表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

744/880

No.488 Triaina



「クソッ、ガアアアアアアアアアアアアア!!」


 時は少し戻り、ノート、ヌコォ、ネオン、ツナ、トン2、FUUUMAが抜け、加えて他4割方のDDの戦闘部隊員も一時ログアウト中。祭祀が杭を増やし、バフを増やしてなんとか戦線をギリギリで維持しているモノの、現場からすればあまりにも辛い。

 特に出来ることが多いあまりに一番奮戦する羽目になっていたのはNEPTだ。


 アサイラムに元より連携は期待してない。お頭とFUUUMAはログアウト中。Gingerは性根からしてウマが合わない。


 ああクソが。どうにも気にくわねぇ。

 元から不機嫌そうな顔ばかりのNEPTが周囲に噛みつくのは今に始まった事ではない。人間嫌いでしょっちゅう人に噛みつくユリンが一番荒れてたころレベルでNEPTは気性が荒い。しかしそれはもう人格に染みついた性分の様な物だ。元から怒りっぽくてそれが表に出やすい。そこを逆に「昔のユリンみたいだ」と狂人に気に入られていたが、NEPTからすれば自分の口の悪さに動じることなくむしろ友好的に接してくるノートは不気味ですらあった。


 PKを始めたのも、何か理由があったからではない。初期限定特典が当たった。一応規約はちゃんと読んだ。街に入れない?それはなんだ。バカじゃねぇの。そう思った。AIサポートをONにしていたNEPTは問いかけた。

 やい、こいつは一体どんな仕打ちだ。これがALLFOじゃ特典と言うのか?と。正論だった。

 対してAIは言った。PKすれば確実に、他のプレイヤーでは逆立ちしても真似できない楽しい事ができますよ、と。嘘は言ってないが真実とも言えない言葉。当然NEPTも疑ったが、気に入らなかったら特別にやり直しも効くので試してみたらどうかと言われてとりあえずやってみた。


 使ってみた感じはまぁ悪くない。最初は海と地震を操るってなんだこりゃ、とは思ったが、広域を一気に潰せるのはスカッとする。性分には合っていた。チマチマしたものより豪快な事が好きだった。

 戦艦を都市に突っ込ませると聞いた時も「やっぱりコイツ頭おかしいぞ」と思ったが、なんだかんだ最終的に提案には乗ったし、実際やってみると存外面白かった。


 とりあえず噛みつくし疑うが、軽率でも浅慮でも愚かでもない。案外柔軟に物事を観ることができるしチャンレンジもしてみてから物事を判断する男。それがNPETだった。そしてNPETは所謂廃人に属する人間だ。リアルは捨てている。

 学校にいるのはバカばかりだ。教師も親ですらも自分の都合ばかり押し付ける。それが嫌になってゲームに逃げた。ただ、ゲームの世界に入ったところで人間関係は付いて回った。オフゲに大人しく引きこもっていた方がいい事は自分でも分かっている。けれど、機械相手に戦っているだけでは妙に味気ないのも事実。どんないいストーリーでも何かケチを付けたくなる性分なのでノベルゲーにも向かない。そもそも第二の不気味の谷問題や資金回収の問題などでVRゲーと言えばオンゲばかりだ。クオリティの高いゲームを求めたらオンゲに行き着いた。 

 

 そんな一匹狼がどうしてDDなんてカスの掃きだめの様な場所に流れ着いたのか。

 FUUUMAはお頭の漢気に惚れた。Cethlennはお頭の人格に惚れた。Gingerは「まあコイツならいいか」とお頭を認めたから従った。ではNEPTは。

 NPETの場合はシンプルだった。初期特だけでは限界がある事に直ぐに気づいたから、どこかに寄りかかっていた方がまだ楽だと考えたからだ。事実、その考えは概ね間違いではなかった。初期特は誰かしらと手を組んだ方が強い。攪乱を得意とするNPETの初期特は確実にトドメを刺すという点では不向きな初期特なので、直接的な攻撃力を持つ者達と手を組んだ方がいいのはバカでも分かる事だ。


 それがNPETの初期限定特典【Poseidon’s Triaina】。

 ポセイドンはギリシャ神話に登場する海の神で、最高神である天空神ゼウスの兄にして2番目の強さを誇るとされる神でもある。司る権能は『海』と大地、厳密には『地震』と言うべきか。地を割き川の作るなどのエピソードなどを持つポセイドンは極めて強力な神として描かれることが多い。

 そしてそのポセイドンが使っていた武器が三叉槍である。固有名称こそ無いがぶっ飛んだパワーを持っており、その武器をモチーフにしていると思われるNEPTの初期限定特典も当然強力なパワーを持つ。


 基本的な能力は2つ。

 一つは『海』の招来。召喚できる水の量はMP依存となっており、仕組みで言えばケバプの招来と同じ。ただしMP効率は圧倒的にNEPTの方が上だ。生み出された海はNEPTが操作でき、NEPTのイメージ次第では大津波を起こしたり竜巻のようにうねらせて巻き込んだり槍の様に変形させる事も出来るし、一部分を離れた場所に残して一部分を武器として分裂操作する事も可能だ。

