛のネオンとセットにすると万が一の事態がある。

 よって、次点に仲の良いアグちゃんとペアを組むことになった。タナトスが目下勉強中のお菓子作りの知識は料理を趣味とするネオンにより齎されている。それにより副次的にネオンに対するアグちゃんの好感度が召喚主という事も相まって案外高かったのだ。

 加えてその純粋な性格と子供っぽい見た目のアグちゃん相手だと、ネオンも幾分か緊張せずにいられるようなのだ。

 そういった点を考慮して『ネオン&アグちゃん』のペアが組まれた。


 第二グループの『バルちゃん&タナトス』は、元々NPCオンリーペアに一番戦闘力の高いバルちゃん(アグちゃんはネオンと組むので不可)を割り振る予定であり、一番脆いタナトスは元から一番強いメンバーと組ませる予定だったので半ば消去法的に決まった。主従コンビとしても悪くない組み合わせだったので、バルちゃんが快く許可してくれたのも大きい。


 第三グループの『ヌコォ&ゴヴニュ』は少し特殊だ。こちらはゴヴニュに合わせた組み合わせと言える。ゴヴニュはあまり気の強い性格ではないので、スピリタスあたりとは組み合わせられないし、ユリンとは戦闘能力的な問題で組み合わせ辛い。物理アタッカーとしては優秀ではあるのだが、性格が戦闘に向いていない。

 そんなゴヴニュを適切に運用できる人物となると、ノート以外にはヌコォしかいなかったのだ。

 本来なら、戦力的バランスを考慮するとネオン&ゴヴニュが最適ではあるのだが、コミュ障&口下手では地獄絵図になることが予想できたので、相性関係なくドラスティックに指示出しが可能なヌコォが選ばれた。


 第四グループの『スピリタス&ネモ』は純前衛と純後衛のタッグだ。特にネモは召喚素材のポテンシャルが異常(例の祟〇神に呪われたボスドロップの盾)な最後に召喚された死霊なので、他の死霊と比べても色々な面でのポテンシャルが高い。

 それにネモの種族である ニンサールドライアドファントムはゴースト型寄りの半実体存在。現在のレベルのプレイヤーでは有効打を与えることは不可能なのだ。なので“後衛を守る”などという思考はノートがいないとまともに機能しないスピリタスとの相性は悪くない。


 因みに、一応すべてのグループで模擬戦闘(盗賊団を見つけてサクッとつぶしてMON稼ぎ。これにより哀れな盗賊団が複数潰された)は行ったのだが、自重のないこのグループが一番火力が高かった。なのでこのペアとかち合ったプレイヤーは極めて不運であるとしか言いようがない。

 といっても、どのペアともぶち当たっても大概不運なのだが、悪魔勢や他のメンバーと違ってこの二人は特に伏せておく必要のある手札がない。なので全力の戦闘ができるのだ。 

 一番キルスコアの高いペアにはノートから何か追加報酬を出すという言質も取られており、そういった事に一番貪欲なスピリタスと案外自分の影の薄さを気にしているネモの組み合わせなので士気が異様に高いのも特徴だ。


  

 第五グループの『ユリン&アテナ』はトリッキーな中衛コンビを想定した組み合わせだ。

 『誰かに合わせる』という面では戦闘能力・性格の両方を考慮した際に一番高いのはアテナだ。レイスだけあって物理攻撃を無力化可能なのも相まって、自由に動けたほうがいいユリンとの組み合わせは非常に良かった。


 第六グループの『ノート&メギド』は過剰戦力に思えるが、実際はメギドは待機状態にする予定なので結果的にはノートの単独(ソロ)になる。ノートにとってはメギドは近接戦闘の切り札だ。簡単に見せていい手札ではない。もちろん、ユリン、ヌコォ、ネオンも使っていいスキル・魔法と使ってはいけないスキル・魔法も事前に決めている(スピリタスだけはむしろスキルを積極的に使う練習にしてくれとノートから頼まれている)のでノートのみに制約があるわけではない。


 今回は色々な面での成長、一石二鳥以上の利を求めて計画された作戦だ。だがその中には、ノートの個人的な利も含まれていた。

 それは前衛がいない状態での単独(ソロ)戦闘(バトル)。ノートは鏡の世界を支配するクリーチャーとの戦闘を経て、自分の前衛能力が落ちていることを痛感した。

 

 無論、本来はその役割的に純後衛タイプなのだからあまり気にする必要はないことだ。

 あの時の戦闘でむしろ一時的にでも完璧でなくても中衛をこなしていた方が異常だったのである。


 だが、それではノートは満足できない。ノートはよくも悪くもこのグループの絶対的な中心が自分であることを理解している。それは周りも理解している。

 だからこそ、万が一の事態が起きても自分が足を引っ張る様な事態は避けなければならない。前衛・中衛が自分の事を過剰に心配する必要がないほど自衛能力が無ければならない。

