No.508 アサイラム歓迎会&慰労会 四
「はいパスするでー」
「次」
「ナイスパスじゃ」
ヌコォ、VM$、Gingerのテーブルは完全に遊んでいた。一枚は既に各自作り終えており、次は3人で大きめのピザを回しながらパス回しをしている。全員がかなり器用ではないとなかなかできない事だ。全員器用値の高いビルドなので多少はモーション補正が乗っているのかもしれないが上達はかなり早い。
「何かアナウンス入った?」
「今のところは特に。せめて作り終えないと新しい職業とかは取れないと思う。スキルもこの程度の反復だと職業補整がないならダメ」
「せやな~。この程度でカンタンに料理人とはなのれんわな~。ALLFOそのへんシビアやから」
「器用値を成長させるには悪ない試みではないかの?おんなじ事をし続けても伸びが悪なるさかい暇な時にやるにはええと思うぞ」
「確かにな。でも流石にインベントリに生地を持ち歩くのはアレだし、やるなら濡れたタオルとかで代用した方が…………いや、最悪食えるし生地の方が…………?」
ALLFOの『職業』解放条件やスキル・魔法習得条件に関しては研究が続けられているが、サービス開始からそろそろ1年が見えてきた今でも明確に判明している事は多くない。
一番確率が高いパターンは――――例えば戦士系の剣スキル『A』があるとしよう。
このスキル『A』を習得する時に一番手っ取り早いパターンは、まずスキルを習得しようとしているプレイヤー(以下『甲』とする)が戦士系で剣を普段からメイン武器としている必要がある。次に既に戦士系剣スキル『A』を習得済みのプレイヤーやNPC(以下『乙』)を用意する。この時、乙はAを習得しようとしてる甲と近いビルドである方がより望ましい。この状態で乙が甲の前でAを使用したり、Aを使って教練をしたりする。すると大体は習得ができる。
なおここには乙の中にあるリアルな指導者適性や、隠しパラメータとしての指導者適性などが習得率や甲の習得スピードに関わってくると見られている。実際、多くの者に教練を施した乙ほど甲に対しての指導影響が高いのか甲の習得スピードが目に見えて変わる。
要するに、習得者と伝授側のビルドが近いほどスキルは伝達しやすい可能性が高く、伝授側の指導力が高いほど習得確率も上がるのではないか、という事だ。なお、これはあくまでモーションがあるタイプのスキルであって、モーションがないタイプや仙術など他に必須条件があるスキルだと単に努力しているだけでは習得はほぼ不可能だ。
一方、伝授ではなく自己習得の場合。
先に習得したいスキルを把握できている場合はそのモーションに応じた動きを何度も何度も繰り返す。そこから戦闘や模擬戦闘の状態でやってみる。運が良ければ習得できるし、できないなら繰り返す。
イメージがあやふやな場合は。実際に存在しているか分からないけど、こんなスキルがあったらいいな、と思いながら特定のモーションを繰り返す。そのモーション中に別のスキルなどの使用もしていい。そして実戦の中で完全に一連の動きとして再現性のあるレベルまで習熟すると普通にスキルを習得するか、あるいは『ユニークスキル』という物になる。
ただし、ただの自己習得はゲームと言うより本気で訓練するつもりでやらないと習得はできないので相当地獄を見ることを覚悟しておいた方がいい。
と、これはALLFOの外部まとめサイトなどに記載されている『前提条件』だ。ここにコメントを付けられるなら例外案件が多すぎてまとめきれなくなる。ALLFO検証民が議論で収まらずに殴り合いの喧嘩をしながら絞りに絞った推定条件が以上になる。
故に、今回のお遊びで本当にスキルが習得できるとはノート達も考えていない。
なおタナトスは既にスキルとして『ピザ回し』を習得している。その為にスキル自体が存在することは判明しているが、ユリン達のような器用な者ならちょっと練習しただけでスキルがなくてもピザ回しはできる。
スキルと言っても、生産系はモーション補正の傾向が強い。無くても料理自体はできることはネオンがとっくの昔に証明している。では、このようにピザ回しとパス回しを組み合わせるとどうなるのか。
特に何もない。
現状、ALLFOの中で魔法と魔法が融合し出力が増大したり別の現象が起きる『魔法融合』は確認されているが、プレイヤー1のスキルを使った攻撃とプレイヤー2のスキルを使った攻撃を繰り返しても今のところ『コンビネーションスキル』ようなスキルは発見されていない。魔法融合自体も『融合された魔法』が習得できるわけではなく、あくまでその様な現象が起きるというだけの話だ。
コンビネーションも魔法融合もオンラインゲームの癖に人力、それがALLFOクオリティだ。あるとすれば称号による連携力向上だろう。
「ふーん、ピザ回しが限界なのか。知能レベルや精密性は頭のいいチンパンジーくらいか?」
ヌコォ達の遊びをみつつテーブルに目を移せば、粉塗れになって飽きたように寝転がっているシルクと目が合う。ピザを捏ねるところまでは出来たらしい。だが、回すのはできなかったようだ。拗ねたようにひっくり返って生地をやけ食いしている。
さてこのままだとシルクはどれくらいのピザが食べられるのか。そもそも焼いてもない生地が旨いのか。進化してからは隙を見ると何かを食っている非常に燃費の悪い生物になっている。
