No.494 naufragio
Cethlennが戻り、次いでユリンやネオン達も戻ってくる。
一方でノートが居ない間戦線を維持し続けたアサイラムメンバーやNEPTはここで休憩に。かなりフェーズを進めたところでログアウトと言うのはかなり悔しい事だが、ログイン時間限界ばかりは仕方がない。
そうしてシフトが切り替わっていく中、皆で総攻撃を仕掛けて時間稼ぎをしシフト交代の隙を捻出している中、前期シフト組の中でゴロワーズだけが残る。交代開始から20分弱。遂にその時は訪れる。
耳元で鳴り響くアラート。いよいよログイン時間限界が迫っている。けれどまだゴロワーズには大役が残されている。
「【4th Stage:MoonlessDawn】!」
月無き夜明け。彼女のオリジナルスキルにはまだフェーズがある。ゴリ押しで進められるのは3段階目まで。4段階目以降は制約が厳しくなるが、その条件も整った。多くの死者。死に戻りしては戦いに挑み続けたDD。その【死】は無駄にならない。多くの【死】が儀式を次に進める。
環境干渉力強化。闇属性強化。更に火山砂の化物に色々なデバフがランダムでかかる。本来は集団を呪うものだが、火山砂の化物は個にして集。儀式によって本来複数を祟る呪いの対象に単独で取る事が出来る。闇属性が更に強化され、VM$が事前に用意してゴロワーズに預けていた人形が砕ける。本来莫大な代償を強いてくるこの儀式の生贄を肩代わりするアイテムだ。
「【5th Stage:PolarNight】!」
極夜。夜明け、されど日の出ない現象。南極などのみで起こりうる現象。
夜は明けても未だ暗く、明かりが強いからこそ闇はより色濃く。闇、呪詛の強化を齎す。性質が悪に寄っている者達程多くの加護を与えられる。
儀式は終盤。いよいよゴロワーズの領域が拡大し、真っ黒な祭壇場の様な幻影が出現する。周囲のエネルギーが問答無用で吸い取られる。儀式に参加し続けていたDDのサポーター達もHPとMPを根こそぎ吸われて息絶える。儀式の主催であるゴロワーズを残して。祈りを1人に託して。
『【Amigo, no temas a la muerte】―――――――――」
そしてゴロワーズの祈りに、シフトが組まれている間もイザナミ戦艦の周りで儀式を続けていたDDのサポーターたちの祈りに、超常の化物に挑み続ける英雄たちに応えるように、老父の詠唱が為される。詠唱、それは元の意味での正しい詠唱。祈りを捧げる歌。
朗々と、穏やかに。
オリジナルスキルのトリガーは様々だ。
場を必要とする物。自分が心から援護するに値すると思える傑物を必要とする物。敢えて不利な制約をかけてでも何かを代わりに手にしようとする意思を求める物。何事にも恐れずに拳を交えようとする意思を求める物。指定モーションの遂行を必要とする物。最悪を考え続ける事を求める物。ロールプレイを必要とする物。
効果も重要だが、どれだけ楽にトリガーを引く条件を満たせるか、というのもオリジナルスキルは重要だ。
その点で言えば、スピリタス、トン2、鎌鼬、カるタ、お頭のオリジナルスキルはかなり優秀だ。トリガー発動条件が簡素で、同時に自分の意思でトリガーを弾ける。
一方で、ゴロワーズやCethlennの様に複雑な発動条件を持つオリジナルスキルもある。ただ、スピリタス達の様な簡易発動型と異なり術者本人に何かしらのペナルティを与えてくるタイプのオリジナルスキルではないし、複雑なものほど影響の幅が大きくなる。
ノートのパターンは異例中の異例だろう。トリガーが純粋なプレイヤースキルを求めてくる事を条件に発動するスキル。使いこなせない奴には一生使えない。自分の生き様で、言葉で、動きで、人を鼓舞する才が無ければ決して発動しない。
逆を返せば、それを為せるプレイヤーなら代償無しで容易くその強力なスキルを発動させる事ができる。
ではケバプは。
ケバプのオリジナルスキルはVM$と同様に、ノートとフレンド登録をし合った時に取得した。ゴロワーズと同じパターンだ。謎の介入者から与えられていたノルマが勝手に全部クリア状態になって与えられた。
VM$のオリジナルスキルの発動には【音】が必要だ。音というよりは、最低限【音楽】と呼べるものが。発動時にベルを鳴らしていたのも、レクイエムのコーラスを合わせたのも条件を満たす為だ。