 だからこそ、自分を追い詰めるためにもリスポーン地点であるミニホームを今回ばかりとはいえ撤去した。勿論それで自分が死んでいては話にならないので万が一のためにメギドを待機状態にしておくつもりだが、基本はソロだ。


 死霊召喚は最低限に、あとは持ち得る魔法やスキルで乗り切る。中衛を『できない』のと『できるけどやらない』には天と地ほどの差があるのだから。


 ノート達は打ち合わせをしつつ、今回のために作成した鑑定の一切を阻害する上に鑑定を行ったプレイヤーに呪いを返す髑髏のブレスレット(バルちゃん製作)を嵌め、対プレイヤー時に装備する仮面を各々で装備する。

 其の上から更に、全員がメイン装備を見えにくくする黒いローブを羽織る。

 見た目だけ見れば何処ぞの要注意邪教団体だ。


「俺が撤退号令までを出すまでは基本的に作戦は続行する。それでは武運を祈る」


 ノートは最後にそう締めくくると、先だって馬車から降り、懐かしの『ファストシティの墓地』に舞い戻ってくるのだった。





「(流石にもう元に戻ってるか)」


 ノートが最後に見たのは、自分が召喚したアンデッドにより酷い惨状になっていた墓地だ。しかし今や最初に見たただの寂れた大きな墓地に戻っている。


 その例の大惨事を引き起こしたのは、ノートが初めて本召喚したアンデッドであるシールドファングスケルトン。思えば墓地を壊し、バルバリッチャとの遭遇フラグを建てたのもシールドファングスケルトンであり、その後バルバリッチャの器として召喚したレッサーヴァンパイアを召喚するときに供物に捧げたのもシールドファングスケルトンだ。

 何気に色々な面でノートのALLFOでの行動を決定づけた存在、シールドファングスケルトン。まだそう長い月日は経ってないのに、ノートは遠い昔のように想起する。


「(思えば、影縫死豹ですら漸く中級にひっかかる程度の死霊だ。運任せのランダム召喚でレッサーヴァンパイアなんて“上級”の死霊を運だけで我ながらよく召喚したものだ)」


 結局それはバルバリッチャの器となり、どれほどの強者だったのかはわからずじまいだ。しかしそれだけの実力差があればノートの指示などまともに聞かないことはノートも予測できていた。故に今さら惜しいとは全く思わない。


 そんなことを考えながら、ノートに墓地に歩みを進める。


 強力な隠蔽状態になっており馬車の存在は誰も察知できなかった。そこから急に降り立ったノート。他のプレイヤーからすればノートが忽然と現れたように思えただろう。

 見るからに怪しげな風貌、しかしてあまりに堂々と振舞っているのでプレイヤー達は声をかけるタイミングを逃す。

 

 それを気にかける事なく、そのままノートは墓地に入っていった。







 現在の墓地には予想よりも多くのプレイヤー達がいた。各ナンバーズシティの墓地の推奨ランクは5。運営主催の大規模なイベントもひと段落し、上層のプレイヤー達は更なる力を得るために難易度の高い狩場に連日詰めていた。

 墓地は戦闘能力を鍛えるのみならず、ギルドで発行されるアンデッド退治のクエストも相まって非常においしい狩場だ。メンバーは徐々に固定化されつつあり、顔なじみばかりと言える。

 その日もほぼいつも顔なじみの8パーティー、総勢40名〜50名程度のプレイヤー達がアンデッド相手に奮闘していた。


 そこにいきなり入ってきたのは、怪しげなピエロマスクに黒いマントを纏った二人組。思わずプレイヤー達の注意が逸れるのも仕方ないだろう。

 そして――――――


「《エクスパンド・ダークレイジストーム》」


 ポツリと呟かれた魔法名。それと同時に龍の如き漆黒の暴風がスケルトン、屍鬼(グール)のみならずプレイヤー諸共呑み込み食い散らかし、消し飛ばす。

 そこにいたのは第二陣の新参プレイヤーではない。日本サーバーの最前線組の一角を担う存在と言っても過言ではない。

 だが、そんなことは彼女の魔法の前では何の意味もなかった。

 『近接攻撃用の装備が一切装備できなくなる代わりに、魔法攻撃能力を高める』呪いの様なピエロマスク。それにより災害の域にまで昇華された攻撃。重要なのはこれでも“使用を禁止されていない程度の魔法”であるということ。


 たった一撃で、墓地にいるすべての生き物は一掃された。それを受けて、侵入者を迎撃するべく倍の量のアンデッドが湧きだす。しかしそれもまた、彼女の前ではあまりにか弱かった。脆かった。無駄だった。




 ――――――絶望的な迄の蹂躙が、始まった。



待った?(蹂躙の音)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 少し疑問なんですが、 墓地って何を埋葬してるんですか? 現状、善性NPCを明確にキルした描写はないはずなので、正確なところはわからないけど、ドロップ品として骨でも落ちるんですかね? …
[気になる点] そういえば主人公って近接武器装備出来ないけどバルちゃんナイフは装備出来るの?
[良い点] いつかやると思ってたゾ [一言] や っ た ぜ
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