No.Ex 外伝/ノ▇▇ト▇▇の義妹です。この度は義兄が世間の皆様をお騒がせしてしまい申し訳ありませんでした。事件についての全てをお話しします
時系列少々遡り年明け前
カチンと鍵のロックが解除される音がした。
弟は、竜ちゃんは出かけてるけどまだ帰ってくるには早い時間だし、夏恵ちゃんが帰ってくるにのは明後日って聞いてるし…………父さんも義母さんもまだ買い出しに出かけてるはずだし…………忘れ物でもしたのかな?それなら私が届けたのに。
一応誰がきたのか確認するつもりでリビングから玄関に歩いていきます。
「おかえっ………!?おかえりなさい!」
「…………ただいま」
そこには予想もしていなかった人がいました。荷物を玄関に置き、コートを脱ぎながら仏頂面をしている。あまり機嫌は良くなさそうだけど、私にとっては見慣れた顔です。
「今年は帰省してくれたんですね。今父さんたちが買い出ししてるからとっちゃ………義兄さんの分も買ってくるように連絡を「いいよ、別に長くいる気はないし」」
未だに、この人を1対1の場で兄さんと呼ぶのは慣れない、ずっととっちゃんと呼んでいたから。
『俺はお前らの兄じゃない』
そう冷たく言い放ったあの時の顔を思い出すから、それ以降は元々の愛称で呼ぶように気を付けていたから、慣れない。数年前、ようやく許されたようなものです。だから、こうしてこの人を兄と呼べるのは嬉しくも、同時に微かに辛くもあります。ただ、この辛さは私の個人的な事情だから表に出すことはないけども。
「い、いつまでいるの?」
「明日にはもう出る。飯は自分で勝手に解決する。今日は顔出しに来ただけ」
「そ、そうですか。年越、あ、いえ………なんでもないです」
年越しまでいませんか。
そう言いたくなったけど、無理に距離を詰めるのは良くない。連絡なしで不意打ち気味の帰省だけど、帰省してくれただけで良くなったのですから。
「夏恵達は?明都さんと母さんは買い出ししてんだよな」
「えと、夏恵ちゃんは帰省は明後日で、竜ちゃんは出かけてます」
「わかった」
夏恵ちゃんの帰省が明後日。私がそう言った時、義兄さんの顔が微かにホッとしたような顔をした気がしました。気のせいで済むぐらいの変化だけど、いつも顔色を伺ってしまっていたから兄さんの顔色の変化には殊更敏感になっているのかもしれません。
義兄さんとその実妹である夏恵ちゃんの関係は家族間の中でも恐らく一番冷え切っています。お互い顔を合わせたくないのでしょう。お互いの言い分も私としては理解できるところがあるので、私は何も言えません。夏恵ちゃんも義兄さんに強く当たってしまう事を本当は悩んでいるのを知っているから。例え血の繋がった兄妹でも、いえ、同じ血が流れているからこそ、性格の相性の悪さが殊更目についてしまうのかもしれません。
けど、義兄さんが感情論で相手するのも夏恵ちゃんくらいなのかもしれません。義兄さんはあまり本気で怒るようなタイプではないし、一度口を開けば合理的に諭してくる事が多いです。感情的にぶつかり合うのも血のつがった家族相手だからなのかもしれませんね。
お互い、心底憎み合ってるわけでもないのに…………もう少し、素直になればいいのに、それは本人たちが一番わかっているけど、それでも難しいことなのでしょう。
兄さんのコートを受け取る。持っている荷物は思ったより多いようです。
明日はどこかに泊まりに行くのでしょうか。義兄さんの人間関係は私も良く知りません。リンちゃんの家が隣にあるから感覚がおかしくなりそうですけど、遊佐家もかなりの有名人一家です。更には1度だけ、女性を3人程連れてきてたのを見たことがあります。私が忘れ物して偶然家に戻って、あの時の義兄さんは見た事ないほど焦っていて、私に何度も口止めをしてきました。
ただ、そのうちの2人の女性に関してはあとあとでニュースで何度も見かける様な人達で…………けど、義兄さんが非常に触れて欲しくなそうさな感じだったのでついぞ聞けずじまいです。まだあの綺麗な人たちとは関係が続いているのでしょうか。ジアさんとはお付き合いを続けてるのはジアさん経由で知ってるんですけれど。
「外、寒かったですよね?コーヒー飲みます?さっき丁度淹れる用意をしてて」
「ああ、お願い」
昔はまともにリビングにすら顔を出さず玄関から階段を昇り自分の部屋に直行していた義兄さんですけど、今義兄さんが使っていた部屋は竜ちゃんが使ってるから上に行くこともなく、リビングにいます。自分の家のはずなのに、ソファに座る義兄さんはリラックスしているというよりはどことなく他人の家にいるような、アウェーな場所にいる様な空気です。
「ありがと」
コーヒーを淹れて、マグカップを手渡す。
牛乳を入れて、砂糖はなし。言われなくても義兄さんの好きな飲み方は覚えています。
「…………」
「…………」
私は、牛乳も砂糖も多めです。苦いのはあまり得意ではないけど、コーヒーの香りは好きです。
リビングには天使が通っている。普段は気にした事もない時計の秒針の音がやけに大きく聞こえたのは、私も緊張しているからだろうでしょうか。
家を出た後の義兄さんの動向に関して私が知っていることはあまり多くありません。ジアさんが偶に教えてくれるけれど、これが一番の情報源になっている時点でまだこの家庭には問題があります。国家公認カウンセラーとして働ているのは知っているけど、どんな感じで働いているのかとか、どこに住んでいるのかすらも知りません。ジアさんも私に渡す情報はかなり絞っているように思えます。恐らく、義兄さんに気づかれても問題ないレベルの情報しか渡さないようにしているのでしょう。それを咎めることはできません。教えてくれるだけ、万が一の時に義兄さんと直ぐに連絡を取れる人がいるだけ安心ができます。
