No.64 ホラー映画で偶にある奴
復活記念もここで打ち止め。あとはゲリラ的に無理のない程度に更新していきます。
それにしてもブクマはがしが止まらない。一体いくつまで減るのでしょう…………
「はぁ~疲れたぁ~!」
「オレも流石に金属の塊を殴り続けるのは疲れた」
戦闘が終わると同時に、散らかりまくった光る苔の上に寝っ転がるユリンとスピリタス。ノートもヌコォもネオンも疲れ切って思わずその場にしゃがみ込む。
「まあ、確かに、よくこんなオワタ式で勝てたな」
攻撃が一つでも掠った瞬間ゲームオーバーという鬼畜難度。退路はなく、作戦のどれか一つが機能しなければ、誰かが一手間違えば、それだけで詰みかねない厳しい戦闘だった。
どれほど辛い戦闘だったかといえば、今回の戦闘で全員がランク11になったことから察することができる。
誰もが疲れ切っている中、忘れられたように響いた安っぽいファンファーレは何とも言えない物だった。ランクアップのお陰でHP・MPは回復したものの、精神的な疲労などは別だ。数十分も高い集中力を求められた戦闘は彼らのメンタルをすり減らすだけの難易度が確かにあったのだ。
「ノート兄さん、結局アレはなんだったの?」
四つん這いで近づいていきノートにもたれかかると、気になっていたことを問いかけるヌコォ。それを見て皆も自分の元にジリジリと近づいているのを感じつつノートはメニューからストックされた魂を確認する。
「さっきのは多分、アンデッドの中でも所謂特殊型。ロボットというよりロボットに取り憑いた付喪神系の魔物だな。一般的なゲームで言うところのリビングアーマーとかに近い。魔物のドロップに機械的な動力源はないだろ?」
ノートの言葉を受けて皆でドロップを確認。ノートの言う通り、腕や足のパーツはドロップしていたがエンジンようなドロップ品はない。その代わりにユリンとネオンが面白いドロップ品を持っていた。
「あの、ノート、さん。これ、ドロップしました」
「あ、ボクもなんかドロップしてるよ!」
ネオンがオブジェクト化して見せたのは赤く仄かに光る黒の立方体だった。サイズはルービックキューブ程度。そこに見たこともないような線、見ようによっては記号が刻み込まれており、如何にも『特殊なアイテムです』と言わんばかりのデザインだった。
「鑑定不明、か。これもバルちゃんに鑑定してもらった方がいいだろうな」
ノートは鑑定士の副職業があるが、今のところ鑑定士としての成長速度が追い付いていない。というより生物専門なのでオブジェクト系の鑑定は殊更苦手なのだ。
「なんだこれ?」
「これが人形の動力?」
スピリタスもヌコォもネオンがオブジェクト化しているアイテムをみて首を傾げる。ただ、二人ともそれがただのアイテムでないということは分かっていた。
「ドロップ率が2/16ってのは良いんだか悪いんだか正直わからんな。まあレアドロップに違いないが。おそらく人形に取り憑いていたナニカは、これに取り憑いていたんだろう」
所持しているだけで何か呪いが発動するわけでもない。別に何かわかるわけでもないがノートがネオンから差し出されたそれを手に取ると、その立方体は紫色の光を放ち始めノートの体を電流が流れる様な不思議な感覚が襲う。
すると勝手にノートの鑑定士のスキルが発動し、先ほどまではわからなかったはずの鑑定結果が表示される。
「あぁ~、なるほど、そういう仕組みなのか」
ノートが一人で納得していると、説明を促すように突っつくスピリタス。ノートが鑑定結果を説明し、「これは俺専用のアイテムかもしれないな」と言うと皆も納得する。ということで、ドロップしたそれらのアイテムはノートが所持することになった。
「んでさ、現実逃避もそこそこに、これからどうする?」
皆も長時間に渡り神経を張り詰めた戦闘をしたので疲れ切っていた。だからこそ触れてこなかったことに、ノートは遂に触れた。
そう、魔物を倒したからといって次の扉が勝手に開くわけではないのだ。現状、人形兵器との戦闘が開始した時点でホールの出入口は固く閉じられた。
それが扉とかならばまだ手の打ちようはあったかもしれないが、継ぎ目なくピッタリと閉ざされてはそもそも逃がす気がないことは嫌でもわかる。
