No.57 天使と悪魔の対立※小学生並みのアイデア
tadanokimagure
hukkimadenokuitunagigerira
「んじゃ、頼むぞ」
ノートがメンバーのメンタル状態を回復させたところで、ネオンの天然発言で後回しになっていた自分の策を試すことにした。といっても、それは子供でも簡単に思いつく物だ。
使うのはアテナの生成する最も上質な糸、それにゴヴニュが錬金術で金属を融合。異常に丈夫な糸を更にヌコォ設計・アテナ製作の縄編み機にセットし非常に強力な縄を製作。
一つはその取っ手に、一つは再召喚した幽霊馬車に括り付けて全力で走ってもらうだけだ。
結果、縄も、馬車も負けず、かといって取っ手だけぶっ飛ぶようなオチもなく、まさかの土台ごと吹き飛んで見事ノート達はその強固な扉をこじ開けることに成功した。
「いや、どんだけ固く閉じられてるんだこの扉」
「枠を固定している土台が一番脆かった?経年劣化が激しかったのかもしれない」
「これあれだよねぇ、『絶対に開けられないし破壊できない扉』の周りを破壊しちゃったパターンだよ。本当は鍵とか必要だったのかなぁ?」
「まっくら、ですね…………」
予想外の展開に各々が異なる反応を見せる中、扉ではなく土台のほうが吹っ飛んだのがツボったらしくスピリタスはゲラゲラと笑っていた。
因みに、ユリンの予想は正しい。しかしどこかのおバカの暴走でそのカギは真っ黒こげになり現在は消息不明状態である。探せば見つからなくはないだろうが、完全に大量の煤の中に飲み込まれているのだ。
そう、このエリアは炎で突破できるものの、炎を使ってしまうと重要なアイテムまでが失われてしまうというトラップが仕掛けられている。
なので炎が有効であることを知りながら使えないと言うジレンマに悩まされるイライラエリアなのだが、それをノート達は力技で突破してしまったのだ。
「まあ、なんだ、結果オーライじゃないか?この矢鱈堅い扉もゴヴニュとかアテナのお土産にピッタリだろ?」
「確かにあの二人なら喜びそうかもねぇ」
そんな事は露知らず、ノートは幽霊馬車のアイテムボックスにその扉をしまい、真っ暗な穴を覗く。
「取り敢えず照らしてみるべきだが…………」
「ノート兄さん、それは危険」
この手の物は照らした瞬間にドーン!なホラゲーパターンか?と考えるノート。その考えにヌコォも賛成であった。
「こういう時こそ、アテナ達の絡繰りを試してみるべき」
ヌコォがインベントリから取り出したるは、長方形の箱にキャタピラとゼンマイを取り付けただけの非常にシンプルな絡繰りのおもちゃだ。発表会で納品してもらった道具の一つである。
そのおもちゃに別の仕掛けを付属させて更に縄を括り付け、ゼンマイを限界までまく。それからその括り付けた縄を使いおもちゃをその穴の中に降ろしていく。
縄の長さにして3.6m、そこまで到達すると非常に微かにコツンと音がして、キャタピラがカタカタと動き出す音が聞こえる。
「おいおい、思ったより相当深いな…………」
「調子にのって飛び込んでたらアウトだったなっ!」
「そんなことすんのお前ぐらいだわ」
彼らは耳を澄ませてキャタピラの反応を伺うが、特に異常はなかった。
そしてここでヌコォが付属した仕掛けが時間差で遅れて発動。パン!と大きな破裂音と共に品種改良されまくり別物と化している【深霊禁山産発光苔】が周囲にまき散らされる。
「苔って、あんなに、光るんですね…………」
「どんだけ品種改良するとあんなことになるんだ?」
ネオンが思わず呟くくらいに、その苔の発光具合は自己主張が激しかった。なんせ元々の苔はほんのり控えめに、擬音を付けるなら『ぽわわわ…』的な光り方(それでもリアルの自然発光物質よりは派手)なのに、魔改造済みの苔は『ぺカーーーー!!!』と思いっきりLEDライト顔負けのレベルで強く発光していたからだ。
