No.54 変りゆく物と変わらない物
読者の方が考えてくださった「ゲリラとうこうのうた」
改め
【Guerrilla投稿の召喚歌】
(ΘwwΘ)ふんぐるい むぐるうなふ げりらとうこう なふるたぐん いあ! げりら!
「はぁ……はぁ……」
「よう、お疲れさん」
虫型の悪魔を撃破し、それまで忘れていた疲労が一気に来たように体にのしかかり息を荒くして座り込むスピリタス。
頬は上気し、やり切った表情で熱い息を吐くスピリタスは妙に色気があり、ノートは少しドキッとしかけるが背後から突き刺さる冷たい視線でなんとか平静を取り戻す。
黙っていて黒髪にすればスピリタスは如何にも和風美人なのだ。その姿だけ見ればモデルにも採用されるだけあって見惚れそうになる。
しかしその空気も、スピリタスがしゃべりだせば霧散してしまうのだが。
「いやー、めっちゃ強かったわ!んですっげえ楽しかったわ!ノート、ネオン、援護ありがとなっ!」
「やっぱりお前、途中からいつでもフィニッシュできるのわかってて遊んでやがったな。最後のなんて完全にオーバーキルだったぞ」
「ほとんど使ったことないスキルだからよ、こう、“まーじん”?を取ってだな、慎重に慎重を重ねただけだぜ、うん。オレも成長したんだっ!」
「お前の辞書に“慎重”なんて言葉があってたまるか!昔からなんもかわってねえわ!!」
ノートがそう一喝すると、スピリタスは気にする様子もなくむしろ嬉しそうにケラケラ笑った。
「ま、ちゃんとランク10にはなれたぜ。ノートから話には聞いてたがランク10ボーダーって凄いな。確かに色々できるようになったわ」
ノートに続いて皆が集まったところでスピリタスの状態を見せてもらうと、やはり10ボーダーはあるのだと皆も確信した。
なんせそれまでの溜め込んでいた分を開放したようにスピリタスは一気に20を超えるスキルを獲得していたのだ。
「というかさ、もっと『ゲーム』しよぉ?スピリタスだけガチファイトしてんじゃん。気を散らしちゃいけないと思ったから黙ってたけどさ、スキル持ってんじゃん!使おうよ!!」
そこで所持スキルを改めて見てツッコミを入れるユリン。それはド正論であり、スピリタスはスキルの時間条件がどうとか言い訳をしようとしていたが明らかにそうではないことは明白だった。
「つってもなぁ、いちいち叫ぶのが面倒だぜ?」
「別に効力が少し落ちるのとMPを多めに消費することに目を瞑れば詠唱破棄もできるよ?スレとかで確認されてるけど、詠唱破棄で何度も繰り返してると称号が取れてMPの過剰消費も少しだけど抑えられるらしいし」
無言の圧に屈してスピリタスは観念して本音をぼやくが、そこでユリンからその問題を解決する朗報が。しかしスピリタスは釈然としない感じで首をひねっていた。
「だったらお前らなんで詠唱すんの?」
「まあそれは各々理由は違うな。俺の場合ポジション的にスピードは関係ないから、威力落ちるぐらいなら詠唱したほうがいい。
無論、やろうと思えばできる、ってことを前提とした話だけどな。それはネオンにも言える。後衛型はあまりメリットがないんだよ。加えて『脳波入力』は慣れてないとラグあるし失敗しやすいしな」
「そう、ですね。私も特にメリットが、在りませんので…………」
スピリタスは高速戦闘をリアルタイムで繰り広げるので詠唱する手間ですら煩わしいが、後衛職からするとそこまで即座に色々とやる必要がないので詠唱破棄はあまりメリットがない。結局はそれに尽きるのだ。
では同じ高速近接戦闘型のユリンは、というと。
「まあ、僕は『脳波入力』が先行してるかもだけど敢えて詠唱しているよ。そっちの方が結局デメリットないしね。それと対人戦も見越してるんだよねぇ。
例えばさ『口で言ってるスキル』と『実際に発動するスキル』が違かったらぁ、あせらない?その慌てた顔に思いっきり攻撃ぶち込みたくない?」
可愛らしい笑みを浮かべながら、あくどいことを言い出すユリン。其れを聞いてスピリタスは苦笑する。
「こういう悪辣なこと思いつくのは絶対ノートの影響だよな。まあ、言うほど楽なことしてるわけじゃねえってことはオレでもわかるがよ」