 もう一つは地震、というより振動の発生。ただしこちらは槍で直接触れている非流動性の物体に限る。地面で地震を起こしたければ地面に槍を刺す必要がある。与えられる振動は触れている物の大きさに応じて大きくなるが、人相手でも振動を与えられるので、海流操作と合わせてある種のタンク殺しだ。

 現状、お頭に次いで地味に2番目に足止めに貢献しているのはNEPTだったりする。お頭が休憩に入って、祭祀が基本的な足止めをしている事を除けば、プレイヤーで一番貢献しているのは間違いなくNEPTだ。


 仮称ラヴァーリザードが巨大なお陰で与えられる振動はかつて無い大きさだ。ただ、その為には槍で触れている必要があるので冷気の加護があっても猛烈な熱さを感じるし、与えた振動は槍を通して跳ね返ってくるのでNEPTは必死になって槍を掴んでなければならない。常人では既に諦めているような苦難だ。

 加えて『海』の一部を戦艦に残し、一部は仮称ラヴァーリザードにぶつけて転倒させる。或いは逃げるのが遅れてるグズを強引に吹っ飛ばすのに使う。それと同時に出来る限り本体に槍を突き刺してダメージを与えながら立てなくする。妙に振動伝播が効くのもあって自分の重要性を認識してしまい余計に逃げられない。


 NEPTは損な性分をしている。

 ある意味純粋なのだ。それでいてグズを見ていると自分のことでも無いのに無駄にイライラする。だから人の多い所に近づく事をやめた。世話焼きな癖に世話を焼いても本人が気持ち良くなれないタイプの1番ストレスを溜めるタイプの世話焼き。それがNEPTの本性だ。

 決して自分でそれを認めることはないだろう。だが、文句を言いつつも未だにDDに居る事が答えだった。お頭の損な気質を正確に見抜いており、その様にどこか自分を重ねてしまい見捨てられなかった。


 NEPTのある意味一番不幸な所は、本人のスペックが傲慢とただ貶されるだけではないほどには高かったところだろう。人よりも観察力も洞察力もあって、合理的に物事を考えることが出来た。加えて早熟だった。当然可愛げのない子供に育ち、周囲の大人からも煙たがれるし同い年はチンパンジーか何かにしか見えず、そうして下に見ているのが透けて見えるために子供たちからも爪はじきにされる。

 ヌコォも近い子供だったが、真っすぐに向き合い続けてくれる愛の深い両親が居た。彼女には良き理解者である従兄が居た。周囲の人間が周囲と上手く付き合う(すべ)を教えてくれた。そしてNEPTにはその立ち位置に居る人物が周囲に居なかった。あるいは、鎌鼬の様に近づくなオーラを放っていても無遠慮なまでに無視して内面にズカズカと真っすぐに踏み込んでくるトン2みたいな一生涯の友が現れなかった。

 能力が高すぎて世界そのものを見限ったところはトン2にも通ずる所があるが、トン2よりも人間的に壊れてないし素の性格は親切寄りな所がNEPTを大きく歪ませた。そんな男が、実年齢を隠しやすいゲームの世界に生き場所を見つけたのは不思議な事ではない。


 そしてそんな男は、今とても憤っていた。

 NEPTはアサイラム統領の言い回しから今回の件について、アサイラム側は確実に何か心当たりがあるだろうとは考えていた。同時にこれが故意による物ではない事も察していた。だから話し合いの場で問い詰めることは我慢した。外様の癖に完全に我が物顔で仕切ってることに関しても正直不満はあったが、事実あの場でノート以上に場を仕切れる者がいなかったことが分かるだけに余計にムカつく。

 

 そしてそんな何を考えてるかまるでわからない狂人が居なくなったらいなくなったで自分の負担があり得ないほど激増したことで、やはり能力値は高い事を実感してしまう事がムカつく。

 ゴロワーズとカるタの代理指揮が悪いわけではない。言っていること自体は割と真っ当だ。むしろノートの方が人の心がないようなオーダーを平気でぶつけてくるし瞬間的な負担はキレたくなるほど大きくなる時もある。が、実際に全体のバランスで見ると上手く回っているのだ。


『持ちこたえてくれてありがとう、今戻った。次のシフトを回そう』


 周囲にはリアル時間で1時間キッチリ休めと言っておきながら、自分は平気な声して30分で戻ってきた。ノートの声を聴いただけで本体抑え組の動きが露骨に変わる。NEPTは自分もどこかホッとした気持ちになったことが余計にイラついた。


「どうすんだよこっから!本当に俺らが抜けて回んのか!?」


『ああ、回るさ。まだ手はある』


 苛立ち紛れで問いかけるも、ノートは平然と答える。むしろ何が面白いのか愉快そうな声だ。

 一体何が起きたのか。危ない薬でもキメてきたのか。NEPTが中らずと雖も遠からずな推測をしていると、ポツリと何かが降ってきた。

   



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 更新感謝 [気になる点] ポツリ=雨(?)=ケバプですかね?
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] やっぱり偶然な訳でもないですよね~
[気になる点] 連続投稿してしまいます。 祭祀は神を奉る存在、崇める行為のことを言うのであれば、盗賊って元都市の民であり、生贄にされた民で記憶や肉体を文字化けに捧げられた元都市民な気がするなぁ…… …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