No.356 ジェノサイド
泥の蛹から孵った化物が行ったのは開幕即死ビーム連射。その破壊力はネオンの魔法の比ではない。ビッと地面がビームが走ると、次の瞬間ライン上に黒の混じった光の爆発が起きてキャンプ地の奥まで綺麗に粉砕する。
「(まさか…………アレは…………)」
その攻撃はノートが少し前まで戦っていた『輝散の環包レプドゥヴォス』の真孵醒モードの攻撃と酷似していた。ノートが戦った時は白の混じった緑だったが、色くらいしか違いがない。ノート自身も改めて良くアレに勝ったなと自画自賛したくなるクソみたいな開幕極太理不尽ビームである。
どうして過去の異形を呼び出すと『輝散の環包レプドゥヴォス』の真孵醒に似た生物が出現するのかはノートも理解が追い付かなかったが、今は考察をする時間ではない。現実逃避していても結果は変わらない。
「(これはやり過ぎたかもしれない)」
この防衛戦はプレイヤーの総数に合わせたモブが湧く。アクティブユーザー100万人なら相応のかずの敵が湧き、ギガ・スタンピード化によって湧き数が更に増えればノートの齎す恐怖は更に広く伝播し多くの魔物を支配下に置ける。結果として数十万を実質的に従えた(と言っても簡単な指示しか出せないが)ノートがその全てを贄に換算して魔法を使えば対Heorit戦の時よりも危険な物が目覚める事は猿でもわかる。その猿でもわかることを聖女ダブルアタックによる焦りでノートは盛大に見落としていた。
サイズにして全長50m。本家の5倍のサイズだ。もはやそのまま特撮の敵役として出れそうなスケールである。それこそ超大型Heoritの出番だ。
蝶型邪神擬きの沢山の腕を集めて作り出したような翅が動く。翼が本当に手になり、その先に星空を閉じ込めたような大剣を握る。
「ハァァァァァァァ!!!」
その剣を振り下ろせばどうなるかノートは知っている。小さな隕石をまき散らしながらその剣を地面を切裂き、全てを吹き飛ばすのだ。即死攻撃をシンプルに煮詰めた捻りのない暴力である。
その大剣の振り下ろしにカットインしたのはアンビティオ。巨大化させた剣で真っ向から蝶型邪神擬きの大剣振り下ろしを受け止め、凄まじい衝撃波が爆発し空気が揺れた。
どう見てもアニメの最終決戦の絵面である。それが1人のプレイヤーのうっかりで起きてますと一人の男を除き誰も知る由はない。
「おりゃぁ!」
再びヒュンとエーリスの姿が消え、いつの間にか蝶型邪神擬きに渾身の爆裂グーパンチを繰り出していた。だが、拳は届かない。翅から落ちる鱗粉一つ一つから展開される障壁が攻撃を防いでいるのだ。
本当に真孵醒相手に3回も勝ったなとノートはしみじみと思う。あの振ってくる鱗粉(プレイヤーを追尾する性質を持つ)を躱さないと本体に攻撃が一切に通らないのだ。一見鱗粉は柔らかそうな見た目をしているだけに初見は絶対にブロックされ、そして連鎖して鱗粉が爆発して終わりだ。
エーリスが殴ってしまった鱗粉はエーリスの攻撃をブロックするとともに爆発。エーリスが爆炎に飲み込まれるが、気づけばエーリスは既に転移して爆発を逃れていた。
だが蝶型邪神擬きもそれでは終わらない。今度はこっちの番と言わんばかりに回転し始めて周囲にビームを無秩序にまき散らし、更には触れると爆発する鱗粉まで同時にまき散らし始めながらキャンプ地を移動し始めた。それはまるで遠くから見ればキラキラした光を振りまく独楽だが、実態は破壊の権化である。
アンデッドの本能なのか蝶型邪神擬きはより多くを殺してやろうと暗黒街を出て奥の無事な方へ進撃し始めた。
『…………どうすんでし?』
もはやツッキーも悲鳴すら上げない。大災厄を復活させた使い手に呆れたように問いかけている。
一方でそれは当然の事。聖女の追跡が止まったことをいいことにプレイヤー達をノートはジェノサイドしていたのだ。それも災厄から避難しようとしていたプレイヤー達を容赦なく。バルバリッチャの力で次々と悪魔を召喚してプレイヤー達を殺して回っていた。
「うん、まあ、この状況を上手く使おう。あの化物、多分討伐戦が終わっても暫く元気だろうしこのまま放置するのは流石にヤバい。だから、な?多分それが一番収まりがいい」
『マッチポンプと言う言葉がオーナーを恨んでそうでごぜぇますね』
魂集めは悪魔の軍団に委託したノートは転移し1分以上回転して破壊をまき散らして止まった蝶型邪神擬きの元に転移。いきなり邪神擬きの核の周りにテクスチャを張りつけて目潰しする。
「貴方は!?」
「おぉ?」
「ここはひとまず共闘しましょう。アンビティオ、エーリス。」
