No.411 嵩増し
「《アウルラシュカンラヴ》!」
ネオンの声と共に皆が毛虫蛇から離れるとネオンは魔法を唱える。
ネオンが放ったのはこれまた黒く濁った部分のある炎の大きな塊だ。サイズは10mサイズ。放たれただけで思わず顔を覆いたくなるほどの熱気が周囲に放たれ水から蒸気が上がる。明らかに危険な破壊力が込められていたが代わりにその移動速度はかなり遅い。
毛虫蛇もこれは流石にヤバいと直感したのか水の球体を操り大きな水の盾にするが、これにヌコォが魔法防御力強奪のスキルを行使。続けてVM$の放った金色の鹿と共にユリン、ノート、JK、ティアが合わせて無属性魔法を行使。水の盾を大きく削り仕上げにスピリタスが咆哮をぶつけて盾に穴を開け、盾の向こう側にノートは一瞬だけメギドを召喚。ハルバードのフルスイングを毛虫蛇にぶつけて魔法制御を邪魔すると直ぐに待機に戻す。より広がったその小さな穴を抜くようにピンポイントで鎌鼬が狙撃をする。
ネオンの巨大な魔法を防ぐために大きな盾を作ったことが逆に毛虫蛇に牙を剥く。針の穴に糸を通すように放たれた弾丸は毛虫蛇の頭部に着弾し弾丸に込められた暴風の魔法が解き放たれた。風の刃が毛虫蛇の体を切裂き盾も削る。ボロボロになってもはや機能していない盾を巨大な火の玉がゆっくりと飲み込み威力の高い攻撃を連発して受けた毛虫蛇は真面にガードも出来ずに火の玉にぶつかる。
『BIIIAAAAAAAA!!』
火の玉が着弾し毛虫蛇は悲鳴を上げながら頭を振って炎を散らそうとする。しかし炎はべっとりと張り付いているように全く散らない。炎でありながらどこか粘液質な液状の動きをしており、火は消えるどころか毛虫蛇が激しく動けば動くほど延焼をしていた。
「エグイよなぁあの魔法」
「弾丸に込めるのが難しい魔法だもの。ネオンさんがあの魔法も弾丸に込められれば魔法の弾速の遅さも解決して非常に強力なのだけれど」
「そこは要研究だな」
悲鳴を上げながらのたうつ毛虫蛇。ノート達は毛虫蛇の暴走に巻き込まれないように動き、JKやスピリタスに至っては追い打ちの様に与えられていたバズーカを毛虫蛇に撃ち込む。鎌鼬は別の狙撃銃を取り出して頭を狙撃し、VM$は黄緑色の液体が詰まった大きな瓶をユリンにパス。ユリンは受け取った瓶を次々と毛虫蛇に投擲する。毛虫蛇にあたって瓶が砕けると炎はより一層大きく燃え上がる。
「追撃しろ!」
ザバニヤは次の攻撃の為に準備を開始。メギドは召喚されると炎を物ともせずに毛虫蛇に突撃しハルバードを振り回す。ヌコォは毛虫蛇から炎耐性を強奪しメギドに付与する。メギドが動くだけで床の水が激しく波打つ。
「どんどん水位があがっとるね~」
「だな。ただあの噴水を壊そうとするとヘイトが一気に動くんだよな」
「赤銅の方の壁画と同じ。でもこっちは実害がある分だけ面倒」
最初は足が沈まない程度の水位だったが、ノート達が突入して以降噴水のようなオブジェクトは黙々と水を吐きだし続けている。明らかに噴水が吐き出している水の量よりも水は増えており今はひざ上まで床が浸水し始めていた。
単なる水。されど水。水の抵抗は強く、それだけ移動スピードが落ちる。かと言って噴水を破壊しようにも噴水自体は非常に硬く毛虫蛇のヘイト方向も大きく乱れるので攻撃しにくい。
毛虫蛇はのたうち回り体を床の水に擦り付けてできる限り火を抑え込もうとする。水の球体を出現させて自分にぶつけて鎮火を急ぐ。かなりいいダメージを与えているように見えるが、痛がっているだけでダメージ自体は深刻なレベルではないとノートはなんとなく察していた。
そのタフネスはもはやスキュラすら上回るレベル。毛虫蛇は耐えれば耐えるほど水位は上がりノート達は戦いづらくなり、逆に毛虫蛇は動きやすくなる。
「…………まさか」
ふとノートが床を見れば、水が微かに濁っているように見えた。噴水から出る水の勢いよりも増え続ける水は「そういう物」とゲーム内故に納得してしまいそうになるが、もしそれが勘違いだとしたら。
