No.Ex 第七章余話/Let's go AMMⅢ with LOWAA&ラノ姉 ❻
ラノ姉への禁止ワード②「胸の分身長伸びたんすね^ ^」
マッチ開始から35分。遭遇戦が繰り返され、更に各チームが最寄りの高効率ファームエリアに自然と集まり潰し合いスタート時にいた20チームも残り2チーム。双方ここまで3メンバーとも生存。激戦を経てビルドはガチガチの対人戦仕様。特に今回のマップ『ファクトリークロス』は大型の兵装を作りやすい場所。派手で楽しいドンパチができる人気のマップだ。
『これはマジで勝っちゃうのか?』
『絶対テンプレ強ビルドじゃないのに』
『ここからがいっちゃんキツイんよ』
『どうなるかなぁ』
『遭遇してきたHeoritもいい個体だったし、マジでいけると思う』
『Heoritガチャと兵装ガチャがなー、AMMⅢはつらいんだよなー』
『負けて配信みにきたらこの人たちだったかー』
『でも何度見てもビルドがヘン………ロマン過ぎる』
時間も進み、エリアは縮小していく。否応なくどこかで戦わされる。決着の時は近い。
『脳筋ビルドの極致だよなぁ』
『戦ってるの見るとマジでシンプルに強い』
『普通だと絶対コケるビルドなのに』
『兵装の使い方が上手い』
『マグプッチャー使いの教本みたいな動きするやん』
『磁力で引き寄せて殴るの怖い』
『装甲ガン積でミサイル突破はアタオカすぎる』
『ラノ姉がいるとめっちゃイキイキしてるよね』
『倍くらい動きがいい』
『破壊神LOWAA絶好調やん』
ゴリラスタートだったキアラは、馬鹿みたいに厚い装甲、ダブルパイルハンマー、背中に背負ったキャノンガトリング砲という浪漫筋肉が脳髄に達しているあまりにも脳筋過ぎるビルド。脚部は巨大キャタピラにし、重さに耐えられる脚と移動性能を両立。建物内での戦闘を完璧に捨てる形だ。
『この人はどこへ向かっているんだろう』
『クモ………クモ…………?』
『キメラなんだよなぁ』
『遭遇する奴みんな困惑してて草』
『クモって人が動かすとこんなキモイ挙動になるんだ』
『クモという名のなにかでしょコレ。動きが変だもん』
『ボーンの通し方結構参考になる』
『普通の配信じゃ絶対に見れないビルド組むからラノ姉が好きなんだよなぁ』
『ヘンタイピーキー三銃士を連れて来たよ』
『ヘンタイピーキー三銃士?』
『日本の誇るヘンタイ』
『最初から最後までヘンタイビルドで行く気か…………?』
『一周回ってこれが正しいビルドに見えてきた』
『ラノラノしてるなぁ』
クモ型スタートのノートは相変わらずクモ型。しかも重機ベースもそのまま。クモに重機にトラッパーとAMMⅢで扱いにくい代物を1人で揃えた生粋のヘンタイビルドである。なぜこの人はこのアホみたいなビルドで動けているのか。誰もが首をかしげる。しかし実際に配信で動いているのだから夢ではない。ヘンタイはいるのだ。そして人は言う、ラノラノしてるなぁ、と。何をやらせても変な方向に、害悪戦術に一直線に走っていくラノに皆はもう慣れていた。むしろそれを期待していた。
『がんばれ卵王!』
『卵王だけが救い!』
『この人見てると安心する』
『シンプルに強いよねこの人』
『プロっぽくない?』
『これが本来のHeoritなんだよなぁ』
『脳筋と変態に振り回されながらよくぞここまで』
『勝ち切ってほしいなぁ』
『頼むから2人の自爆芸に巻き込まれないでほしい』
『ノリで死ぬからなこの人たち』
『卵王ーッ!俺だーッ!結婚してくれー!』
『求婚してる奴もいます』
『俺達はLOWAAの配信にきていたつもりが卵王を見守る方にシフトしていた。何を言っているかわからねぇとおもうが(ry』
真面目に見ていると頭がおかしくなるようなムーブをしている2人とは対照的に、野良枠でありながら卵王は大人気だった。脳筋と変態に酔いそうなところを卵王という清涼剤が癒す。トロールらしいトロールもせず、真面目に手堅い狙撃手ケンタウロス型を貫き通す。その一方でどんどん脳筋と変態を突き進むキアラとノートを見るたびにギョッとしたり『えー………』みたいな凄い常識的な反応をしてくれる。ラグがあるために視聴者の声がキアラとノートに届かない分、視聴者の声を代弁するような動きをしてくれつつ、無駄に出しゃばらずにサポートに徹し、決めるところではしっかり決めてくる様は正に仕事人。35分の間に妙な卵王ファン一派ができていた。
【がんばりましょう!】
【いけます!】
その人気の裏には、卵王がボイスやテキストを使用せず、兎に角定型文とスタンプ、ジェスチャーでのコミュニケーションをとる事に拘っていたことが挙げられた。
ボイスやテキストにはその人の人柄が強く浮かび上がるが、定型文は男か女かもわからない。ただ、上手く定型文を使いこなしている人ほどゲーム慣れしている印象は付く。
言葉と言葉の間を人は勝手に保管し、理想とする人間像を作り上げる。
ノート達のキワモノビルドに素直に驚くリアクション。通話はしないがその分定型文とジェスチャーで巧みにコミュニケーションをする頭の良さ。要所要所で見せる仕事人らしさ。狙撃手ケンタウロスという癖が無くスタンダードだからこそプレイヤースキルが如実に表れるスタイルでありながら、ふざけたビルドをしている2人に合わせて立ち回りここまで勝ち残ってきた。これらの要素を繋ぎ合わせて人々は自分にとって望ましい卵王像を作り上げる。