目を塞がれ暴れる蝶型邪神擬き。モーションもほぼ『輝散の環包レプドゥヴォス』の真孵醒モードと判断したノートは空を飛べるタイプの悪魔を多数召喚する。
「悪魔ども、このデカブツの背後に回り込め!大剣を無秩序に振るわれているように見えるが、翅の付付け根の真下に攻撃はとんでこない!そこを通って背後を取れ!アンビティオは右を、エーリスは左に回ってください!真ん中は私は止めます!」
無敵のクソゲーボス『輝散の環包レプドゥヴォス』の真孵醒。
「こんなのどう倒すんだ」と戦っていたノート達も思ったが、そのクソゲーボス相手にノート達は3回勝利を捥ぎ取っている。無敵に見えるが、一つ一つに攻略法があるのだ。問題は攻略法が分かったとて理想形通りに動けるかどうか。世界屈指の少数精鋭クランのアサイラムでも倒し方を理解して一発でクリア、とはならなかった。そこから3回も全滅した。
「剣は振り下ろしの姿勢を取ったらできるだけ早く剣に攻撃をぶつければ止まる!鱗粉は…………!」
ノートは追加で悪魔を召喚する。その悪魔が蝶型邪神擬きの近くを飛ぶと、追尾性能を持つ鱗粉は悪魔に引き寄せられる。
「身代わりを立てられるなら身代わりを使う!アンビティオ、天使は使えますか!?」
ノートの言いたいことを理解したのか、決闘でもやったようにアンビティオは石像型の天使を召喚して天使で鱗粉を引き付ける。
「そこを、刺す!」
乱れて隙間の空いた鱗粉の雨に割り込み、ノートが魔法で作り出した大剣を体に突き刺す。そして鱗粉が集まってくる前に転移で即離脱。自分に向けて集まった鱗粉の大玉に魔法を放つと、鱗粉は障壁で魔法を受け止め、次いで大爆発。蝶型邪神擬きそのものにダメージを与える。
本来はこの一連の動きを分担して行うのだが、今は空を飛べるし転移も出来る。ノートはその全てのモーションと癖が既に頭に入っている。およそ理想的な動きを強引に成し遂げる事ができる。
「悪魔ども、刺せ!」
そして鱗粉の爆発に乗じて背後から大技を叩き込む。
「次、アンビ回転モーション止め!エリ空に向けて爆撃!」
「え!?」
「おぉ!?」
「早く!」
背面からのダメージを受けると、蝶型邪神擬きはオリジナル同様に独楽回転モーションに移り全方位攻撃をしようとする。この攻撃は真正面からボスの巨体でも吹き飛ばす馬鹿みたいな火力の魔法でもない限り止められないし、下手に攻撃すると回転に弾かれて誤爆のリスクがある。回転は常に右回転だ。つまりまず右を、蝶型邪神擬きから見て左腕に攻撃をすることで初動を遅らせる事が出来る。これも十分な火力がないと逆に押し切られて死ぬ。
続けて翅の上から鱗粉が降り注ぐ。これが回転しながら行われると目も当てられない惨状になるが、回転を止めた後なら先行して空に向けて攻撃を放つことで鱗粉の雨を事前に爆発させてダメージを大きく減らせる。
味方はゲームのキャラじゃない。コマンド操作をしているわけではない。指示は大まかに、わかりやすく、反応が遅れる事を読んで先行して指示をする。パターン化してわかりやすい指示系統を考える。NPCが人と同じように考え、動くなら、人として扱う。彼らが司る力は僧侶たちの講義内容や習得できる能力系統から逆算できる。実際に動きを見ていればどんな指示が通り、どんな力をどんなふうに使うかを頭の中にある蝶型邪神擬きのモーションに当てはめて脳内で動かす。
PKのトップと、聖女2名の奇妙な共闘。敵と敵を団結させるのは、いつだってそれ以上に強大な敵だ。
ノートの指示の下でアンビティオとエーリスが動けば実際に蝶型邪神擬きの攻撃を抑える事ができ、アンビティオとエーリスも今はノートの指示に従い始める。ここでノートと無駄に争っても被害が甚大になるだけ。そう考える事の出来る思考回路をしているから、いう事を聞かざるを得ない。
「これは…………どういう状況なのですか?」
「良い所に来ましたね、スヴァロ。貴方の弓があると鱗粉の対処が楽になります。一時共闘しましょう。その後ろの方々も」
だが、その敵を作り出したのは他でもないノート自身だ。最低最悪マッチポンプだが、教会勢力は最善を尽くすが故に、今ノートの討伐を優先する事はできない。化物への対処が先だ。道理のわかってしまうお利口さん。本質は皆優等生的な思考回路をしているからこそ、まるで悪びれもせずに指示を出してくるノートに踊らされるのだ。
Q.ノートを殺せば死霊って消えないの?
A.今回は召喚というより用意した器への降霊みたいな物なのでノートを殺しても意味がない。ノートと死霊はラジコンと機械の関係に近いけど、今回は使いきりの代わりにノートから独立している半自動制御みたいな存在なのでラジコンを壊しても本体は元気に暴れます。クソ




