No.63 ex アメリカさんたちの動向
さあ元気にゲリラ投稿じゃ~!
※時系列的には本編より少し後です。
※『Puppyちゃん』って誰?って方は設定厨隔離施設の感想返し①のQ4の回答にて言及していますので良ければご覧ください。名字が『犬』で小柄な彼女のアメリカ留学中のあだ名です。
『ハロー、JK。そっちはどう?』
私がフレンドである彼女にメニューの機能である思伝文で話しかけるとレスポンスは思いの他早かった。因みに普通のMMOじゃ当たり前の様にある通話機能はスキルとして存在しているか別個で習得していないと使えないらしい。何とも面倒な話だよね。
『順調に探索中だよ~ん!山登りなんて家族とむかーしにして以来だから楽しいね!そっちこそどうなの?チャイニーズさん達が一気に追い上げてるみたいだけど』
天真爛漫な彼女のことだ。そこに他意はない。けれど向こうの国の話をされるとちょっとムッとしてしまう。
『アイツらただ物量で押してるだけで芸がないから嫌いなのよね。ウチらにはっきり差をつけられることを知ったとたんにいきなり徒党を組みだすし、対抗心ばっかりで嫌だわ全く』
もちろん対抗心を燃やしているのは結局のところ此方も同じ。あの小柄な日本の友人から聞く日本サーバーののんびりとした感じとは少し違う。特に私が今チャットで話しているJKは『Puppyちゃん、Puppyちゃん』と大層懐いていたし、彼女が帰国する際には空港まで着いていき号泣したことも“本人の口から”聞いている。
確かにPuppyちゃんは日本人でも殊更感情を素直に表現しないタイプだったけれど、JKは逆に私から見てもとても素直に色々なことを表現する子だ。
彼女にも事情があるとはいえ、血気盛んな、というよりは少し過熱気味なアメリカサーバーは性に合わなかったのだろう。
一人別ルートで何処かを彷徨っているようで、日本サーバーに行きたい、Puppyちゃんに会いたいと口癖の様に言っていた。
そこまでPuppyちゃんPuppyちゃん言われると一友人として少しヤキモチめいた感情を抱きそうになるが、“勝つから楽しい”ではなく“のんびり自由に楽しい”がゲームをプレイする上での信条である彼女にとっては日本サーバーの方が性に合っているのかもしれない。
そしてオーバーな感情表現をするあの子を受け止めてくれるのもPuppyちゃんが一番得意であることも確かなのだ。
『またまたそんなこと言っちゃって~。嫌いっていうより好きって言った方が気持ちがいいんだよ?でも友達として応援はしてるよ!がんばれーーー!!』
JKは本当に素直でいい子だ。近くに居てくれるとやはり癒される。明るいムードメーカーできっと攻略組に彼女が参加してくれていたら私たちのクランももう少し明るい雰囲気になったのかもしれない。
Puppyちゃん曰く、ジャパンには『天は二物を与えず』ということわざがあるらしい。というよりは、『God doesn't give two gift to one person』元は英語のことわざなのだからジャパンにも同じことわざがあって驚いた。
しかしこの手のことわざってつくづくあてにならない。神様だって絶対選り好みくらいするだろうって少し辺りを見渡せば分かり切っている。
JKは明るく可愛くて、少し抜けているくらいに素直なのにそれでいてプロゲーマーになるくらいのゲーマーだ。
昔は体が弱くてベッドで寝ていることが多く、多くのゲームを幼少よりしていたことが幸いしていた、人と触れ合うのが好きなのもその反動だよ、と彼女は言うがそれだけでプロゲーマーになれるほどこの業界はあまい世界ではない。血で血を洗い、徹底して突き詰めて、コンマ0.1でも妥協を許さずに、やれることやって血反吐を吐く思いで漸くプロゲーマーになれる人がほとんどだ。
そして大変なのはプロゲーマーになった後だ。むしろここからが本番だ。
上には多くの経験を積んだ化物共、下からはより才能を持った宝石の原石がポコポコ湧いて出てくる。少しでも足踏みしてたらあっという間に置いていかれるのだ。