見えないからこそノイズがない。個人を情報が少ないからこそ人は理想を加えて想像する。
【いけます!】
【いけます!】
キアラとノートも同じく定型文で返し、サムズアップする。卵王もサムズアップする。
フィールドが更に狭まっていく。残るのは中央激戦区。ファクトリークロスの中央にあるのは巨大な立体駅のような場所。駅の中には強いHeoritも、特殊な機材も色々と転がっている。
『敵ちゃんいますぅ?』
『NPCはね。プレイヤーはわかんないや。終盤になってくればアンチパルスだってあるし過信はよくないよ』
線路らしき開けた場所から駅の中へ入ろうとすると、さっそく強力なHeorit達が立ちはだかる。ノート達がALLFOコラボで苦しめられたように、最終日付近で出てきた個体がゴロゴロ出てくる。コラボ用にカスタマイズしていない純正個体が火力はケタ違いである。終盤のHeoritとなれば頭もかなりいい。プレイヤーと遜色ない動きをする。
「エネルギーヨコセ!」
「武装欲しいねぇ」
【がんばります!】
強いという事は多くのエネルギー、武装を持っているという事。倒せば倒すほどプレイヤーは強くなっていく。戦術が変わっていく。
これがAMMⅢの対人戦の醍醐味。終盤になるほどよりド派手なドンパチになる。バトルロイヤル形式であれば皆勝ち上がってきたプレイヤーだ。敵プレイヤーから装備もエネルギーも奪い取ってしっかり仕上げてきている。
『感覚補整………これは卵王さん向けですかね?』
『だね』
装備を譲り合い、エネルギーをシェアしあう。お互いでお互いを育てあう。
【装備あります】
【こっちです!】
『おっ、卵王さん側にもいいのドロップしたっぽい。あ~、トラップ系か。いいね。くみこんじゃおっと』
『爆薬ですねぇ。これは楽しくなりそうですよぉ。ウェヒヒヒヒ』
ノートはトラッパーとして自らを強化し、キアラは更に火力をアップ。卵王は狙撃とフォローのビルドを強化する。
駅の激戦区の中はNPCのHeorit達同士も勝手にドンパチしているので、FPS系における『音の位置で敵の距離を予想する』という鉄板のムーブができない。もちろん。このドンパチは上手くやれば漁夫戦法が可能なので効率よく自分を強化できる。終盤はロマンとロマンのぶつかりあいになる。
一方でコメント欄は阿鼻叫喚だった。
『この脳筋止まらないよ…………』
『クモトラッパーって極めるとここまで強いの?』
『結局バランスがいいのなんか腹立つ』
『脳筋、ヘンタイ、王道。いいトリオだな()』
『敵のビルドかな、気になるのは』
『このチームだと分断取られない限りいける気がする』
『読めないなぁ』
『ラノ姉とんでもない策を取ってくるからなぁ』
『終盤ほど元気になるんよラノ姉』
『ラノラノしてきた』
戦闘音が駅構内で響く。敵がどこにいるかはわからない。敵Heoritを感知するセンサーはあるが、これはプレイヤーとNPCを判別できない。序盤は3人一組で動いているのはプレイヤー達位なのでNPCかどうか判断できるが、終盤は入り乱れて動いているし、NPCの密度も高くなるので感知できても、音が聞こえてもプレイヤーかどうかを判断するアテにならない。
『どうします?ラノ姉』
『遊びたくなってきちゃったな~。例えば、分断してみる、とか』
『ウヒヒヒヒヒ、大博打ですねぇ』
『派手にやろうじゃないの、終わりなんて』
スリーマンセルを自分達からバラすという悪手。
ただ、ことこのマップだと事情が少し変わる。高火力なビルドが組みやすい『ファクトリークロス』では、変に味方同士で密集すると誤爆を恐れて上手く動けなくなる。最終ステージが大きな駅なだけあって、余計に立ち回りが難しくなる。博打だが、上手くハマれば敵を上手く翻弄できる分断作戦。ノートはそれを提案した。
【作戦を考えましょう】
【別れて動きます】
ノートは卵王に定型文を送る。
卵王は短いやり取りだったが、ノートの意図を組んだ。迷うように腕組みをし、最後には頷いた。
『勝って会おうね』
【先行します!】
『2年後に!シャボ●ディ諸島で!!』
ネタに走ったキアラの宣言を期に、ノート達はそれぞれ分かれて行動を開始した。
初期限定特典(破棄)❶『バロンマスク』
元はインドネシアの神話に登場する聖獣を象った仮面。獅子舞を悪魔化したような見た目をしており、初見はどう見ても悪魔タイプの敵にしか見えない。
2つのモードを持っている初期限定特典で、詠唱時間を大きく減少させ大火力の闇魔法が使える代わりに、バフと回復が一切使えない魔術師モードと、聖属性を使い獣の力を宿す近接モードへの切り替えが可能。モードの切り替えには準備時間がかかるために即座に切り替えられず、なおかつ一定時間で勝手に切り替わる。遠近両用の非常に凶悪な初期限定特典だったのだが、魔法が発動するよりも先にパンチを繰り出してくる怪物に敵と勘違いされてボコボコに殴られ続けてトラウマになりリタイア。戦闘が嫌になってアクセサリー生産に目覚める。今はアクセサリー生産の第一人者としてそれなりに楽しくやっているが、元初期限定特典持ちとカミングアウトしたことで色々と聞かれている模様。リタイア後も補填で貰った黄金の卵から激レア使い魔を引き当てるなど運がいいのか悪いのか。最近アクセサリー作りを教えて友人となった年上のお姉さんが海外サーバーに渡ったと聞いて少し心配。




