No.Ex 第七章余話/Let's go AMMⅢ with LOWAA&ラノ姉 ❼
ゴールデンゲリラ3号
LOWAAへの禁止ワード
「ゲーム配信や歌ってみたや弾いてみたよりASMRが圧倒的に視聴回数多いっすね^^」
「まーさかの同じスタイルちゃんかぁ」
地下に潜ったキアラはばったりと出会う、遠近両用にガチガチにビルドを組み上げたケンタウロスHeoritに。ケンタウロス型の理想形だ。
一人でも最悪3人相手取り逃げられると考えての分裂作戦。敵チームも同じことを考えていた。
「しねよやぁーーーー!」
あまりにも脳筋スタイルのゴリラが床をぶち抜いて現れたことにビクっと震える敵ケンタウロス。そんなケンタウロスに向けてハンマーを振り上げたキアラは突撃した。
敵ケンタウロスは直ぐに立て直し、腕に付いたショットガンキャノンを構える。キャノン砲をショットガンのようにした頭の悪い浪漫兵器だ。Heoritでもない限り使えない。そんなショットガンの牽制をキアラは脳筋用の装甲で受けるだけでなく、キャタピラを器用に動かし機敏に攻撃を避けて距離を詰めていく。
「ネットは効かなーい!」
続いて敵ケンタウロスは捕縛用の兵装であるスパイダーネットを放つが、これはハンマーでいなす。
「うらぁ!」
大ぶりなキアラのハンマースイング。それをジャンプ強化の脚を使ってサッと避ける敵ケンタウロス。空ぶったハンマーは地面に叩き付けられ、地下鉄をドォン!と大きく揺らした。
火力と防御力ではキアラが圧倒的有利。機動力と器用さではケンタウロスが圧倒的に有利。
脳筋vs万能の戦闘が始まった。
◆
そのまま1階フロアを陣地に選んだのは卵王。ケンタウロスは機動力が高い。上にも下にも逃げられる。故に1階を選択するのは理にかなっている。サイ型のNPCHeoritが突撃してきたが、それを闘牛士のように回避し、足を崩してトドメを刺す。そうして倒したサイ型Heoritからエネルギーを吸収しようとしたところで、卵王の腕を弾丸が霞めた
即座に弾丸が飛来した方向に向けて戦闘態勢を取る卵王。視線の先にいるのは、重装備のHeorit。肩に備え付けられたランチャーから白煙が燻り、更には2発目、3発目が放たれると同時に背中のミサイルが一斉に解き放たれる。
対して卵王はランチャーを避け、ミサイルは狙撃して撃ち落とし、更に小型ミサイルで迎撃する。
1階フロアでは、重装射撃型ケンタウロスと狙撃サポート型の一騎打ちが始まった。
◆
「いいフィールドだね」
ノートは一番上のフロアに居た。
上のフロアは新幹線のような大きな物が集まる場所なのかかなり広く、天井も高い。床には多くの遺物の残骸が転がっている。有機ガラスの張られたぶ厚い屋根からは屈折した光が差し込み、少し虹のような色になっている。
そのフィールドに敵はいた。
長いメイスを振るい、NPCのHeoritを叩き潰してエネルギーを吸収していた。
軽戦士機動力特化。装備が多く積まれてないことから、敵に合わせて周囲の遺物を取込みその場でスタイルをチェンジする器用なタイプを採用していることが見て取れる。つまり、敵は幅広いスタイルを使いこなせる相当の熟練者ということだ。
「あーらよいっと!」
そんな敵に向けてノートはいきなり奇襲した。昔の日本の戦ではないのだ。わざわざ戦う前に名乗ったりしない。奇襲闇討ち上等だ。ノートは量産した地雷を先制攻撃として豆まきの様に一気にばら撒く。
普通であれば、奇襲なら狙撃やミサイルといった手を取る。或いは、ワープゲートで急接近して近接武器で殴りつけるか。これがセオリーだ。先に敵を見つけたらまず手堅く一撃入れようとするのだ人間の心理だ。
