No.369 100%濃縮還元
GW終わり!
黄色の石を奪ったという事は、ノート達も火力を自重する必要がなくなった。
ここからはノートとヌコォの指揮をバトンタッチ。ヌコォがアタッカーに回る。
だが、その黄色の石は何かの縛りになっていたのだろう。
ペンダントを奪われると、何かがひしゃげる様な音がして、ボスの体が膨張を開始。赤い包帯は裂きながらブクブクと大きくなり、包帯の間からブシッと噴き出した血液の様な物が地面に於いて燃え上がった。
「この!またバリアがっ!」
せっかく破壊したバリアが修復し、追撃をしようとしたスピリタス達を吹き飛ばす。オリジナルスキルの効果が失われたわけではない。オリジナルスキルの効果があって尚、スピリタス達の火力を防ぐバリアが張られたのだ。
体に生えていた上半身が悲鳴を上げながら本体に吸収され、本体にはより生気が宿る。体が裂けて更に触手が生え始める。
完全にヒトとは異なる何かに変貌したボスは、開幕の波動で近接組を纏めて薙ぎ払った。
「ッ!?火力が倍以上に跳ね上がってやがる!」
鎌鼬が足止めを止めて容赦なく本体を撃ちまくるが、それもバリアで全て防がれ跳弾する。2.5段階力を下げられて尚この火力。本来の火力を取り戻したらどうなるのかノートは考えたくなかった。その火力は、まさに4章シナリオボス3周目ですら上回りかねない火力だからだ。
素直に石を避けながら戦わず、横着するプレイヤーに死を。
それは鍵を奪われた黒騎士を彷彿とさせる発狂モード。
赤包帯のボスはひと際太い触手を自分の胸元に突き刺し、まるで心臓を取るようにズズズズッと何かを引きずり出す。それは大きな大きな大剣。どう見ても体のサイズよりも大きな4mサイズの燃え上がる大剣だ。その大剣をよく見ると、それは人の赤い木乃伊と骸骨の塊で作り出されたあまりにも禍々しいデザインで、幽かに黄金色混じる黒のオーラを纏っていた。
まさに100%濃縮還元系呪物。剣を形作る木乃伊も骸骨もまだ生きており、悲鳴を上げながら例の経の様な唄を詠唱し続けている。
「あの大剣を絶対に真正面から受けるなよ!」
人面ケルベロスを相手にした時の様な、ゴールの見えない不気味さはないが、逆にどこまでも正統派なボスといえよう。
魔法特化と思いきや本体も強いじゃん、からの更に大剣装備で近接もバリバリやります予告。先ほどまで操り人形のように少し変な挙動をしていたが、随分と自然な動きで剣を装備した。その一振りで黒い火炎が飛び、フィールドすらも切裂いて燃え上がらせていく。呪いの炎にサイコの刃を乗せた物理魔法両用の攻撃だ。
と思いきやボスが凄まじいスピードで動き、走り回っていたキサラギ馬車に突進からの突き。ヌコォがギリギリでヘイトを引っ張りカるタが狙撃して攻撃を何とか逸らしたが、それでもキサラギ馬車に攻撃が掠りかけていた。
ユリンのスピードにメギドの火力とJKの防御力を与えたような、最強無敵の魔法戦士。バカげたボスへと変身した赤包帯に対してノート達は怯まずに攻撃を続ける。
オリジナルスキルの効果が発揮されているだけ今はマシなのだ。弱体化している今潰さなければ残っているのは地獄ばかり。
「使いたくはなかったが!」
『まーーーったけったいなモノ相手に戦ってるでごぜぇますね!▇▇▇▇▇▇▇▇▇▇が生きてるなんて!』
「なんて!?」
オリジナルスキルという切り札を切ったからには、負けは許されない。ノートは苦心しつつもツッキーの使用を選択。バフを発動して全体の強化をし、自動HPMP回復をブーストする。
「おっ!?なんかダメージが通るぞッ!」
「よっと~!ほんとだ~!」
ツッキーの使用はノート達のパフォーマンスを大きく上昇させ、JKのタンクも再び機能し始める。ボスの攻撃相手にも一歩も引かずに殴っている。加えて、予期せぬ副次効果を齎した。何故かよく攻撃が通り始め、ビクともしなかったバリアに傷がつく。
「ツッキーの伏字効果のせいか?」
『▇▇▇▇▇▇▇▇▇▇でごぜぇますからね。相性的に有利でしよ』
