No.441 コルモス
「やったか?……なんて都合のいいことはないな」
「あまり手ごたえがない。氷像も物質と生物の中間判定の為かダメージは通っているのは不幸中の幸いだけれど、致命傷ではない」
ネオンのビームは大蛇の頭部を貫通した。それにより大蛇の氷の兵隊の生産がストップし、大蛇からは白煙が立ち上る。動きこそなかったが大蛇自体も一応魔物に近い判定だったようだ。白煙が出ているということはダメージが出ているという事だ。けれどネオンの魔法を直撃しておきながら完全に破壊されてはないのであまりダメージが通っている様子はない。
依然として氷の弾丸は飛んでは来るが、霜が起点だとバレているためか最初程攻撃頻度も高くない。まるでこちらを伺っているかのように攻撃が全体的に緩やかになった。
『(@_@)どこだどこだ』
『(;一_一)けはいがひろくてわからない』
「困ったな」
ヌコォやグレゴリと言った探知に長けた者達が女王の本体を探しているがなかなか見つからない。
宝をゴミの山に隠されても彼らは見つけ出せるだろう。『探知』は特定の物を見つけ出すことを得意としているのだ。だが、木を森の中に隠されると途端に探すのが難しくなる。例え木が隠されずに森の中に堂々と生えていたとしても、木を対象にとって森の中をサーチしてしまうと彼らのレーダーには類似するもの、この場合なら森の中に生えている別の似たような木までもが多数サーチに引っかかってしまうためにどれが本命なのか分からないのだ。
そう。気配を消すことに特化するのではなく、似たようなものをばら撒くことで相対的に探知から逃れるというなかなか頭脳派の動きで青の女王は腕輪を隠していた。このぶ厚い霜のどこかに隠されているはずなのだが、依然として尻尾は掴めない。
「なるほど…………?」
ノートは再び周囲に魔法を放つ。特にどこを狙っているわけではないが、兎に角正面扉周辺に向けて魔法を撃ちまくる。その魔法が天井付近をかすめた時、ギュルギュルと唐突に氷の針が捻じれながら高速でせり出し深海に存在する熱水噴出孔の様に成る。
「やっべ!VM$!」
「はいはい~。【コルモス】」
対してVM$は黒い宝石を天井に掲げる。すると、その黒い宝石の中からヌルリと大きな影が現れた。いや、それは影というよりは霞がかっていて雲に近かった。形は人型。されど目や耳、鼻や口と言った感覚器官が存在していないのっぺらぼうの頭。宝石より出でた巨人がその大きな手の平を天に向けた次の瞬間、噴出孔から勢いよく青い液体が噴き出した。
巨人の手のひらにぶつかり液体が周囲に弾ける。ジュッと何かが焼ける様な音がする。異様な匂いが周囲に漂う。
「酸か」
巨人は手を溶かしながらもなんとか液体に耐えているが、今は再生能力が上回っているためになんとかガードできているものの更に勢いが増して均衡が崩れれば一瞬で潰される勢いだ。ノート達が正面扉前から避難を開始すると、更に正面扉の方より噴出孔が複数出現しノート達を追い立てるように酸が噴き出した。
「堰き止めろ!ティアは触れないように気を付けろよ!」
ノートは複数のアンデッドを召喚し押し寄せる酸を強引に止める。一度召喚すればノートの召喚物にはJKの結界が付与されるためにただの肉盾でも時間稼ぎにはなる。ただその場に大柄なゾンビ達は横たわっただけだが、それでも確かに酸の波を止めていた。
と、同時に奥の方でけたたましい音が鳴り響く。大きな氷が砕けたような音だ。原因は大蛇の頭部が崩壊し地面に落下した事。氷の欠片が周囲に飛び散りそれらすべてが氷の兵隊へと化けていく。まるで鼬の最後っ屁の様なヤケクソ生産だ。氷の欠片の大きさに応じて氷の兵隊のサイズも変わるために今までと似ているようで今までの戦法が通じないという面倒な状況である。
変化はそれだけに留まらない。部屋全体に伸びていた霜が薄く引いて徐々に正面扉前に霜が集まり冷気が強まっていく。
「(正面扉前張り付き正解か)」
