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No.450 Doom


 開門。

 重く閉ざされていた扉が開き、この基地のメンバーの多くから1killを取ったとは思えないほどの少数のメンバーが門を潜り、今まで誰一人として部外者の侵入を許さなかった要塞への入場する。

 それはつまり、リスポンポイントの更新を許すという事である。


 1killでデスペナを付けられたとはいえ、プレイヤー達は不死身だ。要塞の各地から彼らは要塞の中に入ってきた面々を見る。その目には好奇心があり、警戒があり、そして微かな恐怖があった。

 

 アサイラム。

 日本サーバーを拠点に暴れ回るバランスブレイカー。

 それが何故か今、日本サーバーとは別のサーバーのとあるエリアの奥地に居た。


「言いたいことは山ほどあるが、とりあえず歓迎しよう」 

「ええ、歓迎感謝します。『The Doomed Division』のお頭さん」


 ノート達を出迎えたのはアメリカサーバーPKプレイヤーの総大将。

 皆から『お頭』の愛称で親しまれているその男は変身しなくても身長が2m近くあり、全身が筋肉質で腕も脚も丸太の様。敢えてそのままにしたのかそれとも補正で足したのか、腕は毛むくじゃらで、もっさりと濃いもみあげは顎髭と繋がっていて非常にワイルドな感じの男だった。

 

「『Gandr(ガンド)』だ」

「クラン、アサイラム連合の盟主です。『Blue(アオ)』とでもお呼びください」


 いけしゃあしゃあとノートは偽名を名乗り、ガンドと名乗ったお頭が差し出した手を握って堅く握手をする。


 ノートの後に続くのは8人のメンバーと、更にその後をゆっくりと歩く幽霊馬車。無遠慮な視線に晒されているが、誰もかれもそれぞれの事情で多くの人から見られるのには慣れているので特に動揺する事もない。扱いは動物園のパンダか、或いは下水道に出たワニか。好奇と興味と恐怖の入り混じる視線だ。

 お頭はメンバーを見て、上から見ていた時には確認できなかった鎌鼬とヌコォを注視するが僅かな間だけで直ぐに視線を戻した。


「とりあえずお互いもう少し腹を割って話そう。付いてきてくれ」


 こっぴどくやられた後だが、ほぼ全滅させられた後ということだけあってか誰もお頭に反対しようとする声はない。反意があったとしても口に出せる空気ではない。それほどの脅威であることをアサイラムは見せ付けていた。

 お頭を先頭にノート達は素直にアメリカサーバー第5章開放エリア西部に位置する独立要塞都市『ラザルオア』を歩いていく。その間に死に戻りから復帰した二名の副官もお頭に合流した。


「Hi!ドーモ。アサイラム=サン!歓迎するでゴザルよ!」

「…………チッ、うっせーぞゴザル野郎」


 1人は目元以外を全身布で覆った軽装の人物。

 日本人であるノートからすればまさしく忍者と言うべき格好をした人物ではあるが、その性格は非常に陽気で先ほど倒されたにも関わらずフレンドリーだ。その性格はテンプレートな忍者とはほど遠いだろう。そして何故か英語を話している筈なのに語尾には「ゴザル」という忍者っぽい語尾が付いている。

 なのでノートは意識して聞こえる言葉を英語に切り替えてみたのだが、どうやら普通に英語を話した後に文法を全て無視して「ゴザル」と語尾の様につけているようだ。それをALLFOの翻訳フィルターに通すとまだ普通に聞こえるようになるらしい。これは翻訳の検証に於いて面白いデータが取れたと思いながらノートも忍者モドキに挨拶を軽く返しておく。


 一方、そんな陽気な忍者を罵倒するのは見るからに不機嫌そうな男。青みがかった黒髪に水色がかった銀色の軽鎧。全体的に青色で纏まっていて、どことなくパンクな要素も入っており自分の性格をよく理解したファッションセンスをしている。が、其れよりも目立つのは明らかに通常の武器とは思えない青いエフェクトを漂わせる三叉槍だろう。今も手には三叉槍を持っており、いつでもこちらに突き出すことができそうな状態だ。雰囲気も明らかに苛立っており、先ほどの敗戦を確実に引きずっている。その負けず嫌いな一面を隠そうともしない在り方は対人勢としてノートは好ましく感じた。

