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No.Ex 第八章補完話/VRチャンバラ全日本大会+ ユリンのターン


 1日目を危なげなく勝ち抜き2日目へ。

 ここからはシードも関係なく、リントも気を抜いていられないレベルになってくる。


「自信はあるか?」


「戦ったことがない選手が数人勝ち上がってるけどぉ………勝つよ。今までと変わりなくね」


「うん、良い顔つきだな」


 ノートはリントを1分ほどハグすると、最後に頭をポンポンと撫でて送り出す。

 1日目を終えたリントはコーチから渋い顔をされつつも精神状態をベストにするという理由でノートの部屋に泊まっていた。夜から朝まで散々甘え倒しメンタル調整を終えたリントはノートの部屋を出てノートと共にマンションのホールまでエレベーターで降りる。エレベーターのホールではリントの父親と母親が待っていた。


「おはよう」

「おはよぉ」

「おはよぅ。リントくん、忘れ物なぁい?」


 小柄で日に焼けた父親は見るからにスポーツマン。軽くちょび髭を生やしており、身長は低くともダンディさを滲ませている。元はプロサッカー選手で、今もコーチを続けている。その身は50近くとは思えないほど引き締まっている。

 一方でそんな父親と大体同じくらいの身長の女性はリントがエレベーターから降りてくるなりハグでリントを出迎える。いつもは無愛想でだれかれ構わず噛みつく姿勢のリントも母親の前では借りてきた猫の様に大人しい。

 体格も顔もリントと母親は非常によく似ている。元プロバスケットボール選手で、今は監督を務めており更にはスポーツ連盟組織の一員でもあるので多忙だが息子の試合の為に今日は予定を開けてきた。ハードに活動をしていながらも顔つきは若々しく、リントと並ぶとときたま姉と勘違いされる程度には若い。その透き通るような肌の白さと相まって吸血鬼などとあだ名される美貌の持ち主だ。


「にぃには……ね」

「リント君も有名になってきたからねぇ」

「うん、わかってるよ。この後一緒に見るし、その時挨拶するさ」


 本当であればノートもホールまで降りてきて見送りたい。むしろ会場まで見送ってあげたいが、リントもかなり有名になってきた。ノートは少し面倒な立ち位置な為、あまり迂闊な動きはできない。それはリント達の両親も知っているのでノートと直接言葉を交わせないことを残念に思いつつも理解を示す。


 いつもは自転車で向かうところだが、車に乗って家族みんなで会場へ向かう。

 普段は寮生活で、実家も近い位置ではない。土日に毎回実家に帰るほど家大好きな子供でもないので遊佐家が顔を合わせて集まるのは久々だ。


「とっちゃんは元気かい?」


「うん、元気だよ。お仕事は少し大変そうだけど」


「あの可愛かったとっちゃんがいまは国家公認カウンセラーだもんねぇ」


「ママ、言ってることが婆臭い」


「えー?そうかなぁ?婆臭くないよねぇ?」


「え?俺に聞いてる?いや、うーん、婆臭いってことはないと思うけどな…………」


 なんとも答えにくい妻の質問に苦笑しながら当たり障りのない答えを返すリント父。家族相手にはリントも噛みつくことは無いが、それはそれとして素で少し口が悪い。

 久々に遊佐家で集まったのにもかかわらず、真っ先に話題に上がったのは直近の大会ではなくもはや遊佐家とは切っては切り離せない関係にあるノートの事。

 リントの父も母もスポーツマンであり、リントの親である。大会を前にどんな話題を振るべきかはわかっているので大会の話はしない。しかしかといって父親は年頃の息子に振るべき話題も見つからず、共通の話題となると自然とノートに行き着く。


「そこそこの頻度で泊ってるんだってぇ?とっちゃんから聞いてるよぉ」


「大丈夫なのか?とっちゃんも忙しいだろうに」


「むしろ楽なんじゃない?ボクがくると料理するし家事もするからさぁ」

 

「まぁー、そういう事はならいいんだけどな」


 リントの両親からすれば、幼いころからリントの事を面倒見てくれているノートには全幅の信頼を置いている。それはそれとして、ノートに任せてしまった部分が多すぎたことは両親ともども深く反省しており今もリントがノートに甘えていることに関しては少々の後ろめたさがある。

 本来は親が見るべきこと、気づくべきこと、与えるべきこと。それらをリントは両親からよりノートから多く受け取ってきた。両親が2人とも忙しかったし、リントがノートに懐いていて、ノートも積極的にリントの面倒を見てくれた。そんな環境に両親は依存してしまっていたのだ。


