No.408 ベビーブルー
ベビーブルーの遺跡。JKが最初に発見した遺跡だが、赤銅の遺跡を発見したことで長らく放置されていた遺跡だ。本来ならもう少しジックリ攻略したいのだが、ツナを始めとして初期限定特典持ちが峡谷に辿り着いている。ツナたちとはなんとか話が通じたが、全ての初期限定特典持ちがアサイラム側と協調路線を取るとは限らない。峡谷に辿り着けばいずれはこの遺跡群に辿り着く可能性も高い。
多くのプレイヤーが辿り着く前にノート達としても遺跡の地縛霊となっているティアのクエストはなんとかクリアしたい。
「久しぶりだな」
クリスマスイベントが始まり、更にはツナたちとの遭遇。ツナ達の加入のゴタゴタで更に修羅場だったノートのスケジュールは大炎上となっており、ここ数日はログインボーナスとけものっ子サーバンツ達との報告を聞くだけの毎日だった。なので遺跡に戻るのは1週間以上の期間が空いており、約2.2倍速で進むALLFO世界の住人からすれば2週間ぶりだ。それでもアンデッドの特性なのかそれとももはや2週間程度少しのうちにも入らないのかティアは久しぶりに訪れたノートの周りを嬉しそうに回っていた。
イベントの息抜きに攻略をする。本来であれば逆に思えるが、MfS回収事業は現状問題なく進行している。あまりに期間を置いて鈍るのも嫌なのでノートはベビーブルーの遺跡の偵察に来ていた。
「大分期間空いてるけど、道はある程度わかるんだろ?」
「Yeah, maybe.こっちの遺跡の敵はね、赤銅の遺跡のアンデッドと違って群れで動くから注意してね!」
「ああ。今日の目標は………そうだな。手始めに寺院の1つくらい攻略してみるか?」
本日の攻略メンバーはノート、ユリン、ヌコォ、ネオン、スピリタス、鎌鼬、JK、VM$の8人だ。ゴロワーズとエロマンガもログインはできると聞いているが時間が少しずれるので今日は生産側に回ると申告している。
「は~~~。あんななーんもなしな峡谷の下にこんな大きいフィールドがあったんやなぁ」
「まぁ下かどうかはわからんけどな。この手の遺跡の座標に関しては信じない方がいい」
「せやな~。したにあるのにおそらみえてるもんな~。てかクエストって途中参加できるんやな。ひょうかはさすがに下がるみたいやけど」
新規メンバー組が遺跡に入るのは初めての事。ノートがいない間は峡谷探検を行いツナやVM$の通過してきた転移門をヌコォを始めとしたメンバーで発見しマッピングを進め、その先の街に関しても視察していたとノートは聞いている。
ツナやVM$達が歩んできた道はノート達やJKとも違い、話を聞いているだけで興味深い情報が幾つも出てくる。互いの情報共有に関してもまだ全てが完了しておらず、遺跡に関する事もVM$はまだ詳しくない。
「流石に途中合流組が最初からやってた組と報酬が同じってのは問題があるんだろう。まだ連携に関しては慣れない部分もあると思うがフィーリングで合わせてくれ」
「ん~まかしてや~」
前衛はJK、スピリタス。中衛はノート、ユリン。後衛はヌコォとネオンと鎌鼬。この編成の中にVM$は中衛として参加する。学生組であるユリン、ヌコォ、ネオンは学生組だけあってここのところ連日ログインしている。
最初の交渉の時のシリアスさはどこへ行ったのか、VM$の様子はノートが最初に見たほろよいガール状態だ。真剣さは薄く一見心配にもなるが、ノートはVM$の頭のキレを知っているので心配はしていない。
「エレル、しっかり守ってや。クルンタ、確実に狙って」
VM$は手始めにインベントリから白い本玉を取り出す。するとその宝玉が発光し中から長さ3mに渡る巨大な翼を持つ鷹のような純白の生物が出現した。
その鷹のような生物は奇妙な見た目をしていた。全体的なフォルムは確かに鷹だが、頭は目のないメンフクロウのような形状。その代わりに翼に目玉のような半透明のぶよぶよした球体が幾つも埋め込まれている。脚もぱっと見は普通に見えるが、よく見るとそれは鳥の脚というより鱗の生えた人間の腕だった。
