No.384 モヤモヤ
マダミス楽しい!
細身の戦士が戦闘スタイルを変えた一方で、大柄の戦士も少し遅れてスタイルが変わった。柄を捻ると騎乗槍の先端が変形し、斧の様な形状になっていた大盾、4mの戦士の為に3mものサイズを持つ大盾にランスがガチンと接続され、巨大な戦斧に変形する。
「わっ!わっ!わっ!」
守るスタイルから攻めるスタイルへ。大柄の戦士のヘイト方向設定は『タンク/アタッカー』。防御力の高い敵を優先して徹底的に攻撃を行う。鎧の腹部に付いた人の顔が吼えて、斧に赤いオーラが付与される。
タンクを優先して攻撃をするという事は、タンクを攻撃するために優秀な技能が持っているという事。JKとメギドが大柄な戦士に付いたのは戦況を安定させるという面では正しかったが、ある意味では間違いでもあった。
しかし、陣形を変化させようとしても大柄な戦士はスーパーアーマー状態で防御力の高い敵を優先して攻撃する。
細身の戦士がスピードと変幻自在のスタイルで指揮官を殺す『指揮官殺し』なら、大柄の戦士は高耐久力であらゆる攻撃を押し切りタンクを徹底して狙う『タンク殺し』。集団戦を仕掛けてくるプレイヤー達には異様に刺さる戦術を使ってくる。
ランスの突きですらJKをよろめかせる威力を出せる大柄の戦士だ。その戦士が振り上げた戦斧にJKは回避を選択。かなりギリギリで何とか戦斧を回避すると、空ぶった戦斧が地面に叩き付けられ石畳の床が砕け衝撃でよろめく。尚、よろめく程度済んでいるのはノアの方舟のお陰。本来であればスタン状態になり、続けて行われる薙ぎ払いで吹っ飛ばされる。
よろめきつつも何とか耐えたJKは戦斧のスイングを大盾で受け止めるが、一撃だけでJKの盾には罅が入り、JKは自ら横転して受け身を取り衝撃を殺した。
そんな大柄な戦士に向けてメギドがハルバードを振るう。並みのアンデッドなら大ダメージを受けるその一撃が直撃しても大柄の戦士の鎧にはへこみすらなく、よろめきもしない。カウンターの様に戦斧を短く持ってシールドバッシュを行いメギドをよろめかせる。
大柄の戦士は槍使いとしては並み。本領は斧使い。細身の戦士の様に自在にスタイルチェンジこそしないが、戦斧の持つ位置を柔軟に切り替えて斧のスキル、鎚のスキル、盾のスキルを使用する。大柄の戦士は動きこそ細身の戦士よりは遅いが、スタイルの切り替えは早いので総合的に見れば大して差はない。攻撃的なスタイルを取りつつも防御を両立するという厄介な敵だった。
「(手数が…………!)」
JKが耐えていれば、いつもならユリンやスピリタス、トン2といった素早い攻撃手が攻撃をしてくれた。あるいは、ネオンが大火力を叩き込んで一発逆転を齎すなど、色々な逆転のキッカケがあった。
ノートはメギドをJKに付けているが、メギドはアサイラムのメンバーの様にJKの指示をなかなか聞いてくれない。メギドは本来荒ぶる鬼神に近い存在だ。ネクロノミコンのお陰で人間的な一面を持っているが、本来は共闘などもってのほか。フレンドリーファイアを避けるだけ死霊としては破格の賢さを持っている。ノートの共闘をしろという指示に対して死霊の本能を押し殺し何とか従おうとする理性がある。
ネクロノミコンが支配する死霊とノートの指揮のお陰で成り立っているだけで、アンデッドとは本来共闘できるような代物ではない。悪に落ちた孤独で呪われた召喚術師が行き着く果てが死霊術師という存在なのだから、それに使役される死霊に『味方』などという概念はない。生者を殺す為なら本来味方サイドの者でも諸共殺す。
カるタやゴロワーズもまだまだ途上だが、ユリン達とメギドの間には積み上げてきた信頼と時間がある。肩を並べて数々の難行に共にぶつかり合い、メギドに一つ一つ仲間がいる状態での戦闘を教え込んだことで、メギドはノート以外の指示でも少しずつ聞くようになった。だが、いくらJKがフレンドリーに接する事ができるとはいえメギドとの間には信頼が足りていない。ノートの命令があったとしても、JKが指示を出しても真面に指示を聞かない。
「(But I don't want to give up!アサイラムがめぐまれていただけで、アタシはもとは1人だった!ここからまた、積み上げればいい!)」