そんなプロゲーマー業界で、純粋に楽しんで明るさを微塵も失うことのない彼女は少し異質な存在として見られる事もある。勝てば幼子の様に素直に喜び、負ければ拗ねたりせず『また一緒に遊ぼうね!』と笑いかけることのできるゲーマーが何人いるだろうか。
ゲーマーという生き物は基本的に負けず嫌いなのだ。負けてそのようにふるまえるプロゲーマーが何人いるだろうか。
プロゲーマーは一度なってしまうとゲーマーとしての腕以上に非常に強靭なメンタルが必要だと言われている。門戸が広く競技人口は異様な多さを誇るこの業界で生き残りたくば、色々な物をあきらめなければならない。お山の大将で勝ち誇っていた時代は過去の栄光になり、後は無機質な電子が現実を突きつけてくる苦しいだけの世界だ。
しかしゲーマーという生き物はつくづく救えない生き物で、ゲームの休憩にゲームをするのである。まあ、これからのVR・Eスポーツの主流が第七世代VRになることは確定しているのでスポンサーからもALLFOで遊ぶように推奨されているのだから問題は無いとは思う。
ただ、もう少し気を抜いて楽しみたかった、というのも本音としてはあるけれど既にそれは諦めている。
その点、早々と攻略組とは逆ルートに舵を取り一人でのびのび遊んでいるJKは、天然なようで案外強かな所もあるのだと思う。
入院生活がそこそこ長かったせいか、彼女は人と接するのが好きな反面、一人で行動することもあまり苦にしないのだ。そういうところも結構ドライなPuppyちゃんとはJKも気が合うのだろう。
『そうね、第1シナリオボスの撃破から次のシナリオボスの出現場所は判明しつつあるから、早めに決着付けて一息つきたいところだわ』
プレイヤーの総数が多いだけあってシナリオボスの戦闘ではサーバー分けが起きるほどだったが、小サーバー1つ当たりでも100人規模で参加していた。それでもなお半壊し辛勝を収めるにとどまったシナリオボス戦は攻略組にとっても苦い記憶だ。
序盤のイベントに出てきた小ボス風情と同じに考えるとかなり痛い目に合う。きっとチャイナの連中も痛い目を見るに違いない。アイツらは基本的に物量戦だ。小サーバーで最大人数が区切られてしまえばお得意の戦術も使えないというわけである。
しかしこちらも気楽にしていられるわけではない。チャイナ陣営とはしっかりここで差をつけておきたいところだけれども、第二シナリオボスとなれば第一シナリオボス以上の難敵であることは予想される。
そして今のアメリカサーバーはチャイナと差をつけるためだけに少し性急になりすぎている感は否めない。
特に攻略組とライトユーザーの間、私達にとっても無視しえない『ライトな攻略組』といえるミドル層との温度差ができつつある。チャイナ勢は皆が皆で我が強すぎていつもその調子だとは聞くものの、このままではアメリカもそれを笑えない事態になるだろう。
私も、日本サーバーにいってみたいかも。
私はそうチャットに入力したが、それは一緒に切磋琢磨するメンバーに失礼に思えて取り消した。
SNSでよく会話するPuppyちゃんは随分と楽しそうにALLFOをプレイしているみたいだ。もちろん、こっちにいた時から彼女の口からよく話題に上がった『兄さん』と遊べるのも大きいみたいだけれども、それでも色々なことに自由に取り組めることがとても楽しいらしい。
『パンジャンドラムを作った』と聞いた時は一体全体何をどうしたらそうなるのか全然わからなかったが、一応攻略の役には立ったらしい。
地味にアメリカサーバーの生産最前線組を鼻で嗤う技術力を有しているように思えるが、それ以降は一向に口を割ってくれないので実態は不明だ。
もちろん、私が他の人にペラペラとプライベートなやり取りを口外しないことを見越して少しは話してくれてるのだろうけれど、時々まったく別のゲームでもやってるんじゃないかと思うほど彼女の口から聞くあちら側の様子は不思議な物だった。
最近日本サーバーでサーバー全体を巻き込むような大規模なイベントがあったらしいけれど、その引金を引いたのも聞けばPuppyちゃんたちだという。Puppyちゃん伝手ではなく、アメリカサーバーのプレイヤーから第一報を受けるほどの大規模なイベントで、その発端に彼女が関わっていると聞いた時は少し驚いた。
