No.Ex 第九章補完話/ミ≠ゴ・キャロル❹
イベント開始のアナウンスと共に競馬場………競魔場の方ではショーが始まり、街の一角を借りた場所ではNPC達が集まりプレイヤー達の讃美歌を聞く。演奏を得意とするプレイヤー達が各々集まり演奏し、時に殺傷性のない魔法を使ったりしてステージを彩る。時を超えても讃美歌というものは高い評価を得るが、世界を超えてもそれに変わりはないらしい。NPC達も喜んでいる。
「うわぁ、凄い勢いでポイント伸びてるね!」
「ええ。そうですね。ただ…………」
クリスマスイベントは保持しているCPの量が評価に大きく響く。
そのCPを稼ぐ方法は主に3つ。
1つはイベント開始と同時に世界に放たれるMfSの確保、収容。
1つはクリスマスに類する生産活動。或いはMfS保護を目的としたアイテムの生成。
1つはクリスマスに類する活動。例えば歌劇、歌、大道芸でもいい。そこにクリスマスの要素を混ぜるとなお良い。要するにクリスマス的な要素を絡めてNPCを喜ばせればいいのでは、というのが分析班の見解だったけど、その見解通り讃美歌は多くのプレイヤーが聞ける分評価点に大きく響いているようだ。開始早々生産組組合のポイントランキングが一気に上昇していく。
しかし、それとつかず離れずの勢いでポイントを増やしている組織がある。名前はプライバシーモード。個人名ならまだしもクラン、同盟単位で名前を伏せる方が珍しい。なんせ隠す理由がないからだ。なのに隠すとしたら、理由は絞れる。
「(アサイラム……一体どうやって………)」
単なる直感だけど、私はこの謎の組織をアサイラムと断定した。
それを裏付けるように個人体のポイントランキングでバグの様な勢いでポイントを増やしているプライバシー状態のプレイヤーがいる。間違いなく彼、或いはアサイラムに所属している誰かだ。
でも単独で一気にポイントを稼ぐには。しかもグループのポイント変動と個人のポイント変動が一致している。というより同じポイントだ。生産組組合が讃美歌で稼いでいるポイントを単独で?周囲がチートを疑うのも分かる。ハロウィンの時もスレは相当荒れていた。単独のプレイヤーがあまりに多くのランキングトップを占拠していたから。
「私、お手伝いしてくるね!」
「私もアクセサリーの販売を始めようと思う。委託はしてるけど、やっぱり自分で直接売りたい人もいるから」
「はい、頑張ってくださいね」
イベント開始時点で私が配置されていたのは4章シナリオボス討伐後に5章領域で発見された街『バルムング』。つまり日本の最前線。その都合上、プレイヤーの質も高い。4章以降の地域は難所が多く、天候も荒れる。モンスターも強い。なので低ランクのプレイヤーでは簡単にたどり着けないためにこの街にいるプレイヤーの質も自然と高くなる。
先生がいるのは4章領域の街『リヅプール』。生産組組合が占領に成功している街だ。音声通話が可能なのはクリア済みのシナリオ領域なので、その為にも先生は最前線のこの街ではなく敢えて『リヅプール』に陣取ったのだろう。『リヅプール』はハロウィンイベントで日本最高評価の防衛評価を叩き出し事もあってNPCも極めて好意的な地域だ。生産組組合が作戦本部を置くだけのメリットが多い。
逆にこの5章領域である『バルムング』は完全に覇権を握れていない。それは生産組組合だけでなく、他の組織もだ。中には他の国のプレイヤーも混じっている。音声通話も出来ないので連携も難しい。
だが、居を置くことが難しい地域だからこそMfSの配点を高くなる可能性は高い。確保難度に応じてMfSの配点が変動することは事前に仄めかされていた。なので連携が難しい地域ではあるが捨てる事はできない。故に生産組組合のメンバーの中でもこのエリアに派遣されたメンバーはかなり限られた。
私が指名されたのは、指揮の能力を鍛えるためなのかな。百ファンさんとDevilMaskさんは…………私の友達だから?というのは驕った見方なのかな。特に百ファンさんは農業系なのでイベント中に栽培で一気に追い上げるのは難しいし、イベント期間中は生産補佐に回る事が多いと思う。一応料理も出来るらしいけど、趣味の域をでないと百ファンさんは言っていた。
確かに、彼女が以前くれたクッキーはサイケデリックな模様と色をしていた。自分で栽培した植物を使ったらそうなってしまったようだ。けど、味は非常においしかった。
リアルなら今どき電子レンジだのクッキーのモトなどを使えば小学生でも美味しいクッキーは焼ける。けど、そんな便利な物がないALLFOに於いて美味しい料理を作るにはリアルの力量が必要だ。リアルのソレと味の傾向なども違うのでリアルの調子で調理をしようとすると事故を起こすので料理も地味に生産界隈では魔窟と言われているのだが、それを加味しても彼女のクッキーはおいしかった。