「勉強とかは、どうだ?俺は文系だったし全然勉強しなかったからわかんないんだが…………」


「別に新しく学ぶこともないし、普通だよ。高3の11月だし、付属だからみんな進級試験に向けて勉強してる。受験組でもない限り楽だよ」


「そうか」


 両親たちが自分達の在り方に問題を感じた時には、既にリントは両親から離れていても平気な子になってしまっていた。リントの親の立ち位置にはノートが居て、親よりもノートにリントは強い信頼を寄せていた。リントが中学生になったことを期に両親もリントに対しての付き合いを改善したが幼少期からの在り方は根深く父親はどうしても探り探りの話題探しになってしまう。それはリントもわかっていて、リントとしては特に両親に対して怒りも何も無いので普通に接しようとするあまりに逆に軽く他人行儀っぽくなってしまう。


「偏差値どぅ?夏から維持できてるぅ?」


「英語は少し上がったけど、世界史が少し下がったかなぁ。総合で言えばあんまり変わってないと思うけど」


「頑張ってるねぇ。えらいえらい」


「まーねぇ。だってそういう約束だったしぃ」


 一方でほんの軽い天然と図太さを持ち合わせる母親は気負いなくリントに話かける。母親はどちらかと言えば友達の様にリントに接してしまいがちなのでなんとか母親らしい言動をしようとしているが、それでも生来の気安い感じがでるので母親ではなく姉っぽい感じがにじみ出る。そんな母親にはリントもなんとなく自然と友達の様に接する。


 気が抜けてる時は口調が少し間延びするのも元を辿れば母親からの影響だ。幼少期に接した回数が普通の母親に対して少なかったとはいえ口調が移る程度には母親はリントに対して色々と大きな影響を持っている。

 性格も似ている部分が多く、表の顔はしっかり者でキビキビ仕事をこなすが、プライベートでは甘えん坊でふわふわしている。人の付き合いは回数ではなく質で良いと思っており、母親はリントと接する時は時間が少なくても目一杯愛を注いだ。親よりもノートと接する時間が長かったが、それでもリントが親の愛を感じずに親に対して隔意を持つようなことが無かったのは母親が少ない時間でもしっかりと愛を表現したからだ。


「あーあー、もう着いちゃったぁ。ね、ね、なんか欲しいものある?行きたい場所とか、食べたいものとかぁ。大会終わったらの話ね」


「それは大会優勝記念ってこと?」


「うーん、どんな結果でもいいよぉ!」


「えー………急に言われても思い浮かばないかなぁ」


「別に難しく考えなくていいぞ」


 眉をひそめて考え込むリント。試合に対してプレッシャーを感じそうな内容の質問に対し父親は軽く流してもいいとフォローするが、リントはもうすぐ高校に到着しそうな手前頑張って考える。そして車を降りるギリギリで一つ思いついた。


「鍋、かなぁ」


「鍋?」

「食べたいってこと?」


 息子の予想外のチョイスに両親は思わず顔を見合わせる。


「鱈鍋がいい」


「鍋のいい店かぁ…………」


「ううん、家でいい」


「家でやる鍋がいいの?」


「うん」


 遊佐家は経済的に余裕がある。人脈は非常に広く、かなり前から事前予約が必要な店でも頑張れば予約をねじ込めるコネがある。どんなオーダーでも息子の為に応えるつもりだったが、リントのオーダーはなんとも素朴な物だった。


 しかしそれはリントにとって遠慮した上での選択だったわけではない。

 遊佐家みんなでゆっくり過ごす時間が少なかった幼少期、父親が知り合いから毎年貰ってくる鱈で冬に皆で鍋を囲んでいた。11月、少し早めの冬が近づいてくる中、リントの頭にふとその光景が過ったのだ。


「じゃあいい鱈をよういしなきゃねぇ」


「そうだな」


 車から降りて皆で玄関口に向かう。

 昨日よりも多くの者が高校に集まる中、母親は気にせずにリントをハグした。


「頑張ってね!応援してるよ!」


「は、恥ずかしいってば」


 少し抵抗するように身を捩るリント。そんな母親を父親はやんわりと引きはがし年頃の息子を解放する。


「全力で楽しんでこい」


「うん」


 父親は軽くこぶしを出し、リントはそれにこぶしをコツンと合わせる。簡素だがリントにはこれぐらいが一番いい。


「いってきます」


「「いってらっしゃい」」


 リントは両親に見送られ、遂に大会二日目に向けて会場へと進んだ。




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― 新着の感想 ―
[一言] >>リントの両親からすれば、幼いころからリントの事を面倒見てくれているノートには全幅の信頼を置いている。 でも、そいつは七股しているとんでもねぇ奴やぞ。本人達は納得していても親としてはねぇ…
[一言] (*ˊᵕˋ*)ホゥ
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