私のイメージでは、そういった大きな催し物に積極的に参加するよりは彼女は淡々と一人で攻略を進めるタイプだったからだ。どうも彼女の想い人である『兄さん』とやらは結構派手なタイプの人らしい。
どんな人かは少しはPuppyちゃんから聞いてるものの、一向にその具体像が見えてこない。
『こっちもねぇ、変な遺跡みたいなのを見つけたよー!頑張って攻略してるけど敵がすっごく強いんだよねぇ。ようやくお山を登ったと思ったら、その上に綿みたいなのがたくさん飛んでる山があるんだもん。そしたらきもちわるーい敵がいっぱい!』
山、ね。こちらはどちらかといえば海の方へ徐々に近づいているようだけれど、どうなっているのだろう。そういえばPuppyちゃんも暗い山がどうとか、ナ〇シカがどうとか、馬車で山から吹っ飛んだとか、よくわからない話を聞かされて途中から話半分で聞いていたけれど、なにか関係はあるのかな。
『回復薬もまともな食事もとれてないのによくやるわね』
『そこはもう、気合と根性だよーーー!!それにこの鎧のお陰で回復はあまり気にしなくていいし!』
ああ、“例の鎧”ね。あれさえ無ければ私は強引に彼女を攻略組に引き留めていたかもしれないけれど、“あれ”は大規模戦にとことん向かない。
彼女もそれを分かっていてさっさと大多数とは別のルートで進みだしたのだから、私がごねて引き留めるのも気が引けたのだ。
かといってキャラのリメイクを勧めるのも厚かましい。前向きな彼女は『これはこれでOKなの!楽しめればいいんだからね!』と言っていたわけだし。
きっと私だったら直ぐにキャラのリメイクをGMに要請していたけれど、彼女は実に楽しそうに“アレ”の可能性を探ろうとしていた。
そして彼女は既にそのポジティブさとチャレンジ精神をもってしてあのとんでもないじゃじゃ馬を使いこなしているらしい。けれど、半ば世捨て人みたいな状態なので食事事情は酷いようだ。
街に入れない彼女のために序盤に譲ってあげたフライパンと塩で、そこら辺に生えてる雑草のソテーを悲しそうな目でもしゃもしゃ食べてるスクショを見た時にはやはり引き留めてあげたほうがよかったのではないかと思ったほどだ。
最近は虫を捕まえてどうにか食べようとしているらしいが、悲しみのチャットが定期的に来るので難航しているらしい。
こっちでは 『名前を呼ぶことも憚られる物質』こと戦闘糧食は早々に亡き者として、昆虫食にスライドしているけれど戦闘糧食は鳥肌が立つほどマズいことに目を瞑れば腹持ちも空腹値の回復量にも優れていたのだ。
アメリカサーバーで昆虫食がようやくプレイヤー間でも流通するようになったのは第一シナリオボス討伐の手前。ただし腹持ちがよくないことが問題視されていた。
それでも毎食が雑草ソテーのJKからすれば贅沢な悩みなのだろう。彼女だけ変にサバイバル生活をしているが大丈夫なのかとても気になる。
彼女曰く『悪食』なる称号の取得で少しはマシになったらしいが、あの悲しげな顔を見るに根本的な解決には至ってないのだろう。
一方、JK同様に他のプレイヤー達とは全く別行動のPuppyちゃんのALLFO食事事情を聴けば、非常においしそうな『ハンバーガー』のスクショが送られてきた。丁寧に焼かれただろうバンズに分厚いパテ、レタスらしき野菜に推定トマト(なぜか紫っぽい)、チーズも非常においしそうだ。そこにカラッと上がった塩の利いているだろうポテトに、赤紫色のジュース。
昆虫スナックをぼりぼり食べてるこちらとは別世界の様な状態。
雑草ソテーを悲しそうな目で食べてるJKのスクショと並べると余計にJKの姿が悲しげなものに見える。
写真には相変わらず無表情な彼女がピースをして映り込んでいたが、『兄さん』とやらにスクショしてもらったのだろうか?写真のバックもログハウスのようで、現在地がさっぱり見えてこない。
もしJKと会うことがあれば、そのハンバーガーを食べさせてあげてほしい。
次にPuppyちゃんと話すときはそれを忘れずに伝えようと私は心に決めた。
(´・ω・`)実は今のところプロット的に起承転結の『起』の1/3にも到達していないのでさっさと進みたいけど読者さん置いてきぼりにならないようにバランスを整えるのに苦戦中デス。