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No.Ex 第九章補完話/ミ≠ゴ・キャロル❺



「そうですか。MfSにも個性がある、と」


「そうだね。特に追いかけなくても自分から寄ってくる個体も居れば、逃げていく個体も居る。性格も、身体能力にも違いがあるかな。ただぁ攻撃性はあまりないかな。ランク1でも捕獲自体はできるよ」 


 私が街の外に繋がる門に向かうと、既に生産組組合の先遣隊がまたフィールドに出ようとしていた。既にケージを5つ分消費し提出。その時稼いだCPでケージを再び補充しまた捕獲作業に向かうようだ。

 えらく早いと思ったけど、一々街の中心にある教会に行かなくてもいいらしい。ギルドも協力しているようで、街の各地に提出所が設置されている。この提出所に預ければいいようだ。


 顔見知りの戦闘部隊員だったので話しかけてみると、彼はMfSの特徴を報告してくれた。スレで上がり始めているMfSの特徴とも合致している。


「魔物に対してのヘイトはプレイヤーと同じかな。魔物からしてもMfSは敵扱いなのかも。他にも特徴はあるけど、共有ノートに書いてあると思うから編纂任せていいかな」


「わかりました。情報を纏めておきますね」


 戦闘がメインのイベントでもないので、ヒーラーである私があくせく動く必要もない。そうなると情報を整理をした方が組織の貢献になるだろう。『バルムング』では音声通話ができないからこそ、情報が結果を大きく左右する。私は先遣部隊がもたらしてくれた情報を纏めて生産組組合の分析班に報告する。


「(ポイント変動を見ると、やはり攻略難易度の高い地域ほどMfSの捕獲ポイントは高い傾向にある。現状、先遣隊は速さを優先して直ぐに5つフルでケージを提出をしたけど、平均しても『バルムング』で動いているプレイヤーの得点効率が高い。エリアによってMfSごとの大きな性能差はない可能性が高い。個体差はあってもポップした位置には影響しない。やはり今回のイベントの狙いは…………)」 

 

 先生は言った。ALLFOのシーズンイベントには何かしらの意義がある、と。

 サマーイベントは今でこそ宝探しをメインをした地味なイベントだったけど(日本だと戦艦の登場で余計に印象が薄れている)、あのイベントはプレイヤーの分散を意図していたのだと思う。ナンバーズシティ周りは居住性が高すぎて、当時は転移門も無かった。その為にどうしてもナンバーズシティ周りで活動するプレイヤーが多かったが、イベントを餌にプレイヤーがナンバーズシティを離れるメリットを理解した。

 ハロウィンイベントではクランを意識させた。同盟を組む事のメリットを表面化させた。更には防衛線を通じてNPCとの融和を推進した。

 では今回は。


「(MONの価値のすり合わせ。そして、探索の重要性)」


 公式アナウンスによれば、MfSはハロウィンイベントのHeoritの様に随時ポップしない。つまり取り合いになる。街の周りのMfSを取り尽くせば、今度はもっと遠くへ足を運ばなければならない。他のプレイヤーと狩り場が被らないように立ち回ろうとすれば他のプレイヤーが来ない場所、つまり未開拓の領域に脚を進める必要がある。


「(だから敢えてこんな不便なやり方を採用している)」 


 MfSの特性に今の所目新しい物はない。この報告は新事実の公表ではなく、答え合わせに近い。

 MfSは『スラア』というゲームのMOBだ。故に分析班は元のゲームを調べてMfSにどんな特性が与えられるが事前に予測し組合員に周知していた。私も『スラア』をプレイしたことがあるので分析にも少し協力している。

 

 今の所、やはりMfSの特性上ヒーラー班が強く求められることはない。

 恐らく街周りのMfSを取り尽くして遠征しなければならなくなったらいよいよ出動しなければならない。街周りの魔物は大して強くない。大して強くないというか、近寄ってこない。これは他の街にも言えること。

 加えて、もちろん大して強くないとはいうけど低ランクのプレイヤーからすれば強いだろう。けど4章シナリオボスを撃破できるレベルのプレイヤーであればこのエリアの魔物に大苦戦する事もない。  


 もし、もし私達が必要な時があるとすれば、それは。


 私が生産組組合の『バルムング』に派遣された部隊のクランチャットを見ていると、その報告が上がった。

 パン!という乾いた音が微かに聞こえた。


「(PK、やはり起きましたか)」


 このイベントはハロウィンの時と違って、よそ見して居たり他の人を邪魔しようなどと色気を出すと機関銃で掃射されかねないという危機感がない。あまりに牧歌的で、余裕があるからこそ人は余計な事を考える。

 MfSが有限であるならば、取り合いになるなら、それは起こるべくして起こる。


「治安維持部隊A、出ます。目標は先遣部隊本体との合流を目指します」


 私は自分に預けられた部隊に指示を出し編成を整える。

 万が一に備えて門の近くに部隊を集めておいて正解だった。先生の指示で戦闘部隊の一部は待機していたけれど、思ったより早く出番がきた。

 治安維持部隊というけれど、その半数はヒーラー。半数は幹部寄りのメンバー。中には大幹部と肩を並べて動いているようなエース級の人もいる。それだけ『バルムング』は生産組組合は重要視しているのだろう。

