No.51 どうしてこうなった
※再掲
【謝辞】
皆さま、沢山の応募をしていただき深謝申し上げます<(_ _)>
ちょっと真面目にスケジュールが火を噴きだしたので以降の感想返しは隔離収容施設にて行うことになります。ほんとうに申し訳ございません!しかし通知がちゃんとくるので全ての感想に目を通しております!ご安心を!
『面白かった』の一言だけでも励みになるのでどうかよろしくお願い致します!
「ところで、スピリタスってなんでそんなランク高いんだ?スレじゃランク2までしか確認できていないのに、出会った時から既に9ってツッコミどころ満載だったんだが」
「あ、ボクもそれ聞きたい!そもそもどうやってユニーククエスト受注したの?」
タナトス主催の歓迎会は大成功。全員の発表が終了し装備が一新されたところで、タナトス提供の料理に舌鼓を打ちながらノートはずっと後回しにしていたことをスピリタスに聞いてみる。
スピリタスは少し待て、というように手を突き出しかじりついていたハンバーガーを飲み込むと、口を軽くふいて話を始めようとする。見た目こそ派手だがお嬢様根性は沁みついているらしく、そのギャップにノートは思わず笑いそうになる。
「…………ぁんだよ?」
「いや、なんでもない」
ノート達がなにか重要なことを会話している気配を察知しいつの間にか寄ってきたヌコォ、日本人的な大多数に合わせる性質によりネオンもやってきていた。
図らずもメンバーが集合したところでスピリタスは隠すこともなくあっさりと話し出した。
「それで、どっから聞きたい?結論か?それとも最初からか?」
「最初から聞きたいな。特に、最も早くPKした者の称号までもってやがるし」
ノートの言葉に了承し、スピリタスは自分がALLFOを始めた直後から話始めた。
◆
スピリタスは第七世代VR機器とALLFOを手に入れてからサービス開始が楽しみでたまらず、サービス開始とほぼ同時にログインした。容姿もほとんどいじらず職業も秒で決定。チュートリアルはRTAも斯くやのスピードで終えたらしい。
おそらく日本サーバー勢でも最速でALLFOの地に足を着けた、とスピリタスはいう。
「いやーテンション上がってALLFO当選の通知きてからほとんど寝れてなくてよ!!ワクワクしっぱなしだったわ!!」
「夜寝れないって、お前は遠足楽しみにしてる子供か!!」
「しょうがねえだろ!!VR自体プライベートじゃ10年以上できてなかったんだぜ!その間いつか戻れた時のためにリアルでガチガチに格闘技術磨きまくったんだからよ!」
色々ツッコミどころはあるが、ノートは話が進まなくなりそうなのでスルーすることにした。
「それで?」
その後、睡眠不足から来るナチュラルハイと10数年ぶりの期待以上のVR空間に大興奮したスピリタスはお助けNPCなどの話は一切聞かずにいきなりフィールドに飛び出したそうだ。
「そうしたらよ、いかにも悪役みてえな格好の敵がいきなり目の前に出てきたんだ。全速力で走ってたオレは急に止まれねえと思ったし、たぶん敵だっ!!って思ってそのまま思い切りぶん殴ったんだよ」
この判断が特段頭がおかしいかといえば、その判断は人によるだろう。
普通に考えたら、いたって普通のフィールドでポップしたいかにも怪しげな敵を見てそれを敵性MOBと思うのはおかしいことではない。
ただ、そこで自分が転んででもまず止まって様子を見るのではなく、よし殴ろう!という思考に帰着するところはなかなかぶっ飛んでいるが。
しかし彼女は完全に寝不足のスーパーナチュラルハイ。“いつも以上に”頭のネジが緩んでいた。
いきなり格闘のプロの全体重を乗せた全力のパンチが後頭部に突き刺さったその存在は勢いよく吹っ飛んだそうな。
「うわぁ………ボク、それどんな状況か大体わかっちゃったかも」
「同じく」