だが、ショベルアームを使い量産した地雷を投石器のようにばら撒くノートの攻撃には音が殆どない。故に反応が遅れる。人間には反射行動があり、いきなり奇襲を受けると卵王のように直ぐに迎撃態勢に移れる。人は訓練で反復と反射行動を強化できる。
一方、逆に妙に考える時間が与えられると人間は考えすぎて行動が鈍る。脳内の選択肢が増えたせいで脊椎で判断ができない。
変人しか選ばないクモ、ヘンタイしか選ばない重機、そして上から降ってくる謎の物体。情報量の濁流が更に頭を混乱させる。
大量の情報を送り付ける事で処理を滞らせ、イニシアティブをとる。これがノートのやり方だ。
ここで咄嗟に飛んできた物をミサイルなどで迎撃しようとすると地雷が爆発してドカン!だ。セオリーに則る者ほど術中にハマるという性格の悪い戦略。それが地雷バラマキだ。
対して、敵ケンタウロスはノートの異質さを感じ取ったのかノート以上の賭けに出た。
初動から『ブーストエネルギー』を使用したのだ。
従来のAMMでは全てのエネルギーが全て同じリソースで管理されていた。だが、Ⅲからそこに『ブーストエネルギー』という新要素が加わった。このブーストエネルギーの効果はいわば『必殺技』を可能とするエネルギー。自分の中に取り込んだ兵装に対し、ブーストエネルギーを注ぎ込むことで対応した特殊行動ができる。
敵ケンタウロスがブーストエネルギーを注いだのは脚。ジェットエンジンを起動し全ての地雷を避けると一気にノートに詰め寄ってきた。
「うぉえぁ!?」
今のノートにはこれでも思考デバフがかかっている。キアラと別行動こそしているが、配信は継続しているので『ラノ姉』のキャラを崩せない。適度に喋って視聴者を楽しませなければならない。ノートとしてはではなくてラノ姉として勝たなきゃいけないのだ。
キアラの配信の為にそこまで頑張る必要など無いことはノートとて重々承知している。素面になったら投げ出ししまいそうな黒歴史を現在進行形で作っていると言っても過言ではない。
配信に出るとキアラから『バイト代兼友達代は出しますよ』とは言われているが、それも断っている。金を受け取ったらいよいよ義務感が芽生えるからだ。なんだかんだ妙に律儀な部分があるのでノートは途中で投げ出さない。最後までラノ姉でやり抜こうとする。そんな動きが殊更悪魔達から『悪魔より悪魔している』などとコメントされるのだがノートは知るよしもない。
「いきがいいねぇ!」
瞬間移動と見紛うジェット移動からの動きを生かしたタックルまがいのメイスによる突きをノートは蟹のように変形した前脚でガードする。
しかし負荷は圧倒的にノート側の方が大きい。フレームが大きくひしゃげて前脚が大きなダメージを受ける。前脚の兵装が全損する。
「せりゃ!」
ノートは切り札として持っていた蠍尻尾を動かすと、尻尾の先に取りつけていた機銃を掃射する。予想外の攻撃に反射障壁を張りつつ大きくバックステップを踏むケンタウロス。ノートはその間に前脚の残骸をパージして周囲の機械を巻き込みながら前脚を再生成する。
『なんで尻尾うごかせるんだ?』
『コマンド噛ませて動かしてるのか?』
『この人もともと尻尾ついてんじゃない?』
『ラノ姉、獣人説』
『尻尾が尻尾として動いてるのコワー』
『クモ、後ろ足車輪、蟹手に蠍の尻尾ってキメラ過ぎるw』
『兵装幾つ同時操作してんだろう』
『部位操作の割り振り開示して欲しい』
『尻尾のボーンはマジで謎』
ノートは当たり前のように尻尾を動かしているが、人間には本来尻尾などない。
前脚をそれぞれ自分の両手に対応し、第二脚、第三脚を自分の脚で。それ以外はコールや脳内で割り振った指示、ボタン操作で動かすのがHeoritだが、例えば4つ脚を2本脚で対応させるような無理なやり方をしてもSOPHIAがモーション補正をかけてくれるので自分の思うようにある程度動かすことができる。