「だから何言ってるか分からん!けどこれあれだ!多分このボス、やはりシナリオボスに近い扱いだ!シナリオボスだと思って戦え!」
バリアを削っても赤包帯の方が修復が速く、完全にバリアを抜けない。それでもバリアは無限に生成できるわけではない。どこかを立てればどこかがおろそかになる。防御に寄った赤包帯は攻撃の頻度が下がり、アタッカーの多いアサイラムは生き生きとバリアを殴る。
「オリスキの効果時間も伸びたなぁ………!」
対赤子天使の時はオリジナルスキルを使いたてで熟練度も低かったが、あの時からテストや身内で殴り合う時にも積極的にオリジナルスキルを使い熟練度を稼いできた。効力も効果時間も伸びている。5分経っても余裕でオリジナルスキルの効果は続き、すり減るMPも自動HPMP回復で補える。ドレインでボスから削り取ることができる。
「シルク、オラオラ」
ヘイトを上手く散らし、背後から接近したヌコォがシルクに攻撃を命じる。シルクの呼び出した化身がラッシュを叩き込みバリアに罅を入れていく。赤包帯が触手を使って弾丸での狙撃を狙ってくるがヌコォは弾丸の方向に干渉し、避けながら敢えて右手に少し被弾。受けたダメージ分をボスからドレインする。その回復に消費したMPもボスからドレインする。
広域殲滅ではネオンは最強格だが、1対1の戦闘ではヌコォの戦績は勝率99%。スピリタス、トン2相手にも勝率は勝っているのだ。ヌコォは一撃で仕留めないと相手から次々とHPやMP、スタミナを奪い能力を奪って行動できなくする。平衡感覚を狂わせ、罠を仕掛け、身動きを取れなくして銃で蜂の巣にする。元々対人戦闘に長けた性格だ。敵を分析し容赦なく相手の嫌がることをやる。
シルク込みであれば更に勝率は上がる。ヌコォが未だに完全に勝ちきれないのはヌコォの手の内を全て理解していて、尚且つ物量で攻めてくるノートくらいだ。
このようにヒト型で、尚且つ知能が高い敵ほど、ヌコォの戦術は良く刺さる。使えば使うほど干渉率は上昇し、赤包帯の攻撃は逸れていく。思うように攻撃ができない。バリアから防御力をはぎ取り、遂にシルクがラッシュで穴を開けた。
「そこだ!」
その穴にズルリと赤い粘液が滑り込み、赤包帯に纏わりつく。スライムタイプの悪魔だ。バリアの一番の欠点は、自分にくっつかれてしまった時。ゼロ距離になったらバリアを差し込めない。
赤包帯が絶叫し、ジタバタと動き、業火をまき散らしてスライムを焼き殺そうとするが、ノートもそれは織り込み済み。耐火性の高い悪魔をオロチに吐き出させている。かと言って赤包帯相手に大きなダメージが出ているわけではないが、ノートはスライムで勝負を決めにいったわけではない。このスライムは拘束能力を持ち相手を動けなくしてゆっくりと敵を殺すことに特化した寄生植物の様な生態をしている。人間で言えば、蚊の群れに集られているか、少しキツいシャツを着せられている程度か。無視しようと思えばできなくはない。だが、戦闘をしている最中にこのような邪魔をされたら気が散る。
ヘイトの方向が明らかにスライムに向き、必死こいてスライムを引きはがそうとする。
バリア修復を行い、ノート達を迎撃しながら、ティアの方に攻撃を行い、スライムへの対処。タスクが増えれば増えるほど、ボスとて動きが鈍る。アンデッド故に攻撃を優先しようとしている節が見えるが、このボスには単なるアンデッド以上の知能があるようにノートには見えた。知能が高いほど色々な事はできるが、その分余計な事を考える。アンデッドの低知能も見方を変えれば生物故に持つ反射行動や命を守ろうとする動きをしない。ただ、相手を殺そうとすることだけを目指す。
赤包帯はツッキーが危険物と判断したのかノートに向けて弾丸を飛ばしたがこれをノートは召喚したレクイエムのボイスキャノンで相殺させる。
「お前はアンデッドにしては頭がいいな!」
ニタリと嗤うノート。ノートにとってみれば、相手が人に近いほどノートにとっては専門分野。オリジナルスキルの効果が尽きるか、その前に殺しきれるか。アサイラムとボスのデッドヒートが本格化する。
CoC(遺言)




