No.413 蜂の巣
「メギド、アタック」
ザバニヤの渾身の一撃と離脱に合わせてノートが静かに指示を出す。
十分に攻撃を受けたメギドが装甲を捨てて攻撃モードに切り替える。弾けとんだ結晶鎧の一部が白濁スライムに深々と刺さる。攻撃モードは従来のメギドの形態に近く、守備モードには無かった素早さを取り戻す。第三形態の決戦モードほどアホみたいな火力はないがこれで十分。リロードが必要な決戦モードを今使うほど戦況はひっ迫していない。
メギドは守護戦士として蓄積したダメージ分を狂戦士の攻撃力として回す。これが守護戦士と狂戦士と復讐者の三つの顔を持つメギドの恐ろしさだ。燃え上がったハルバードが先ほどよりも素早く振るわれザバニヤの眷属諸共ザバニヤの作った切口へ叩き込まれる。眷属は強烈な攻撃を受けて自爆しメギドのハルバードは更に深々と白濁スライムを裂いた。当然眷属が纏めて爆発すればメギドもフレンドリーファイアを受けるが狂戦士のメギドはそんなこと物ともしない。
メギドの無茶な攻撃は【パンドラの箱】の自動HPMPが強引に解決してくれる。
容赦ない追い打ちに絶叫する白濁スライム。その間にザバニヤは自力で離脱する。ノートが再召喚してもいいが再召喚もMPを消費するのだ。加えて折角乗せたバフが半減する。温存できるならした方がいい。
メギドが攻勢に出た辺りで回復薬や食事を取りスタミナなどのリソースを回復したユリン達も動きだす。JKの障壁とVM$をバフを受けた者達が攻撃を開始し、鎌鼬が傷口の回復を遅らせるようにピンポイントで狙撃する。ヌコォは小さめの投石器を組み立てて次々と砲弾を曲射投擲し白濁スライムの背面をピンポイントで攻撃し、ティアが無属性魔法のバリアで白濁スライムの放つ呪詛系統の魔法を無効化。シルクも緑の光の使い魔を操り砲弾が当たりやすいように援護をする。
大火力同士が激突し余波で足場の氷が砕けていく。
激怒発狂モードに到達した白濁スライムが無差別の高火力魔法を放ち始めるが、多くは自力で避けて当たったとしてもJKの障壁が弾く。
「えんごいる~?」
「普通に魔法主体で一発デカイの入れよう。風系統でいけるか?」
「おっけー」
VM$は白いクリスタルを取り出すと手の中で砕く。すると透き通るような半透明な青い槍が手の中に現れる。VM$が風魔法を放つと魔法が槍の中に吸い込まれた。
「まだリソース幅あるよー。ティアちゃん魔法こっちにうてるー?ユリンちゃんとJKちゃんもよゆうあったらよろしくー」
VM$が声をかけると少し驚いたような反応をしたが、ティアは直ぐに無属性魔法をVM$に向けて放つ。その魔法をVM$は槍の中に吸収する。加えて槍にユリンとJKが聖属性魔法を放つ。槍が4つの魔法を飲み込み爆発寸前の様に白く発光する。
「スピちゃーん、投てきよろしくー」
「おうっ!ノート!」
「合わせるから自由にやってくれ」
スピリタスが下がってVM$から魔法を込めて発光した槍を受け取る。スピリタスは少しステップをするとスキルでバフを発動しながら槍を綺麗なフォームで投げた。
それはメギドが立ちはだかるコース。残光を残しながら凄まじいスピードで投擲された槍が当たる直前にノートは十分大健闘したメギドの召喚をギリギリで解除。急に目の前からデカブツが消え、続いて目の前には発光した槍が。ミイラたちが何とか受け止めようとするがヌコォがピンポイントでヘイト率を操作しメギドに溜まっていたヘイトをノートがデコイとして召喚した守備型死霊に押し付ける。視線が誘導されたことで防御が間に合わず槍が深々と刺さり込められた魔法が解き放たれる。
「いけます!」
ローコスト路線で皆が動いて時間を稼ぎ、ここで走り回って自力でしぶとく攻撃を避け続けていたネオンのリチャージが終了する。
「ザバニヤ」
槍が刺さり正面がズタズタに裂けた白濁スライム。漸く裂かれた両脇腹が回復しつつあるところに再度ザバニヤの貯め抜刀鎌が放たれる。槍によるダメージ混乱しているところに容赦ない追撃が刺さり一度見た技なのにも関わらず再び白濁スライムは両脇腹を切断される。
その瞬間に皆が離脱しノートもザバニヤの召喚を解除。同時にネオンが魔法を発動。ネオンの解き放った風魔法の巨大な斬撃が足場の氷ごと吹き飛ばしながら白濁スライムは縦半分に切り裂かれる。
切り裂かれた部分にチャージをしていたスピリタスが強烈なライダーキック。ミイラの動きを見切ったユリンが連撃を開始しもはや白濁スライムは立て直すことも出来ずに一方的にボコボコにされる。
白濁スライムはなんとかユリンを捕まえようとするがバフを受け、自分でもバフを持ったユリンは華麗に躱し連撃を続ける。ノートが援護で召喚した死霊達を足場に連撃を続ける。
「すごいよね~。…………敵対しなくて本当に良かった」
ユリンの速度はコンボを繋げば繋ぐほど加速していく。アサイラムのメンバーからすれば大分見慣れた光景だが、VM$からすれば話し方が素になるほどの曲芸だ。表皮のミイラは素早いが本体の動き自体は非情に鈍い。ユリンの攻撃から逃げられない。