言うなればそれは、右手で三角を書き左手で四角を完璧に同時に描き続けるような所業。思考をしっかり分けられる先天的な素養がなければほぼ不可能な技だ。
他のゲームで鍛えられた技術ではあるが、ユリンはALLFOでも問題なく使えた。因みに、VRゲーマーの間ではそれは『異脳動作』と呼ばれる選ばれしものしかできないと言われる技術である(VR系プロゲーマーになるにはほぼ必須といえる技能)。
「私も同じ。『異脳動作』前提で詠唱している。特にVRに長く触れ合っていて一定のレベルの才能があれば訓練次第では可能になる」
そしてヌコォもこの『異脳動作』が可能である。寧ろ異常なまでに得意だった。
FPS系のゲーム中は移動しつつマップと敵の予測座標を脳内で描きながらほぼ無意識のレベルで即座に照準を合わせて敵を撃破するのだ。
アメリカ留学期間の武者修行の時には『ロボットでも相手にしてる気分だった』と対戦相手に言わしめるほど、ヌコォは機械的な処理が得意なのだ。
「まあ、スピリタスの場合は考えるより早く体が動いてる異常なパターンだからなぁ。無理に使うこともないかもしれん」
「お、そうか?」
「ただし、必殺技扱いで敵に隙がある場合は積極的に使ってほしいな。それと、戦闘中でなくていいからスキルを使って熟練度は上げてほしい。おそらくスピリタスが苦にしてるラグも熟練度が上がってくればだいぶ改善されるはずだ」
「必殺技、か。さっきみたいに使えばいいってこったな?わかったぜ」
休憩は終わったのか、ジャンプするように立ち上がるスピリタス。思い立ったが吉日と言わんばかりにさっそくスキルを使ってシャドーボクシングをしようとしたところで、意外な人物がスピリタスをよびとめる。
「あ、あのっ…………!」
「あ゛ん?」
「ひぅ!」
スピリタスを呼び止めたのは、スピリタスを怖がっていたはずのネオンだった。闘いの後で気がまだ昂っているスピリタスはドスの利いた声で咄嗟に対応してしまい、ネオンはそれにビビってノートの後ろに隠れたが、それでもノートにとってはかなり驚くべきことだった。
「わりぃわりぃ、別にとって食ったりしねぇよ。んで、どうしたんだ?」
少しぶっきらぼうな言い方だがこれがスピリタスのデフォルトだ。それを少しづつ理解し始めたネオンは、ノートの後ろからありったけの勇気を出してそろ~と顔を覗かせる。
残念ながら目を合わせることはできなかったが、それでも顔を見せて話そうとネオンなりに努力したのだ。
「あ、あの、今回の、回復のタイミングは、適切、でしたか…………?」
「ん?ああ、ネオンがずっと回復してくれてんだよな!全然問題なかったぜ!!いつの間にか回復しててビビったくらいだわ!まあ、もう少しギリギリまで引っ張っても耐えきれなくもないぜっ!」
「な、なるほど………了解、しました…………」
スピリタスの言葉を反芻するようにこくこくと頷くネオン。ノートは今まで我慢していたのだが、あまりにびっくりして思わず遂にネオンの頭をなでてしまう。
ネオンは初めこそ少し驚いたようだったが全く拒絶することなく、むしろ恥ずかしそうに俯いていたが表情は緩み切っており非常に嬉しそうだった。おそらく尻尾が付いていたら千切れるほど振っていたことがありありと予想できるくらいに、全身から幸せオーラが噴き出していた。
ネオンにとって、スピリタスの様な人種は天敵に近い。幸いなことにスピリタスは根は正直でさっぱりした性格、度量もあるので長く接してみると結構付き合いやすい奴であることはわかるが、それは相当な期間一緒にいてわかるものだ。
事実、ネオンからすればまだスピリタスは『怖い人』カテゴリーの中だ。そして物言いがかなりはっきりしているので無自覚に精神的ダメージを与えてきかねない存在でもある。
話しかけられて答えられればまだいい方、自分から話しかけるなど夢のまた夢だ。
特にネオンでなくとも先ほどのスピリタスは見る者を恐怖させる表情と闘いを繰り広げていた。余計に怖がられても当然だ。
しかしネオンもまた、ヌコォと同じようにこれからのパーティーでは自分はどう動いたらいいのかずっと考えていた。
彼女は自分が要領がいいタイプでも発想に富んでいるわけでもないことはよくわかってる。故に、考えて考えて兎に角考えるしかない。