そんな不気味な鳥が光と共に片足でVM$の肩の上に現れるとすぐに上空に向けて飛び立つ。その姿は直ぐに半透明になって見えなくなった。
それと同時にVM$が腕に付けた金のブレスレットを振るとその手の中にはいつの間にか金色の弓が現れており、幽かに鹿の鳴くような声が聞こえた。
脳がとろけたような喋り方をしていたVM$だが、“自分の使い魔”に指示する瞬間だけは鋭い声音だった。
「便利だなやっぱり」
「コスト管理とかけっこうややこしいんやで~」
面談にてノートはVM$と初期限定特典について話したが、VM$の持つ初期限定特典についての説明を聞くとノートも確かにこれは説明されるより実演を見た方が早いと納得した。それほどVM$の初期限定特典は複雑な機能を持っていた。タイプで言えばノートとヌコォのハイブリット。役職もポジションも自由であり、自由だからこそ選択肢が多すぎて難しい初期限定特典だった。少なくとも常人ではコスト管理で頭がおかしくなるぐらいには複雑だとノートは感じた。
それを管理して活かせているだけVM$は常人離れした要領の良さがあることは察せられる。
VM$を入れて初めての本格的な戦闘はそのVM$の要領の良さが遺憾なく発揮されていた。
合流して1週間、ユリン達によってインフェルノブートキャンプを実施されてVM$もランク50を突破していた。その模擬戦を通してVM$はユリン達のそれぞれ動きや性格、性能を頭に叩き込んでおり、ノートが色々と指示をしなくても皆に合わせて攻略をしていた。
赤銅の遺跡を攻略したノート達ならベビーブルーの遺跡の攻略も簡単。そんな風に思う事も有るだろう。
だが、赤銅の遺跡とベビーブルーの遺跡は全くの別。ノートもJKの攻略が進まなかった理由を実際に攻略する事で実感した。
ベービーブルーの遺跡はアラビアテイストの強めの赤銅の遺跡に比べて少し西洋風の様相を持ち合わせており、隣り合った場所でありながら別の文化が発達していた事を表している。区画に関しても赤銅の遺跡は道幅が基本的に大きく変わらなかったものの入り組んでいるのに対してベビーブルーの遺跡は表通りがかなり広く、対して脇道がかなり細めに展開するという構造を取っている。赤銅の遺跡は長く直線の道が続かないのに対してベビーブルーの遺跡は区画整理がされており“進むだけなら”迷わないだろう。“表通り”に面した建物は一つ一つが大きく華美な物だった事を素人目にも窺わせる。
だが道が真っ直ぐという事は見晴らしがいいという事でもある。
赤銅の遺跡は強力なデバフを操る死霊がウロウロしており、屋内の中にはアサシンの様に弱めの個体が隠れていたが、ベビーブルーの遺跡は強力なボス個体と何かしら尖った特性を持っている取り巻きを何体も率いている死霊がワンセットで動いており、ソロだと非常に難しいダンジョンとなっていた。なので一撃で仕留めることが難しく、かと言ってネオンの魔法などをぶっ放せば瞬く間に遺跡中のアンデッドにバレる。
対して表通りから横に分岐する“裏通り”はカオスだった。そこには秩序が無く複数の建物を強引に詰め込んだ様な形をしていた。例えるならそれは貧民街。表通りの美麗さが嘘の様にそこは掃き溜めの様な闇の空気が立ち込めている。
裏通りの敵達はギミック処理が必要な敵が多く攻略手順を間違えると碌でもない結果になる。上手く利用すれば裏通りは表通りの強力なアンデッドを避けてショートカットできるが道幅が狭いのでパーティーで動くとフレンドリーファイアに細心の注意を払う必要が出てくる。言ってしまえばソロ用の通路といえばいいのか。少なくともノート達でもパーティーで裏通りをメインで攻略するのは難しいと何度か試して断念せざるを得なかった。
故にノート達は現在適度に脇道に逸れながらゆっくりと表通りを進んでいた。




