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No.459 坊主の運が悪かった


 オンラインゲームに於ける「生産」の要素はゲームによって大きく扱いが異なる。

 例えば、NPCに生産の殆どを任せるゲーム。

 鍛冶や、装備を作るネームドNPC達が配置され、そのNPCに装備を作成してもらう。時にはレア素材を頑張って集めて装備の強化をお願いしたのに成功確率90%の癖に失敗して元の装備ごと破壊した挙句に「今回は調子が良くなかった。まあ坊主の運が悪かったと思ってくれや」という一切の謝罪もなしに此方に責任を擦り付けてくるクソNPCにくたばれと中指をおったてながら天に慟哭する事になる。なぜ中立NPCは蹴り殺せないのか、という恨みを運営にぶつけるしか無くなる。

 或いはクラフトの要素が強いゲームであれば、誰かにクラフトを任せると言ったことがなく、自分でクラフトをして更にクラフトをして……と生産を積み重ね、その成果を他のプレイヤーと一気にぶつけ合うPvP味の強い感じのシステムもある。この手のゲームだとNPCが生産に関わってくることは少なく、生産自体もPvPの前哨戦として扱われる。


 そんなMMOの中で、ALLFOはかなりハッキリと戦闘と生産で役割が分けられているゲームだと言えよう。誤解を招くリスクを承知で大げさに評価するなら、戦闘と生産で2本のゲームがあると言ってもいい。それほどにそれぞれの要素が深く広く膨大な要素を抱えており、どっちもやろうとするとかなりローペースでゲームをすることになる。勿論、出来ない事は無いが、時間が足りない物資が足りないと喘ぐことになり一生どのジャンルでも上位に競り合う事はなくなる。リアルに置き換えるなら、医者もやりながらスポーツ選手としても活躍しようとするものだ。もし両方に才能があったとしても当然時間が足りず器用貧乏以下に成り下がるのは誰でも分かる事だ。

 そしてALLFO側もALLFO側で、どちらかに振り切る事を推奨する様にイベントでは戦闘と生産をハッキリと分けたランキングを打ち出してきた。このランキングで上に登り詰めるのはやはりどちらかに割り切った、或いは何らかの分野で特化したプレイヤーだ(日本ではノートが戦闘も生産もランキング荒らしをしたせいでよくわからなくなってしまったが)。


 アサイラムがALLFOの中で大きなアドバンテージを獲得しているのも、ただ所属するプレイヤー達が強いだけでなく、しっかりとした生産体制によるバックアップを可能としているからだ。勿論、その分だけ課金でバックアップをしたりと金銭的な負担はかかる事で地味に釣り合いが取れていたりする。


 実はこの戦闘を生産と大きく分断するようなシステムの作り方が、ALLFOではPKを抑制する一つの要素としても機能している。ALLFOでは通貨(MON)の価値が流動的で、性質によってNPC達の態度もかなり変わる傾向がある。PKをやれば性質が悪性に傾き、教会管理下の街に住むNPCからの好感度は下がり、アイテムや武器などでは思い切り吹っ掛けられる。かと言って自分で生産しようにも素人がちょっと弄った程度は全く話にならない。

 では仲間内で誰かが生産サイドに回っても、生産技術に関してもスタートはNPCからの教導がないと一からやる事になり、効率が極めて悪くなる。そして教導を出来るNPCも悪性の強いプレイヤー達に対してはあまり教導をしてくれなくなる。

 こうして生産方面から遠回しに力が削がれる事でPKプレイヤーは序盤から思うように活動できないようになっていくのだ。


 故に、このような大規模なPK団体に専属で手を貸してくれるプレイヤー達は非常に貴重だ。中には最初は普通にPKとは関係なく生産活動に勤しんでいたが、周囲のプレイヤー達とトラブって追われるようにPK側に流れ着いた者も居るだろう。そんな素性でも、彼らはDDにとって明確な生命線であり急所の1つだ。


