No.Ex 第七章余話/JKの知らない世界 C
グレゴリが続いて向かったのは船渠。イザナミ戦艦が普段待機している場所である。
『(★´д`)ノ゜あそびにきたお』
船渠にグレゴリが訪れると、イザナミ戦艦の上からエインが顔を出した。
『御機嫌よう、グレゴリさん。お元気ですか?』
『(*^▽^*)げんきだよ~。ダゴンじいちゃん、ヒュドラおじちゃんもこんちゃー!』
『うむ。御機嫌よう』
『御機嫌ようでアール』
イザナミ戦艦とそのメンバーは、グレゴリにとって少し奇妙な立ち位置だ。グレゴリからすると召喚順を兄弟のように捉えているので、自分より先に召喚されたタナトスやアテナ、ゴヴニュは兄姉にあたる。一方、グレゴリより後に召喚されたレクイエムたちは弟妹にあたる。故に、グレゴリ基準ではイザナミ戦艦も妹にあたるのだが、イザナミ戦艦は変に引き継いだ記憶がある特殊な死霊なので精神年齢は圧倒的に年上。ダゴンとヒュドラも、見た目も精神年齢も年上で、弟というにはあまりにおじさんだ。エインもエインで記憶を断片的に引き継いでいる死霊なので年齢で言えばグレゴリより絶対に上。
そもそもダゴン、ヒュドラ、エインはイザナミ戦艦に於ける本召喚の死霊のようなものであり、ノート直下の死霊ではない。その点でもグレゴリの序列基準に合致しない。なのでノートの口添えでグレゴリは例外的に3人衆を年上として慕っていた。
『(。´・ω-`。)-★きょうもおべんとうをもってきてあげたZE』
グレゴリが取り出したのは船のシールを貼り付けた大きな弁当箱3つ。
1つは揚げ物詰め合わせの弁当とお酒。
1つはフレンチのようなオシャレな海鮮サラダ。
1つは女子力高そうなスイーツサンドウィッチ各種。
まるでオシャレな遠足のようなレパートリーである。
中身は完全にオヤジなダゴン。
オシャレに気を使っているように見えるヒュドラ。
淑女然としたエイン。
それぞれを見れば誰にどの弁当を渡せばいいのかは一目瞭然だ。だが、往々にして人は見た目通りとは限らない。ダゴン艦長はまずオシャレな海鮮サラダをとり、ヒュドラ副艦長は女子力高そうなスイーツサンドウィッチ。最後にエインが揚げ物の詰め合わせを手に取った。
『(´-ω-`)みためとこのみがふいっち』
『極論、さっぱりした味こそ至高なのである』
『甘味は実にいいのでア~ル』
『揚げ物は故郷になかったのでとても新鮮なんです。揚げ物は何を揚げても美味しいんですよ』
美味しそうに各々の弁当を食べるダゴンたち。その間にグレゴリはイザナミ戦艦と念話で会話し、キサラギ馬車のように要望を聞く。
『(´・ω・`)らっかさせるな?またやったの?もーカワイソカワイソ。ダメっていっておくね』
映像を見て顔を背けるノート。JKが両手で頬杖をつきながらノートの事をジト目で見る。イザナミ戦艦の質量攻撃はシンプルにして現状最強の物理攻撃。寺院だろうがなんだろうがぺちゃんこにできる馬鹿げた火力を持つギミックブレイカーだ。勿論、そんな破壊を齎せば、齎した本人にも大きなしっぺ返しがいく。落下させられるたびにイザナミ戦艦は船体に大きなダメージを受ける。
ノートがイザナミ戦艦にやっていることを人に例えるなら、足を掴んで人をヌンチャクのようにし、敵に頭を叩き付けているようなものである。人自体に重量が有り、頭は頭蓋骨があるために硬いので高速でぶつけられば普通に凶器となる。遠心力も乗るので頭突きや蹴りよりも大きな威力が出る。ただ、当然ながらヌンチャクとして振り回されている人間は頭をガンガンぶつけられているので大きなダメージを受ける。尋常ではない痛みが走る。下手しなくても死ぬ。ノートがやっているイザナミ戦艦の落下攻撃はこれに近い事だ。イザナミ戦艦がノートに文句を言うのも当然である。
3人衆のお弁当を少しずつ分けてもらいながらイザナミ戦艦を交えて暫し歓談したグレゴリは、ばいばい、と影の手を振って船渠を後にした。
◆
「ちょっと意外だけど、好みって見た目によらないねぇ」
「ダゴン艦長は胃が揚げ物を受け付けなくなったおじいさん。ヒュドラ副艦長は実は酒より紅茶派なので、それに合う甘い物が好きなおっさん。エインはアスリートが節制重視な食生活から解放されて油モノどんどん食べちゃうみたいな感じだと思えばいい」
