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No.400ex クレーマー

初期限定特典㉑

【ミダース】

直接手で触れた物を『金』に変質させる特性を持つ金色の手を得る初期限定特典。金に変質化した物は元の物体の特性をある程度引き継いだまま『金』に変質する。この変質化した物体(以降Aと定義)は錬金などにも使用可能。また、Aを直接触れている場合のみ形状や動きをある程度操作する事ができる。変質化できるものにはほぼ限界がなく、相手の頭部に触れていればそれだけで倒せてしまう。Aの対象に取れるものには制限がなく、地面などですらも侵食する事が可能。加えて操作状態にあるAは限定的に手と同じ役割を発揮しAの触れている物を変質化する。(ただしオリジナルより変質化のスピードは遅い)

デメリットとしてまず能力を自分でコントロールする事はできない。能力は発動するほど発狂ゲージが上昇していく。一定ラインを超えると耳が聞こえなくなる。また、Aを元に戻す事は原則できず、重要なアイテムに触るとほぼ確定でパーになる。武器の装備ができず、装備の着脱もテキパキやらないと耐久値がゴリゴリすり減っていく。

また種族が少し特殊でお腹が空きやすく、生産などを得意とするが同時に定期的に幻聴を聴いてしまう。その幻聴に反応すると発狂ゲージが進んでいく。

クラッシャーとしては強力だが職業ビルドが生産、テイマー向きなので初期限定特典の持ち主が戦闘で活躍するのはかなり難しい。共に戦ってるくれる仲間がいれば大きく戦力が変わるタイプの初期限定特典だ。

一見強力だが大食いの特性がとにかく足を引っ張る。なんせ腹減ってご飯を食べようとしても触れたところから変質化して食えなくなるのだ。ものを食うにも一苦労する。解決方法を見つけないと永遠に餓死を繰り返す恐ろしい初期特でもある。なお1番手っ取り早いのは他のプレイヤーに食べさせてもらう。もはや介護




「クソッ!」


 果たしてどこでケチが付いたのか。お調子者のヤツに根負けして転移門の先に無計画に首を突っ込んだことか。いや、それよりも前にユニーククエストとクリスマスイベントがぶつかったところからケチが付いたような気がする。

 秘境の先に私達でも入れる街を見つけた物の、言葉の通じないNPC相手に長らく足踏み。そこで更にリアルの方も忙しくなって攻略が後回しになって、ハロウィンイベントで地獄のような忙しさになった。

 それでもなんとかやり切ったけど、物資を限界まで使い切り装備も全壊したせいで、ユニーククエストが発行されても自分たちの足場を整えるので精いっぱい。

 そうして相方と予定が合わずに攻略を先延ばしにしていたらNPCからはせっつかれるし、いざやってみればクリスマスイベントにぶつかるし。どうしてこういつも間が悪いのだろう。


 魔物の強さを確かめた時点で直ぐに引き返すべきだった。あの女が洞窟を見つけて目をキラキラさせた時点でヤバいと分かっていたのに。

 散々迷い倒して気づいたら帰り道はよくわからなくなってるし、出てみたら魔物に襲われるわ。よく知らん人たちと合流するわ。


 あの時は本当にバッタリといった感じだった。

 まさかこんな辺境のエリアに人なんていないだろう。そんな気分で動いていたし、相手グループも多分そう思っていたはずだ。お互い魔物と殴り合いをしながら偶然にも引き合うように合流した。

 不幸中の幸いとして、そのグループが強いおかげで総倒れにはならなかった。

 いきなり総倒れにはならなかったが敵は尽きない。帰り道がもはや判らない。せっかく進んでもまた死に戻りなのか。死ぬなら物資を無駄にする前にさっさと死んだ方がいいのだろうけど、下手に知らない人たちとそれとなく共闘路線を組んでしまったために勝手に引き下がれない。損な性分だとは思っているが…………しかし、ようやく物資に多少余裕がでるまでになったのに。


 あのバカはきっとそんなこと全然考えてない。物資が足りなくなったらまた増やせばいいと思っている。およそ時間という概念全般に対しての向き合い方がアイツはルーズすぎる。あんな風に生きられた方がきっと幸せだろう。アイツはそういう奴だ。考える前にとりあえずに動く。動いてから少し考える。何かあったらとりあえず動いてその反応を見て更に動く。真面目に考えているこっちがイライラするほど場当たり的なんだ。


 それによくわからないのは組んでいる奴らもだ。

 

 動きや使っている力からして確実に私達と“同類”。少数でここを突破するのは並みのプレイヤーじゃ無理だ。洞窟から飛び出してきたが、もしかしたら彷徨っている経緯も私達に近いのかもしれない。

 色々聞いてみたいけど言葉を交わす暇がない。まるで親の敵と言わんばかりに魔物達が襲いかかってくる。

 Heorit防衛戦の時以上のことは起こるまい。ユニーククエストのアレよりも面倒な事にはなるまい。そう思っていたが、完全に想定外だった。

 ALLFOはいつだって嫌な形で予想を裏切ってくる。

 

 そもそもこの初期限定特典ってなんなんだ。特典っていうなら普通アドなはずだ。なんで修羅ルートに突き進ませるのだろうか。もしかして特典というのは何かの誤訳だったの?GoldenPearに限ってそんなことは無いと思いたい。

