No.Ex 第八章補完話/マスカレード・ミ≠ゴ❶ Side:F
第550部 No.357参照
「どうだった?彼は面白い人だっただろう?」
「………………面白い?」
4章シナリオボス討伐戦と其れに纏わる騒動、通称【第二ギガスピ】と名付けられた一連の騒動。
この騒動の中で、私の所属している【生産組組合】の動きは奇妙な物だった。
そもそも、【生産組組合】は日本の生産プレイヤーの多くを束ね、日本サーバーの利益を守るような動きをする半ば公的な役割を持っているような動きを装っているけど、実体は非常に謎めいている。表向きは合議制だけど核となる組織は秘匿性が高く独裁的に近い。本当に重要な方針は『本丸』と呼ばれる部屋に入出を許可されたプレイヤー達、つまり【生産組組合】のトップ“先生”の身内で構成された人たちの中で決められている。ノーガード戦法に見えて一番重要な部分は隠されている、と言えばいいのかもしれない。
私が【本丸】への入出を許可されたのは唐突だった。
リーダーとしては名を知られながらもその実態が異様なほど見えてこない“先生”から急に声を掛けられた。
「君には特別な才能がある」と。
最初は勧誘に付かれて女性僧侶のグループの勧誘に乗ったことからだった。
カるタというプレイヤーが取りまとめるグループで、そこには私と同じように周囲のプレイヤーからの勧誘に嫌気がさしている僧侶タイプの女性プレイヤーが集まっていた。その組織自体に興味はなかったが、組織の在り方にメリットは感じていた。人間関係が適度に希薄なのも私の気質に合っていた。
固定パーティーに属さずのらりくらり。固定パーティーを組んだ方がいいとはわかっていたがそれを先延ばしにしていた。
そんな私の目論見が急に崩れた。
ロストモラル掃討戦、通称【決闘事件】に於ける女性僧侶のトップであるプレイヤーの失踪である。
私が好んでいた女性僧侶組の「人間関係の希薄さ」がここで大きな仇となった。私達は互いをよく知っておらず、特にカるタという存在をリーダーとして認めていた存在にも関わらずリーダーの実体を誰も理解していなかった。
兎にも角にも、決闘に於いて本陣が急に壊滅したのは、本陣にいた女性僧侶組のリーダーが裏切ったから。これが一般的な見解であり、女性僧侶組という独特の地位を確立していた私達は一気に矢面に立たされた。決闘時はリアルの事情で一切関与していなかった私からすれば本当に青天の霹靂というべき事態だった。
面倒な事に、自分で言うのもなんだけど私は女性僧侶組の中では割と目立つ方だった。色んなところから勧誘されても積極的に女性僧侶組の名前を出してガードしていたし、女性僧侶組の維持のために他の子が強引な勧誘をされていた時は間に割って入ったこともある。そんなことを繰り返していた為にフラフラと出歩くリーダーの代わりに私に頼るような子もチラホラといた。副リーダーなんて呼んでいた子もいた。
加えて私はいつも仮面で顔を隠していた。ロールプレイの一環でもあったが、単純に身元もわかってない人相手に顔を晒すのが嫌いだった。そのせいで多かれ少なかれ目立っていた。
結果、女性僧侶組が荒れた時に私は知らぬ存ぜぬを突き通すことはできなかった。私も女性僧侶組の一員として認識され、周囲から説明を求められた。いや、アレは説明を求めていたわけではない。自分たちの鬱憤を晴らす相手が欲しかっただけなんだと思う。もし生産組組合が間に入っていなかったらどうなっていたか分からない。
それでも私はなんとか足掻いて女性僧侶組としての顔を捨てようとしていたのだが、決闘にて棚から牡丹餅的に覇権を獲り、更には女性僧侶組を吸収するという剛胆な事をした生産組組合は何故か私を女性僧侶組の纏め役として認識しており、私に意見を求める事が度々あった。
生産組組合に吸収された女性僧侶組は『2×H』というアイドルグループモドキのような物に改造され今は生産組組合の広報を務めているが、私はアイドルなどという存在とは寧ろ正反対だ。当然『2×H』としての活動も拒否した。それを生産組組合はあっさり認めたが、その代わり生産組組合の広報として改めて勧誘された。私も身を寄せるところがなく、まあ覇権を獲った組織にくっ付いていれば悪いようにはなるまいと考えてその勧誘に乗った。合わなければ抜ければいいくらいの認識だった。
しかし元女性僧侶組となれば広報として投げられるものは当然『2×H』関連。女性僧侶組の面々もやはり急激な状況の変化には戸惑っており、いつの間にか私が『2×H』と生産組組合広報とのパイプのような役割を担わされていた。
それから更に『2×H』が本当にアイドル組織的に機能し始め広報側も『2×H』を管理する機能を獲得したが、代わりに私は生産組組合の戦闘部隊から探索に誘われるようになった。最初は生産組組合の金魚のフン的な存在と侮っていたが彼らのレベルは予想よりも遥かに高かった。
