No.479 Daredevil
全ての用意が終了し、幹部+アサイラムだけが甲板に立ち、それ以外のメンバーが戦艦の下で突撃態勢のまま待機する。
化物は悠然と2つ目の小山の下山を開始。その周りには既には軽く見積もっても十数万に到達する取り巻きがいる。
対するアサイラム+DD陣営は途中参加の連中がなんとか合流を果たし、非戦闘員含め約9000人。祭祀は今の所情報は無し。待っている暇はない。
依然として化物に攻撃行動の兆しはなし。予知スキルを発動しヌコォは観察しているがこれでも攻撃の兆しは見られないまま化物はこの地の王の様に下山していく。サイズが大きすぎるせいでかなりゆっくりに見えるが、実際の速度は時速70㎞以上の速さで動いている。
その大きな頭が、谷に差し掛かった。
「点火」
始まりはヌコォの罠から。Lucyより、徴収ならぬ提供してもらった遠隔起動機構を組み込み、毒を塗り込んだ鋼糸爆弾が起爆する。箱に詰められた糸が弾け飛び化物の顎に直撃する。更に誘爆する形で一帯の罠が全て起動し糸が斜面に飛び散る。この罠はアテナが開発した物の中でも極めて殺傷能力が高い罠だ。なんの準備も無しに踏めばノート達でも一撃死する程度には殺意が高い。そのとっておきの斬糸罠157基全てが炸裂する。
「(ダメージは通ってる。防御力はそこそこ。どちらかと言えばやはり再生力任せか)」
最前線に居た取り巻きに至っては罠だけで全身がサイコロステーキになりバラバラになった。
対して化物の反応は異常に鈍い。若干足が遅くなり、頭を軽く下げた。今何か踏んだ?くらいの反応である。ただ、その反応だけで化物の知能レベルや性格、タフネスなどが色々と見えてくる。これで致命傷を狙っていたわけではないので十分な成果だ。
「【DarkMass on the Terminator】!」
続けて第2スタートはゴロワーズのオリジナルスキルから。DDの中でも闇墜ち僧侶系が中心となり事前に教えられたとおりにイザナミ戦艦の周囲でMPを捧げイマイチよくわからないまま大儀式に参加する。
「【1st Stage:Twilight】!」
黄昏、陣地作成。
「【2nd Stage:Sunset】!」
日没、陣地強化。
「【3rd Stage:Midnight】!」
真夜中、環境干渉。
本来であればもっと時間をかけて段階を踏んで進む物だが、数十人も儀式に参加しており、その中には大量の称号を持っている初期特持ちが3人も参加している為に一気に儀式を進める事が出来る。闇に属する者達を強化し、イザナミの護りを強化し、周囲にも闇の力を浸蝕させる。
「【Nigreos/DeusVult/OverLimit】!」
続けてカるタ。今回の制約はエネルギー消費加速。対Heorit戦で使った制約だ。本来であれば無茶だが、スタミナ関係にかけては最強の補填力のあるダグザの食物がある為にこの制約でも戦闘が成立する。
「【Daredevil Regimental March/Queen’s Conductor】!」
十分に強化が乗ったところで続けてVM$がそのオリジナルスキルの名を叫び、手に持った錆びだらけのベルを一定間隔で鳴らし始める。それに合わせてレクイエムがコーラスを合わせる。手の空いているイザナミの死霊船員たちが肩を組んで合唱する。今発動しているバフは更に増幅され、全員に狂戦士化が発動するバフが自動で付与される。
命知らずの連帯行進曲。数々の死地に部下を突撃させてきた女王は、多くの部下の死を看取りながらも更に前に進めと命じる。不退転。決して撤退を許さぬ代わりに英雄の加護が宿る。英雄とは、逃げずに死地に立ち向かう者なのだ。
「【War Cry of The Doom's Beast】!Awoooooooooooooooooooooooooo!!!」
その行進曲すら凌ぐ咆哮が響き渡った。呼応するように待機するDDのメンバーも叫ぶと、更にバフは膨れ上がる。獣の力が皆に与えられる。夜間でもよく目は効き、どんな戦場でも指示を聞き逃さない耳、危険を感じ取る嗅覚、あふれ出る戦意。皆の目が赤く光り始める。
「「【蹂禛僭詆・粛清ノ偽典・天骪無法】!」」
「【戦覇真拳勝負】!」
オリジナルスキルリレーを締めるのはアサイラムの3人。
【蹂禛僭詆・粛清ノ偽典・天骪無法】は対象を確実に殺すという誓約をする代わりに相手の能力を大きく引き下げる極めて強力なオリジナルスキル。その代わり討伐する前に自分が死ねば強烈なペナルティが発生する。これを超常のレギオン級ボス相手に発動するのはかなりの賭けだが、トン2と鎌鼬はノートを信じて発動する。
