表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

582/880

No.389 責任とってくれる?


「グレゴリ、テクスチャをボクに貼り付けて!」


 揺らぐ視界。グレゴリの金ぴかテクスチャが今回は役に立たない事を受けて、その分のリソースを自分に要求するユリン。グレゴリは壁のテクスチャを消してユリンに金のテクスチャを貼り付けた。

 

 敵味方の区別が曖昧な状態ではどうしても一か所に塊がちだが、それでは状況を打破できない。なんせ倒すべき一番の敵の姿がまだはっきりとしないのだから。5匹の赤い獅子がまるでボスの様にも見えるが、獅子は分身して増えたり減ったりするし、1体1体自体は金仮面程度の強さしかない。ボスとするにはいささか弱かった。

 加えて、玉座から消えた髑髏と骸骨。どう見てもボスと思しきアレが見つからない。故に本当に打破すべき敵は潜んでいると考えるべき。


 アサイラムのメンバーを模した炎の幻影がユリン達を襲うが、見た目はかなり精巧。よく見ると違和感のある部分もなくはないが、もし戦闘中であれば見抜くのは難しいくらいの違和感。また、偽物は近づくと熱い事でも判断ができた。視覚と聴覚を機能不全にしてきても、触覚までは死んでいない。本来であればこの熱で真贋を見抜くはずだったのだろうかと思いつつ、金の間抜けなテクスチャを貼り付けたユリンが前に出る。


 偽物のユリンは迎撃しに飛んでくるが、偽物には間抜けなテクスチャが無い。グレゴリのテクスチャは異質らしく、再現されていない。ユリンは光属性のビームを牽制の様に放ち、自分の脚に纏わりつつあった茨を剣で切り裂いた。


「(あれ?手ごたえがない?茨も幻覚?)」


 赤い花の真ん中には目玉があり、ユリンの事を視ている。生きているように見える。茨が体を這った感覚もあったはずだった。なのに、何もない。

 花そのものが幻覚ではないことはわかっている。触れて、斬って、回収する事も出来ていた。その時は花には何も異変は無かったのだ。


「(花の目も幻覚?)」


 見ているだけで肌が泡立ちそうなほどの目、目、目。あまりに気味の悪い見た目に身体の芯が少しずつ冷えていくような錯覚をユリンは覚える。


「(【発狂】!?見つめられているだけでアウト!?)」


 赤い獅子の攻撃を躱しつつ、ユリンは地面に向けて聖属性魔法を放つ。花は揺らぎ、目玉がユリンを強くにらみつける。


「もっと分かりやすくしよう!」 


 全体的に赤いフィールドに、ステンドグラスを通して赤い光が差し込み、更には陽炎がある。全てが同じように見えてしまう。

 ユリンはもっと戦いやすくしてやろうと、空を飛んで天井のステンドグラスを破壊し始めた。壁の窓には全て木が打ち付けられているが、天井のステンドグラスだけはこの部屋の中で曇りない美麗さを保っていた。一体なぜ、窓を封じていたのか。なぜ天井は手つかずだったのか。わからないことばかりだ。故に綺麗なステンドグラスを割るのには普通心理的な抵抗が発生する。だが、ユリンにとっては勝ちが最優先事項。仲間の幻影を聖属性魔法で迎撃しつつステングラスを破壊していく。





「(本体はある)」 


 ヌコォは幻覚で皆が混乱していた一方で、一早く赤い獅子や炎の幻影に紛れてエリアの中をうろつく真の敵を知覚していた。自分のドレインスキルが目に見えない何かを相手に発動するのをヌコォは感じていた。

 

「大丈夫、落ち着いて」 


 ヌコォは肩に乗り、不安そうに自分の頬を舐めるシルクの頭をなでる。

 姿も声も上手く知覚できずつも、ヌコォはずっと背負っていたシルクの事は直ぐにわかったし、シルク側も流石にずっと背負っていた相手を誤認はしなかったようで、混乱したような顔をしつつもヌコォの傍を離れなかった。


「シルクはみんなにヒールをして。周りにいる人が仲間。わからなければ匂いで判断して」

『Q゜u!』


 最初こそ反抗的な所も目立つシルクだったが、短い期間で多くの修羅場を潜ってきた。流石に死亡率が高いシナリオボス戦ではお留守番をしていたが、それ以外は殆ど連れ歩いている。 