そんな苔により明るく照らされた穴の中は、大きささえ考えなければ石の様な材質で創られた一見普通の蔵の様な物だった。
「奥に積まれているのは、なんだろうな?」
「なんか、ドラム缶に見えなくもないかなぁ?」
其処にあるのはユリンが指摘したようになにかが入っていそうなドラム缶チックなもの。ノートは念には念を入れてスケルトンを召喚し中で自由に動いてもらったが、敵が出てくる事も無ければ特に異常もなかった。
「これさ、わざわざ降りなくてもアンデッド達を使えばどうにかなるよな」
だが、石橋を叩いて渡るどころか粉砕して別のルートを歩くような男はまだ警戒していた。
なので、こんなこともあろうかとゴヴニュとアテナに用意してもらっていた小型の滑車を設置。即席の簡単なリフトを創り、倉庫内に召喚したゾンビたちに物資の運び出しを行ってもらった。
しかしこの行動は図らずも大正解。
もし下に“生者”が降り立てばその時には凶悪なトラップが発動したのだが、ノートはそれを勘と死霊というチート要素でスルーしてしまった。
「なあノート、ゲームだからなのかもしんねんけどよ、ちょっと変だよな?」
「ん?なにがだ?俺の死霊の事か?」
少しおかしな迄に便利な死霊たちにスピリタスも遂にツッコミを入れるのかと思いきや、スピリタスの指摘は全く異なる物だった。
「階段もねえ、こんな高さの部屋に、どうやってこのドラム缶だかタンクをはこびこんだんだ?って思ったんだよ。そんだけだ。でもよ、これどうも中身がはいってるみてえじゃねえか?実際持ってみようとしても一人で持ち上がんねえくれぇだぜ。ノートだったらどうやって運び込む?」
スピリタスのそんな疑問に、ノートはなぜか強い引っ掛かりを覚える。
確かに、それは『ゲーム』として「そういうものなんだ」片づけることは可能だ。
例えばホラゲーにでてくる屋敷は悉く異常に手の込んだ絡繰りなどが仕掛けられているが、実際にはあり得なくても『ゲーム』にそんなツッコミは野暮という物だろう。
しかし、今までノートが見てきた『ALLFO』はたまに嫌になるくらいのリアリティを突き詰めてきた。そしてスピリタスの指摘したポイントはノートにとって明らかに違和感を覚える物だった。
改めてノートは周囲を見渡し、あらゆるバイアスを削り取りもう一度観察する。そしてある単純な見落としに気づき、ニヤッと笑った。
「なるほど、そういうことか。この集落は……いや、これはとんでもない大当たりなのか?」
「んだよ?一人で納得してねえで教えてくれよっ」
「まだ確信できてないから後でな。だが確率的にそう低くはないはずだ。よし、どんどん開けていくぞ!」
そして同様の手口で床下荒しを行うこと十数回、ノートは自分の予測が高確率で正しいことを確信するのだった。
◆
ノート達は偶に突撃してくる魔物共を捌きつつ、システマチックに中に収められていた物資を、用途不明であろうととりあえず根こそぎ回収。おそらく本命であろう一番大きな建物のみを残しノート達は状況を一度整理することにした。
「ドラム缶の中身は推定:薬剤。まあこれは帰ってからバルちゃんに鑑定してもらおう。それ以外では『食料品らしきもの』、武骨で巨大な剣や槍、盾などの武器、材質不明の皮製品、それと用途不明な絡繰りや時計か。動力源が電力ではないだけで充分精巧な技術が使われているように思えるな」
「ああ、そうだな。でもよ、オレがちょっろと街にいた期間にこんな物は見なかったぜ?」
「そりゃそうだ、これは『人間の作った物じゃない』からな」
そのノートの言葉に呆気にとられるメンバー。ノートは辺りを見渡すようにジェスチャーする。