しかしそんな程度でJKはめげない。半年間、一人でずっと困難に立ち向かってきた。元々ソロ向けのビルドで突き進んで来たのだ。今以上に手に負えない事態に直面したことだってある。メギドという火力を出せる近接アタッカーがいる分、非常に心強い。
「(気を使われて、負けるなんて、冗談じゃない!)」
JKは愚かではない。ノートの持ち掛けた提案が、契約が、単なる戯言ではないと理解していた。ノートがそんなバカげた契約を持ちだしてくる理由も悟っていた。
気を使う事はあっても、自分で上手く立ち回るために気を使われる側にJKはなることが少ない。
JKは幼少期、体が強くなかった。長い時間を病院で過ごし、両親や兄弟は末っ子であるJKを可愛がり、常に気を使っていた。そんな心配そうな家族の顔を見るのがいやで、JKはいつもニコニコするようになり、できるだけ人に心配されない立ち回りを自然と身に着けていった。
元々の才能と組み合わさり、他人との上手い距離感を築くことに慣れていった。皆に好かれる立ち振る舞いが自然とできるようになった。長い闘病生活など感じさせないくらい、病が治った後のJKは瞬く間に学校の人気者になるレベルの才覚を持っていた。
故にこそ、人に気を使われたり、見透かされることには慣れていなかった。図星を突かれて口を噤むことも滅多になかった。
普通じゃない提案をされるくらいには、自分の身の置き方は自分が思っているより良くなかったのだとJKは自覚したから、反論ができなかった。
ここでノートを恨めれば楽だろうが、JKは人が良すぎた。賢くて理性的だった。
数週間の交流で、ノートは良い人ではないが、救いがたい悪人ではないと思った。人間関係に関して淡白な親友が想いを寄せるだけのものがあることも理解した。
心底嫌な奴だったら良かったのに、ノートは新顔のJKが馴染みやすいように色々と工夫をしてくれたし、手厚いサポートをしてくれた。察しもいいし、表面上は魅力的にふるまう事に慣れており、敵には苛烈だが身内には非常に優しい。わざわざ希望を口にしなくてもそれとなく願いを叶えてくれる。手を差し伸べてくれる。「ああ確かにスケコマシらしいな」とJKですら思うような点が多々あった。JKのタイプとは違うが、女性には好かれる要素を持っている男性だとは感じた。
何かの勝負に負けてもJKはいつも笑っていた。悔しいと思うよりも、ゲームをできたことを楽しめた。誰かと遊ぶことに飢えていたJKにとっては、誰かと遊べること自体が楽しくて仕方が無かった。なので『悔しい』という感情を感じた事が無かった。
そんなJKにとって、ノートとの出会いは未知との遭遇に近かった。初めて出会う人種、尚且つ初めての恋敵という存在。
想い人であるヌコォに彼氏がいる事は知っていたが、遠い場所の話だったのでそれを強く実感することは無かった。だが、一緒にゲームをするようになり、人に甘えたり頼ったりといったことを全くしないヌコォが、ノートに対しては甘え、心から頼りにしている。それを見て初めて『嫉妬』という感情を覚えた。家族からも友人からも愛されるみんなの人気者であるJKにとって『嫉妬』は縁遠い存在だった。人生で初めて感じた悔しさと嫉妬心がJKをモヤモヤさせた。
そんな感情を自分が覚えていたことに、先ほどようやく気付いた程度には、JKには馴染みのない感情だったのだ。
想い人の好きな物を否定したくない。
同時に、想い人に自分の事も見て欲しい。
JKは生まれて初めて明確に『絶対に負けたくない』という想いを抱いた。
なら、すべきことはわかり切っている。
理解だ。JKはいつだって未知を理解する事に務めてきた。拒絶ではなく、まず理解する事から始める。このあり方がJKの魅力の核の1つとなっていた。奇しくも、その在り方は恋敵とよく似ていた。
想い人の嗜好を理解したいのなら、想い人の好きな人を拒絶するのではなく理解することが最短の道。ノートの方から手を差し伸べてくれたのだから、JKはその手を取るだけだ。もっとノートという人間を理解するためには、もっと近くからノートを見るしかない。
「それはそれとして、負けてられないよね!」
JKは内に抱えたモヤモヤをようやく飲み下し、迷いを振り切り、意識を切り替えた。
「Let's start from scratch!」
JKは戦斧を躱し、取り出した散弾銃をカウンターの様に大柄の戦士の顔面に撃ち込んだ。