そして次々と別の隊から誘われるようになり、遂には『本丸』と呼ばれる場所に立ち入っている『生産組組合』の上層を束ねるプレイヤーからも声を掛けられるようになった。
今思えば、アレは段階を踏んで入念にチェックされていたと分かる。単純なゲーム的な強さ以外にも、プレイヤースキルや状況判断能力、性格やその他諸々。私と同じように偶に戦闘部隊に声を掛けられて一緒に探索を行うプレイヤーも少なくない数いたが、本丸のプレイヤーにまで声を掛けられたのは私含めてほんの僅か。そこにはどこか優越感めいたものがあったし、“先生”に直接声を掛けられた時は嬉しかった。ただ、先生は予想よりも遥かに得体の知れない人物だった。
あの時話した内容は特段重要で深刻な物でもない。どちらかと言えば一見単なる世間話にも似ていた。けど、アレが最終審査だったのだろう。先生と初めて対面で会話をした翌日、私は本丸へと招待された。
そこで話されていた内容はあまりにも意味不明だった。
神寵故遺器、オリジナルスキル、教会、ギルド、初期限定特典、世界勢力図、そしてロストモラルの行動予測。
当たり前の様に語られている一つ一つが明かせば大騒動の物ばかり。
特にロストモラル、現在はアサイラムと名乗る組織が本当に実在するプレイヤーであり、しかも先生たちの知り合いというのだ。最初は本当に理解が追い付かなかった。その後に別個で説明を改めてされたが、知れば知るほど『生産組組合』が如何に秘匿性の高い組織なのかを理解するだけだった。
特に、アサイラムのリーダ―に関しては詳しい説明をされた。
彼は先生の一番弟子であり、最高傑作であると。
恐らく、個人単位では現在ALLFOで最も有名なプレイヤー。そもそもプレイヤーとして認識されているのかも怪しいレベルの強さを持つ人物。あまりトレンドなどを重要視しない私でも反船の時には動画を視たし、ロストモラルが出てくるたびにスレの1つや2つは見ていた。
そんな怪物を作ったのが先生本人だというのだ。
厳密には“彼”以前にも弟子はいるとのことだけど、指揮官としての弟子はロストモラルのリーダーが一番らしい。
身内の行動だからこそ、生産組組合はロストモラルの、アサイラムの行動をある程度予測できる。裏からプレイヤー達を唆し、アサイラムにプレイヤーをぶつけて徐々に自分たちの地位を押し上げていく。アサイラムが表舞台に出る度に毎回生産組組合が妙に美味しい所を持っていったのは偶然ではなく必然だった。
『生産組組合』は生産プレイヤーの為の組織などではない。あくまですべては駒。アサイラムという脅威に対する城壁。表向きは敵対しているがPL同士は寧ろ友好的。それはまるで言葉の交わされない八百長。
初めてそれを聞いた時は「なんだそれは」という怒りが微かに湧いた。私達が何のために女性僧侶組として矢面に立ったというのか。生産組組合の上層は極めて真実に近い情報を握っていてあくまで中立的な立場として振舞っていたのだ。生産組組合という存在に信頼を置いていただけに裏切られた気分になった。
それでも先生は微笑みを崩さなかった。
ミ=ゴ
ラブクラフト御大の作り上げたクトゥルフ神話作品群にて登場する生物。
体長は5フィート(約1.5m)ほど、薄桃色の甲殻類のような姿だが、性質としては菌類に近い生物である。渦巻き状の楕円形の頭にはアンテナのような突起物が幾つか生えている。鉤爪のついた手足を多数持ち、全ての足を使って歩行することも、一対の足のみで直立歩行することも出来る。背中には一対の蝙蝠のような翼を持つ(翼をもたない個体もいる)。
写真に写らず、死体は数時間で分解して消える。エーテルをはじく翼で宇宙空間を生身で飛行する。一種の冬眠状態になって生命活動を中断できる。暗黒世界の出身であるために光を苦手としている。仲間同士では、頭部を変色させたり、ブザー音のような鳴き声かテレパシーで意思の疎通を行うが人間の発声も可能である。『闇に囁くもの』では彼らの鳴き声が録音されている。(Wikipedia引用)
冥王星を前哨拠点地として活動する知的生命体で、人類よりも高い技術力を有している。彼らと言えば脳缶が有名で、人間の脳を取り出しては脳缶と呼ばれるカプセルに入れて技術などを盗んでいる。
CoCではお前エビみたいで食えそうだのと言われたりよくやられキャラとして登場するのでミ=ゴは雑魚だのゴ=ミなどと揶揄される事もあるがそれは大きな間違い。それはゲーム的に意図的に弱体化されているだけ。ALLFOでいうなら武装&魔法禁止というクソ弱体化状態。本来の彼らは人間の大抵の攻撃を無力化するバイオ装甲と人間を一撃で消し炭にしかねない電気銃を駆使して戦闘を行う。