放出された青い融解毒が霜に絡めとられ、青い霜の身体が形成されるとゆっくりと鎌首をもたげる。
見た目は双頭の蛇。だがしかし目に該当する部位もなければ鼻らしき部位もない。蛇というにはのっぺりとしていて頭側と顎側の区別もほとんど付かない。
正面扉前に蜷局を巻くように現れたその大蛇は頭部をノート達の方に向ける。
右側の頭が少し前に出てカパリと大きく口を開ける。口から体まで裂けんばかりの勢いでグワッと大きく開かれた口からは先端が光る無数の触手が出てくる。見ようによってはイソギンチャクか、あるいは胃カメラの束か。触手が妙にチューブっぽく、先端が発光しているのが余計に胃カメラらしさを増している。触手の先端の光は徐々に強まっていく。さながらそれはチャージしているようで――――――
「【コルモス】正面や!」
「ライン切れ!ビームだ!後方はJKに合わせろ!」
敵の変身タイム中でも容赦なく撃つことに定評のある鎌鼬は回避行動を取りつつもチューブが露出した瞬間には狙撃をしていた為に何本かチューブの束を吹き飛ばすことに成功したがダウンは取れていない。鎌鼬が発砲した狙撃銃には風魔法を込めた弾が装填されていたが、着弾と同時に魔法が上手く発動しなかった。
原因は蛇の脆さ。大蛇はどんな攻撃も貫けない盾を持っているわけではない。むしろダメージは通りやすい。固めているとはいえ本体が霜に近いのは変わらないようだ。だが、脆いという事は応用性にも優れるという事である。一度空いた穴は新たな霜が流れ込み瞬く間に塞がっていく。
鎌鼬の狙撃を凌ぎ光が溜まり切った触手の先端から青い光がレーザーの様に放たれる。
先ほどまで天井からの液体放出に耐えていた巨人が今度は正面に向けて防御態勢を取る。ノートは其れに無詠唱でバフ魔法を連射しながら周囲に指示を出す。
チューブの先端がチカッと強く発光した次の瞬間、ノート達目掛けてビームが放たれる。融解毒の特性を有している青いビームはレーザーナイフの様に全てを切裂いていくが、コルモスは皮膚を分厚くし続けて対抗する。ビームの一部は後方のJK目掛けて飛んできたが、それらは全てJKの盾で防がれた。
照射時間はだいたい8秒ほどか。短いようでいて戦闘中の集中状態ならかなり長く感じる時間。なんとかコルモスは攻撃を耐えきったが限界を迎えたためにここで撤退。VM$が手にした黒い宝珠の中にコルモスは消える。デカブツが消えたことでノート達は再度大蛇を視認するが、そのノート達の前には青い光の球体が大量に広がっていた。数にして70以上。大きさは直径30㎝弱。青い球体の弾幕だ。先ほどは静かにしていた左の頭が右同様に大きく口を開けており、そこにはチューブではなく天井に生えていたような噴出孔、或いは細長いフジツボの様な物が8つほど生えていた。正面から見るとまるでガトリング砲にも見える。その銃口からポポポポポポと青い光の玉を放出し続けているのだ。
「3D弾幕ゲーやめろ!」
赤月の都の門番をしていたルーナウラ・ソーラシルも弾幕ゲーの様に遅延型魔法を飛ばしてきたボスだったが、彼女の魔法の様にナパーム的性質がない分弾幕は非常に厚い。
左は遅延弾幕、右はビーム乱射。ビームを避けようとすればホーミング属性のある遅延弾幕がいつの間にか接近して視界を塞いでくる。かといって遅延弾幕に気を付けているとビームに狙い撃ちされる。片方だけでも相当厄介なのにこの2つが組み合わさることで弾幕の殺意はこれ以上になく高まる。
加えて、正面扉前に陣取る事で自動的に後衛組が前衛側に立たされ、前衛組が後衛に縛り付けられる。近接組が助けに行きたくても状態異常により後ろに戻ることはできず、魔法職たちは自力で弾幕に耐えなければならない。近接組は近接組で弾幕に対処しつつ残存する氷の兵隊にも対処する必要がある。弾幕には一定以上魔法をぶつければ半減、あるいは消滅させることが可能ではあるが、前衛組と後衛組の完全分断の発生によりお互いにお互いをフォローすることが難しい。
これが青の女王の第3フェーズだ。