ネオンとヌコォはまだいまいちピンと来ていなかったようだが、ユリンとノートは顔を見合わせると気の毒な表情をする。
いきなり現れた『推定:敵』をぶん殴ったスピリタス。そこでようやくほんの少し冷静になったスピリタスはそれをよく観察する。すると名前は『DevilMask』と表示される。
そうか、デヴィルか。ならコイツはやはり敵に違いない。ナチュラルハイ状態で思考回路が幼稚園児レベルになっていたスピリタスは起き上がらないその存在に更に全力のキックをかました。ゴロゴロと転がる体。ようやく見えたそいつの顔にはいかにも『敵です。さあ攻撃しなさい』と言わんばかりのホラー映画に出てきそうな仮面をつけていた。
やっぱり敵だな。
スピリタスは完全に確信する。なので更に顔面をサッカーボールの様に蹴り飛ばしたのだ。「まっ」と声が聞こえた気がしたが既に遅し。その鋭い蹴りは確実に仮面をつけた顔面を捉える。
「いや、もうオチ読めてるんだって。可哀想すぎるわ。」
ヌコォはもう気づいたようで、ネオンだけはまだ首をかしげていた。
「怪しげな風体、いきなり街の外にスポーン。そいつ、初期限定特典持ちだったんだろうよ」
ノートが聞くに堪えずネタバラシすると、ネオンも納得の表情。そして自分の死に戻りランニングがまだましな方だったのかもしれないと思い少し背筋に冷気が走り鳥肌がたった気がした。
「その、初期限定特典?オレもノート達にあってはじめて謎が解けたんだよ。ああ、アイツはプレイヤーだったのか!ってな。でもよ、言い訳になるけどソイツもほんの少しはわるいんだぜ」
立て続けにいきなり暴行を受けたそのプレイヤー。スピリタスも無抵抗の存在を一方的にボコボコにする気はなく、攻撃してこないのか様子を一旦見てみたらしい。
そして漸く朧気ながら状況を理解し始めたその人物はスピリタスにこう言い放ったそうだ。
「クソっ!なんだっ!?敵か!?こうなったら早速この」
そのプレイヤーの不運な点は6つ。
1つ、初期限定特典に当選しそれに合わせて名前を「DevilMask」なんて紛らわしい名前に設定したこと。
2つ、一番スポーンしちゃダメな場所で一番スポーンしちゃダメなタイミングでスポーンしたこと。
3つ、初期限定特典が後衛型で物耐が紙装甲だったこと
4つ、襲い掛かって来た奴が元から色々とヤバいのに何日もほとんど寝てないスーパーナチュラルハイ状態で極めて思考回路が単純化していたこと。
5つ、自分がPLであることをまず主張せずに敵対の意思を見せたこと。
6つ、そのヤバい奴は情け容赦を捨ててしまっている元GBHW民であり、そして対人戦闘のプロだったこと。
そのプレイヤーは初期限定特典の力を使って対抗しようとしたが、スピリタスは戦隊ヒーローが変身を終えたり必殺技の発動までのアクションしている間に呑気に待ってくれるタイプの人物ではない。
その必殺技を発動する前に恐ろしいまでに研ぎ澄まされた延髄斬りの変種(首を蹴りながら足を引っかけて地面に引き倒す、リアルでやったら超絶危ない蹴り技)を喰らい顔面から地面に勢いよく叩き付けられ、[DevilMask]は技の発動をキャンセルされてしまう。
確かに魔法は強い。
例えば、敵がスキルや魔法を使ってもその熟練度が低い場合は発動までに多かれ少なかれラグがある。その点、そのプレイヤーの初期限定特典は大技の発動時間を極端に縮める効果があった。
つまり同時にスキルや魔法を使いだせばそのPLの方が圧倒的に有利なはずだったのだ。というか、発動さえすれば勝てたのだ。
しかしとても不幸なことに、スピリタスは『ゲーマー』ではなく『格闘家』だった。スキルより魔法より速いそのリアル格闘技術による攻撃は、ガチガチのゲーマーだったそのプレイヤーにとっては予想もできない攻撃。
