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No.484 アマノ



「ウチの直剣が一番相性が良さそうじゃ!これならウチ一人でもいけるじゃろう!ウチの攻撃が打ち漏らしを殺るんじゃ!」


 中ボス個体は相変わらずユリン達へ追撃しようとしているが、Gingerは尻尾を操作して出来る限り中ボス級の位置をばらさないようにすると真っ黒な直剣で次々と切裂いて殺していく。仮称ラヴァーリザードから分裂した個体は基本的に本体程生物離れした再生能力は持たない。腕や足を吹き飛ばした程度、頭を半分削った程度では余裕で動くが、真っ二つにされたり完全に頭を破壊されたら再生は止まる。例外は現在も悪魔軍と熾烈な攻防をしている分裂リザート2体。あれはサイズからして別物だったが、再生能力も本体に近い物だった。

 実際の攻撃の上手さで言えば3人の中でGingerだけが突出しているわけではないが、実際にGingerが直剣で切った個体は殆ど再生せずにそのまま死んでいる。Gingerは他2人の攻撃を見てここは自分が請け負うべきだと考えた。


「キャップ!使うぞ!よいな!?」


『了解。長期戦を見据えて温存も視野に入れる。Gingerは足止め殿。トン2(キン)ゴロ助(パープル)は下がって様子見』


 一人で百以上の悪魔を操りながらノートは即座に応答する。Gingerはその返事を全て聞くよりも先に詠唱する。


「解呪転【天叢雲剣(アマノムラクモ)】!」

  

 Gingerが詠唱すると、手に持っていた錆びあるの両刃直剣の錆びが剣身諸共弾け飛び、元のサイズよりも明らかに長い純白の刀身が出現する。その一瞬の隙をついて殿となったGingerに中ボス級3体が飛び掛かるが、Gingerが目にもとまらぬ速さで刀を横凪ぎに素早く数度振ると中ボス級3体はバラバラになって吹き飛び、攻撃の余波で周囲に居た雑魚級もバラバラになって吹き飛んだ。

 

 これがGingerの持つ初期限定特典【天叢雲剣】の真の姿。

 通常時は錆びのある両刃直剣であり、素の剣自体の切れ味は微妙。ただし剣そのものに触れた物を破壊する効果がある為に切れ味など関係なく敵の武器でも防具でもなんでも破壊できる。性質で言えばバルバリッチャソードに似通った部分がある。切れないのは呪いの込められた武具。強い呪いが込められているほど抵抗力は増し、簡単に斬れなくなる。というのも、天叢雲剣はバルバリッチャソードの様に破壊の因子を押し付けて物体を破壊しているわけではなく、純粋に煮詰め続けたような呪いをぶつけることで対象を破壊しているので、既に呪いが込められている物体だと当然効きは悪くなる。

 そして、元々切れ味の悪い天叢雲剣は敵と切り結べば結ぶほど呪いを蓄積する。錆と言う名の呪いは強くなり素の切れ味はいよいよ悪くなっていく。そこで溜まり切った錆び(ノロイ)を全て力に変えて解放するのが天叢雲剣の『解呪転』と言う機能である。


 【天叢雲剣】にはその出生に諸説があるが、その中でも最も有名なのは、神スサノオによるヤマタノオロチ退治であろう。八つの頭と八つの尾を持つヤマタノオロチなる大蛇をスサノオが対峙した際に、その首を切り落としたアマノハバキリという刀で尻尾を裂いたところ、刀が欠けてしまった。アマノハバキリすら欠けさせるその尻尾の中からスサノオが発見したのが天叢雲剣である。他にはアマノハバキリ自体を天叢雲剣と同一視する話もあれば、天照大御神より三種の神器の1つとして天皇の祖先に授与されたという話もある。

 ALLFOがその中のどの話を引用したかははっきりしないが、八の大蛇の尾を操り、武器破壊を得意とする性質を持つことからヤマタノオロチ退治のエピソードで見つかる天叢雲剣をベースにしているのだろうと性能を聞いたノートは推測していた。


 天叢雲剣の能力は大きく分けて2つ。

 1つは八つの尾の操作。

 宙から座標指定で呼び出しが出来るところはお頭のグレイプニルに通づる所があるが、指定できる座標ポイントはお頭よりも遥かに柔軟性は低い。また、呼び出した後の尾をどう動かすかもGinger側の手動になっている。グレイプニルの様にオートで動いてくれない。耐久性に関しても使用者であるGinger自身も詳しく把握しきれていない。元が初期特だけに不壊属性があるので決して壊れないグレイプニルとは違い、尾自体は初期特そのものではない天叢雲剣では尾は何か攻撃を受け止めればダメージは入る。そしてそのダメージ分の何割かはGingerに入る。ただ、尾の素の防御力が遥かに高いのでGingerが直接攻撃を受けるよりも大きくダメージ減衰はできる。