 そうだ。そもそもこの初期限定特典なんて受け取ったのがダメだったのだ。あの時はイライラしていて、ALLFOについて全然調べてなかったし警告も完全に読み飛ばしていた。7世代機器特有の何かかと思ってYESを連打していた当時の私を殴りたい。明らかにアレは警告だった。本当に受け取るのかという最後通牒だった。

 しかし言い訳したい。まさか特典に地雷を仕込むと思うだろうか?人類の待ち望んだ一般家庭用完全没入型VRに合わせた『ALLFO』という単独ローンチ販売ゲーム、というGoldenPearがあまりにも超強気な売り方をしたゲームに、こんなバカげた………得体のしれない、街に入れないなんてデメリットを付けた『特典』を用意するなんて。

 これを特典とさもありがたそうな名前を付けたバカには辞書をよく読むようにお勧めしたい。これはマゾ専用コースって名前にすべきだ。物語でもオンラインゲームで最初から街に入れませんなんて馬鹿げた話聞いたことない。


 いきなり街の外でポップした時はびっくりしたが、その後で直ぐに近くの街に入ろうとして衛兵NPCが襲いかかってきて、それを反射で蹴り飛ばしてしまったのが全ての始まりだった。

 あの時の心境を表すなら一言で済む。リアルの事情で「ちょっとムシャクシャしていた」のだ。


 まさか、最初から街に入れない仕様になってるなんて予想できるはずもない。

 街に入ろうとした私に急に攻撃を仕掛けてきたNPCを反射で蹴り飛ばしたことで完全に敵対状態になり、私を敵と勘違いしたプレイヤー達までもが私に矛を向けた。何が起きているのかよくわからなかったが、イライラしていたので襲いかかられたから普通に迎撃してしまった。そしたらわけわからんくらい強力なNPCに一撃で殺され、逃げて、GMコールして、そこで初めて私は初期限定特典というわけのわからないものを受け取ってしまったことを知った。


 あそこで『ではやめますか?(まぁやっぱり使いこなせないですよね)』とGMに言われて、ふざけんな!と言い返したことを今は強く反省している。

 いいよやってやらぁ!その代わりちゃんと特典と呼べるものを寄越せ!とイライラするままに吼えたが、どう考えてもあの時の私はモンスタークレーマーだった。

 

 そうして私は街から離れたが、オンゲの初動で派手に暴れたことで目を付けられた。まるで狩りのようにプレイヤー達から私は追い立てられ、迎撃していたらランクが上がっていた。

 たった一人でもかなりの人数を倒したが回復がジリ貧。さてここまでか。そう思った時にアイツが私を助けた。


「あんたも同じもんもっとんやろ!?なかまがおってよかった!」と。


 よくわからないままに攻撃され続けて孤独感を感じていたあの時は、その明るさがささくれた心に妙に馴染んでいい子だと思ってしまったのだ。あの強さに思わず見惚れてしまったのだ。どうせ街に入れないなら同類とつるめば楽か。ごねて得た特典のお陰で拠点にも困らないしもう少し続けてみようか。そう思ったのがダメだった。

 いつだってどこだってケチばかりだ。「時を戻せるならどれくらい戻りたい?」なんて馬鹿げた質問はあるけど、私の場合戻りたい地点が多すぎて困る。

 

 気づいたら何かに巻き込まれていて、いつの間にか更に面倒な物とつるんで。

 今共闘している連中はどうか。彼らも私達と同類のはずだ。普通のプレイヤーには見えない。恐らく初期限定特典なんてクソを放棄しなかった変人だ。プレイヤースキルは確かに高い。いや、プレイヤースキルが高くないと街に入れないみたいなハードモード以前の問題みたいな状態に適応できないのか。


 思うんだが、『街に入れない』みたいな縛りゲーはマゾな動画投稿者がネタに尽きてようやく挑むような馬鹿げた縛りな気がする。最初の街の周りでぐるぐるして滅茶苦茶レベリングして「フィジカルだけでボス倒しましたイエーイ!」みたいな。「街で色々なアイテムを買いあさる必要もないですねぇ」みたいな、クリア後に最初に聞くべき話を聞いて「今更ですよねぇw」みたいなありきたりなコメントをする為の。まかり間違ってもオンゲでやる事じゃない。


 しかしこまった。回復薬が尽きる。初期限定特典の力を使っても良いが、どうせ帰り路もわからないのに身を削る必要はあるのか?ただの威力偵察に本気を出す必要性を感じない。


 迷い、躊躇い。思考のノイズが些細なミスを呼び、状況を悪化させていく。

 魔物が集り過ぎた。ここで共闘者たちが何か切り札でも切ってくれればいいのだが、既に切ったのか、私達と同じように温存したいのか。最初から動きは変わらない。


 こうなったらもう死んでしまおう。どうせ相手に私達が誰かわからないのだし。

 そう考えた次の瞬間、突如として渓谷の上の方で爆発が起きた。


 思わず其方に視線がむき、魔物達ですら注意が逸れた。

 次の瞬間、すぐ真横を通過した業火のビームが地面を薙ぎ払った。


 

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― 新着の感想 ―
[一言] 偶然…偶然ですね( ◜ᴗ◝ )
[一言] アノーマラスシャークヘッドとガラスの靴の人たち? なんでソフィアはこいつらとアサイラム会わせたんだ?
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] こーれは、どうなんだろ
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