 そう、こんなにフレンドリーに接してくる忍者男の方が普通は珍しい。対人と言うのは負けたら悔しくて苛立つ方が正常なのだ。


「…………………」


 と、いつの間にか3人目が合流していた。外の戦闘では姿を現していなかったプレイヤーだ。小柄な体格で、黒いローブを深くかぶっており性別は不明。何故か一抱えもある鍋を背負っており、その鍋は火もないのに煮立っている。そんなプレイヤーはノート達にぺこりと頭を下げるとお頭の横を歩き出しボソボソとお頭に何かを話していた。

 

 ノートが事前に調べた限りでは、これが『The Doom Division』の中核となるメンバーに違いない。本当はもう一人いるはずなのだが、今は居ないようだ。アサイラム側も現在ネオンなどがログインしていないのでリアル側の事情ともなれば仕方がない。


「ガンドさん」

「なんだ?」

「少しよろしいですか?」


 そろそろ要塞の中央に至る所で、気さくに話しかけてくる忍者との会話をそこそこにお頭に近づいたノートは事前にとある事を記した紙をお頭に渡す。お頭は訝し気な顔をしつつも何故か仄かに光るその紙を受け取って読むと、立ち止まって沈黙した。


「どうでしょう?」


「…………少し待ってくれ」


 お頭は紙の内容を鍋を背負ったプレイヤーにも見せた。それを見るにお頭が鍋を背負ったプレイヤーの知恵を信頼している事が分かる。鍋を背負ったプレイヤーは内容に目を通し、すぐにそれをインベトリにしまうとお頭にボソボソと何かを伝えた。


「よし、このままついてきてくれ」


「なに渡したんでゴザル?」


「ナイショです。まあ後で話します」


「そうでゴザルか。なら楽しみにしておくでゴザルよ!」


 当然そんな変なやり取りを目の前で見せられては忍者男が反応しないわけもないのだが、忍者男は非常に素直なのか深く突っ込んでくることはなかった。どちらかと言えば口のこそ出さないが三叉槍の男の方が余程ノートを訝しみ睨んでいる様だった。


「いやーそれにしてもアサイラムの皆と会えるとは本当に驚きでゴザルな!前々から話してみたいことが沢山あったんでゴザルよ!」


「此方としても、以前からDDの皆さんとは色々と話してみたかったんですよ」


 『The Doom Division』。通称DD。

 アメリカサーバーであれば知らない人はいないであろうPKプレイヤーのトップ同盟であり、その構成人数は非戦闘員含めて1万人以上と推定されている。世界的に見てもトップクラスのPK団体だ。PK団体の中でもかなり攻略組に寄っている事も有り、拠点は大体前線にあるが何度か居場所を変えている。

 そして最大の特徴はその構成人数の多さと同時に、他のPK団体にない物を2つ持っている事にある。

 1つは『独立拠点』。原理は今の所一般では知られていないが、DDは本来継続開拓不可能なはずの土地を開拓し拠点を築く事が出来る。この要塞も本来は存在して居なかったモノで、DDがほぼ一から建設したものだ。

 そしてもう一つは初期限定特典持ちが5人確認されている事。

 拠点建築、構成人数、初期限定特典。この3つの強みを持ったDDは多くのプレイヤーから疎まれつつも未だ完全に駆逐されずにいた。むしろPK団体のトップの1つとして今も構成人数が増え続けている状態である。

 

 そのDDのトップに君臨しているのがお頭、ガンドと言うプレイヤーで、それを戦闘面で補佐するのが忍者男と三叉槍の男、2名の初期限定特典持ちである。当然お頭も初期限定特典持ちだ。


 ただ、DDは少し面倒な事態に陥っていた。



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― 新着の感想 ―
[一言] もしかしてDDのお頭も「王」の資格得てる? 独立拠点を保有できる・できないの境界線が「指導者とそれが率いる大集団の有無」というのは理解できる落着点ではあるし
[一言] ユニーククエストから逃げるな、ノート。
[一言] >>『The Doom Division』。通称DD。 名前がカッコいい! >>その構成人数は非戦闘員含めて1万人以上と推定されている。 なんか、まさにアサイラムの正反対みたいな感じ…
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