 大幹部級に混じって戦闘をすることが最近増えてきたけど、この部隊には居ない。完全に私に指揮を委ねられている。それを周囲が認めているかどうかはわからない。けど反抗的という事もない。

 企業的な組織の利点だ。特定の人物を慕って組織を作らず、誰が上に立っても機能する機械的なシステム。今回は私が指揮官に当てはめられただけで、私以外が当てはめられてもこの部隊は機能する。


 今はそれでいい。私には「(フラミ≠ゴ)だから従う」と思わせるほどの実績はない。

 実績も信頼も、これから積み上げ続けていくのだ。


 ペットに跨り私達は街を発つ。没個性と言えばそれまでだが、やはり馬タイプのペットが殆どだ。岩場や山だと馬は厳しいけど、街近くの平地であれば馬以上に速い物はない。テイマー系のプレイヤーが先行し、私達はその後を走っていく。

  

「ひとまず合流?」


「そうですね。指揮官との合流を目指します。PKが発生したようですが、生産組組合は距離を取っているようです。彼女達に手を出すのは流石に憚られたのでしょうか。けれど、キッカケが有ればいつでも状況は変わります。牽制の為にも数を集めましょう」  


 ペットを走らせ始めると、エース級の一人がペットを寄せて話しかけてきた。

 彼は私も知っている。大幹部級のプレイヤーと遠征をした時に彼も居た。けっこうノリが軽くて、新顔の私にも気さくに話しかけてくれた。彼は確かムラマサマさんの部隊のプレイヤーだったはず。幹部扱いではないけど、彼も先生達とは長い付き合いのプレイヤーの一人。というより、扱いは幹部に近いけど自分で辞退していると聞いている。ヒラが気楽、らしい。

 生産組組合の怖い所は、大幹部級だけが強いというわけではない事だろう。大幹部級以外にも先生達とは付き合いの長いプレイヤーが少なくない数所属していて、先生の号令一つで彼らは即座に動き出す。戦闘能力も極めて高い。特に、対人戦を得意としているプレイヤーが多い気がする。遠征時何度かPK勢力と接敵したことがあるけれど、彼らはPKプレイヤー達を圧倒する対人戦闘能力を有していた。強いだけではなく、慣れを感じた。


 この傾向は先生と付き合いの長いプレイヤーほど見られる傾向で、このおかげで最近は新顔を見分けやすくなった。

 先生達は所謂イナゴというプレイヤーで、仲間うちで一斉に他のゲームに移住するタイプの人だ。そうするうちに出来上がった輪だと聞くが、始めたてでも急に幹部入りするプレイヤーは大体先生の知り合いというケースが多い。その手のプレイヤーは大抵独特のオーラを持っていて、対人戦が強い。


「俺達が動かなくても、あの二人が居れば問題ないと思うけどねー」


「戦闘能力は疑っていませんが、今回はMfSの捕獲が重要なのでそもそも戦闘を発生させないように牽制する方が重要です。音声通話ができないために即座の連携は困難ですが、それは敵も同じ。一罰百戒に則り、ここで徹底的に叩き牽制を強めます」


「ふーん。そっかー。言われてみればそうだね」


 なんとも気の抜けた返事だけど、軽くながしているわけでもない。 

 彼が今回の私のお目付け役?自分で質問し、私に答えさせることでさりげなく周囲に今回の行動の意義を周知した?確かに、街を出る時に意義を説明をしておくべきだったかもしれない。


「とりあえず俺はフラミゴちゃんに従うよ。頑張ってね」

「はい」


 恐らくこの治安維持部隊Aの中でもっとも強いのは彼だ。頭一つ抜けている気がする。

 その彼が私に従うと言った。何気ない言葉だけど、強さは分かりやすい指標で、一番強い彼が私に指揮権を預けると公言する事には少なくない意味がある。


 彼だけに分かるように微かに頭を下げると、彼は気にしないでと言った感じで笑った。

 やはり彼は全部分かった上でやってるんだろう。


「思ったより戦況が悪化しているようです。急ぎます」


 乾いた発砲音が連続して聞こえる中、私達は『バルムング』から離れ近くの山へと向かった。



『大井バ』

通称イバちゃん。

ムラサマサの補佐であり副官ポジ。割とノリが若くノート達とも結構仲が良く、一緒に飲みに行ったりすることも。ムラサマサの漢気に惚れており、ムラマサマを兄貴分として強く信奉している。ムラマサマ派閥の中ではバランサー寄りでもめ事が起きた時も真っ先に仲裁に入るタイプ。空気を読む力にも優れているので大幹部たちからもかなり重用されており、結果としてちょっと面倒なポジションを任されることも。タンクとしての適正も高く指揮官にとって痒い所に手が届く。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] ノート達の方はPK発生しなかったからなー() むしろPKしかいない
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