死霊組も捏ねていた時の様子がそのままその後の動きにも反映されていた。アテナやグレゴリは複数本の手を全て使い器用にピザを同時に何枚も回しているし、ゴヴニュの場合は特にデカくもないのに回そうとした生地が吹っ飛んでいった(床に落ちたピザ生地はシルクがそのまま食べた)。他も概ねできずに手こずっているか、縦回しならできる程度。メギト達は相変わらず餅つきを続けている。ドォン!ドォン!と餅つきの音ではない音が出続けているが皆慣れてしまったのか誰も見ていない。力加減と言う概念を理解できないバーサーカーには鎚を軽く丈夫にするしかなかった。軽くしてなお音が出る勢いで鎚を振り下ろしている。
「メギド、もういいぞ。ストップ。ありがとう」
疲労を感じないアンデッドは力のコントロールは苦手でも単純な反復動作はむしろ得意まである。餅の中に潰れたザバニヤの粉砕された手が混入する事はなく、一応餅らしき物ができていた。
なお、レクイエムやダゴン、ヒュドラは既に生地を弄る事を諦めて同じく餅つきにシフトしている。どうやら餅つきも一応本能で忌避感はあるらしいが、餅に対して攻撃するつもりで鎚を叩きつける程度はできるらしい。餅を返すのはイザナミ戦艦から呼び出した工兵死霊。工兵だと餅を返すぐらいの活動は正規の仕事ではなくても出来るらしい。
そうなると、何も言わずに餅を返し続けていたザバニヤは。
乾燥しても目を強引に開け続けさせられるような気持ちになりつつもノートの命令通りに動くことを優先したのか。それとも自律権が二つ混じっている事がプラスに働いているのか。ザバニヤは相変わらず何も語らない。
悪魔組は目を離しているうちにけものっ子サーバンツ達が妙な機械をでっち上げており、機械が次々とピザ生地を広げては回すレーンを組んでいた。元の肉体から形状を変えているために精密動作に難がある為に機械で誤魔化したようにも見えるが、既にこのような精密機械を作れる時点で精密動作もクソもない。単純に飽きたのだろう。
アグラットはいつものへっぽこさに反して、意外な事にLサイズピザを器用に回している。回しているが、けものっ子サーバンツ達が後ろから忍び寄っていたのでノートは無言で見つめて止めておく。どうよ、と言わんばかりのドヤ顔をしているアグラットの顔が激おこモードになるのはかわいそうに感じたからだ。
ザガンに関しては完全にスルー。生地から作り出された黒いタールの様なスライムがピザ生地をクルクル回している。何気に手際がいい。心無しかアグラットに張り合っている様に見える。
個人差はどうあれ、一応全員分の生地が一枚以上出来たところで次はトッピングだ。どんなソースを選ぶも良し、チーズを選ぶもよし、トッピングを選んでも良しである。生産活動に類するために乗せようとすると若干の忌避感はあるようだが、トッピングをセレクトするくらいなら戦闘組死霊にも出来るみたいなのでオーダーを受けておく。
これはテクニックではなく単純にセンスが出る。何を乗せようか手早く決めていく者もいれば、フラフラと彷徨いなかなか定まらない者もいる。
「一応用意はしてもらったけど、ここまで振り切るともはやピザではないな」
「おいしそうでしょ!」
「それさ、先に生地を焼いてから乗せるんじゃないか?」
「あっ……………。ど、どうしよう」
「魔法で生地にだけ火を通すみたいな事、アグちゃんならできるんじゃない?」
「それもそうね!えい!」
コンセプトが固まっていた中では、おそらくアグラットは一番分かりやすかった。
チーズは普通より少なめ。というより、普通のピザ用のチーズではなくクリームチーズを使用している。そしてそのクリームチーズの存在感を感じ取れないほどに塗られているジャム。更にその上にメープルシロップをたっぷりかける頭の悪いデザイン。そしてその上にフルーツの山と砕いたクッキー。
見た目だけはキレイだ。見た目だけは。もはやピザと言うより調理学校に通っている学生がふざけて作ってみたような、採算度外視でデコレーションに超凝りまくったケーキ、あるいはパフェか。
ただ、フルーツピザというのは先に生地を焼いてからデコレーションなどをするのだ。焼く前に乗せたらしっとり感が命のクリームチーズはボソボソになるし、フルーツにも火が通り過ぎる。今までは珍しく盛大なポンコツをしでかさなかったが、最後の最後でやらかした。
調理を手伝っていたサキュバスもフルーツピザの作り方は知らなかったのかちょっと気まずそうに目を逸らしたが、アグラットはポンコツを捻じ曲げられる力がある。
生地に小さな両手を向けて、それからパンと手を叩く。加熱だけではなく、更に時間操作も組み合わせているのだろう。生地の上の部分は軽く冷却しているのかエフェクトが二層になっており、フルーツとチーズには一切熱を通さずに一瞬で生地が焼き上がる。
加熱、冷却、時間操作。一度で当たり前のように3つの魔法を組み合わせて使用しているし、生地に塗られたクリームチーズに火を通さないように生地だけに火を通すにはミリ単位より更に精密な魔法の操作が必要になるだろう。あるいは、魔法の対象の取り方が特殊なのか。
ノートに指摘された時は不安そうな顔をしていたが、今や元通りのドヤ顔だ。取り巻きのサキュバス達は「流石です」と言いたげな顔で拍手をしている。
「次は普通にやってみるわね」
アグラットは甘いものを食べたらしょっぱいものよね、などと言っているが、トッピングはなく、用意されたチーズだけを色々乗せている。チーズだけのプレーンだが、チーズの種類で味のバリエーションを増やしているようだ。ただ、フルーツピザといい極端だ。
ちょっと心配だったアグラットに関してはひとまず問題なさそうなので、ノートはMGチームの様子を見に行く。