例えば水の魔法を水に対して使い続ければ、相手に気づかれずに水位の嵩増しが可能なのではないか。自分の魔法で作り出した水が床の水の中に混ざればそれは。
「お前頭いいな」
厳密には、このボスの設計者の性格が悪い。最初から初見殺し攻撃をぶつけると同時に水位を増して噴水から出る水の量の推移を測れなくさせる。その後はタフさを生かして遅延攻撃を使い耐え続け、その裏ではプレイヤーに気づかれないように水魔法を床に使って水位を増していく。
毛虫蛇からすれば床に或る程度水が満ちれば動きやすくなり、更には自分が弱点とする火属性の対策にもなる。プレイヤーからすれば水位が増すほど動きにくくなり、特に人間よりも体高の低い獣系の使い魔は真面に機能しなくなる。
そのままノート達が殴り毛虫蛇が耐える事15分。状況は遂に動く。
一度毛虫蛇の頭部から半分までが大理石の石の様に硬質化し、スーッと切れ込みのような物が入っていく。切り口が青い光が漏れる。光と共に切込みから体がメリメリと裂けていく、まるでバナナの皮を剝くように体が裂けて中から豪奢な魔術師の格好をしたブクブクに膨れ上がった人型のアンデッドが出てくる。剥けた表皮は捲れて癒着しスカートの様になり、見た目は長いスカートを腰に付けたラミアの様に成った。
耐えて耐えて耐えた末に毛虫蛇は攻撃に転じる。アンデッドの掲げた金色の杖から白い冷気が漏れ出てノート達の腰まで増えた水が毛虫蛇の体の周りから少しずつ凍っていく。
今まで使っていた水球は氷の大きな弾丸となり一気に放たれる。いつもなら回避できるその氷の砲弾も腰まで水につかっていればなかなか避けられない。
と、なるはずだったのだが、ことアサイラム相手にその戦法は悪手だった。
毛虫蛇が第二形態に移るとノートとVM$は即座に飛行タイプの使い魔を召喚。自分たちの体を持ち上げさせる。大して強くもない、少し力が強くて飛べるだけの使い魔だ。だがそれでいい。自分たちの体が水から脱した瞬間、ネオンがチャージしていた凍結魔法を床に向けてぶっ放す。
ボスですら凍り付かせる魔法は水がある環境なら大きな効果を齎す。もともと毛虫蛇によって“凍りやすい水”が満ちていた床は普通よりもしっかりと凍り付き、ノート達は足の装備をスパイク突きのブーツに切り替える。
水位が増してきたところでノートは今度のパターンを幾つか予想していた。なら対策を立てる事も出来る。床の水に鑑定を行い凍結に適した液体だという情報を得た時点でノートは相手が氷属性に切り替えてくる所まで予想していた。
故に本来であればプレイヤー達を拘束する氷は逆に水位をリセットする道具に利用される。そして毛虫蛇は攻撃の為に今までノート達を手こずらせた防御皮を自ら捨てた。アタッカー揃いのアサイラムに対して防御を捨てたのだ。これが何を意味をするのか考えるまでもない。
「っしゃぁ!これで心置きなく殴れるぜっ!」
「いいねぇ!斬りやすくなった!」
「ザバニヤ、今まで我慢させたな。存分に暴れろ」
皮がなくなり拘束の危険がなくなったということは近接組であるユリン、スピリタス、ザバニヤの攻撃が解禁されるという事。そこからの攻撃は一方的だった。氷の弾丸は鎌鼬とヌコォが次々と撃ち落とし、シルクの光の猪が果敢に毛虫蛇にタックル。それに合わせるようにノートはメギドを攻撃型に切り替えさせ援護させる。
近接組が今までの鬱憤を晴らすように暴れ出し、そんな近接組にバッファーに回ったネオン、JK、VM$からバフが飛ぶ。
勢いづいた近接組の大暴れにより一気に毛虫蛇は一気にダメージを受ける。
あのまま水位を増やすことだけに専念していたら勝てなくてもノート達をもう少し苦戦させただろう。しかし策士策に溺れるように自分のギミックを逆に利用され毛虫蛇は悲鳴を上げながら削り殺されるのだった。