 もう1つの能力は物質の切断。特に得意とするのは武器破壊。呪い無しの武器は1度でも打ち合いすればその時点で武器は木っ端微塵。呪いアリでも呪いの濃度が低ければゴヴニュ製の斧でも一撃で壊れる。

 

 尾の操作と切断。纏めればこの2つだけ。確かに強くはあるが、シンプルであるが故に使い手次第で全く別物になる。タイプで言えばユリンの堕天使と同系。シンプルだからこそ使い手の技量が特に求められる。武器の扱いに関しても直剣が武器スロットに固定されているものの、メイン武器の癖に直剣の技量は完全に使用者依存だ。これはユリンの堕天使の翼にも言える。飛べるが飛翔に纏わる技術は完全にユリン依存だ。


 裏を返せば、使いこなすことさえできれば圧倒的な万能性と強さを発揮する。

 

 アンデッドが如く自己意識の薄い分裂体達は本体の意思に強く影響を受けているのか本体に大きなダメージを与えたユリン達を狙うが、流石に中ボス級を何体も殺したことで脅威度判定に更新が起きたのかGingerに対して中ボス級に攻撃を開始。機械的な反応ではなく、明確な殺意の対象になった為か今まで鈍重だった中ボス級達の動きが急に機敏となり攻撃をする。だが刹那で全ての攻撃を見切ったGingerは躱し、いなし、尻尾を操作して吹っ飛ばして天叢雲剣で迎撃。僅か1分も経たずに並みのパーティーなら1体だけもまるで歯が立たない中ボス級の一団を殲滅する。

 

「(思ったより熱の貫通はあらへんようじゃな?)」


 尻尾はパワーも強いので中ボス級でも引っぱたくだけで吹っ飛ばせるが、それは生身でマグマをぶん殴っているような物なので当然表皮は火傷する。というより、火傷で済んでる分だけ尾の耐久性が人間のソレとは比較にならないほど強靭であることの裏付けだ。そして火傷分はGingerにもダメージが入るのだが、実際にGingerが感じていた熱気に比べてダメージは低い事に気づいた。

 加えて斬った時の独特の手ごたえ。そもそもGingerでなくともマグマを刀で切った事のある人類など居ないのでマグマみたいな体の怪物を斬った時の手ごたえなど予測でしかないのだが、体の動きからしてもっと粘度があってもよさそうな気がしていたが、どちらかというとぶ厚いフランスパンを斬る様なザックリとした不思議な手ごたえだった。


『Ginger、どうした?』

「ん、手ごたえが変言うだけじゃ。よう見とるな。このまま殿は任せてええぞ」

『なるほど。回復リソースはこちらから回すから好きに暴れてくれ』

 

 その時、どんな手を使っているのかわからないがクランメンバーでもないノートから音声通話で声をかけられる。Gingerはもはや事前の話し合いの時点でアサイラムが何をしても驚かないと心構えをしていたので聞こえているかもわからずに返答するが、当たり前のように返答が更に返ってくる。

 問題は今のノートの状況だろう。中ボス級を倒して殲滅指定対象に選ばれたのかGingerに対して分裂体が押し寄せて迎撃している中で返答しているGingerもGingerだが、かなり遠方で悪魔軍、FUUUMAを中心とした上方戦闘部隊、Gingerを始めとした脚部攻撃部隊を同時に指揮している中でピンポイントでGingerの僅かな挙動の変化に気づいてノートは声をかけてきた。


 無論、Cethlennのオリジナルスキルによって視野角が通常よりも遥かに広くなっている事もあるが、それでも3つの部隊を同時に、その上悪魔部隊はほぼマニュアル指揮が必要な状態でどんな視野の広さと頭の回路をしているのかとGingerは賞賛を超えてゾッとした。  



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― 新着の感想 ―
[気になる点] >>元が初期特だけに不壊属性があるので決して壊れないグレイプニルと、尾自体は初期特そのものではない天叢雲剣では尾は何か攻撃を受け止めればダメージは入る。 「グレイプニルとは違い」では…
[良い点] 更新ありがとうございます。 [気になる点] ヤマタノオロチか!
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] ノートだしおすし
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