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No.Ex 第九章補完話/ミ≠ゴ・キャロル❶

クリスマス話


「なるほど、これは非常に面白い。イベントの発表のタイミングですらもイベントのギミックなのか」


 12月中旬。生産組組合本部【本丸】。

 同盟数を含めれば非常に多くのプレイヤーを抱える生産組組合という組織に於いて幹部の座に就くことを許された少数のプレイヤーだけが立ち入りを許される会議室。大型クリスマスイベントの内容が開始三日前にようやく告知されそれを皆で見ていると、一番速く概要を読み終えた先生がポツリと呟いた。


 あまりに速い。まだ私は半分しか目を通せていない。それほどにこのクリスマスイベントの内容は濃い。というより規定ルールが多い。スラア、MfS、CP……シーズンイベント1つに費やすにしてはおかしな程の要素を詰め込んでいる。まさか私が読む速度が遅いのかと思いふと周りを伺えば、周りの幹部も顔を顰めたり目を細めながらまだ概要を呼んでいたのでホッとした。先生が速過ぎるだけだった。


「このイベントの狙いは明確だ。生産関係の拡充。MONの価値統一。そしてサーバーをまたいでの協力関係の構築。多くのフィールドを確保した者こそが勝利を飾る事が出来る。NPCとの協力も急がねばならない。やる事は多いな。渉外係はカイチョーに一任する。対NPC部門の設立も同時並行で頼むよ。私はアメリカ、中国、ロシアサーバー、それと各教会、ギルドに働きかけを行おう。屋台の出店場所を抑えよう。バーボン君、ムラサマサ君、トリニトロ君は―――――――」


 皆がまだイベント内容の半分しか目を通せていない中、先生は矢継ぎ早に指示を出していく。今回は会議もなく独断で進める気なのだろうか。ここまで急くように指示を出していく先生も珍しい。

 先ほど先生はイベントの発表タイミングですらギミックだと言った。

 確かに今回の内容発表はあまりにも遅かった。普通であれば2週間前にアナウンスと同時に内容を発表する。なのにALLFOはわざわざイベント開催アナウンスと内容の告知タイミングをズラしてきた。


「(このイベントはとにかく人数が必要?個人戦で勝つのは困難。故に多くのプレイヤーと連携する。その上、生産が重要視されるイベント。となればより多くの準備をした者が…………そうか)」


 イベントはイベントスタートと同時に始まるわけではない。内容告知が始まった時点でイベントは始まっている。特にこのイベントは準備が肝要だ。ハロウィンの時よりもぶっつけ本番でどうにかなるイベントでもないだろう。

 もし2週間前にこの内容が告知されていたら、きっと同じように私達はイベントに備えて準備をして、そしてイベントを始める前にほぼ下馬評が固まっていただろう。2週間も有れば誰と手を結び、どの様にイベントを進めるか十分な吟味が出来るだろう。

 しかし3日。3日という期間に限定するなら少々話も変わる。悠長に吟味をしている時間もなく、準備をする事も難しい。大番狂わせも起きるかもしれない。


 人間、出来レースなど見ても楽しくないだろう。日本では生産組組合と、名前こそ隠されているがハロウィンでも大暴れしていた推定アサイラムがランキングを荒らすと予想されているとしても…………完全に決まりきった勝負に挑むほど徒労に感じる事もない。やる気も起きないだろう。しかし自分にも勝ち目がある可能性があるとしたら、イベントへの熱意も変わるだろう。皆が一生懸命になるからこそ、勝とうと思うからこそ、人は熱心に交流をするようになるだろう。このイベントは世界を超えてMONの通過価値のズレを狭めると同時に、戦闘組と生産組との交流を活発化しようとしている。このCPという概念を有効活用するなら、どうしたって手を組んだ方が効率的だ。


 しかもこのイベント、頭数を揃えないと勝てない。アサイラムという組織の構成人数は多くても15人は超えない、というのが私達の見解だ。彼らにとってこのイベントは鬼門となるかもしれない。


「今回のイベント、アサイラムはハロウィン以上にランキングを荒らしてくるかもしれない。個人ランキングは分からないが、クランという枠であれば話が変わってくる」


 と、私は考えたのだが、先生は私と真逆の見解を出した。私以外にもどういうことかと顔を上げて先生の顔を不思議そうに見ているメンバーがいる。所謂古株、前の方に座っている大幹部とされているメンバーは顔を上げずにまだ資料を見ている。

 彼らも先生と同じ見解?いや、単に彼らにとってその見解は驚くことでないのか。


「彼らは2つ街を占領していると思われる。第二ギガスピで目撃された推定アメリカサーバーの初期特持ちも彼らと同じ足跡を辿ったと考えられる。NPCとの連携力もハロウィンの対NPC系ランキングを見るに極めて高いと見るべきだろう。我々にも懇意にしているNPCいるが…………多くのプレイヤーがいるために特定のプレイヤーだけに協力することはなかなかない。一方でアサイラムが根城としている街のNPCと手を組んでいるプレイヤーは恐らくアサイラムだけ。となれば大きなバックアップを得られる。そして彼らには数を揃える手段がある。死霊か、或いは悪魔か。くれぐれも油断はしないように。このイベントは我々にとって生産的組織の威信もかかっている」