 シルクは扱いが難しい。調教師の使い魔はプレイヤーに寄り添い、プレイヤーと同じように成長する。だが、死んだときのペナルティはプレイヤー以上に重い。ノートの本召喚死霊も死んでしまうと復活させる時には多くの贄が必要だが、調教師の使い魔は更に負担が重い。故にできる限り死なないようにすることが重要だ。使い魔を待機状態にするための特殊な『宝珠』をヌコォ自ら作ったことで万が一の時は避難させることはできるが、ノートの様に即座に撤退させられない。手の届く範囲ではないと『宝珠』に逃がすことはできないし、しかも『宝珠』への転送は少し時間がかかる。

 故にこそ、本召喚死霊よりも慎重な運用が必要だ。


 成長させるためにはどんどん前に出せてハードな戦いをさせた方がいいのに、死んでしまうと大きな遅れが発生するというジレンマ。

 その制約の中でも卵から孵した以上、ヌコォは丁寧にシルクを育ててきた。


「シルク、私の指さす先にシカの化身をホーミングさせて。そこに倒すべき一番の敵がいる」

 

 シルクは緑色の光の粒子で形作られたシカを操り、ヌコォの指さす先に走らせる。

 ユリンがステンドグラスを割ったことで陽炎は薄くなっていたが、それでも透明な影を混戦の中で捉える事は難しい。その影にシカがぶつかることで粒子が弾け、透明な影が揺らいだ。


 完全にボスを視野に捉えたことでヌコォはヘイト管理を開始。視界が揺らいでいても見間違えようのないJKに周囲のヘイトを集め、戦況を整えていく。





 

「(私の、やるべきことは…………)」


 視覚や聴覚が機能不全を起こしている為、簡単にノートに指示を仰げない。グレゴリとノートの間には固有の強固な独自回線があるので綿密な会話が可能だが、ノート以外のメンバーからグレゴリへの回線は精密ではない。  

 アサイラムのメンバーが無秩序にグレゴリに声をかければ、グレゴリの処理能力は簡単に限界を迎える。グレゴリのCPUは大人びた小学生程度ぐらいだとノート達は考えている。皆で一斉に話しかけれても全てを聞き取ることなどできない。その為、ノートから皆へは指示を出せるが、逆にメンバーがノート側に何かを頼んだり、他のメンバーと気軽に会話ができない。

 

 ネオンの基本方針は周囲に動きに合わせる事。ネオンの性格がそもそも周囲に合わせるタイプだというのもあるが、サポートと好き勝手に撃てない大火力魔法の使い手だ。周囲に合わせて動かないと事故が起きる。その為、ネオンに対して明瞭な指示を与えてくれるノートはいつだって頼りになる。

 むしろ、わざわざオーダーをしなくてもノートは全員が動きやすいような状態を作ってくれる。しかし今回の戦闘はノートも手探りの為に流石に緻密な調整はできない。個々人で判断し動く必要がある。


 ネオンは場当たり的にバフ魔法を他のメンバーに使うが、今やるべきことはバフを撃つことではないと分かっていた。天守閣はネオンが魔法を撃てるだけの最低限の広さがある。

 赤い獅子も、偽物も、地面に生えた花も、ネオンの魔法なら一網打尽にできるかもしれない。加えて、いつもはノートが運用をしているせいで忘れがちだが、オロチもネオンの手札だ。音声による会話ができないためにノートは指示を出さない限り基本的に動かないオロチへの指示を後回しにしているが、オロチとの直接の契約者であるネオンであれば、ノートがグレゴリと会話できたようにオロチとも会話ができる。


「オ、オロチさん」

『なんだが?』


 オロチとネオンはアグラットを挟み特殊な契約を結んでいる。その為、オロチは契約者はネオンだがノートの指示に従う事にペナルティが発生しない。言わば、ネオンは名義上だけの契約者の様な物だ。

 それでも、名義上だけだとしてもネオンが契約者には変わりない。ネオンがオロチに指示を出すことは可能なのだ。


「オロチさんには、このエリアの支配者は見えていますか?」

『ん?見えでらおん?あ、でも教えらぃねじゃ』

  