そのVM$の相方だったケバプの取得したオリジナルスキルには【唄】が必要だ。女王の奏でる音色に合わせる歌。不思議な事だが、人間は世界中に散り散りになりながらもどんな文化でもその大方が「音楽」に類する文化を持っている。太鼓の原始的なリズムから複雑な弦楽器、或いは祈りを捧げる歌。
人の心を纏め、祈りを一つにする為に、歌は用いられる。
そう長い歌ではないが、戦闘中にのんきに歌っていられる瞬間などそうそうない。条件的には厳しいが、だからこそ効果は強くなる。歌い上げ、そしてそのスキルの名を告げる。
「――――――【No temas el naufragio, nuestro rezo nos guía】」
戦意と祈りに呼応して対象の力を強化するというオリジナルスキルにしてはシンプルな力。発動するまでの時間が長い割にはあまりにもシンプル。だが、その強化の幅がそんじょそこらのスキルや魔法とは違う。特に、祈り、つまり儀式系技能に対する強化の幅は桁外れだ。
ゴロワーズのオリジナルスキルは儀式系に属する為に、ただでさえ条件指定で出力の大きいスキルの出力が跳ね上がる。
『全員、全力で退避!』
ノートの指示が飛び、皆は何かが起きると察し直ぐに撤退を開始する。残るはヘイトを一身に集めて火山砂の化物と殴り合いをし続けるノートのみ。
Cethlennとネオンが揃った。クールタイムは明けた。
ならする事はただ一つ。
人外の勘で察知したのか翼をはためかせて火山砂の化物は逃げようとするが、ノートが全力で組付き、アテナの糸で自分ごと化物を縛り上げる。サイボーグ巨人の身体を苗床にネモの能力で急成長させた大量の根と蔓が巻き付いていく、ここで逃がしてやるものかと。むしろ火山砂の化物が逃げ出そうとしたのを見て嗤っていた。そうか、コイツのレベルでもアレはやはり怖いのかと。
最後の最後に砂の腕でノートの本体が居る部分を火山砂の化物は握りつぶそうとするが、それを見計らっていたように今までで一番大きな杭が出現し化物をピンポイントで貫いた。
再び出現する光の棍棒。ネオンが魔法の照準を合わせる。タイミングは先ほど完全に掴んだ。基本的に要領が悪いネオンだが、集中状態に入った時は別。怪物揃いのアサイラムについていけるだけの能力を発揮する。
同時にゴロワーズは儀式のフェーズを最終段階へ進める。多くの死、吸い上げたエネルギー、満ちる闇。条件は整った。
ゴロワーズのオリジナルスキルによりCethlennとネオンの攻撃出力も当然上がっている。初期限定特典は闇と極悪の代表格。ゴロワーズのオリジナルスキルとは相性抜群だ。
『祭祀殿、結界を!』
ノートのオーダーに応えて祭祀がノートと火山砂の化物の四方に結界を展開する。逃げる先は天と地のみ。更にノートは結界を重ねがけして、ネオン達の攻撃が届くように上だけを開けておく。
ゆっくりと振り下ろされる棍棒。もがく火山砂の化物。化物を締め上げるノート。いよいよサイボーグ巨人のボディも耐えられなくなり崩壊していく。それでもいい。ここを耐え抜けば。火山砂の化物は砂を操りシェルターの様な物を作ろうとするが、それもノートが全力で妨害する。祭祀が更に杭を突き刺して化物の自由を奪っていく。
全員一番始めの攻撃を見ていたのでその威力は知っている。全力で衝撃に備える。
ネオンとCethlennの魔法が融合し、光が火山砂の化物の頭上で弾ける。
そしてゴロワーズは叫ぶ。
「【Final Stage:DarkMass】!」
儀式の最後。顕現した祭壇場が砕ける。
同時に地の底より黒いビームが放たれた。
上からの棍棒、下からのビーム。このビームには敵の装甲を無視してHPに直接大ダメージを与えるというALLFOにしてはかなりゲーム的な効果がある。捧げられた供物と祈りに応じてダメージを増すこの最終攻撃。数々の高難度な条件を突破した先にようやく使える必殺技。
絶叫。
どんな攻撃をしてもまるで反応らしい反応を見せなかった火山砂の化物が遂にけたたましい悲鳴をあげた。
装甲破壊と装甲貫通。それを同時に受けたら何が起きるか。並みのシナリオボスでも、HPがMAXの状態からでも確実に殺しきれる一撃。ALLFOで確認されている最大火力が今またここで更新された。