ユリンの攻撃は重ねるほど素早く重くなる。ミイラで掴むだけでなく魔法での撃ち落としも狙い始めたがJKを始めとした魔法を使える者達が魔法を撃ち堕とし、鎌鼬とヌコォが狙撃して本体のヘイトをズラす。
VM$の身体スペックは低くない。しかしユリンの動きをまるで目で追えない。ユリンの動きは遅くなるどころか際限なく加速していく。
50連撃。表皮に付く傷が大きくなる。
60連撃。伸ばされたミイラの手をザックリと切裂く。
70連撃。ミイラの手が切り落とされる。
80連撃。皮を大きく切り裂き赤いポリゴン片が目に見えて周囲に舞い散る。
90連撃。一振りでミイラをぶった切る。
92連撃。その恐ろしき威力が解き放たれる。
アッライルウラン。双剣系92連撃系スキル。失敗したら強烈なしっぺ返しがくるあまりにもピーキーなスキルをユリンは完璧に使いこなす。その一撃は超大型Heoritにも少なくないダメージを与えた。そこからユリンはよりスキル熟練度を上げてきたのだ。そこに舞踊スキルと祈祷スキルまで混ぜて攻撃力を更に増す。ユリンは連撃をすると同時に更に舞のモーションまで組み込んで戦闘していたのだ。
両脇腹が裂け、体に縦に巨大な裂傷。そのトドメとなるように炸裂した一撃は白濁スライムの大きな体を完全に千切る。
白濁スライムは、厳密にはミイラたちが大きな悲鳴を上げる。白濁スライムがドロドロと溶け、癒着していたミイラたちが解放される。下半身はドロドロになってもはや原型はない。骨と皮だけの浮き上がった肋骨。手で這いながらミイラたちは最後の攻撃をノート達に行う。
「物量戦か。VM$、アレいけるか?」
「ええでー」
ノートは集団戦に強い死霊を複数召喚。VM$が地面に小さな赤いクリスタルを詰めた箱を箱ごと地面に投げ捨てると一気に大量の蜂型の魔物が解き放たれミイラたちを襲撃し始める。まさに蜂の巣をつついたような大騒ぎだ。
あとは各個撃破だ。ザバニヤが眷属を再生成し、メギドとキサラギ馬車が轢き殺し、ユリンとスピリタスが真正面から削り殺し、ヌコォと鎌鼬が狙撃。JKは鎌鼬から授与された聖属性の矢をばら撒くショットガンをぶっ放しミイラを纏めて薙ぎ払う。
そのままミイラたちの悪あがきとして行われた物量戦はノート達のゴリ押しで真っ向から返され大した成果も出せないまま白濁スライムは完全に削り殺されるのだった。
◆
「なんか妙に強いよねぇ、こっちのアンデッド」
「最初に赤銅の遺跡を攻略したせいで感覚がズレてるのかもしれないけど、ベビーブルーの遺跡は一個一個の質が高いというか面倒くさい」
「確かに赤銅と比べたら量より質という感じはしますね。遺跡の数も少ない気がします」
教会の完全の制圧を終えて変な復活などもしない事を確認するとノート達はようやく脱力する。扉付近にあった変な霧も消えていつでも出れそうだ。ノート達はアバターとリアルの肉体両方の面で回復をすべく食事をしたりログアウトして食事を取るなど一旦休憩をしつつ軽く雑談をする。
「別に教会はノルマってわけでもなさそうなんだけどな。言ってしまえば教会を無視して本丸に突撃してベビーブルーの大ボスを倒してもいいわけだ。だがそれをやるとクエストの評価査定に響きそうだし、アンデッドの特性が進化素材に向いてるからなかなか無視できない。ティアはどう見ても教会の攻略には前向きというか、してほしそうだしな。それに」
「やった~ランクあがったわ~。熟練度もめっちゃうまいわ~」
「強いボスは成長に向いてるしな。ドロップも旨い」
初戦ではあるが、毛虫蛇はノート達から見ても確かに厄介な相手だった。ネオンの大火力などを中心に厄介な表皮と異様な反応速度を持つミイラたちにも貫通する攻撃手段を持つからこそ、噴水を逆利用するだけの手段を持ち合わせているからこそほぼダメージらしいダメージもなく攻略ができたが、並みのパーティーなら前衛が機能不全を起こして削り殺され後衛も魔法爆撃で殺されかねない。そこをなんとか耐えたとしても第二形態の一発目の行動でフィールドを凍らされて移動できなくなり大火力の氷属性魔法を連打されて終わりだ。
「初期特補整ってやつがあるとしても、さっきのは面倒だったなっ」
レベルで言えば、牢獄の地下のアレよりはマシと言った感じか。少なくともノート達が倒してきた赤銅の遺跡の教会のどのボスよりも毛虫蛇は確かにタフだった。赤銅の遺跡のボスたちが自分達の死を恐れぬ超火力の信徒たちならベビーブルーの遺跡はとにかくタフで敵を嵌めて殺してやろうという嫌な意思を感じさせた。
「JKが見たっていうティアに類する存在はもう消えたのかな。それともティアのクエストが始まった時点で俺達が出会えるのはティアに限定されるのか?」
「気になるならベビーブルーの遺跡をもう少し調べてみてもいいと思う」
「アタシが見たのは裏路地の教会の方だったよ!」
「となると分けるか…………」
「どういう分け方にするのかしら?」
「んーそうだなー」
ノートはメンバーの顔を見て、どんな割り振りにするか考える。
性格、技能などのバランスを鑑み誰と誰を組ませるか。裏通りはソロ向きだが、コンビなら問題はない。
皆で話しあい、ノート達は最終的に4つのペアを作って裏路地の調査を開始した。