今まで皆で繋いだオリジナルスキルリレーは全てバフだ。バフが次のオリジナルスキルを更に強化し、更にバトンを繋げる。オリジナルスキルも例外ではない。スキルなのだから強化対象になる。トン2と鎌鼬が詠唱をするとかなり身体能力が落ちたのか目に見えて化物の動きがおかしくなる。
そしてトドメにスピリタスの武装解除、近接強制。格上相手には効きが悪いオリジナルスキルだが、破格のバフを積んだうえで、トン2と鎌鼬のオリジナルスキルによって全ての耐性が下げられている状態なら、ぶ厚い耐性の壁を貫ける。
オリジナルスキルを攻撃と認識したのかボスは何かしようとしていたが、スピリタスのオリジナルスキルが発動すると不発したように転倒。滑り落ちて谷に沈んで狙い通りに止まった。
「やれ!」
ノートは迷わなかった。
オリジナルスキルリレー開始前から、天を貫くように屹立していた巨大な光の棍棒がゆっくりと化物に振り下ろされる。振り下ろされながら光は強くなり同時に棍棒が縮んでいく。力を凝縮するように。縮んで縮んでちょうど谷の一番下に到達する長さに調整される。同時に魔法をチャージしていたネオンが化物に棍棒が当たる瞬間を見定める。
そしてネオンは隕石召喚魔法をベストなタイミングで放つ。棍棒がちょうどその隕石を打ち落とすように。頂上の魔法が接触し化物の首の上あたりで融合。ネオンとCethlennでも制御できないほどに魔法が暴れ、光が膨らみ――――――――
大爆発。
音すら消し飛ぶ威力。ノートが第二ギガスピで聖女から逃走するために行った自爆すらも超える様な破壊が起きた。極めて難しい魔法融合をぶっつけ本番で二人は成功させたのだ。
エインが張った結界がビリビリと震える。灰交じりの粉塵が空高く舞い上がる。
バルバリッチャの仮面のカサマシはない。つまり今ALLFOのプレイヤーが自分達の力だけで発動しうる最高火力が解き放たれたのだ。
「(クソトカゲが。どんだけタフなんだ)」
が、一寸先も見えない様なレベルの粉塵の中でも、谷の下でも何かが強烈な光を放っているのが分かる。まだ、奴は生きている。
「報告。仮称ラヴァーリザードは生存。取り巻きは余波だけでほぼ全てロスト。ただ、今受けたダメージ分だけまた反応が増えている…………しかも大きい」
『((( ;゜Д゜)))3つになった!?なんでいきてんの!?』
「(第2フェーズか第3フェーズまで一気に行ったのか?それとグレゴリ、何を怖がってんだ。レクイエムも割と似たレベルのデタラメな生存能力だろ)」
『(´・ω・`)そうかな………?そうかも…………』
ノートはイザナミの遥か上空で待機するグレゴリの視界を借りて化物、仮称ラヴァーリザードを見る。グレゴリの目は特殊なのかこの粉塵の中でもハッキリとラヴァーリザードが確認できる。ラヴァーリザードは魔法が直撃すると上半身が完全にぺちゃんこになってペースト状になった。取り巻きは爆発の余波と吹っ飛んだ時に身体を叩きつけられ同じようにぺちゃんこになり、そのまま死んだ。
だが、親玉は強烈な光を放つと復活し始めた。
まず胴から形が作られていく。同時に元々は引きずっていた羽の部分らしきものが左右に大きく飛び散り、そちらも発光を始めマグマのようになり、そのマグマの中からラヴァーリザードの1/10程度のラヴァーリザードが這い出てきた。一方で胴から復活をした方はそのまま元通りに。結果的にラヴァーリザードはそのまま、ミニタイプが2つ増えた。何が問題と言えば、1/10と言えど元のサイズがサイズだけに数十mの大きさがあり普通にシナリオボスクラスを超えるサイズがある事。おまけに復活に使われず細かく飛び散った溶岩に関してはそのままそこかから今まで同じように1m級の犬とトカゲの中間のような溶岩の怪物が生まれる。
この取り巻きも1m級と聞くと大したことないように感じるかもしれないが。この1mと言うのは四つん這状態の前脚から頭までの長さだ。参考までにだが、リアルなら人一人簡単に殺せるツキノワグマのサイズは平均1m以上とされている。1m級というのはそういうサイズだ。
あり得ない威力の爆発に軒並み肝が据わったPKプレイヤー達ばかりであるDDも流石に絶句するが、ヌコォの報告を聞きCethlennは冷静に指示を出す。
「イザナミ、砲撃開始。パンジャンドラム発射用意。着弾後対ラヴァーリザード部隊出撃。続けて全軍、V字陣形で突撃」
顔を見ると上手く言葉が出てこないが、見えてないなら指示を出せる。
グレゴリの視界を借りたCethlennの指示はレクイエムによって増幅され全軍に通達。
戦いの火蓋が切って落とされた。