それと同時に、ノートとヌコォに言い聞かせられた言葉がネオンの中で強く生きていた。
『分からなくてもいいんだよ。その時は聞いてくれれば答えるよ。そこを遠慮しちゃいけない。自分の成長に繋がることは貪欲でなきゃ。そしてネオンの成長は組織の成長に繋がるんだから。期待してるぞ』
『聞くのはただ。あなたはきちんと考えたうえで質問する能力があるから、安心して質問するといい』
ネオンの母親は要領が良すぎるタイプで、そしてわからないことがある人には『どうしてこれがわからないの?』と言ってしまうタイプだった。それはネオンにとってとても苦手な言われ方で、いつしか人に対して質問することを恐れるようになっていた。
しかしノートに背中を押され、ヌコォとの五日間の地獄のトレーニングで実際に飛躍的成長を遂げたことで、彼女の中にほんの小さな自信が生まれた。
ノートに、ユリンに、ヌコォに、自分では手が届かないと思っていた人たちから認めてもらえた時はとても嬉しかった。だからこそ、もっと成長しなくては、できるだけ追い付かなくては、とネオンは強く思っていた。
無論、彼女にとって安心できる場所であるノートの近くに居たからこそできたことだが、それでも彼女は自分がもっと成長するために、その大きな恐怖を必死に押し殺し、スピリタスに自分の疑問を抱えたままにせず問いかけたのだ。
例えるなら、コミュ症治療中の人がその恐怖の象徴みたいな存在に自分から話しかけたのだ。これにはノートもびっくりするという物である。
と言ってても、ノートにしがみついて生まれたての小鹿の様に足がプルプル震えていたが、それでもネオンにとってそれは非常に大きな一歩だった。
そのことはノートほどでないにせよユリンもヌコォも解っており、ノートがネオンの頭をなでている異常事態が起きても反応できないほどに驚いていた。
そんなネオンとノートを見て、今まで浮かべたことのないタイプの笑みを浮かべてスピリタスはノートに接近し、その襟首掴んで自分に引き寄せる。
「ったくそんな感じはしてたが、やっぱりタラシ気質か。変わんねえなぁ、お前もよ」
「………ちけぇよ」
息遣いがお互いわかるほど近づく顔。ノートが離れるように言おうとすると、その口をスピリタスはおもむろに塞ぐ。そして周りが正気に戻る前にパッと素早く離れた。
「オレも“昔からずっと、一度も変わってない”からな!じゃあなっ!」
スピリタスは戦闘による高揚だけでない要素で少し顔を赤らめつつ、二ッと昔から変わらない、そして“あの時”とそっくりのガキ大将の様な笑みを浮かべる。
「ああああああああああ!!」
「…………………ッ!」
そこで正気に戻り叫ぶユリン、明らかに雰囲気が激変するヌコォ。
スピリタスはケラケラ笑いながら逃走し、ユリンとヌコォはそれを追跡するように全力で走り出した。
一方でネオンは完全にポカーンとしていて一人その状況から取り残されていた。
「(油断したなぁ、あの『スーパー単純ばか』の“同じ手”を二度もくらうとは)」
ユリンからすればスピリタスは同種であり、むしろ師匠としても気軽に付き合いやすいタイプだ。しかしそんなユリンがなぜスピリタスの再来を警戒していたか、その答えは今ので明らかだった。
それはまるで昔の焼き直し。ノートは思わず出会ったばかりのころのスピリタスの呼び方を思い出すくらいに、相変わらずブラッディメアリーは昔とやることが変わらない。
「(これ男女逆だと高確率でアウトなのほんとに不公平だよなぁ…………)」
ノートはそんなことを呟きながら暫し現実逃避。その時にノートの浮かべていた表情は誰も見ていなかったが、少なくともその口調から悪くないことは確かだった。
【システムログ❸(予約投稿)】
´ ω・ )ザザッ……おま……元気そうじゃねk…z……って思われて………そう…
( ・ω `)……z……ここにいるのは……ゲリラの………ザザッ…亡霊………
(´・ω...:.;::..いざ……歌え……ゲリラの亡霊を……ザザッ………喚ぶのデス………
(´・;::: .:.;:..………ゲリr……zz………ザザッ………甦る………何度でも………