まさかリアル格闘家に襲われてはどうしようもない。一転攻勢になるどころか大技強制キャンセルでスタン。何もできないところにもう一度鋭い蹴りを顔面にもらいそのプレイヤーは死んでしまった。
だが忘れてはいけない。そのプレイヤーはその場でスポーンした。つまりそこが初期リスポーン地点なのだ。普通のPLなら街の境界でリスポーンするが初期限定特典勢はその限りではない。
これがスピリタスの勘違いを決定的に後押ししてしまった。
そう、万が一相手がPLであれば死ねば街の中にリスポーンするはず。だというのにしなかった。ならばこいつは間違いなく敵だとスピリタスは判断したのだ。
死んだと思ったらまた現れた敵にスピリタスは歓喜の笑みを浮かべ、今度はどんな反撃をしてくるのだろうかと思い襲い掛かる。頭が戦闘モードに切り替わりこの時点でスピリタスは正気だったかは、スピリタス自身をもってして少し首をかしげていた。
対してそのプレイヤーから見ればその光景は恐怖でしかないだろう。自分を倒すたびに成長するスピリタス、一方で自分はデスペナでどんどん弱っていくのだから。
しかしそのプレイヤーは漢だった。一人のゲーマーだった。多少の困難を乗り越えて見せようと気概があった。スピリタスによる襲撃を初期限定特典取得によるレアなイベントと勘違いし、そして何より負けず嫌いだった。
結果、無限湧きするおいしい敵と勘違いされスピリタスに10回ほどボコボコにされたそのプレイヤーは最後に泣きながら何かを叫ぶとそのまま二度とスポーンしなくなったそうだ。
「今思えば流石にオレも悪いことしたなって思うわ。あん時は『変な敵もいるもんだな』くらいにしか考えてなかったし、まさかそいつがプレイヤーだったなんて全然気付かなかったけどよ」
「当然だ!完全にそれトラウマになってるぞ!!」
斯くしてスピリタスは最速のPKerになったのだ。
あともう少しそのプレイヤーが粘っていれば、粘着PK判定されスピリタスに警告の通知が届きスピリタスも勘違いに気づいただろう。
一度でもそのプレイヤーが自分がPLであると主張すれば、スピリタスも攻撃をやめたはずなのだ。
だが、得てして現実は残酷だ。致命的な勘違いを二人はしたまま、その不幸な遭遇は悲惨な終わり方を迎えた(なおそのプレイヤーは暫くショックから立ち直れなかったが、キャラをリメイクして今はアクセサリー製作のトッププレイヤーとして活躍しているとか。因みにその後対応が遅れたことを運営側から謝罪され、お詫びのアイテムを貰った)。
さて、話がここで終わればまだいいのだが、当然街の近くでそんなことをしていれば他のプレイヤー達も見ているわけで。
確かにその初期限定特典持ちプレイヤーは誰がどう見ても間違いなく敵っぽい格好をしていた。だが少しの間そのやり取りを見ているとその印象は逆転し、なんだか大昔のヤンキーの様なやたら強いプレイヤーに一方的にボコボコにされ続ける可愛そうな存在になる。これではどちらが敵なのかわからない。
そこに偶然居合わせた正義感の強いプレイヤー達が一体何をしているんだとスピリタスに接触。彼らもゲームが始まったばかりでテンションが高く、普段なら絶対に絡まない人種であるはずのスピリタスに少し高圧的な態度で絡んでしまった。
そして最悪なことに、その相手はスーパーナチュラルハイ+戦闘モードで気が昂りまくってるバトルジャンキー。
スピリタスからすればウォーミングアップに最適な美味しいレア敵を倒していただけの認識でしかないので、絡んできたプレイヤー達が遠回しにまくしたてる全く要領を得ない言葉の意味は当然よく分からない。
「ああもうごちゃごちゃうるせぇ!文句があるならもっと簡潔に言えってんだ!それともまとまってなけりゃ喋られねえのか!1人ずつ喋ることもできねえのかよ!?いいからかかってこい!面倒だからテメェらもぶっ飛ばしてやる!話はそっからだ!!」