ただ、尻尾のように本来人間にない部位を人間の腕のように動かすとなるとなかなかうまく行かない。プレイヤー側のセンスが問われる。
「そりゃ!」
ノートの作り出した大きなハサミと、再度突撃しケンタウロスが振り下ろしてきたメイスが激突。ケンタウロスはブースト込みだが、ノートのクモ型は重装甲型。最初から踏ん張るつもりで兵装を組めば対抗できる。
ノートはハサミに取り込んである冷却装置を起動してハサミに氷を纏わせパリィ性能を強化。対してケンタウロスはメイスに電流を流しノートに殴りかかる。近接戦闘センスではケンタウロの方が上。上半身が人型なだけあってメイスの振るい方も人間そのもの。一方でノートは蟹のハサミという操作の難しい手だ。スピードや操作性ではケンタウロスに勝てない。
ノートとケンタウロスは同じタイミングでブーストを使用。ハサミとメイスが激突し、強い衝撃が周囲に発生。ノートとケンタウロスは大きく距離を取る。
ケンタウロスはザザザザと滑りながら後ずさるが、その間に地面に手を伸ばして地面に転がっている大きなドローンを吸収。ドローンを大きな手裏剣に改造してパージし投擲してきた。
遺物を取り込んでから武器化をするまでの時間が非常に短い。それはケンタウロスの使い手が即興戦術に慣れている事の証。近接戦闘センス、ステップ、判断能力、全てに於いて長けている熟練のゲーマーとノートは判断した。
「甘い!」
だが、手裏剣の挙動は既にストーリーモードのヒロインの動きで既に知っている。
ノートはハサミに鉄球を接続すると勢いよくぶん回して巨大手裏剣を破壊する。破壊された手裏剣が爆発し、その爆発に乗じて再度ブーストで加速したケンタウロスがメイスでノートに殴りかかる。鉄球を振り回した直後なので少し無理な体勢でのガード。腕がきしむ。その最中でノートは床に転がっている箱型の機械を取込み、痛んだ腕をプロペラアームに即座に改造。プロペラを回転させて攻守を兼ねた攻撃をするが、ケンタウロスは即座に反応して距離を取りながら自走掃除機を吸収する。
言葉を交わさずとも、2人にはわかっていた。
「コイツだけはここで仕留めないと面倒な事になる」と。
ノートは音声通話のお陰でキアラが別のケンタウロス型とタイマンしているのを知っている。ここで自分が1対1の戦闘をしていて、階下で何か激しい戦闘音がしているという事はおのずと卵王も戦闘していることがわかる。
それは敵も同じ。敵チームは3人とも音声通話を繋いでおり、それぞれが戦闘をしていることを知っている。となれば、誰かが倒された瞬間にパワーバランスが崩れる。この終盤で両チームが分断作戦という奇策を採用したのだ。採用したが故に、負けられないことをよく知っている。
では誰がそんな奇策を提案したのか。
「「(コイツ絶対同じタイプだ!)」」
戦いの中で、奇策と奇策がぶつかり合う。戦いを続ける中で言葉以上に相手の事を理解し合い、ノートと敵ケンタウロスを操るプレイヤーは相手の性格を理解した。そして察した、コイツが奇策を提案した野郎だと。
指揮官同士の激突。ここで崩れたら完全に勝負は決まるといっても過言ではない。
ケンタウロスは更にブーストを解放。駅構内に停められていたホバーバイクのような機械を取込み足を改造。ジェット機構を捨てる代わりに機動を強化。そこから更にブーストを吐きケンタウロスは壁を走る。
「ちょこまかとぉ!」
ノートはプロペラアームで牽制しつつ鉄球を振り回してケンタウロスを叩き落とそうとする。振り回した鉄球が壁を破壊し、有機ガラスがひび割れて破片が虹の雪のように降りそそぐ。