 オロチはノート達よりも遥かにスペックが高い。性格のせいでパッとしないし、分身を派遣しているためにふざけた耐久力は持っていないが、それでも最古の魔王直下の悪魔の一人である。ノート達は幻覚に翻弄されていたが、オロチはしっかりと本体を見抜いていた。

 勿論、バルバリッチャによって過剰な干渉を禁じられているためにノート達が迷っていても言及はしないが、今の口走ったこと自体が既に答えだ。オロチには支配者が見えている。つまり、本当のボスがいると確定する。


「オロチさんの力を、貸してください。ボスモードのリストです」

『いじゃ。何すればいの?』


 オロチは通常戦闘とボス戦闘で生産可能な悪魔が分けられている。

 その悪魔達は基本的に番号で管理されており、悪魔の性能とリソースと全て把握しているのはノート、ヌコォ、ネオンだけ。その中でもネオンはノートとヌコォが必死になって頭に叩き込んでも尚全部を網羅できていない悪魔の全てが頭の中にリスト化されている。どんな悪魔がどんな性能を持ち、リソース値はどれくらい必要で、どんなパラメータをしているのか。その全てが頭の中にある。


「これからオーダーする悪魔を生み出して、ボス本体を攻撃してください」

『ああああ…………やっていがなぁ?』

「え、わ、わからないです。でも力を貸してもらえると……その………」

『ええ?』


 オロチに対する縛りは、実は強いようでいて弱い。バルバリッチャに過剰に手を貸すなとは命令されているが、システム的な強制力を持つものでもなければどのラインからアウトなのかも現場のオロチに委ねられている。

 ただ、オロチ自身は積極的にノート達に手を貸す性格はしておらず、自己保身を大事にしている。なので自分が怒られるリスクがありそうだとすぐに「本当にやるの?(責任とってくれる?)」と聞き返してきたりするのだが、適度に無責任で向こう見ずなノートの場合だと「問題ない。やれ(どうなるかしらんけど)」と平気で指示する。

 しかし根が真面目でいい子なネオンは無責任な事は言えないので、オロチと妙な間が発生するが、それでもお願いしますと頼むとオロチは『しかたないなぁ』とネオンに頼まれた悪魔を吐き出し始めた。


 ネオンからオロチを経由して指示が伝達されて動く悪魔達は的確に本体を狙う。視覚や聴覚に頼らないタイプの悪魔をオーダーすることで、悪魔によって姿を消して動く敵本体の位置を明確化する。


「グレゴリさん、魔法を撃つと皆さんに伝達をお願いします」

『(。-`ω-)よかろう』


 伝えるべきことは最低限に。その中でも自分の魔法に関する情報は重要だと判断したネオンは魔法の予告をする。オロチに悪魔の吐きだしを頼むと決めた時点で、ネオンは既に魔法のチャージを開始している。

 そう。本来、ネオンのビルドは指揮官の要素を強く持っている。

 女皇であり聖女は皆を導く者。長いチャージが必要な魔法が発動できる時間を待つ間に周囲に指揮を行い、魔法を撃つタイミングで自分で周囲のメンバーを動かしてフレンドリーファイアを防ぐ。これが本来の『パンドラの箱』の一番効率的な運用方法だ。


 ネオンはその正しい運用を無意識のうちに行っていた。


 ネオンの指示を受けて悪魔が集り時たま業火が放たれる場所からできるだけ離れるノート達。JKが結界を展開すると同時にネオンは雷撃の魔法を唱え、姿の見えないボス、炎の偽物、赤い獅子、目玉の花諸共を雷撃で撃ち抜いた。これにより、炎の幻影たちが全て砕け、花も焼け焦げる。


 このネオンのファインプレーにより、戦況は大きく動き出す。

  




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ネオン自らが殻を破ったか……感慨深いものがありますねw これからはもう一人のタイプの違う指揮官に成長していくのか?
[良い点] ネオン… 知ってたけどめちゃくちゃ成長してるゥ! ウオオオオアアアア\( 'ω')/アアアアアッッッッ!!!!! 初期の頃とは見違えますねェ( ◜ᴗ◝ ) [一言] 更新感謝ァ(ㅅ´꒳` …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