「この村は、かなり大きかったよな。道幅もそうだ。『幽霊馬車』が十分に加速できるスペースがあるんだよ。しかし…………それは不自然じゃないか?このエリアは大きいがおそらく『街』ってわけじゃない。『村』だ。そしてもう一つ、胞子のせいで見落としがちだが、この村、色々なものが大きすぎないか?」
ノートの言葉に改めて焼け落ちた村を見るユリン達。
一見、そこまで極端に大きなサイズには見えない家屋だ。しかしヌコォはとある共通点に気づく。
「この建物、大きさは『二階建て』なのに全部『吹き抜け構造』?」
「そう、それだ。このファンタジー世界で二階建て構造の建物を建てるには相当の労力が必要だろう。平屋建てならわざわざ天井を高くする必要もないし『そのほとんどに地下室がある』のも不思議に思えてくる。しかもただ掘っただけでなく、全てが家の様相を成していた」
「ふつうに、やろうとしたら…………いえ、スキル、なら…………?」
「いいねネオン。そうやってドンドン考察してくれ」
ネオンの成長を見逃さずしっかり褒めたところで、ノートは更に続ける。
「最初に切っ掛けを与えてくれたのはスピリタスだった。ここにある物、重すぎるんだよな、そのどれもが。『まるで根本的に筋力が違う存在でない限り不便なくらいに』、全てが重くスケールが大きめだ」
「重機みたいな力を持っていればぁ、地下室を作るのも早いかもねぇ」
「そうだな。そして根本的に体のサイズも違ければ、作れるもののサイズだって変わってくる」
それは家屋然り、見つかった物資然り、特にオブジェクトと考えたほうが納得できる軒並み大きい剣や槍、盾は決定的だった。
「そしてこの『時計』を見てくれ。俺達は形状から時計と考えたが、刻まれた記号は数字ではないしその数も12以上だ。見たことのない記号だからサッとみると12の記号しか見えてこないが、よく見ると16種の記号がある。それとこれはユリンしか覚えていない筈だが、ここで回収した人形、変な形状をしてたよな?」
「確かぁ、アテナの召喚に使ったやつでしょ?元々かなり痛みきってたけど、髪の毛が太すぎて手なんだか髪なんだかよくわからない感じだったよねぇ」
何だか異様に不格好な素人が作った感満載の人形だったので、その人形はユリンもよく覚えていた。それを聞きノートはニヤッと笑う。
「人間がなぜ10進法を基準にするのか、それは指が10本だから、らしいな。言い換えれば指や腕の数が違えば、例えば『タコは8進法で世界が見えてるはずだ』なんて定説があるそうだ。そして時計に12進法が使われているのは、12が2でも3でも割れる便利な数字だから、という説がある。
もしこれが時計なら…………16種の記号は何を、太すぎて髪だか腕だか分かりづらい不細工な人形は、サイズ感のおかしな村は、ALLFOの世界の人間の技術とは異なる技術体系や技術レベルの物資は、何を示唆するんだろうな?」
天使と悪魔の争い?とんでもない。もっと面倒で複雑なものを仕込んでやがる。
『これだけの作りこみをしといて、ALLFOのメインストーリーが初っ端でいきなり明かされる『天使と悪魔の対立』なんて小学生でも思いつきそうな物で片づけるのか?』
『初期限定特典勢はただ暴れるだけで、ずっとメインストーリーの蚊帳の外なのか?』
ノートはそれがずっと疑問だった。
そしてその疑問の答えの欠片は、目の前にあった。漸く与えられた。
「さすが神ゲー、そうこなくっちゃ」
ノートはALLFOがまだ素知らぬ顔して隠し持ってるポテンシャルに、歓喜の笑みを浮かべるのだった。
kosimettyaitai
dousite
※皆様の下さる感想はきちんと拝読させていただいております。返信も追々致しますのでどうかよろしくお願いいたします。