そしてもう一つ。ホール中央に鎮座していたいかにも重要な感じの祭壇だが、あれが戦闘中になんらかのダメージを受けたのか真っ二つに砕けていた。
その下から階段めいた穴が見えるのは、まあゲームあるあるなのかもしれない。問題はそこから外で嫌になるほど見ていた胞子が噴き出し始めていたことだ。
「俺さ、ずっと黙ってたことがあるんだけど言っていい?」
それを見つめながら、ポツリと呟くノート。全員の視線がノートに集中する。
「いや、その前に一つ聞こうか。警護って、普通なんのためにあると思う?」
ノートのいきなりの質問にユリン達は少し戸惑うが、概ね皆の考えは同じだ。
「そりゃ、何かを守るためだろっ」
「泥棒さんを、近寄らせない、ためですか?」
「あとは侵入者の排除」
「ヌコォに同じく」
各々の回答をうけ、ノートは頷く。
「最初に不思議だと思ったのは、ネオンがあれだけの火事を起こしても延焼は発生しなかったこと。つまり村全体に何らかの結界が張られている。
でもこれって少し不思議だよな。結界ってのは本来、外敵を本丸に入れさせないための物だ。しかし俺達も魔物たちも、普通に村へ入ることができている。まずこれが引っ掛かった一点目」
皆が今の話を理解したのを確認すると、ノートは上を指さす。
「二点目はここへ入る時にぶち破った扉だ。あの扉は他の扉に比べてもやたら重かった。ここにいたナニカが、人間よりはるかに勝る力を持っていたとしても、ここで見つかった物資と対比してもかなり重い物だった。本来開けることを想定していない印象さえ受けた」
ノートのその言葉に、ん?とヌコォは首を傾げる。その他はまだノートが何を言いたいのか理解しかねていた。
「あれが何かを守るための措置だったとしよう。鏡の廊下にクリーチャー、幻覚を見せるフィールド、防犯もバッチリだ。そこまでして守ったここにはなにがあった?モノリスとただの祭壇、あとは恐らく何らかの効果を持っていた照明だ。
だが冷静に考えてみてくれ。ここまで来てオブジェクトである照明をわざわざ取り外して持っていこうなんて発想に至る奴が何人いる?照明がもし大事な物でどうしても守りたいものなら、なんで肝心の照明まわりには防御機能がないんだ?――――――取った後には俺たちをあれだけ苦しめた大掛かりな仕掛けがあったのに」
ここら辺りで皆の理解が徐々に追いつき始める。理解が追い付くというよりは、ノートの現状分析に違和感を覚え始めた。
「じゃあここで発想を転換しよう。今まで俺達を苦しめてきたギミックが、外敵を封じ込める物ではなく“何かを閉じ込めておくことを重点に置かれた物”だとしたら?
村の外からの物をはじく結界ではなく、『村の内側の物を外に出さない』結界。村の外側ではなく、内側に作用する幻覚の状態異常。侵入者を完全に防ぐのではなく、侵入した後に完全に封じ込めるギミック。少しチグハグな防衛機能だ。
しかしこれを別の視点から見るとだ」
さて、この過程を元に現状とそれらを照らし合わせよう。
砕けた祭壇の下からあふれ出てるのはこのフィールドを汚染している元凶である胞子だ。
侵入者を察知したからギミックが作動したのではなく、『何かを封じ込めていた祭壇に異常が発生したので』、ホールは閉ざされた。厳重な扉も結界も内側から外側に出ようとするものを封じ込める物と捉えるなら
「――――――そう捉えれば、ある程度辻褄は合うんだよ」
だとすれば、とんでもない耐久力を誇る人形兵器は一体なんの為にここに配置されていたのか。足止めにかけてはあれほど厄介な存在はいない鏡の世界を支配するクリーチャーどもは何を想定して存在していたのか。
漏れ出る胞子に蓋をするならここまで大掛かりな真似をする必要は一切ない。
そもそも仮面を被るだけで大幅に軽減できる程度の物だ。
だとすればこの祭壇は何を封印するために存在していたのか。
「全員、装備をサブのサブ…………いや、装備しなくていい。今ある捨てても構わない程度の装備にしてくれ」
ノートが指示を出しながらゆっくりと立ち上がると、それと同時にホールの中心、祭壇下にあった穴から何かが崩れていく音と共に床に亀裂が広がっていく。その亀裂が広がるたびに胞子が舞い上がる。
其の号令に従い各々も装備をチェンジし、ホール中心を見て固唾を呑む。
【³°¼¡¸µ¤è¤êÍè¤ë¿Àの一柱が解放されました】
[Warning:特殊災害が発生します]