苛立ったノートが大きく鉄球を振り回したところで、ここが決め時と判断したケンタウロスは壁を駆け上がり罅の入った天井に手をかける。ミサイルを撃ちまくり天井にトドメを刺すと、天井ごと引きはがし崩落させる。
天井が崩れ落ち、ノートを、クモを押しつぶす。いくら装甲があっても質量攻撃の前には無力。イザナミ戦艦が圧倒的なパワーを有するように、落ちた天井が持つエネルギーは簡単にガード出来ない。
加えて、ケンタウロスは機敏に動いてノートが背中のミサイルなどを一度打ち尽くしていることを確認している。落ちてきた天井を簡単に突破できないことを確認した上で、ノートのエネルギー残量が既に限界になりつつあると判断し勝負を決めにいったのだ
なんの爆発も無く、瓦礫に押しつぶされるクモの機体。瓦礫の山の上に降り立ったケンタウロスは勝利の咆哮をあげた。
勝利宣言だ。
「つーかまーえたっ!」
それをノートは待っていた。
瓦礫の山が凍り付き、その凍結がケンタウロスの脚まで凍り付かせる。瓦礫が割れると、氷の鎧を砕きながらボロボロになった大蜘蛛が姿を現した。
「ハハハハ、エネルギー使いつくしたって思いこんだのかな?建設系のエネルギー効率舐めちゃいけないよ」
予想外の展開に悶えるケンタウロス。必死になって凍結から逃れようとしているが、ケンタウロスは機動力が高い分、脚を縛られるとパワーが半減する。
冷却機構に必殺技ブーストを全ブッパしたノートは氷で自分を守りながらケンタウロスの捕縛を狙った。天井が落ちてくるのを見た一瞬でそこまで考えた。
ケンタウロスは力を振り絞り、機銃を掃射しメイスを乱暴に振り回す。
「オレのそばに近寄るなああーーーーーーーーーッ」と言わんばかりの動きだ。
ノートはそんなケンタウロスの必死の抵抗も無視してズンズンと近づき、大きなハサミでメイスを破壊した。機銃には尻尾の機銃で撃ち返して破壊し、そして華奢な体をハサミでがっしりと掴んだ。
「さあ怯えながら死んでいけ」
大きなハサミの中に仕込まれているのはグランドパイルドライバー。当てればダウン必須の浪漫兵器。ケンタウロスはもがくがパイルドライバーのチャージは着々と進む。ハサミで体を固定化した今、パイルドライバーの威力は更に跳ね上がる。
「あばよ」
ドォン!と凄まじい音をたてながら解き放たれる巨大な杭。杭はケンタウロスの装甲を貫通し、内部機構を抉りながらケンタウロスを吹っ飛ばして殺しきった。
そのタイミングでシステムメッセージが発生。ノートチームの勝利を告げるアナウンスが響き渡った。
初期限定特典⓴
【Il Milione】
日本人に馴染み深い名前にするなら『東方見聞録』。とある手記を元とする初期限定特典で、召喚と商人の力を持つ。数々の便利な使い魔や道具を召喚し、旅をサポート。MONの減少を減らしたり、ドロップを厳選したり、ドロップ品を吸収してMONに変換するといった馬鹿げた能力を持っている。そしてそのMONを使って更に色々な生き物や道具を召喚できる。いわば金(MON)であらゆるものを操る商人。MONをMPとして戦う召喚師。剣だろうが馬車だろうが獣だろうが召喚できる生産技能殺しでもある。インベントリの容量も通常の5倍あり、商人をやらせたら最強レベルの能力がデフォルトで揃っている。
ただし、召喚時には悪魔召喚のように必ずルールを設ける必要があり、設けたルール、契約を破ると大きなペナルティが付く上に召喚したモノは消滅する。また、この初期限定特典の操る物の本質は『空想』『嘘』[削除済み]であり、能力に頼り過ぎると発狂して召喚したモノを失うリスクを抱えている。MONと非常に深い関りを持つ初期限定特典であり、ネクロノミコンと同様にALLFO史を辿る上での大きなキーとなっている。