それはリンちゃんもなんだろうけど、リンちゃんとは私も仲良しとは言いにくいので、連絡を取る事は難しいです。一応、連絡先は知っているけれども。
ジアさん情報曰く、外での兄さんはとてもお喋りらしいです。
確かに昔の義兄さんは、家族になる前の義兄さんは、私が周りの大人に合わせて『とっちゃん』と素直に呼んでいたの時の義兄さんは、明るくてお喋りでイタズラ好きな子だった記憶があります。私が人見知りして縮こまっていると、明るく挨拶して、笑わせて、手を引いて歩いてくれていた。そんな思い出。
この家で見るのは、いつも不機嫌そうな顔ばかりだったけれど。
こうして2人でゆっくりとコーヒーを飲めるようになっただけ、進歩しています。
昔ほど、この沈黙で苦しくなりません。
そういえばこれもジアさんから聞いたけど、ジアさんは義兄さんはゲームで知り合ったと聞いています。義兄さんはゲーマーと言っても過言ではないほど色んなゲームをしているらしいです。いつも部屋で何をしているのだろうと昔は思っていたけど、VRのゲームをしていたのでした。
だから、ゲームの話なら、義兄さんとも話せるだろうか。あまり深く踏み込むのはまだ難しいけど、世間話くらいには悪くないと思う。
「あの、義兄さん、ALLFOって知って…「ゴフッ」義兄さん?だ、大丈夫ですか?」
「ゲホッ、あ、ああ。ちょっと喉の変なとこに、ゲホッゲホッ」
急に兄さんが咳き込みました。いきなり話しかけた事で驚かせてしまったでしょうか。
けど、兄さんは怒ったり驚いたりしているというよりは、何か、焦っている?
「それで、ALLFOがなに?」
暫くして、兄さんが噴き出しかけたコーヒーをとりあえずティッシュで拭いたりしてひと段落。けどこれ以上話を続ける勇気はなく私の勇気はしぼんでしまった。けど、驚いたことに義兄さんの方から話を続けてきました。やっぱりゲーマーならALLFOの話は無視できないのかな。
「あ、えっと、私も友達に誘われて応募したら、日本の枠の方で当選して…………に、兄さんも、ALLFOってやってますか?」
「……………………………………………………やってるけど」
何か凄く長い沈黙があった。
迷い、葛藤、色々な感情が兄さんの顔に出ていました。何か気まずそうでもあります。なんでだろう。むしろALLFOは世界的なトレンドだから恥ずかしがることなど何もないはずなのに。
「友達とやるのか?」
「はい。友達も当選したみたいで、一緒に日本スタートでやろうと思ってます。あ、夏恵ちゃんも先に始めてて、合流する予定で……けど、私、ALLFOみたいなゲームは初体験なので……」
「どんな感じでやればいいか、不安、と」
「うん……」
なんだか、少しだけ、子供の頃の義兄さんらしさがあります。口下手だった私の言いたいことを汲み取って話を続けてくれるような。思わず私も昔の口調が出てきてしまいました。
「柚木は、運動はちょっと苦手だったか。性格的にもガンガン前に出る方ではないし、剣を振るよりは魔法を使った方がいいかもな」
「あ、魔法、使ってみたいです」
私はファンタジー系な小説が大好きです。特に魔法が出てくるものはワクワクします。現実では実現できない願いを叶えてくる、そんな力がありそうだから。
「性格的にはヒーラー……いや、ヒーラーは立ち回りがな………ビルドはなにがいいかな……………基本的には初ログイン時のモーションテスト診断からAIが勧めてくれるビルドを選んだ方が事故はないって聞くけど」
思ったよりも義兄さんは話に喰いついてくれました。顔もなぜかちょっと安心したような顔付きです。
私にあったビルド?というものを真剣に考えてくれている。
その適性を見定める様に私の目をジッと見ています。
義兄さんとこうして真正面から目を合わせる事なんて本当に久しぶりで、心拍数が勝手に上がって顔が熱くなり、思わず恥ずかしさに耐えきれずに目をそらしてしまった。ああ、穴があったら入りたい。
昔から義兄さんに見つめられるのは、心臓が言う事を聞いてくれなくなるから苦手なんです。
「僧侶には興味ある?ゲームだとよくヒーラーって言われるやつで、モンスターから攻撃を受けてHPが減った仲間………けがをした仲間を魔法で治療したり、あるいはバフ、強化を施す魔法をかける役職なんだけど」
「あ、そっちの方がいい、かも」
直接何かを攻撃するよりは、誰かを助ける方が性に合っているかもしれない。けど義兄さんの口ぶり的に難しい役職なのかな。確かに、剣は振り下ろせば敵を攻撃することはできるけど、魔法とかは考えて使わないと難しいのかもしれません。
「多分配属サーバーはファストだから、僧侶だとアンビちゃんが担当官か。ALLFOだと僧侶になるとまず魔法使いを職業選択で最初に選んで、その後教会で修業をするんだけどな―――――――」
こんな風に義兄さんが話してくれるのは、いつ振りだろうでしょうか。
ああ、良かった、ALLFOを始めようと思って。
今までは共通の話題が無かったけれど、ALLFOの事なら義兄さんも話してくれるかもしれない。
ちょっと難しいかもしれないけれど、義兄さんは既に友達と始めているかもしれないけど、いつか義兄さんとALLFOで一緒に遊べたらいいな。
義妹ちゃんは雰囲気やメンタリティがネオンに近い子です。
ユリンがネオンに強く出れなかった理由でもあります