【ワールドシナリオβが進行しました。ワールドの『¿¼¤Èù¿ç¤Ë¤¢¤ë¿À¡¹』の 活性率が変化します。一部フィールドの変異を開始します。
フィールド『罪に穢れた腐沈森』は『罪穢堕之大腐森』に変異します。
フィールドの一部機能が変更されます。
フィールドの変異に伴い魔物も変異します。
転移門の封印が破壊されました。
新たなダンジョン『H¥ªU»ÒNI¤Ë°¦¤Ç¥é¤ì¤·³°¿À之大腐巣』が解放されました。フィールド変異によりダンジョン『H¥ªU»ÒNI¤Ë°¦¤Ç¥é¤ì¤·³°¿À之大腐巣』に強制的に移動します
『¿¼¤Èù¿ç¤Ë¤¢¤ë¿À¡¹』の解放により特殊称号『ÈÙ¿À¤Î²òÊü¼Ô』が与えられます。
特殊災害を発生させたので『特殊災害の引金』の称号が与えられます】
「ちょっ!?はぁ!?」
警告を表すような赤点滅と共にノート達の前に現れたメッセージの羅列。それと同時に床が砕け散り、ノート達は落ちていく。
「流石にこれは予想してねえぞっ!!」
「きゃあああああああ!!」
「うぉああああああっ!?」
「なんだこれーーー!?」
「ッ…………!?」
砕けた床の下に広がっていたのは、一つの地下世界だった。すべてが胞子に包まれ、気味の悪い植物がわんさかと生え、壁を覆う何かの巨大な蛹のような物がびっしりと張り付いている。そして現在進行形で老廃物を吐き捨てるようにその蛹から胞子が放出される。
スライムと芋虫を掛け合わせたような紫色の何かや、触手の塊が人型を形成したような見るだけでSAN値を削る魔物などが地下世界を闊歩し、天井を見上げる。その視線はしっかりとノート達を捉えている様に見える。
だが、それはまだ、一番の問題からすれば“些細なこと”の様に思えてしまう。
ホールの何十倍の広さを誇る地下世界。その”1/10を占める”巨大な体躯。蜷局を巻く様にうずくまる異形。体からは百足の形をした触手が数えきれないほど生えている。その異常に大きな胴の腹には多数の目玉。胴の先に付いている頭部がゆらりと動き、天井を見上げる。それは小面の目玉をなくし口から大量の触手を歯のように生やしている悍ましい化物だった。
「みんな、丸太は持ったな!!」
「持ってるわけないだろッーーーー!!」
「持っててもどうしようもないでしょーー!」
その異形のビジュアルをみて咄嗟に叫ぶノート。元ネタを推測できるユリンとスピリタスは絶叫し、ノートはもうどうしようもないことを悟りゲラゲラと笑う。
そんなノート達に向けて、異形の存在が、魔物どもが飛ぶなり触手を伸ばすなりして接近してくる。特に小山ほどある異形の大玉は、大きな口をガバッと開けてノート達が落下してくるのを待っていた。
それを見てノートは直感的に悟った。コイツに食われたらただのデスペナでは済まないことを。
故にノートはすぐさま叫ぶ。
「ネオン、自爆!」
「はい!!」
落下する中ですぐさまネオンが指示に反応できたのはファインプレーと言える。ノートはネオンが魔法を発動する前に全員に魔法抵抗能力を下げる魔法を付与。それと同時にネオンが現状最速で発動可能な自爆魔法の準備を整える。
「《デストラクトインフェルノ》!」
それは 黒逆聖女が自らの命を引き換えに発動し、災厄女皇の能力で更に凶悪化した魔法。さらにこの火炎系の魔法はネオンが村を焼き討ちしたときに得た称号『放火魔(火炎系攻撃・悪性強化)・原初』と『災炎魔(火炎系攻撃・悪性大強化)・原初』によって数段階攻撃能力を引き上げられる。
咄嗟の事ながらネオンは自分が火炎系攻撃の強化をする称号を取得したことを覚えていた。故に迷いなく火炎系の自爆攻撃を選択できた。
空中で彼岸花の如く四散する凶悪な黒炎。それは彼らを飲み込み、彼らが異形の者共に捉えられる前にノート達を焼き尽くした。
ようやくこのステージに関する種明かしができました。
ねえ今どんな気持ち?ナウ〇カ的な感じだから胞子を無毒化するルートもあるんじゃないかって信じて裏切られたのはどんな気持ち?本来なら相当後に起きるはずだったイベント発生させて運営を阿鼻叫喚の地獄を齎してどんな気持ち?
運営さん…………どんな気持ちだろうね…………
主任の毛根に、更なるダメージが叩き込まれるッ!!
すまぬ…………すまぬ…………