「Ah, I see now!」
◆
籠に残された弁当も少し。厨房を出た時から随分と軽くなった。
グレゴリが向かったのは中庭。大リビングに続き、色々な通路の中間となっている場所である。そこにはメギドとレクイエム、ザバニヤが待機していた。メギドはぶんぶんとハルバードを振り回して素振りをし、レクエイムは唄を歌い、ザバニヤはまるで機械のように静かにたたずんでいた。
『( ゜Д゜)ごはーんのじかーん!』
『(;´Д`)あ、まって。レクまって』
グレゴリが中庭に入ってきた途端、レクイエムはサッとグレゴリに近づいてグレゴリを抱きしめるようにヨシヨシと撫でまわす。その態度はどうみてもペットに距離感を間違えた一方的な愛を注ぐタイプのダメな飼い主である。
元より狂気的なモノを内側に抱えているレクイエムは、ノート以外とコミュニケーションをとることを原則禁じられた。ただ、人懐っこいグレゴリだけは新顔の妹に対して積極的に話しかけた。結果、レクイエムのグレゴリへの好感度が変な上がり方をしていた。
グレゴリからすると妹に向けた態度だが、外から見ている分には弟を溺愛するヤンデレ姉。色々と滅茶苦茶な状態だった。グレゴリはその拘束から影移動で脱走。メギドとザバニヤに助けを求めると、メギドとザバニヤはレクイエムの肩を掴んで動きを止めさせる。
『(;一Д一)はぁ。お弁当くばりますよ』
やれやれだぜ、といった感じのグレゴリはメギドには虫の唐揚げたっぷりのお弁当。レクイエムとザバニヤには蜂蜜を使った栄養ドリンクを渡した。
レクイエムはだいたい喉にいい物を与えれば喜ぶ。複数の種族が混ざっているために色々と定まっていないが、歌い手としての特性はその中でも強く生きているようだった。
問題はザバニヤ。天使と死霊、相反するものを混ぜた存在であり、自律権という怪しげなモノが二つもインストールされている。そのせいか、ザバニヤはまるで機械のように意思が無かった。感情が薄かった。グレゴリが対話を試みても、ザバニヤはただただ無言だった。故に何が好みなのかもわからない。与えられたものを黙々と食べる。いつかはリアクションをするのではないかと、色々な物を与えて好みを調べている。
グレゴリがドリンクの入った大きなボトルを渡すと、ザバニヤは匂いを楽しむでもなく、口の中でゆっくり味わうでもなく、流し込むように一気飲みした。
『(´-ω-`)おいしいかい?』
グレゴリが問いかけてもザバニヤは無反応。グレゴリの問いかけに無視するような態度にレクイエムは「なにシカトしとんじゃあ゛ぁん?」と言わんばかりににらみつけるが、ザバニヤは完全にスルーである。メギドだけがのんきにむしゃむしゃと唐揚げを食べていた。今までは人型の頭には口が無く何も食べられなかったが、炎熾鎧半人半蠍に進化したメギドには口がある。今の所、人間の頭は雑食でなんでも食う事が判明しており、アテナのように激辛好きである疑いがあった。というのも、メギドが初めて召喚された時、ノートはタナトスが作り出したオリジナルの激辛調味料を捧げている。大悪魔ですら食べるのを避けた劇物だ。その特性が未だに残っていると考えられた。
『<(`^´)>けんかはダメ!なかよくして!』
元は自律権を持つ三つ子のような存在。ノートも三馬鹿と呼んでいた死霊達が原型にいるが、進化したことでそれぞれ個性を手に入れていた。
レクイエムはグレゴリに注意されると『チガウヨチガウヨケンカシテナイヨ』とまたグレゴリを撫で繰り回す。一方でザバニヤは徹底して無反応。うんともすんとも言わない。
『(;一_一)まだお仕事あるから離して~』
グレゴリはされるがままに撫でられていたが、なんとかレクイエムのなでなで攻撃から脱出。逆にザバニヤの頭をグレゴリは軽く撫でて、籠を持って逃げるように中庭を出た。
◆
「…………AIが人間らしくなったのは今に始まったことじゃないけど、ALLFOのNPCってなんか生々しい考え方するよね。人より人っぽい時があるかも」
「確かに。特に、メギド、レクイエムやザバニヤみたいな、敢えて壊れたような人格を持っている存在を完全に描き切るのは少し挑戦的な試みでもあるし、どのようにAIが模倣をしているのか気になる。機械は正解の答えを導きだせても、“不自然ではない不正解”を作るのは難しい」