多分、百ファンさんはリアルだと相当料理上手なんだと思う。けど、ハロウィンの時にNPCに配っていた時は自家製フルーツを使ってせいか見た目がかなり毒々しすぎてちょっと敬遠されていた。悲しそうな顔をしていたのを覚えている。型抜きをして面白さを加えたらそこそこ売れたようだけれど。
勿体ないと思ったので今回は料理をしてみてはどうか、と勧めてみたけど、あまりいい顔はしてなかった。彼女からするとリアルの力を使うのはズルに思えるらしい。それを言い出すとVRはリアルの能力の干渉が多すぎるので何もできなくなってしまうけど…………結局、それも彼女が「納得」できるかどうかなんだろう。私も無理強いはしなかった。
彼女達は讃美歌披露会開催に於いてNPCへの呼びかけなど色々と協力してくれた。私の指示に無条件で従ってくれる彼女達の存在は非常に有難かった。
しかし、ここからは1人。彼女達は生産に回り、私は戦闘に回る。ヒーラーとはいえ戦闘部隊の一員には違いない。
本来であれば私もスタートと同時に街の外に打って出てMfSなる存在の捕獲をしなくてはいけないんだけど、先生はいきなりでない方がいいと私に言った。どんなイベントか掴めないので様子を見る方に回る人物も必要、というのが先生の見解だ。既に一部の戦闘部隊は街の外に出て捕獲を開始している筈だ。
「(個人点は、まだ変動はない、けど)」
ランキングを見るに、まだ誰もMfSを収容していない。
MfSは捕まえるだけでなく、教会に提出して初めて点が入る。最悪、捕獲しなくてもMfSを捕まえたケージを受け取って提出すれば、提出した人物に点が加算される。今回私が気を付けるべきはアサイラム以外にもある。
それは姫プ系クラン。
姫プ、というのは、言ってしまうとオタサーの姫だ。「姫」とされる女性プレイヤーを中心に、多くの男性プレイヤーがその「姫」を褒めたり貢いだりする。MMO時代前、容易にネカマが出来た時代は姫プが多く存在したらしいけど、第七世代の現代に至っても根絶には至ってない。むしろ第七世代になって顔の良さがリアルでもある程度保証されるせいで酷い所は本当に酷い、と聞く。彼らは女性の化粧が如何に人を化けさせるかしらないのだろうか。多分知らないのだと思う。ALLFOはリアルから骨格ごとアバターを弄ることはできなけれど、軽い整形程度ならできる。それを積み重ねればリアルよりも遥かに良い顔を作る事だって出来る。
あれもいわば、「納得」の理論の極地なのかもしれない。彼らにとて姫に貢ぐことに大きなメリットはないのに、自分が納得しているから貢いでいる。けど、アレを真似しようとは思わない。
つまり、そう。今回イベントはそのシステム上、特定の人物を勝たせようと思えば勝たせることができる。捕獲したかどうかは関係ない。MfSを教会に提出したプレイヤーにCPが加算される。なので自分でMfSを捕獲して「姫」に渡し、「姫」が教会に提出すれば取り巻きが本来得ていたポイントを「姫」が総取りできる。
生産組組合でもその方式について言及はあったが、先生は自分にそのような事をしないでほしいと言っていた。集団ではなく、今回は個人で勝ちに行く。けど、姫プ式を否定する気はない、とも。
CPはMONと違って大きな違いが2つある。
1つは恒久的に使用できず、最終的に没収される事。
1つは受け渡しが出来ない事。
CPを使えば教会で捕獲に便利なアイテムと交換をしてくれる。なので、一人のプレイヤーに敢えてCPを集めて、高額な捕獲アイテムを得て有利に捕獲作業を進めていくのは戦術上一つの正解だ。なので戦術上の名目がある。先生が姫プ式を否定しなかったのはそれを考えての事だろう。
同時に、このシステムはバケツリレー式を抑制している。この捕獲システムは自分で捕まえて自分で教会に届けないとポイントが得られない。なので捕まえる方と教会に届ける方を分担する事も難しい。せっせと捕まえても結局教会に届ける人に点が入るとなれば捕まえる方のモチベーションにも関わる。
逆を返せば、お互いの同意さえあればこの仕組みは高度な連係プレーを可能とする。MfSを最後に渡してポイントを稼がせる約束をしておけば、自分でポイントを稼ぐことを捨ててサポートに完全に回るという事も出来る。私もそうだ。自分で稼ぐことはせず、組織の援護に回っている。
一体どう進めれば有利にゲームを進められるか。私は現場指揮を他のメンバーに引継ぎし、生産組組合のクランチャットと掲示板に目を通しながら街の外へ足を進めた。
アサイラムもある意味では姫プクランに近いけど姫が1番忙しいからなぁ…………