面倒事が嫌いでありなおかつ寝不足なスピリタスが耐え切れなくなるまではとても早く、無意識に火力の高い煽りをナチュラルハイなスピリタスは行ってしまう。同様にハイテンションで正義感が暴走したそのプレイヤー達は買ってはいけないその喧嘩をとてもお高い値段で買ってしまった。
そして交戦表明をしてしまったプレイヤー達は非常に不幸だった。彼らが敵対を決めた彼女は強く、そして頭のオカシイ戦闘民族しか生息していない生粋のGBHW民だった。
そこに一切の容赦はなく、交戦表明即ち即時戦闘開始の合図であり、まずいきなり初動を察知させないやたら高い格闘技術から繰り出されるストレートを顔面に喰らい吹っ飛ぶリーダー格のプレイヤー。周囲が呆気にとられているのも御構い無しにスピリタスは先手必勝とばかりに攻撃を続ける。
手刀で目つぶし、のどぼとけを的確に穿ち、鳩尾を蹴り抜き、股間を蹴り上げ、顎に強烈なフックをお見舞いし…………。
確かに2人だけだったとはいえ、ノート達がランク1なのにランク5のダンジョンを踏破してしまったように、初期限定特典持ちという存在はネオンほどゲームなれしていない存在が扱わない限り単独でも強い。それを10回も連続で撃破したスピリタスは高速で成長しており、加えて獣じみた勘と反射神経、戦闘センスがあった。
銃弾飛び交い360度どこも危険地帯な超世紀末GBHW経験者からすればあまりに生ぬるい状況。スピリタスは集団相手に一歩も引かず戦闘を繰り広げ、そして勝ってしまった。勝っちゃったのである。
それは敵が降参したからではなく、情け容赦なく殲滅したからである。
当然それは連続PKカウントされ、称号の効果もあいまってガンガン悪性は成長していく。
彼女はその後も絡んでくるプレイヤーの悉くを相手取り、どんなに窮地に陥ろうとも立ち向かった。
彼女は初期限定特典持ちではない。しかしその喧嘩殺法は純粋に強かった。そして複数に対してたった一人でも膝をつかず挑み続けることは彼女の成長を加速させ、その時点でランク2に到達していた。
ランクが上がったことで既に風前の灯だったHPは全回復。『お前はどこかのヤサイな戦闘民族か』とツッコミを入れたくなるパワーアップを経て、あろうことかスピリタスは『その場にいて挑んで来た全てのプレイヤー』を『スキルや魔法を一度も使わず』撃破した。
スピリタスはそれにより一躍有名になり(知らず知らずのうちにユニーククエストのフラグをたて)、そしてそのまま勝負を挑まれ続けるものだからこれ幸いとスキルの存在も忘れ喧嘩殺法のみで対人戦をし続けた。
「そしたら急に変な声が聞こえてきてよ、いきなりユニーククエストが始まっちまったんだよ」
ケラケラと笑うスピリタス。
しかし予想より更に数段“酷い”スピリタスの話にノート達はただただ絶句するのだった。
(´・ω・`)[DevilMask]?
どこかで聞いたことある様な…………バウンティなんとかの…………
※感想にてご指摘をいただいてので補足
同じプレイヤーがリスキルされていたのに運営の反応が遅すぎないか?というご指摘に関して感想の返信をそのまま掲載します
→運営、というよりは基本的にAI管理ですからね。AIも序盤はまだ成長しきっていないのもありますが、あとほんの1,2回でスピリタスには確実に警告がいっていました。
なぜ即座に対応されなかったか、と言えば[DevilMask]側が抵抗の意思を見せていたからですね。無抵抗の状態を攻撃し続けていたら即刻スピリタスに警告が発せられるor強制ログアウト+厳重注意でした。
一概に『運営の怠慢』とは片づけられませんが、『AIに全てを任せた弊害』であるのは確かです。のちに彼女には運営側から謝罪のメッセージとお詫びのアイテムの授与が行われています。
本編で語ると冗長なのでこの辺の裏話はカットしていました。