 概要の大枠は理解したのか、先生の演説を聞きながら前に座る大幹部たちが席を立つ。もうやるべきことを理解したようだ。


 この大幹部たちは、確かに先生が重用するだけの人たちだと私も思う。


 例えばバーボンさん。彼は戦闘だとかなり荒々しいし、ぶっ飛んだような、限界を切り詰めたような戦闘をして部下たちも動乱に巻き込んでいくけど、妙な求心力あるし、ここぞという時の頭のキレがある。戦闘に於ける直感力と言えばいいのだろうか。多くの戦場に於いて必ず何らかの大きな戦果を挙げながらも高い生存能力を有している。そんな彼の傘下である戦闘部隊は士気が高く結束力も高い。少し癖の強いメンバーが多いがそれを上手く纏めている。戦闘部隊に於いてその半数が彼の傘下だ。生産組組合の暴力装置と言えば彼を思い浮かべるプレイヤーは少なくないはずだ。

 そのバーボンさんの相棒とも言えるポジションにいるのがムラサマサさん。彼はクマの様な体格で怖い顔つきをしているのだが、話してみるとかなり理知的で説明上手だ。面倒見も良く、かなり人の事をしっかりと見ている。彼の部隊は大きくはないが、ムラサマサさんを強く慕っており忠誠心が非常に強いし、能力値が軒並み高いし年齢層も高めな印象。少数精鋭、厳密には中数精鋭と言ったところだろうか。

 ムラサマサさんはタンクという極めて難しい立ち回りをこなしており、彼の傘下もタンクが多い。極めて攻撃的な前衛であるバーボンさんの部隊との連携力はピカ一だ。

 私に対して指揮のアドバイスをくれたのも彼だ。彼は言語化が上手いプレイヤーであるために指導者としての顔も持っている。


 カイチョーは言うまでもない。彼女は割と抜けているようなところが多いが、彼女こそ真の切れ者だ。自分のキャラでさえも使って周囲を上手くコントロールしている様に見える事さえある。表面上ではおっちょこちょいだったり、皆に支えられるタイプのリーダーという感じだが、この大きな組織の金庫番であり数々の大きな政策やイベントを打ち出し成功に導いているのも彼女の功績だ。

 女性僧侶組を母体とした生産組組合のアイドル組織『2×H』。アレも一過性の物だと正直高を括っていたが、あの組織は今も存続している。存続しているどころか、女性僧侶組時代以上の人気と規模を誇っている。アレを育てたのもカイチョーだ。

 『2×H』のマネージャーを務めていた私だから分かる。彼女は素人が逆立ちしてとび上がっても手が届かないほどに深く大衆心理に通じており、多くの組織運営ノウハウを有している。『2×H』でもカイチョーは太陽で、私が北風。ゲームだから普通は頭ごなしに言われれば反感を抱くかもしれないが、皆から愛されるキャラであるカイチョーからの指示であれば皆も仕方ないなぁ、と聞く。天然故の才覚にも思えたが、ふとした瞬間に裏方で見る彼女の顔はあまりにも大人びている時があった。先生が組織の顔である渉外を丸投げしている時点で彼女はただの天然ではない。


 あとは、トリニトロトルエンさん。比較的遅めに加入した方だが、彼も底が見えない人だ。普段はござる口調でふざけた感じだけど恐らく彼も相当頭がいい。リアルの知識に関してもトップクラスなのではなかろうか。歴史、科学、言語、数学など多くの学問に精通している。一体リアルではどんな人なのだろうか。ムラサマサさん辺りは教職辺りではないかと思うのだけど、トリニトロトルエンさんはリアルが見えてこない。キャラを隠すのが上手い。かなり重要な役割を先生から任されている事も多くフラリと行方をくらますことも多いけど、それだけ先生の信頼が高いという事なのだろう。彼も既に資料に目を通しきったようで既に誰かと音声通話をしながら部屋から出て行った。


 あとは…………。



Tips:街中で1番手っ取り早く死ぬ方法は毒物飲むより石とか消化できないものを無理矢理飲み込むこと。JKみたいなHPお化けでも割とすぐ死ぬ

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― 新着の感想 ―
[気になる点] カイチョーって先生のご令嬢?
[一言] 成長している…(のか?) いっつもアホみたいなコメすみませんm(*_ _)m
[良い点] 紅茶会っていつぞやの先生視点の経営者の人達ですよね? これ関係あるかわからないですけど隔離施設で紹介されていたプレイヤーで紅茶が変態的に好きな人がいた気がするんですけど紅茶会って名前とは無…
2023/10/15 01:47 初めまして
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