 が、実際にそう評価してくれるPKプレイヤーが多いかと言うと、残念ながらそうではない。

 元よりPKプレイヤー達は「性格が良い」と評されるような人物たちではない。むしろ対角。時には敵を煽り倒し、人を殴り倒すことも厭わぬ者達だ。

 「自分で戦う力がないから生産にまわってる」、そんな口さがない事を生産担当者達に面と向かって言ってしまう奴も中にはいる。問題はその言葉が100%間違いと言うわけでもない事だろう。好きで生産をやり込んでいるプレイヤー、PKと言うアウトローの裏方に回る事を楽しむ連中もいるが、本当は戦いたくても戦闘センスがないから仕方なく、それでもアウトローへのあこがれを諦められずにPKの生産に回っているプレイヤーもいるのだ。あるいは好きで生産をしているプレイヤーでも、その様なことを言われれば気分は悪くなる。1つ1つは小さな積み重ねでも、積もればマイナスの感情は大きくなり不和は広がってしまう。

 加えてとある理由でDDと言う組織は余計に戦闘部隊と生産部隊で意識の違いがあった。

 

 その組織がどれほどの安定した強さを持っているか。

 それをALLFOで測る1つの指標が戦闘組と生産組がどれくらい連携できているかどうか。事実、日本サーバーで生産組組合がトップに上り詰めたのも元が生産組の強い母体を持っており、生産を重視しているからだ。生産へのリスペクトがあるから戦闘組も全面的に生産組をバックアップしている。

 ノートはDDと言う組織を改めて見定めるために――――それを目的の1つとして――――DDの生産担当者が集まっている区画に来た。


 ノートが顔を出すと、そこはショッピングモールのフードコートの様になっていた。この各ブロックで生産担当達がそれぞれ作業をしているのだ。アメリカ時間では早朝でありながら生産活動をしているプレイヤーは驚くべきことに多い。それは彼らの多くがNPCからの教導を捨てても技術的に劣らない程度には研鑽が出来る廃人という事であり、同時に一部では多くの戦闘組がいる時間を敢えて避けているプレイヤーがいるという事実も浮かび上がる。

 DDという世界トップクラスの生産担当達も戦闘組と完全に協調できているわけではないのだ。


 ノートがいきなり入ってくると生産活動をしていたプレイヤー達の反応は様々。その中でも昨日演説会にいた生産担当達はわざわざ手を止めてノート達を歓迎した。


「おはようございます!あ、そっちだと夜ですかね?」


「おはようございます。ええ。まあこういうゲームだと面倒なんでどの時間帯でも『おはよう』でいいんじゃないですかね」  


 生産担当達がノートに好意的なのは、ノートが先日のオークション中に生産の重要性を訴えていたからだ。

 私達は生産体制が確立しているからこのように食事を振舞い、武器を取り出し、装備を新調できる。生産はALLFOの生命線だ。そう力強く訴え、更には知識欲を全開にして色々と聞いてくる生産担当達も無下にせずに答えられる範囲で出来る限り丁寧に答え、DDの生産技術を賞賛していた。技術職としてこれを喜ばない奴はただのひねくれ者だ。自分の成果を称えられたことで精神的にもプラスに傾いており、殊更好意的だった。


「しかし、本当に設計図や配合図を提供してもらってよかったんですが?一子相伝級ですよあんなの」


「まあ昨日も一応説明しましたけど、設計図は最新版ではないですし合金配合の一部の金属に関しては環境によっては入手が難しいと分かった上で渡しているので。作りやすさと丈夫さ、安定性を優先した型ですね。リアルで言えばAK-47みたいポジションに近いですね。こういう――――――」


 ノートはインベントリから魔術的な刻印を大量に施された独特な形状を有するフルオーダーメイドの拳銃を取り出した。


「――――――相手の回復能力すら食い破るみたいな特殊な銃でもないですし、友好の証という事で有効活用してください」


「「「「おお~」」」」     

 

 それは素人目でも分かるほど特殊な拳銃で、鑑定や生産に関する知識があるプレイヤーであれば更にその拳銃に使われている技術の特殊性が実感できる。理性でなんとかこらえていたがノートを出迎えたプレイヤー達は今にもかぶりつかん勢いで嘗め回すようにノートの拳銃を見ていた。


「ではこちらへどうぞどうぞ」

「こちらコーヒーでございます」

「さぁさぁ」 

  

 これはまた面白い事が聞けるかもしれない。生産担当達の期待もひとしお。彼らはノートにいわれるまでもなく自分たちの仕事場を案内し始めた。


 

  

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― 新着の感想 ―
[一言] これ今回の一件が終わっても色んな意味でアサイラムと手を切る流れがほぼほぼなくなってるなぁ…… 心情的にも実利的にもメリットがでかすぎるw
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] 四方八方にバラマキすぎだろう、この人
[一言] 既に種は撒かれていたッッ!!!
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