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No.510 アサイラム歓迎会&慰労会 六


「条件を見定める事ができないと、主人としては今後迂闊に動けない。自分の強みを大きく制限されかねないとなれば、我の知恵に頼ろうとするのも理には適っているであろう。それが実現するかは別としてな」


「それを言われると困るな」 

 

 DDも北西勢力も手のひらの上で操ったノートだが、NPCであるはずのバルバリッチャ相手だと一筋縄ではいかない。

 最初はもっとツンデレぽかったはずなのに、今や魔王の上に君臨する存在としての姿が強い。最初のツンデレは親しみやすさを錯覚させるための猫かぶりだったのか。まさかそんな、とは思うが今のバルバリッチャを見ているとあながち全くあり得ないわけでもないのがノートとしても判断が難しいところだ。

 

 あまりに強すぎるオリスキ群に対し、強くすることで逆にALLFO側から縛りをかけられたのではないか、というのがノートの今の考えだが、少しメタ的な話にもなるので全てをバルバリッチャには語れない。

 なのでせめて条件に関して考察を進めたいところだったがバルバリッチャは全てを見通しているようにノートを見ていた。


「じゃあ勝手にしゃべろうかな。正直なところ、俺だけの影響でアレだけの化物が出没するのなら俺は逆にアレを悪用する事も出来る。けどこの世界がそこまで都合よく俺の思い通りに動くと思うほど俺も驕っていない。となると、あの時他にも何らかの条件を満たしていたと考えよう」  


 例えば、他の正規ルート寄りの非教会都市でノートが演説するだけで文字化け怪物が出現するなら、ノートはいよいよ歩く大規模殺戮兵器になりかねない。しかもコスト0で仲間が居ればあとはロールプレイだけで起爆できるという条件の緩さ。ゲームがいよいよ壊れる。

 となると、ノートへのペナルティだけで化物が出現したと考えるのは少し違和感がある。

 ではあの時他にどんな特異な事が起きていたか。


 1つは多くの死者。

 DDも含め、万を超える北西勢力の殆どがあの地で殺された。ただし、それを言い出すとノートはもっと多くのプレイヤーを殺したこともあるので少々の疑問はある。今までの違いがあるとすれば一方的な殺戮と言うよりは抗争の面が少し強かったことか。

 

 2つ目は山の斜面の爆破。土地の大規模破壊に対してALLFOは何らかのペナルティを付けてくる事が今まであった。そう考えると、イザナミ戦艦を突撃させる際に行った爆破による破壊が呼び水になっていた可能性。

 これに関してはノートも否定ができない。むしろかなり怪しい。過去の文字化けエンカウントに於いて、水晶洞窟の案件はまさにこれに近い。が、あの時は直ぐにエンカウントしており、火山砂の化物のケースだと若干のラグがあった。


 となると、考えられるのはこの条件の複合。多くの死者と大規模破壊。そして最後にノートの演説が引き金を引いた。まだ不可解な点はあるが、大まかな可能性としてはこの3つが怪しい。


 あるいは、ノート自身によるものか。


 ヤーキッマはノートに色々な事を教えたが、特にノートが重要だと感じたのは祭祀の在り方。

 詳しく聞いたわけではないが、祭祀は一応『人間』の括りにある存在ではある。基本的にプレイヤーよりもNPCは弱いというか一般的な人間に近い事が多いのだが、その中でも祭祀だけはバグの様に強い。それでも人間ではある。

 では彼らの強大な力はどこから来ているのか?

 メタ的な事を言えば、彼らはプレイヤーがNPCに悪質な行動をとった時の抑止力として存在しているのでプレイヤーより強いのは当たり前ではある。教会傘下の都市なら教会が自治を行っているが、戦闘行動すら取れる非教会都市となれば暴力による制御も必要だ。その時に機能するのが祭祀である。

 ただこれはメタ的な話。ゲーム的に言えば、祭祀達は彼らがそれぞれ崇めるナニカから力を得ている。知識も力も、その大いなる存在から祭祀達は借り受けている。故にヤーキッマの様な子供ですら本気を出せばノートより遥かに大きな力を行使できるしプレイヤーも知らない様な知識を数多く持っている。


 その謎の存在こそが、文字化けの仲間なのではないか。ノートはそう睨んでいる。


 更に気になったのは文字化けの出没と共に発生するフィールド変異現象。ALLFOは定期的にワイプが発生する為、フィールドの開拓ができない。だが、文字化けは出没するだけでフィールドを変異させることができる。これはALLFOの世界のルールの一部を無視していると言っても過言ではない。

 一方、非教会都市もワイプが発生する世界でありながら土地を開拓している。開拓と状態の固定。その力こそが文字化け達の能力なのだとすれば、その力を借り受けている祭祀達がこの世界の中に永住の地を作り上げることができるのも不思議ではない。


 そしてこれはシナリオボスにも近いことが言える。

 今まで戦ってきたシナリオボスの名前には何かしら『子』だったり『片』だったりと何かしらの一部や未完成さを思わせるワードが入っている。では彼らが成長すると何に変化するのか。

 その答えがノート達を今まで弄んだ文字化け達。或いは、ノートが土地の古の記録より蘇らせた太古の怨霊共。その生き残りか支配層の一部が今の文字化けなのではないか。

 シナリオボスの戦闘フィールドも、ある意味ではそのボスごとに限定的な変異が起きている。文字化け系の怪物の中でも教会に完全に封印されていたのがシナリオボス。裏ルートに成体が居るのは教会でも封印しきれない代物だから。


 シナリオボス討伐後の土地が開拓可能なのもこの原理に近い。フィールドに影響を及ぼせる文字化けの幼体であるシナリオボスの影響をプレイヤー達が超える事で教会がより強くシナリオボスを封印できるようになり、限定的にシナリオボスの領域を乗っ取る事が出来る。

 シナリオボスはイベント終了後はレコードとして再戦可能だ。アレはメタ的に言えば後続のプレイヤー達のランク上げとして便利な存在を残しておいているとも言えるが、ゲーム的に言えば敢えて地主を生かさず殺さずの状態で封印する事で土地を乗っ取る事が出来ているとも言える。逆に完全に殺しきってしまえば土地の権利者は不在になり、通常のフィールドになっていつものようにワイプが起きてしまう。ワイプの影響から逃れるために敢えて生かしたままにする。というより、そもそも文字化けの類は完全に殺しきるのは不可能なのでそれを逆に利用しているのではないか。


「——————ってのはどうだろう?」


「話が逸れておるようだが?」


「残念。そんじゃ祭祀の話に戻そうか」


 さりげなく話をすり替えてノートは自分の考察をバルバリッチャで答え合わせしようとしたが、バルバリッチャはスルーする。




 

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― 新着の感想 ―
[一言] 単純に初期のバルちゃんはなんやかやノート達を「被保護者」として認識してたんじゃねーかなって印象はあるなぁ…… 今はまぁそれなりに「協力者・同盟者」という認識に再認識されたからちょっと関係性が…
[良い点] 更新ありがとうございます [気になる点] 完全に滅ぼし切らずに封印されてた初期のバルちゃんと状況は似てるんだけど、目的が違いそうなんだよなー バルちゃんは隔離空間みたいなのに封印されてたか…
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] 初期のバルちゃん、もう見れないのかー そーかー
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